ブナの沢旅ブナの沢旅
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2020.10.08
葛根田川〜戸繋沢〜乳頭山
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2020年10月7~8日

予定していた奥利根方面が直前で悪天予報となったため、晴れマークを探したら北東北がよさそうだった。とはいえ新規の沢は準備できないため、急遽これまでに遡行経験のある葛根田川に変更。最初に遡行したのが12年前でまだ「ブナの沢旅」を始めて間もない沢初心者だった。あの時はビギナーズラックというのか水量が少なめであっさりと1日で抜けてしまった。また6年前には現地で増水のため入渓を諦めたこともあったのでいい機会だととらえることにした。ただ葛根田の見所は前半にあって後半は普通の沢でそれほど魅力を感じなかったため、コースは少し工夫というか軟弱コースにアレンジしてみた。

葛根田のハイライトを遡行後は以前やはり遡行して好感触だった戸繋沢に進んで登山道に抜け、田代平から乳頭山へ登って滝の上温泉に下山する周回コースにした。乳頭山は以前厳冬期にトライしたところラッセルとガスで田代平山荘で引き返したことがあった。あの時一瞬のガスの切れ間から見えた姿は神々しくも美しく、以来いつかは登ってみたいと思っていたのだった。

盛岡からレンタカーで滝ノ上温泉へ向かう。駐車場のある休憩小屋はきれいに建て替えられ、隣には日帰り温泉施設もできていた。地熱発電所の道路を進み林道が沢から離れるところから適当に沢に降りると小さい堰堤が見えた。二日前に大雨が降ったらしいので増水が心配だったが、なんとか大丈夫そうでホッとする。下から遡行するのは12年ぶりで懐かしい。しばらくは河原歩きだ。一見ゆったりと見えるが渡渉となると膝上で流れも強い。

スダレ状のナメ滝を落とす大ベコ沢からは左右両岸の枝沢出合いがナメ滝となってさながら滝見沢ハイキングとなる。紅葉にはまだ少し早いが時々色づいた木々が色彩を添えている。あいかわらずの葛根田ブルーとも言える水の色が美しい。側壁をヘつったり渡渉しながら進む。困難なわけではないけれど楽々というわけにはいかない。ただ今回は初めて底がウールの沢靴をはいて来たところ、フリクションがラバーのようにとてもよく、ヘツリの苦手な私でも安心感が得られた。

葛根田のハイライトである「お函」はそのためもあって楽々通過した。むしろ手前の渡渉やゴルジュの巻きの方が気を使った。晴れていればもっときれいだろうという思いは胸にしまい込み、それでも美しい渓相を存分に楽しむ。けれど、なんてまた欲をいえばちょっと短くてすぐに通過する。すると幕営適地の大石沢出合が近づく。

テントは大石沢出合かつぎの中ノ又沢出合に決めていたが、このころまでに当初の周回コースを相談して短縮することにしたためここでザックを降ろした。ちょうど出合いの中州台地がテン場として使われているようで、焚き火の跡があった。ただしテン場は2−3人用が一張り分の広さだ。とにかく無事に遡行できたことを喜んで、せっせと焚き火の準備に取り掛かる。あまり太い薪木はなかったが、仲間が戸繋沢に入ったところ、まるでしつらえたように切り取った太い薪木がテン場でもないところにたくさん転がっていたといって集めてきた。おかげで盛大な焚き火ができ、翌朝も燠火で暖まることができた。

今年はコロナ禍や悪天候などでなかなか思うような沢旅ができずにいたので、ふたたび葛根田川にくることができてよかったと、焚き火のそばでささやかな夕餉のひとときを過ごしてシュラフにもぐった。

 

 

 

 

高曇りの中大石沢に入る。出合付近は沢床が半分ほど石で埋もれていたがそれもひと時のことで思い出通りの美しいナメが広がっていた。二俣で大石沢をわけ戸繋沢へ。大石沢は岩質が全く異なり、名前通り黒っぽい大岩がゴロゴロしていて入る気になれない。一方の戸繋沢は相変わらずナメ主体の穏やかな沢だ。前日は水量豊富なスケール感ある遡行だったので、のんびりできるのがかえってよかったりする。

