ブナの沢旅ブナの沢旅
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2012.07.31
楢俣川後深沢~至仏山~狩小屋沢下降
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2012年7月31日-8月1日

 

今年は例年になく行き先の選択に悩む。山域によっては残雪が半端でなかったり、不安定な天候のためだ。当初は南アルプスの沢を計画していた。難しい所もなく沢泊りすればゆったりと遡行してお花畑のカールへ詰め上げる、はずだった。ところが7月中旬に遡行敗退したパーティの記録を見て愕然。雪渓の規模が半端でない。とてもまだ無理だと思った。

そんな経緯があり、ふたたび困ったときの尾瀬頼み。かねてから関心を持っていた楢俣川の深沢を計画することにした。深沢といえば前深沢が一般的で記録も多いが、少しでも自分たちのカラーを出そうという格好の口実(じつは大滝登りが不安)で、ほとんど遡行されていない後深沢を選んだ。

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前夜、楢俣湖畔のオートキャンプ場へ移動して仮眠。今回は長い林道歩きを少しでも軽減しようと、マウンテンバイクを用意した。

翌朝出発しようとすると、夜中にやって来た車の男性が声をかけてきて、どの沢に入るのか聞いてきた。最初は釣り師かと思ったが、その男性も沢登りで前深沢に入るという。至仏山あたりで会うかもしれませんねといって出発。

ゲートを越えてしばらく行くとさっそく車道が大陥没している。昨年9月の豪雨の爪痕だ。その後も山抜けのような土砂の押し出しがあり、2年前と景観一変していて驚く。

湖岸道に進むとさすがに自転車は快適だが、山道になると再び道が土砂の山でふさがれる。なんとか乗り越えればまだ進めそうだが、登り坂になるので早々に自転車をデポすることに。ヘイズル沢出合い前では道が完全に崩れ落ちていた。一瞬どうしようと思ったが、よく見ると陥没斜面にきわどい踏み跡がついている。きっと釣り師だ。彼らのどん欲さにはいつも感心させられる。

見覚えのある狩小屋沢下降点の広場で沢支度。朝から暑さでヘトヘトだ。沢を渡渉して山道をたどるが、この時ふくらはぎに異変が発生する。突然鋭い痛みを感じ足が伸ばせなくなる。かばいながら歩いて楢俣本流の川原で様子を見る。

まだ歩き始めたばかりなのにどうしようと不安がよぎる。ふくらはぎの筋肉の筋が切れたような感触だ。マッサージをしながら15分ほど休み、なんとかなりそうなので再出発。矢種沢出合い付近までは対岸の山道をたどる。2年前は勘違いをして矢種沢に入ってしまったことを笑い話にしながら本流へ。ゆったりと広く穏やかな流れだ。懐かしい気持ちがこみ上げる。

さっそくきれいなナメ滝が続き、二人でこんなにきれいだったっけ・・・なにしろ前回はルートミスのため本流に戻ってからは時間との競争で景観を楽しむ余裕がなかったのかもしれない。

前深沢の出合いはいかにもショボイ。本流は幅広のきれいなナメ滝を落としている。誰だって本流に行きたくなってしまう。白い岩盤は消え、黒っぽい岩のゴーロとなる。淡々と進むと、突然のように左手横から15m大滝を落とす中深沢出合いとなる。左手から巻くこともできそうだが、水流のない左壁をよく見ると細かいスタンスがある。ふくらはぎの痛みで立ち込みに力を入れることができず断念するが、sugiさんをそそのかし、ロープをつけて空身で登ってもらう。

上段は灌木につかまりながら滝上へぬけると、さらに階段状の滝が続く。予想以上にいい沢ではないですか。その後もつぎつぎと登れる滝があらわれ、足の痛みで出鼻をくじかれた気持ちが薄らいでいく。ただ、問題のない滝でも今ひとつ足に力をかけられず、その後も何度かお助けや手で引っ張り上げてもらう。先週沢トレをやったばかりなのに、あれはなんだったんだろうとぼやくと、突き放すように、やり過ぎだよ、という一言が返ってきた。

