鬼ケ面山北岳~浅草岳~ムジナ沢

2010年2月28日

当初、川内山塊の白根山から粟ケ岳の縦走を計画していたのだが、土曜日の都合がつかなくなったため急遽日帰りに切り替え、浅草岳へ行ってきた。問題はコースをどうするか。スキー組はムジナ沢を下るというので、登りは積雪期にポピュラーなムジナ沢とヤヂマナ沢の中間尾根を予定したのだが、samさんは浅草岳山荘裏から鬼ケ面北岳コースが一番登りやすいと主張。名ばかりリーダーながら、権限を通すこともできたのだが、こだわるほどでもないので、よきに計らえ、と相成って出発。

いつもは朝一番の新幹線で待ち合わせをするのだが、今回は「スーパー驚値」というパッケージを利用。前夜のうちに長岡駅に移動し、ステーションホテルに宿泊して朝6時の集合とした。なんとホテルつき新幹線で一万円強なり。上越新幹線は長岡駅だけが対象なので、11月から3月までの限定ながら、まるでわが越後倶楽部向けに用意されたかのよう。

市内にはまったく雪がなくなっており、道中の山々でも雪が落ちて地肌が出ている所が多かった。浅草山荘の駐車場に車をとめて出発の準備をしていると山荘の関係者がやってきて駐車について注意を受ける。

何とかやりすごして出発しようとしたら、今度は別の当事者らしき人がやってきて猛烈な勢いでクレームを受ける。確かに私有地であるし、いろいろマナーを守らない登山者もいて迷惑を被っているのだろう。不要なトラブルを避けるためにも登山目的での駐車は避けた方が賢明だと感じた。

小雪の舞う中、山荘の裏から植林帯の尾根に取り付き、750m付近で北岳の北西尾根にのる。とても緩やかな尾根で歩きやすく、しだいにブナ林が卓越するようになる。ガスで視界が得られないが、精巧なガラス細工のような枝を放射状に広げたブナが幻想的にたたずむ姿はとても美しい。今回初めて顔合わせをしたsamさんの若い友人toru君はボーダラー。

老婆心ながらsamさんとの山行の心構えを伝授。彼の言うことを無批判に受け止めると怪我をするので、自分で判断すること、などなど。けれど残念なことに、アドバイスを実践する前に衣類調整がうまくいかず、途中でリタイアすることになってしまった。

天候はときどき気を持たせるように展望を与えてくれながらも、晴れる気配がない。けれど先週の強風を思えば、風がないことはとてもありがたい。ルートは相談の結果、1252mピークからムジナ沢の大滝上にのびる枝尾根を下って沢を詰め上げ、前岳に登ることにしたのだが、視界がないままでは不安。天候が好転しない場合はピストンに切り替えることにして北岳をめざした。しだいに風も出てきたので、森林限界近くで大休憩とする。潅木を利用してツェルトを張り、お汁粉で温まる。

行動を再開するとすぐに山頂直下へ。なんだかあっけなく着いてしまったと話しているうちにガスが晴れ、向かうべき稜線が見えてきた。まるで劇場の幕開けを見ているようだった。二人でうぉーっと大歓声。凛々しい山容を目の当たりにすれば思うことは同じ。時間はたっぷりある。よしっ、前岳へ行こうとsamさん。

異存はないが、私にはかなりのチャレンジだ。左手にムジナ沢の源頭部を見下ろしながら、クラスト気味の斜面を延々(少しオーバーか)トラバースしなければならない。12本爪アイゼンに履き替え、気持ちを引き締める。幸いアイゼンがよく効いてくれたのでそれほど不安はなかったが、まだ精神的な重圧を押し返すまでにはいたらなかった。

トラバースののち急斜面を登って緩やかな枝尾根にのり、核心部は終わる。急斜面も途中で怯んで動きのリズムを止めると恐怖のど壷にはまってしまう。できるだけリズムカルに登るのがコツらしい。と、いわれても・・・。ようやく終了点に近づいたところで気持ちに余裕ができたのか、「よく頑張ったって、褒めてよー」などといいながら合流。

