長崎尾根〜金城山〜雲洞コース

2013年1月12-13日

雪山シーズンがはじまった12月に東北と会津の山へ行ったので、年初は越後と決めていた。今年は早くから積雪が多いため行き先に悩んだが、結局金城山北尾根の下山ルート偵察という名目で長崎尾根に決まった。厳冬期でも悪天につかまらなければ自分でも登れる手頃ながら偉大な裏山なのだ。

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浦佐駅でsamさんと待ち合わせ、現地へ向かう。三連休の天気予報が二転三転して気をもんだが、当日は越後では珍しい快晴となる。昨日まで雪が降っており山頂まで行けると思わない方がいいと釘を刺されるが、現地に近づくと積雪はそれほど多くない。

懐かしい金城山が見えて来た。4年前に登った観音山尾根の登山口を通り過ぎ長崎集落へ。駐車スペースを探すがなかなか見つからず、少し進んだ高棚川の橋を渡ったところに駐車。今回はツェルトを使った半雪洞にするのでテントは不要とのこと。それほど積雪もないので不安だったが、軽量化と雪洞初体験の誘惑にまけて了解する。

歩き始めると雪で覆われた田んぼの向こう側に鳥井が見える。これが地図にある尾根の取り付きだ。シューをはいて雪原に入るとそれほどもぐらない。Samさんは拍子抜けのようで、この調子なら山頂は楽勝だなと、さっきと言うことが違う。同じ中越でも状況はかなり違うようだ。

杉の大木が林立する参道のような雪道をのぼっていくと灯籠やらお社があらわれる。金城山は古くから信仰の山だったため、麓の集落ごとに神社があり、山頂への登山道が開かれている。今回は登山道のない長崎尾根をコースとしたが、500m付近の岩に小さな鉄格子の扉がつけられ、くり抜いた岩の中に経文のような文字が刻まれた石が安置されていた。きっとこのあたりまでは道があるのかもしれない。

植林帯を過ぎると低灌木の藪となる。振り返ると点在する麓の集落と田園風景がのどかな雰囲気で広がっている。右手には高棚川左岸尾根の向こうに真っ白な稜線が伸びている。とんがったイワキ頭とその奧の真っ白な稜線は割引岳から巻機山に続いている。ラッセルも膝下程度なのでsam さんはドンドン先へ進む。トレースがあっても追いつけず、行動終了点までほとんど単独行の気分だった。

正面には山頂手前の小ピークがあらわれ、山頂からのびる尾根の形状がほんとうに金の文字のようだ。なるほど金城山という漢字名がぴったりだと思う。時々藪の急斜面で苦労するが危険な所はない。

850mからは急斜面となるが、藪からは解放されたのでかえって楽なくらいだ。990mポコで高棚コースの尾根にのると奥利根の山並みが広がる。ここからは左手にブナ林があらわれ、960m鞍部へと緩やかに下って行く。ようやく心休まる穏やかな地形となる。鞍部にはブナの森が広がり思わず泊まりたくなる。

一足先についたsamさんが、キノコがはえた木の下で休んでいた。けれど、ようやく合流できたと思ってザックを下ろすと、待ちくたびれたと言わんばかりに先へ行ってしまう。とてもすてきな所なので一人で休んでのんびりする。地図をみると鞍部からは北之入コースの登山道があるが、積雪期にはとても歩けそうにない複雑なルートだ。

森を抜けると、正面にはこれから登る尾根の小ピークが二重三重に重なって山頂へ続いている。右手にはナイフエッジのイワキ頭の奧にたおやかでエレガントな山並が見えて来た。つい、あの真っ白な稜線に目がいってしまう。その美しさに見とれながらひたすら急斜面を登って行く。気温が高いせいかシューに雪がついて滑りやすく、トレースをたどるとかえって滑る。この頃には山頂まで行けるかもしれないという午前中の楽観ムードはなくなり、疲れも出て来た。

1200mの滝入沢コース分岐を目標に、もうひと頑張りだが、そこまでの標高差200mがとても長く感じられた。ふり返るとものすごい高度感。こんな所を下るのはいやだなあ。最後の急登をおえて小ピークに立つと、ザックをおろしたsamさんが見えた。ふうっ、ようやく行動終了だ。

ザックを下ろしてぐったりしていると、明日は天気が悪くなるから山頂へ行くなら今のうちなどと言う。もう4時なので、とんでもないと却下。明日も午前中の天候は大丈夫なはずだから急ぐことはない。Samさんは休むまもなくせっせと雪洞作りにとりかかるが、私はひとまず休ませてもらう。

そのときスコップの枝を藪こぎで落としてしまったことに気付く。これでは戦力にならないと落胆するが、交代でやろうと言ってくれた。パワフルなスコップさばきに感心すると、毎日雪かきしてるからねぇ、だって。1時間もしないうちに半ドームができあがる。内装をもっときれいに仕上げたかったけれど、まあいいでしょう。ツェルトをどのように使うのか見ていると、テントポールを通してドームの上の雪にさしこんで入口を覆う。なるほどね。

