鳴沢峰鱒沢右俣

2009年6月21日

沢シーズンに入ってから初めての越後倶楽部山行だ。最初の計画では沢泊を予定していたのだが、私の都合で日帰りとなってしまう。そこで同行のsamさんから、日帰りコースなら、とっておきの菅名岳に突き上げる樽沢どうかな、短いけど、決して後悔しないよ、との提案。

その言葉を鵜呑みにしてはいけないのは経験的にわかっていたものの、かなり自信ありそうな口調だ。調べても遡行記録は新潟稜友会の簡単な報告しか見当たらないが、予想以上に面白かったと書いてある。そんなこんなで、不安はあったものの出かけてみることにした。

雨の中、朝一の新幹線で待ち合わせの長岡駅へ。新潟も雨なら観光して温泉に入って帰ればいいと思っていたところ、浦佐を過ぎたあたりから明るい曇り空になる。samさんも雨の場合は弥彦にでも行こうかと考えていたらしい。弥彦は子どものころ何度か遠足や家族と遊びに行った思い出の観光地。それも悪くないなあと思ったが、幸い天気はどんどんよくなっていった。

計画は鱒沢右俣から鳴沢峰に登り、登山道を下って馬下の保養センターに抜けようというもの。samさんとは3月の未丈ケ岳以来なので、道中話がつきない。なつかしの粟ヶ岳を遠望し、4月に只見へ行くときに大回りして通った阿賀野川沿いを走り、まずはバイクをデポするために下山地点の保養センターをめざした。

それなのに保養センターにつくや、バイクの鍵を忘れてきたという。あらら・・・急遽予定を変更し、右俣を遡行して左俣を下るというが、内心は時間切れでピストンかなと思う。

入渓点の採石場入り口で沢支度をして沢に降り立ったときにはすでに10時半近かった。変更のきかない割引切符の時間は長岡駅19時なので、行動時間によっては途中で打ち切って下ることを宣言して、いざ出発。

沢に下りるやすぐに魚影があり意外だった。330mの二俣までは緩やかな傾斜のゴーロで、周囲は男性的なワイルドな森の印象をうけた。先週の滑谷沢が優しくエレガントだったのでなおさらそう感じたのかもしれない。途中、森の精でも棲んでいそうな大樹をやり過ごし、細かく蛇行する流れをたどって二俣へ。さあ、ここからお楽しみの始まりらしい。

すぐにあらわれる2段6mは水流をフリクションで登る。落ち口でお助け紐を出してもらうが、まだ序の口だ。小滝をこえると2段10m滝へ。うーん、わたしには厳しそうだ。samさんも上部まで登ったものの最後が悪くて右手の草壁に逃げる。ここも見かけほどよくなくて抜けるまでヒヤヒヤものだった。

上からロープを出してもらって水流を直登したのだが、あと一歩というところで立ちこんだ岩が崩れ落ち、テンションをかけてしまう。トップロープとはいえ一瞬ヒヤッとする。その後はしばらく小滝が続き、1時近くなったので休憩することに。

本当のシャワークライムはこれからだが、もう十分にびしょ濡れだ。けれど、このころまでに空は信じられないくらいの青空となり、太陽が応援してくれているようで気持ちが和んだ。最近の沢で定番としているソーメンタイムにはもってこいのセッティングだ。近くにあった大きなフキの葉を敷くと緑と白のコントラストに見た目でも食欲がそそられる。samさんには初めての振る舞いだったが、とてもよろこんでくれた。

小滝が続くが、全体の渓相は荒れた感じだ。雪解けが終わったばかりで浮き岩が多く、途中50x30cmくらいの長方形の大岩に立ちこもうとしたところで岩がどすんと崩れ落ち、衝撃で胸を強打した。大事には至らなかったけれど、気持ちを静めるために少し休憩する。

しばらく進むと前方に堰堤のような上部がハングした5mほどの滝がみえてきた。ここは本格的なシャワーとなりそうだ。samさんが水流めがけてロープをひいていく。下段のシャワーをぬけ中段からは右岸の水鉛を直上。ビレーといっても確保の支点は作れないし、途中ランニングビレーもとっていないので、まさに一発勝負。

