掘り出し物の「日本の名山」全集

 

最近、出版社ぎょうせいが1983年から84年にかけて出版した「日本の名山」全12巻をネット古書店で手に入れた。30年前に出版されたこの「名山シリーズ」は、今では見られなくなったとても立派な箱入りB5版の、山岳写真集と見間違うほどすばらしいカラー写真満載の書で、価格も立派な2800円。

一見すると、収集家がガラス入りの書棚に飾るために買いそうな全集だ。お堅い行政、法規関係や教育図書の出版社ぎょうせいが、なにかの記念かきっかけで大盤振る舞いをして出した全集に見える。きっと売れ行きも悪かったのだろう。今でもネット古書店で二束三文の値で売られている。

とまあ、一見さんざんな印象を与える装丁なのだが、そんな本をなぜ全巻そろえたのか。昨年南会津関係の山の本を集めているとき、安さにつられて「尾瀬・日光と南会津」の巻だけバラで購入したのがきっかけだった。さすがに高価な本だけあって写真は豊富できれいだし、今では見られない貴重な古い写真も掲載されている。
目次を見ると、執筆者も多彩で実用的なガイド本とは一線を画し、多面的な切り口の紀行文や随筆、エッセイ風に紹介されている。故平野長英氏が尾瀬の山と登山家との交流の歴史を綴っているように、それぞれの山の歴史やかかわった人物に焦点が当てられているのが興味深い。
へえ、けっこう面白そうではないかと、もう一冊、「飯豊・朝日と東北の山」を買った。そしてはまってしまった。藤島玄の「飯豊を歩いて半世紀」のエッセイから始まり、「飯豊道」ですっかりファンになった五十嵐篤雄氏の「二王子岳から北股岳へ」、知る人ぞ知る「マタギ-狩人の記録」の戸川幸夫は「秋田マタギの山々」、登山家で随筆家、村井米子の「朝日連峰の杣人とブナ林」など自分のツボにはまるような内容満載なのだ。一方では地元の先鋭的な山岳会による黒伏の岩場の登攀史や登山道のない時代の和賀岳、三面口ルート開拓踏査行など、興味が尽きない。

監修者は今西錦司と井上靖で、編集委員は羽賀正太郎、白籏史朗ら。とくに羽賀正太郎が中心的役割を演じた印象をうける。出版の趣旨や編集後記などはいっさいなく、ある意味いさぎよい。ぎょうせいは金は出すが口はいっさい出さない方針だったに違いない。だって、どう見ても商業ベースで採算がとれる構成にはみえないし、だからこそ、しぶくて筋が通った山の本になったのだと思う。

こうして思い切って全巻そろえることにした。日本の名山シリーズなんて、自分にはほとんど馴染みのない山域の馴染みのない山ばかりなのだが、読み物としてきっと面白だろうという予感。これから少しづつ目を通していくつもりだ。連載の「人物登山史」「山と温泉」「山と文学」も興味深く、山人生ではいまだ思春期にある自分にとってはあれもこれも目新しく新鮮なのだ。日本の山ってホントすばらしい~

30年前の出版なので、即席の登山情報にはならないが、山の歴史は変わらない。山と人の関わりの歴史や文学は時代を超えて輝き続ける。ネットには山の情報があふれているが、「ファーストフード」的なものがほとんどだ。そんな時代のなかで、ちょっとカビ臭いものの、先人の知見を見つけてうれしくなった。だから、ちょっと紹介がてら感想を記してみた。

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