整地をしっかりしなかったので床がデコボコになってしまったが、居心地は悪くなかった。暗くなって外に出ると麓の灯りの向こうにはスキー場の夜間照明がオレンジ色に輝いている。それが何カ所も見えるので驚いたが、越後の裏山らしい光景だ。

風もなく静かな夜だった。星が見えるのできっと天気もいいはず。翌朝はザックを軽くして山頂へ向かう。樹林帯の急斜面を登り、1350mで山頂尾根の西の肩に乗り上げる。ここから稜線直下をトラバース気味に下るところが恐ろしく、へっぴり腰で怖々と進む。アイゼンに履き替えたいが時すでに遅し。見かねたのか、ここは落ちても大丈夫だとsamさんが檄を飛ばす。難所を通過してホッとする間もなく前方には心配していた岩峰があらわれ、その先には避難小屋の屋根が見えた。さあ、最後の難関だと気を引き締めるが、雪がたっぷりついていたので問題なく、手前のトラバースの方がよほど緊張した。

岩峰基部を回り込むと斜面は緩やかに広がり、ひと登りで小屋についた。今回もまた無事に山頂に着くことができて嬉しい。山頂付近はガスであまり展望は期待できそうになかったが、4年前はパスしたので行ってみることにした。標識や石像があるらしいが雪に埋もれてわからなかった。麓から見える山頂のイメージとは違い、お椀をひっくり返したようなこんもりとした山頂だ。ここから水無コースの尾根が緩やかに張り出しているのがわかるが、うっかり下ると途中で偉い目にあう尾根だ。北尾根方向も山頂付近は穏やかで、核心の岩峰帯は中腹部だ。

帰りは来た道を戻るのではなく、避難小屋直下から無木立の雪面をトラバース気味に下った。雪が深いので登りはラッセルがきつそうだが、下りは快調にとばしながらあっという間にねぐらの半ドームへ。お湯を沸かしながら人心地つく。厳冬期の今の時期にまた金城山に登れたことに感謝してsamさんにアリガトの握手。照れくさいのか素っ気ない。温かいノンアルコールの甘酒をすすりながら満たされた気持ちになる。

当初は山頂を期待していなかったので、長崎尾根をピストンする予定だった。けれど結構苦労した尾根だったので、天候がよければ4年前に往復した観音山コースを下りたいと前日のうちに申し入れしていた。山頂から戻ると天候も回復して視界もよかったので、希望通り観音山コースを下ることになった。

一度歩いたコースなので安心して下って行くが、900m付近で尾根から外れる。ドンドン下って行くのでまずいと思いsamさんを大声で呼び止める。ルートを問いただすと北に下る大月コースを観音山コースと勘違いしており、遠回りになるから登山道の沢コースを下るのだという。4年前に一緒に下ったコースを勘違いするなんて信じられない思いだったが、戻ることを説得してもきかず、結局2年前の足拍子と同様、ふがいない自分を情けなく思いながら後追いするしかなかった。

積雪期の沢ルートは雪崩のリスクが高いし、沢が完全に埋まっているわけではないのでルートファインディングが難しい。おまけに大滝もあらわれた。かなりのチャレンジルートだが、さすが野生児のsamさんで、なんとかルートを見つけるものだと感心する。彼にとってはそれが楽しくて仕方ないらしい。悪場の通過に手こずるところも何カ所かあったが、手がかりを求めても自分で考えろと、つれない。だから、なんとか踏ん張るしかなかったが、危険と隣り合わせなので線引きがむずかしい。最後にでてきた岩壁のギャップでようやくロープが出番となり懸垂下降。これで悪場は終わり、両岸が開ける。

植林帯に入り、前方に堰堤が見えたときはほんとうにホッとした。ここからは林道がまっすぐに伸びて雲洞庵のある集落に続く。緊張から解放され、再び青空が広がる開けた雪原でザックを下ろす。下ってきた急峻な谷を見上げながらのんだ牛乳が美味しかったこと・・・とんだスパルタ下山となってしまったが、やればできるものだと自分を褒めたい気分になる。

Samさんは自分の強引さを反省したのか、さっさと下山して一人で車を回収し、頼みもしないのに遠回りになる越後湯沢駅まで送ってくれ、珍しくもお菓子やお茶、コーラをつぎつぎと差し出してくれた。

とまあ、ちょっとしたハプニングはあったが、金城山はどこから登っても楽しめる山だと感じた。帰ってから調べてみると、下った谷沿いの雲洞コースは昭文社の登山地図ガイドに紹介されており、(二万五千地図には7本の登山道が記されているが)「金城山の4コースの中では最も一般的といわれている」とある。ガイド解説によると無雪期にはなかなか良さそうなコースなので、あらためて新緑か紅葉の時期に登ってみたいと思う。

12日 長崎尾根取付8:50-960m鞍部14:10-1200m16:10(雪洞泊)

13日 泊場7:00-山頂8:35/8:45-泊場9:10/9:40-900m雲洞コース分岐10:40-大滝12:20-懸垂地点12:50-堰堤13:20/13:30-雲洞林道始点13:50

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