「なんだよ、これくらいのことで」と言いながら、一応求めに応じてくれた。振り返ると鬼気せまる鬼ケ面の岩峰が間近だ。ものすごい迫力。二人で大喜びしながら、こんなに間近に見ることができるなんて私達すごいね、誰もこんなコース歩かないよねと、いつもの自画自賛。

巨大な雪庇が張り出したところでは、samさんがチキンゲームしようぜなんていう。ムジナ沢源頭部をはさんだ北東方向には、特徴的な山容の守門岳が真っ白に雲の上から聳え立っており、なだらかな黒姫山への稜線が見渡せる。もうじき行くからねと心の中で呟き、前岳への緩やかな斜面を登っていく。

ちょうど尾根が枝分かれしているあたりに赤旗が見えた。少し前に沢の方角から人の声が聞こえたような気がしたのだが、もう一組スキーヤーが山頂に向かっているようだった。会えたら、私達鬼ケ面方面から登ってきたんですよって自慢しちゃおうね、なんて話していたのだが、会えずじまいだった。

そしていよいよ目標にしていた前岳に到着。予想外の展開だったが、チャレンジした分達成感も大きく、互いに喜びのハグ。浅草岳まではほんのわずかな距離ながら、あとは何もないところを歩くだけなので、ここで十分とする。

眼下には田子倉湖が青い。湖の対岸に落ちている尾根を追っていくと、かなたの真っ白な峰に突き当たる。きっと村杉岳だ。さらに会津朝日岳の奥には丸山岳がひときわ白く聳えて見える。ふたたびガスに覆われてしまったが、ひと時でも厳冬期の姿を見ることができて感激。視界が悪く尾根にはトレースもなさそうなので、私達もムジナ沢を下ることにした。谷筋がはっきりするまでは斜面が広く心配だったが、スキーで先行するsamさんが赤テープ代わりに要所要所で待っていてくれたおかげでガスの中でも安心して下ることができた。それにしても、雪面と周りの景色の境目もわからないほどのガスのなかで、よくスキー滑降ができるものだと感心してしまう。先週につづき再び沢を下ることになってしまったが、ガスっていなければ気持ちのよさそうなコースで、スキーヤーに人気あることが頷ける。二俣を過ぎたあたりからは再び両岸にブナの大木が見られるようになり、とてもいい感じだ。

1090mの大滝上まで下ってきた。一足先に着いたsamさんが空身で偵察したところ、右岸脇からクライムダウンできそうだというが、念のためロープを出してもらう。確かに簡単に降りることができたけれど、真横には滝の水が轟々と流れ落ちており、足元の潅木には大きな穴が開いていた。振り返って見上げた滝はすべて露出しており、例年と比べ雪が少ないらしい。

しばらくは淡々とくだり、800mから左手の斜面をよじ登って小尾根にのり、その後は急斜面をひたすら西にトラバースしてムジナ沢左岸尾根にのる。このトラバースも距離が長く、おまけにスノーシューだったので北岳からのトラバースよりも怖かった。素直にムジナ沢を下ったほうが楽なのに、samさんはいつも最短距離のルートをとりたがる。

ようやく眼下に下山地点の赤い橋が見えてきた。と思ったら、こんどはあの橋を目指して雪原の急な大斜面を直滑降して樹林帯へ。最後の最後まで楽をさせてもらえない。どうしてこんなルートを選ぶのか腹立たしかったが、わかっているのに懲りない自分に半ば呆れ気味。こりごりすればするほど愛着がわいてくるなんて、山とは不思議な存在なり。最後に再び握手を交わし、急遽ピンチヒッターとして選んだ山ながら、とてつもなく充実した時間とsamさんに感謝して2月の休日を終えた。

*

浅草山荘7:50-鬼ケ面北岳山頂11:10-前岳12:50/13:05-浅草山荘16:00

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