とはいえ変化もあり、前回も印象に残った右岸から大滝を落とすミニゴルジュがあらわれる。ゴルジュはバンドを通って容易に通過する。楽しいところだ。ふたたび穏やかな沢を進むと今度は大深沢の「ナイアガラの滝」のミニ版ともいえる幅広ナメ滝となる。前回は巻いてしまったが、右岸にロープが張ってあった。あれから9年、結構歩かれるようになったのだろう。ロープがなくても踏み跡が明瞭だったので簡単に滝上へ。

金堀沢出合からは戸繋沢本流へ進む。前回は金堀沢から大白森湿原を超えて小和瀬川に戻ったので、戸繋沢を詰めるのは初めてだ。二俣には比較的新しい標識が立てられており「遭難注意、この沢は戸繋沢・金堀沢合流点です」と書かれてある。過去に遭難があったのだろうか。

沢はぐっと小振りになり、二箇所ほど崩壊地を通過する。900mを超えたあたりで両岸が広がり美しいブナの森となる。いかにも快適そうなテン場適地もあらわれた。たぶん戸繋沢のテン場適地はここだけだろう。さらに進んでちょっとした幅広ナメ滝を楽しく登る。これが最後の見せ場だろうかと思いきや、950mの二俣を右へ進み倒木帯を超えると、行き止まりとも思える両岸岩壁の5-6m滝に阻まれる。一瞬聞いてないよ〜と思ったが、あたりを見回すと少し戻ったところにテープを見つけた。当然なことに巻き道があった。その後は頻繁にテープがあらわれヤブコギなしに登山道にでた。

その時だった。仲間が最後に水汲みをしたところに忘れ物をしたことに気づき取りに戻ることになった。待っている間ザックをおいて沢装備をといている間にクマの気配がした。その後はクマと遭遇して登山道で一時間ほど様子見の停滞となった。(クマとの遭遇顛末は雑記帳へ)

 

 

 

 

周回コースを短縮したため翌日の予備日を使わずに乳頭山経由で滝ノ上温泉に下山するつもりだったが、クマ騒動の停滞で時間的にあやしくなってきた。最悪田代平山荘に泊まることも考えたが水がとれない。ヘッデン下山は避けたいので、ギリギリのギリで5時半下山から逆算し、先を急ぐ。登りに喘ぎながらも田代平が近づき湿原と乳頭山が目に飛び込んでくると俄然気力が湧いてきた。

田代平山荘の脇には池塘があった。山荘内は広くて綺麗だった。先に進むかどうするかファイナルアンサーということで乳頭山へ向かう。たおやかな山並みの紅葉が美しくとても力づけられた。人気の山なのだろう、午後の遅い時間なのに2組のパーティにあう。山頂標識にタッチしてヨロケながらもここまで来たことに感激する。風が冷たく長居はできないが、とっておいたパイナップルで元気をだす。あとは下るだけだから頑張ろう。色鮮やかな赤と緑のコントラストが美しい紅葉を愛でながら快調に下るが長い道のりだ。

湿原が点在する低潅木帯から時々足元の悪い急坂を下ってブナ林に入る。東北のブナはどこも美しい。静寂の白沼はとても雰囲気のいいところだが、あまり余裕がないのが残念だった。暗闇迫る中なんとかヘッデンなしに滝ノ上温泉に降り立った時は心底ホッとした。休憩小舎に入って荷物を広げ、今宵の宿とした。

 

 

 

滝ノ上温泉駐車場10:30ー入渓11:30ー大石沢出合15:00//6:45ー戸繋沢出合7:10ー登山道11:30/(停滞)13:00ー田代平山荘14:05ー乳頭山14:55ー滝ノ上温泉駐車場17:30