連瀑帯が終わるといったん平瀬のゴーロとなる。まさか下流部の見せ場はもう終わりかと思うや、再びきれいなナメ小滝がつづく。暑いので釜に入るのが気持ちいい。ゴルジュ帯となり、出口の滝を越えると再びゴーロとなり、ほとんど水涸れになるほど貧相な沢に様変わりする。だから人気がないんだろうなあと独り言。

けれど20分ほどで再びきれいな沢に戻り、ナメ小滝が続く。途中の釜で水浴びをして体を冷やし、恒例のソーメンタイムを取る。美しい2段ナメ滝を越え、傾斜の緩いナメを進むと後深沢出合へ。再び流れは平凡になりゴーロとなって二俣となる。ふうー、ヤレヤレ、ようやく右俣遡行の始まりだ。

右俣に入るとがぜん楽しくなり、2~8mほどのナメ滝、小滝が連続する。もうゴーロはない。早くも前方に稜線が見渡せるようになり、V字形のスカイラインに向って開放的で快適な遡行が始まる。滝とナメのオンパレード。こんなにいい沢なのに、どうして遡行されていないのだろう。

深沢といえば、楢俣川随一の50m大滝を持つ前深沢だが、この後深沢も豪快かつ心和む癒し系のきれいな沢ではないか。途中のゴーロのことなどすっかり忘れるほどに後半がすばらしい。

いつまで水流が続くのだろう。登っても登っても水涸れしない。壁のような8m滝も一見威圧的ながら、階段状で登れる。振返ると楢俣川右岸尾根とその向こうには利根川本谷を囲む山並みが広がる。爽快な展望だ。

1840m 二俣は水流が多い右へ進むが、さすがに1900mを越えると水が細り出す。ずっとテンバを探しながら登っているが、予想通りなかなか見つからない。1650m付近になんとかなりそうな平地があったのだが、翌日の長い行程を考え、稜線でのビバークも覚悟で先に進んだのだ。いよいよ水涸れしそうなところで水を汲み、稜線まで抜ける覚悟を決める。

しだいに谷筋も不明瞭になり、行く手を岩峰で阻まれたため右手の草地斜面に逃げたのだが、これが間違いだった。結局ハイマツ帯に吸い込まれ戻るのに苦労する。どうしても岩に阻まれると逃げようとする心理が働いてしまうが、なんとか弱点を見つけてやり過ごせばあとが楽だったことが判明。わかっているのに懲りない悪い癖だ。

少し回り道をしたが、最後はすっきりと稜線へ。これまでの苦労が報われる、すばらしい展望にしばらく呆然とする。燧ケ岳を正面に尾瀬ヶ原が箱庭のように見渡せる。尾根筋を追うと湿原のある山頂に目がとまった。ススケ峰に違いない。さっそく地図を広げて山座同定を楽しむ。

山容に特徴のある景鶴山から台地のような大白沢山、さらにその奧には平ケ岳がどっしりと大きい。楢俣川の方角には北東に越後駒と中ノ岳が顕著だ。正面には巻機山から続く谷川国境稜線が一望できる。沢を詰めて展望の山頂に至る醍醐味を感じる瞬間だ。

そうこうしているうちに、sugiさんがさっそくテンバ候補地を見つける。小淵沢の時もそうだったが、ありそうもないところに平地を見つける勘がさえている。多少のデコボコは大目に見なければ。タープやブルーシートを敷いてクッションを持たせ、デコボコにはロープを敷いて微調整すると、それなりに快適なねぐらができた。おまけに360度の絶景だ。

夜も月明かりで明るく、花火の音が聞こえてきた。外を覗いて見るが、ここは標高2100m。眼下に花火が見えたらすごいだろうなあ~と妄想しながらzzz。

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風が強かったが、朝方にはやんだ。明るくなったのでテントを出ると、思わずの大歓声。すごい~。足下近くまで雲海がたなびき、頂があちこちに浮かんでいる。それなのに尾瀬ケ原は雲一つなく、朝日に照らされている。まったくの別世界が左右に広がっている・・・