何とか抜けてくれてホッとする。ロープ確保でもシャワークライムは緊張する。最後に落ち口に出るところはゴボウ状態で登りヤレヤレ。よくこんなところ登れるねーとsamさんを激賛して先へ進む。

さてつぎは2段6mのCSだ。ここはシャワーを浴びながら突っ張りで登るしかない。samさんは水しぶきを浴びながら楽しそうにアクロバチックなムーブでずり上がっていく。続くトップロープの私も普段経験がないほど目一杯のツッパリで必死になりながら這い上がる。

安堵感でふり返れば、狭谷の合間からはいつの間にか五頭連峰の山々が見渡せる。まだ足を踏み入れたことがない山域だが、日帰りの面白い沢がたくさんあるらしい。

これが最後のシャワーかと思っていたら、700mあたりで極めつけに悪そうな10mCSが行く手に立ちはだかっていた。samさんは闘志満々だと思っていたら、あとで聞いたところけっこう緊張したらしい。当然です。

両岸は首が痛くなるほど上まで岩壁がそそり立っており、先に進むにはこの滝を登るしかない。ここもsamさんがロープをひいて取り付くが、途中ハーケンを打つもなかなか決まらない。この間スタンスはなく両足は突っ張り状態。ようやくランニングビレーが取れたものの、つぎのホールドがない。

もう一度ハーケンを打ってヌンチャクにつかまり、上に這い上がろうと四苦八苦している。ようやく上から張り出している枝になんとかつかまって上段へ這い上がり、CSを巧みにかわして落ち口へ。思わず拍手。見ているだけで緊張する場面だった。

すごいなあ~、でも感心している場合ではない。私も登らなければならないのだ。水しぶきをくぐって這い上がり、まずはハーケンを回収しなければならない。けれど抜けそうで抜けずに手間取っているうちにどんどん水を浴びて苦しくなり、ついにギブアップ。

でも中段に上がれない。ヌンチャクをつかんでもスタンスがない。怖かったけれど仕方なく体を投げ出すようにしてツッパリの姿勢で一段上がる。でもまた上に上がれない。もう手足に力も入らなくなり、上から見下ろしているsamさんに泣きべそ状態でスタンスがないと訴える。アブミ代わりにロープをたらしてもらい、最後の力を振り絞って立ちこむ。そして最後は、首根っこを捕まえられたドブネズミのような惨めな姿で落ち口に這い上がったのでした。

もうここで時間も気分もアップアップ。samさんも十分に満足したようで、この先は何もなく詰めるだけなので下ることに決定。これだけ楽しませてもらったので山頂を踏まなくても未練はない。直ちに懸垂下降を開始。設定はすべてお任せ状態。私はひたすら下るだけ。

数回の懸垂下降をして二俣へもどり、ようやくひと心地ついた。あとは何もない沢を淡々と戻るだけのはずだったのに、最後なぜかsamさんは沢沿いの踏み跡から斜面を登りはじめ、おかげでヒルの洗礼を受けながら採石場内に降り立った。車にもどって大騒ぎでヒルを落とし、馬下保養センターの温泉に立ち寄ってさっぱりとしてから長岡に戻った。

久しぶりにアドレナリン全開の激しい沢登りをした思いだ。本格的なシャワークライムなんて、沢の会に入った年に連れて行ってもらった丹沢の同角沢以来なので4年ぶり。あの時も必要以上に滝修行をしてしまったことを思い出す。

帰りの道中、今はこりごりと思っても後から楽しい思い出になるはずと話したのだが、今記録を書きながら、早くもエキサイティングだったなあと感慨深い。それにしても、越後の沢やは初心者からああいう悪渓で鍛えられるのだから力がつくはずだ。samさんは頼もしい限り。小粒でピリリと辛い沢でよい修行をさせてもらいました。これからは、やんちゃ坊主などと言わずに師匠と呼ばせていただきます、ね。

採石場10:15-二俣11:20/30-昼食休憩12:35/13:10-700m付近10mCS滝15:00-二俣16:15/25-採石場17:30

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