川入~地蔵山〜三国岳~松ノ木尾根

2009年3月8-9日

これまで登った会越の山々からはいつも、飯豊連邦がはるかかなたに白く聳え立っていた。カッコいいなあと眺めるだけの山だった飯豊。その飯豊に、ほんの入り口とはいえ訪れる機会をえた。しかも積雪期に。通常なら考えられないことだが、寡雪に乗じ、天候に恵まれ、パートナーに助けられて実現したのだった。

初めての夜行バスで会津若松駅へ行き、始発の磐越西線で山都駅へ。山都(やまと)は飯豊山への信仰登山が盛んだった古の時代から飯豊の玄関口であり、山への戸口という意味で山戸であった地名が山都になったのだという。

長岡のsamさんと待ち合わせ川入に向かうが、途中の道路が雪崩でふさがれており小一時間ほど余計に歩く羽目に。冬期は無人化する川入集落で除雪は途切れ、シューに履き替えてさらに登山口の御沢小屋跡へむかう。川入はもともと木地師の集落として形成され、住民はすべて木地師の姓である小椋姓だったという。最近飯豊に関する山の歴史をかじり始めたら興味が尽きない。立派なキャンプ場を通って御沢小屋跡へつくと樹齢400年以上の立派な杉の巨木に迎えられた。さあ、いよいよ未知の山域への出発だ。

長坂尾根は名前の通り緩やかな傾斜の長い尾根で、ブナ林がきれいだった。しばらくは里山の風情で、南会津のブナ山を登っているような感覚だ。こりゃあ飯豊じゃないよなあと、ボヤキとも付かない声がする。しだいに展望も開け、下山に予定しているタカツコ沢対岸の真っ白な松ノ木尾根が見えてきた。雪は締まっているのでラッセルもなく、順調に高度を稼ぐことができた。

1300mを越えると一挙に山の雰囲気も変わり、山の白さが際立ってきた。前方左手には地蔵山から三国岳に続くシャープな稜線が見わたせる。いよいよ飯豊の山にやってきたという実感が湧きあがってきた。地蔵山直下の雪原のような緩やかな斜面を登っていくとしだいに景色が開け、山の向こう側が見渡せるように。そして稜線へ。感激の一瞬だった。

眼前には三国岳からの稜線がパノラマのように続き、その先にはどっしりした山容の飯豊本山が威厳高く聳えていた。なんと神々しい景観だろう。その美しさに魅了され、しばしたたずむ。風もなく穏やかで、陽の光がやさしく山々をつつんでいる。ここにテント張ってずっと山を眺めていたいなーと思わず口にするが、ここは風の通り道だよと軽くいなされる。

さて、いよいよ今回の核心である剣ヶ峰の岩稜を通過しなければならない。うっとりするほど美しいフォルムの稜線ではあるが、眺めるだけではすまないのが少しつらいところ。怖いけれど進むしかない。絶対にどちら側の谷にも落ちないでねなどといわれると、ますます緊張してしまうが、samさんが先陣を切ってくれるので安心して付いて行こう。

途中からアイゼンに履き替え、ナイフエッジの急斜面をときに声を出して気合を入れながら登った。岩稜帯に近づくあたりで一度足元が崩れ、隠れていた亀裂に落ちてしまう。下をのぞくと真っ暗でかなり深そうだ。足が宙に浮き身動きがとれなかったが、何とか踏ん張って這い上がる。岩稜底部に薄皮一枚でつながっているような亀裂が走っているようだった。

緊張の連続だが、幸いなことに雪質はしっかりしていてアイゼンが効き、適度にもぐるようになったので、それほど不安感はなかった。ここからはロープを出してもらい慎重に進んでいったが、最上部のむき出しの岩の前で行き詰る。岩を回り込むルートがかなり悪そうで、途中まで登ったsamさんが戻ってきた。

考えられる代替ルートは少し下って谷筋にトラバースし、そこから直登して稜線に抜けることだった。上部にはきのこ雲のような雪庇が張り出していたが、そこは日が当たっておらず雪も締まっているので崩れる心配はないと踏んでの決断だった。これが最後だから頑張ってねと、急斜面の雪壁にステップを踏んでいく姿を見守った。恐ろしくも怪しげで、それでいて神々しいような不思議な世界を感じた。

稜線直下まで登って合流したあとは、これが最後の核心と、samさん今度は空身でかぶり気味の雪庇を乗り越えていった。頼もしい限りだ。しばらくして、抜けた!という声。雪庇を崩して抜けた先は、なんと三国小屋の真前だった。素晴らしい展望が広がっている。飯豊山の最高峰、大日岳も姿を見せている。やったねー、よく頑張ったよねーと二人で健闘を讃えあう。

小屋は立派なつくりで、二階からも入れるようになっている。扉を開けて中に入ったときの暖かさが身にしみた。よく頑張って来てくれたねと暖かく迎えられた、そんな暖かさを感じたのだった。小屋の利用者は当然私たちだけだ。さっそくビールで乾杯。

夜外に出てみると月明かりであたりは明るく、喜多方の夜景が浮かび上がってみえた。翌日が好天であることを確信してシュラフにもぐるや、あっという間に夢の中。さすが夜は冷えてきたが、中でテントを張ったので快適に眠ることができた。

翌朝は日の出を目安に起床。予想通りの青空で朝日がまぶしい。2日目は下山だけなので、のんびり朝食をとり、8時半に出発する。大日岳を望みながら、松ノ木尾根の分岐点に向かう。おおむね広い緩やかな稜線で、samさんはショートスキーで快適そうに滑り降りていった。

しばし朝日を浴びながらの稜線漫歩だ。飯豊山へ続く稜線は雪庇が張り出したナイフエッジのようになっており、登山道があるとはいえ積雪期はそう簡単に人を寄せ付けない雰囲気を感じた。一方の松ノ木尾根に登山道はないが、記録を調べると積雪期によく利用されているようだった。

危険なところはなく上部まで樹林がひろがっているので安心感がある。途中、とてもきれいな岳樺の木が数本ぽつんと立っていた。青空と雪、明るいベージュ色の岳樺。とても美しかった。samさんはスキーで先行しながらもポイントごとに待っていてくれるが、一度私は間違って枝尾根に下ってしまい、あわてて軌道修正。安心しきったのか、地図とコンパスの確認を怠ってしまった。

松ノ木尾根もブナ林の尾根だが、登ってきた尾根よりもさらにブナが立派だというのが共通の感想だ。1000mを下ったあたりから雪が腐り始め、急坂で苦労する。えいっ、こうなったらシリセード。尾根がタカツコ沢に落ちるあたりは地図から急斜面が予想されたので、沢が近づいたところで傾斜のゆるい斜面を沢に下った。沢を渡り沢水で喉を潤す。なんと美味しく感じたことか。

日差しが強く気温も高いため用意した水はあっという間になくなってしまったのだ。あとは淡々と沢沿いの林を歩くだけ。短かったけれど、とてつもなく充実した飯豊のデビュー山行もいよいよあとわずか。再びsamさんとお疲れ様の握手。安堵感のせいか急にザックが重く感じられ、長い長い林道を車にもどった。

3月8日 川入7:30-御沢小屋跡8:45/9:00-地蔵山13:05/30-三国小屋16:55

3月9日 三国小屋8:25-松ノ木尾根-御沢小屋跡12:35-川入13:20/30

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