のんびりとした朝となったが、前日残業をして稜線に抜けたため気持ちにゆとりができたためだ。まずは至仏山へ向う。稜線は岩とハイマツに覆われている。かつて山ノ鼻から湯ノ小屋に抜ける日崎越えと呼ばれる道が、後深沢と日崎沢を分ける尾根にあったというが、今は完全に廃道となっている。

至仏山への踏み跡は、稜線の西側の岩峰基部をトラバースするようについていた。岩陰には昨日のお花畑では見られなかったホソバヒナウスユキソウがたくさん咲いていたが、先月笠ヶ岳で見たものより痩せている。

小一時間ほどで山頂へ。初めての至仏山。人気の百名山はシーズン中、ハイカーでごった返しているらしいが、早朝なので誰もいない。すばらしい展望だ。富士山から八ヶ岳、南、中央、北アルプスの山並みがすべて見えたのは驚いた。

そしてもう一つ、山頂標識がまるで墓石のように立派なことに驚いた。それも表と裏に山名が刻まれている。驚くと言うより少し呆れていると、なにしろ東電だからね、という声がしたが、尾瀬林業と彫られてあった。裸地化した山頂でひととおりの展望を楽しみ、ハイカーがやって来たところで登山道を下る。

10分ほど下ったところで狩小屋沢の下降点をさぐるが、視界が明瞭なので問題ない。それらしい地点に踏み跡が有り、ロープが張られていた。二つの尾根に挟まれているが、どちらかの尾根をはずすと前深沢かヘイズル沢に下ってしまうので、視界が悪い時は要注意かもしれない。

 

 

大岩ゴーロの斜面をどんどん下ると、しだいに扇状に広がる源頭部が明瞭な谷に収斂していく。途中の大岩に黄色のペンキ印があったので、正しいルートだと確信できた。後深沢の源頭部と雰囲気が異なり、茂みが多くてすっきりとした開放感がうすい。

1時間ほど下ってようやく最初の一滴が岩からしみ出ていた。それもつかの間伏流の大岩ゴーロが続き、2段20mトヨ状滝上へ。左岸の巻き道を探す。途中でルートがわからなくなるが、回り込んだ滝の右壁にペンキの矢印が左右を指していた。小さく張り出した斜面を恐る恐る下って上段の滝下へ降りた。下段は水流脇をクライムダウンして核心の滝を通過。ホッとして喉がかわく。

その後再びゴーロ下りで、いささか食傷気味となる。1500 mを過ぎた5mCSから沢らしくなり、ようやくナメ床があらわれた。ここからはナメ小滝が続き、おそらく狩小屋沢で一番楽しくきれいな所だ。とくに悪い滝もなく順調にくだる。1350mの二俣を過ぎると川原が出てくるが、どこも荒れている。ようやく小さな川原の木陰を見つけて休憩し、ニューメンをゆでて残りのおかずを平らげる。

二俣からは傾斜も緩くなるが、なにしろ長い。きれいな滝も終わり、最後は荒れたゴーロ川原を足早に淡々と下って、ようやく狩小屋橋へたどり着いた。なんと6時間もかかってしまった。「奥利根の山と谷」の著者は狩小屋跡まで45分で下った記録を持つと書いているが、どう考えても人間業とは思えない・・・まあ、それはそれとして、疲れたぁぁぁ~。

暑さと疲れでヘトヘトだが、これからさらに炎天下の林道歩きが待っている。久しぶりに心底辛かった。もう楢俣川へは来れない、もう沢道具は重くて担げない、ロープもハーネスもメットもいらない沢しか行かないーなどと、さんざん泣き言を言いながら這々の体で駐車地点へ戻った。

いやはや、よくやった。けれど久しぶりに会心の沢旅ができた。というより、不本意ながら渾身の力を振り絞った沢旅になってしまった。そしていつのまにか、あの辛さは深い充足感に変わっていた。

 

 

7月31日 オートキャンプ場ゲート前5:05-楢俣川入渓点8:50-前深沢出合9:35-奧深沢出合11:45-二俣12:35-稜線直下17:30

8月1日 6:20-至仏山7:20-狩小屋沢下降点7:45-狩小屋橋14:00/14:30-駐車地点17:00