2021年8月2-3日
連日山間部は午後から天候不安定の雨マークが出ており最後まで行き先を決められないまま山行の当日を迎えた。一般には多少の雨など気にせずに予定を実行するのだろうが、やっぱり嫌なのだからしようがない。かろうじて尾瀬方面がよさそうだったので何度目かではあるが北岐沢を遡行してせめて未踏の沢を下るプランもとりあえず用意して出発。いつまでも優柔不断な自分がいやになる。
電車のなかで雨雲予報を最終確認したところ、夜中に弱雨程度に変わっていた。たくさん新しい沢の計画を作っているのにちょっとでも天気が悪いからと妥協してばかり。ならばとファイナルアンサーは予定通りの白淵沢に。まったくヤレヤレの出発前の心のドタバタ劇なのであった。(グチっぽい前置きになってしまった。。。)
気持ちを切り替え上毛高原駅から一路野反湖へ向かう。遠い道のりだったが、野反湖は観光地のようで湖を見下ろす峠には多くの観光客がくつろいでいた。のどかな牧歌的な山々を背に登山道を進む。弁天山を越えて根広尾根を下る。傾斜も緩くとても歩きやすい道のため、どんどん下り思わず沢への下降点を通り越してしまうほどだった。
白淵沢へは金山沢の枝沢を下るのが一般的で、どの枝を下ってもそれほど違いはないようだ。できるだけ楽に下りたいので、途中まで延びている林道にぶつかる枝沢を下り、あとは林道を下って白淵沢出合に降りることにした。枝沢といってもほとんどが笹薮の窪のようで土管があらわれた所で林道にあがる。廃道化していたが所々のカーブミラーはまだ現役のように見える。
しばらく進むと伐採地となりお花畑の広場となる。ヨツバヒヨドリもたくさん咲いていたのでアサギマダラを探すとやっぱりいました。しばらく蝶の動きを眺めてゆったりとした気分になる。林道は次第に広がって分岐前にはロープが張られて進入禁止の標識。林道が沢に近づく所で緩い斜面をくだると小さな枝沢に導かれて出合下の金山沢に降り立った。
ここまでは順調だったが、目の前の水量を見て内心あせる。明らかに増水している。ゆったりとした流れを想像していたので腰が引けてしまうが、気持ちを落ち着かせ出合に向かって水際を進むと左岸に幕営適地があらわれる。当初の幕営予定地だ。けれど焚火広場の隣のテン場は湿っており、なによりも増水して迫力のある沢の轟音の近くは落ち着かない。白淵沢に入ってからも幕営地はあるらしい。時間もあるので白淵沢に入ることにした。
平水なら簡単に越せそうな出合の小滝から巻きに入る。その後も時々あらわれる小滝はほとんど巻きながら進む。地図のゲジゲジマークを越えたあたりから沢幅が広がり沢床が見えるようになる。トイ状くの字滝を越えるとナメとなりようやく思い描いていた白淵沢となり少し安心する。右岸に段丘があらわれ、幕営地を物色しながら進む。二つ目の段丘が広々とした平地でザックをおろした。
笹を刈って敷き詰めるとフカフカの快適なテン場となった。焚き木もそこそこ集まり焚火をおこす。増水は想定外だったけれどなんとか落ち着くことができてほんとうにホッとした。前回はヤブ蚊に悩まされたので蚊取り線香や虫除け剤など準備してきたが、まったく虫はいない快適な夜だった。予報通り9時過ぎからタープを叩く音がし始めたが1時間ほどで止んだ。
(メモリーチップの調子が悪く交換した所、紛失してしまいトイ状滝以前の写真30枚ほどがなくなってしまい残念!)
朝ふたたび小雨が降ったり止んだりの空模様だったが、ここまで進めば悪場はないはず。心なしか昨日よりは減水している(と思いたい)。平瀬を少し進むと苔のついたナメがあらわれる。待望のナメ帯が始まったようだ。沢幅いっぱいに広がっているので水量は気にならず快適に進む。はじめて歩いていて快適感を得ることができた。予想以上に長いナメだ。気持ちが弾むと小雨も気にならず今までためらっていたのがばからしく思えるほどだった。左右に小さな枝沢があらわれるたびにこれで水量がまた減ったといって喜んだり無邪気なもの。
一旦途切れ小滝が点在するゴーロとなるが、ふたたびナメがあらわれこれまた長く続く。少しガスもでてきて幻想的な雰囲気だ。1220m二俣は左へ進む。
沢はぐっと小振りになり、ナメも終わり小滝時々ゴーロという普通の沢になる。緑の苔ナメから沢床は赤茶けた色にかわる。しばらくはあまり標高を上げずに蛇行を繰り返す。できるだけショートカットしながら沢から離れたり降りたりを繰り返す。沢に戻る所で足を置いた大岩が剥がれ、ひざ下を直撃する。激痛が走ったがしばらくするとおさまり遡行に支障もなくホッとする。(登山道にでてスパッツを外すと内出血がひどく、帰宅後は下肢全体が青くはれ上がってしばらく養生することとなった。)
さらに進むと沢幅が狭くなりボサがかぶり始める。もう源頭部の様相なのかと思ったらふたたび視界が広がり今度は白っぽい岩盤のガレ沢風となる。両岸には花が咲いており殺風景な雰囲気を慰めている。
淡々と登り時々あらわれるナメ滝をこすと白淵沢最大の10m滝が見えてきた。近づくと斜度はあるが岩がでこぼこしていて手がかりはある。滑りも気にならないのでロープを出して登る。ロープを出して滝を登るなんて何年ぶり?だろう。昨シーズンから羊毛フェルトの沢靴なので安心感が得られている。気持ち良く登り、6m滝が続く。細かい二俣のたびにコースを確認しながら登ると沢は笹薮に覆われる。水流にそっていくと笹薮を抜けて急斜面のガレ沢となり、稜線がみえる。GPSで確認すると予定のルートよりも左に寄っていたため少しトラバースしてから笹薮をかき分けながら広い稜線にでた。
登山道が見える。少し下りカモシカ平を横切る。7月中旬ころならばキスゲが咲いていたはずだ。登山道に合流する手前で一輪だけ咲いていて慰められる。百人の拍手よりも一人の理解者、百輪の饗宴よりも孤高の一輪という気持ちとなる。時間がかかったけれど予定通りに遡行できてお疲れ様の握手。標識の一方が水場をさしている。カモシカ平の北側を下ると魚野川の高沢の源頭部。ずっとずっと昔、丹沢以外の初めての沢が魚野川の高沢出合あたりまでだったな、なんてことを思い出す。
さて、これからは登山道をたどる。高沢山までの登りが辛かった。数歩歩いては足を止め荒い息を吐く。沢を遡行しているときは何でもなかったのにやっぱり気が張っていたのかもしれない。その後も登り返しに喘ぎながら休み休みたっぷり時間をかけて野反峠に下った。ここで飲んだコーラがどんなに美味しかったことか。
振り返れば、初日に白淵沢出合まで沢を下るのではなく林道を歩いて時間を稼ぐことができたため、予定を変更して白淵沢に進むことができ正解だった。もし出合手前で幕営したならば下山がはるかに遅れただろう。予想外のことはこれからも多々あるはず。計画の実施は今まで以上に慎重にしなければならないと痛感させられた白淵沢だった。
野反峠10:25ー林道12:45/13:00ー白淵沢出合下14:00ー1160m幕営地15:30//6:30ー二俣7:45ーカモシカ平12:20/13:00ー高沢山13:45/14:00ーエビ山15:00/15:20ー野反峠16:30