ブナの沢旅ブナの沢旅
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2018.10.03
大深沢関東沢左俣〜天狗湿原〜北ノ又沢
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2018年10月3-4日

天候に翻弄され二転三転した山行となったが、台風の合間に2日間と日程を短縮してようやく実施することができた。結果的には予報が変わり3日間も可能だったが、ぜいたくはいわないことにしよう。

気がかりだったのは、下降する関東沢左俣でテンバ適地があるかどうか。なにしろ現地の出発が11時と遅いので、どこまで進むことができるかわからない。最近はとくに必ずと言っていいほど予定よりも時間がかかる。一時は八瀬森山荘で泊まって翌日登山道を戻って入渓することも考えたが、合理的でない。右俣下降の選択肢はハナからなく、今回は左俣にこだわったのだった。

朝東京を発ち、盛岡から車で八幡平の樹海ライン1147mの橋をめざす。晴れ渡った道中、どっしりとした存在感のある岩手山を眺めながらのドライブはとても気持ちがいい。赤川にかかる橋の手前で車を止め、沢支度。駐車地点から明瞭な踏み跡に導かれて沢に降りる。昨年6月に松川温泉起点に遡行した沢も赤川だった。どちらも赤土の大岩ゴーロの沢だ。ここは大深山荘にぬける最短路なので淡々と進む。山荘を作る際の通り道として開かれたというように、ちょっとした滝にはロープがかかり、難しそうなへつりには手がかりが打ち込まれていた。やはりコースタイムよりはかなり時間がかかって大深山荘へ。

山荘前のベンチで一休み。中を覗いてみるととてもキレイで快適そうだった。ここからしばらくは登山道を歩く。地図で見てもいかにもたおやかな地形の稜線漫歩を期待したのだが、三ツ石山への道をわけてからはほとんど笹薮となる。7年前に歩いた時はちゃんと道になっていたのに、秋田県側は刈り払いをしないのだろうか。おまけに最近の台風や大雨のせいか道はぬかるんでいる。フェルトの沢靴のままだったので、何度もすべってしまう。湿原があらわれると、まるでオアシスのように感じる。

足元の悪い笹薮歩きもあって登山道でも予定通りに進めない。関東沢左俣の枝沢が登山道に近づくあたりで下降点をさぐる。入り口付近は密藪の雰囲気だが、あたりをつけて突入すると中はそれほどひどくはなかった。すぐに窪が見つかり水もでてきた。少しホッとしてボサのかぶった流れをたどるとやがて本流と合流。いきなり視界がひらけ溪相も沢らしくなった。標高をさげたので広葉樹林となり紅葉が美しい。

ほんの一坪ほどでいいから平らなところがありますようにと、祈るような気持ちで下降する。すると15分ほど下った右岸にネマガリダケが覆いかぶさった一張り分の平地が見つかった。時間があればもっといい場所を探しただろうけれど、先をいく仲間をよびとめてザックを下ろす。せっせとまわりの藪を刈り取ると立派なテンバ適地になった。こんなことが、やりがいのある楽しい作業になってしまうのだから不思議なものだ。焚き火は木が湿っていてちょろちょろで終わってしまったが、寝ぐらを確保できただけで十分だった。夜は満天の星空。翌日の美しいナメ沢の遡行を楽しみに初日を終えた。

 

夜はそれほど冷えることもなく穏やかな朝を迎えた。明るくなるのが日ごとに遅くなり急速に季節が進行していることを感じる。二日目はほとんどがまだ歩いたことのないコースであり工程が長いので6時には出発する。

歩き始めて間もなくあらわれる1110m二俣からはナメが顕著になり沢幅も広がる。まさに期待通りの左俣だ。おもわずステキ!と声がでる。まだ早朝で日が射さないけれど、これで太陽が顔をだせばキラメキの美しさが倍増するだろう。

沢幅いっぱいの長いナメを楚々と下っていくと数メートルほどの幅広斜滝となる。傾斜は緩いのでそのまま下る。右岸に開けた広い台地があらわれ、焚き火の跡も見られた。たぶん釣り師のテンバかと思うが、最近まで出水していたようで湿っていた。乾いていれば大人数のパーティには適している場所だ。

さらに下って幅広8m滝上へ。この沢の滝はどれも沢幅いっぱいの斜滝だ。下を覗き込む。クライムダウンできそうな手がかりはあるが無理することもないと懸垂下降の支点を探す。するとみな考えることは同じようで、ちょうどいいところに残置が二本下がっていた。下ってみれば登ることはできそうな形状だった。なかなか見栄えのする滝だ。

その後は階段状の小さな傾斜があらわれる程度でナメがつづく。ゴーロとなっていよいよナメも終わりかと思うとまたあらわれて期待以上となる。次の二俣をさらにくだると前方がスパッときれ、いよいよ10m滝であることを知る。少し戻った左岸の斜面に取り付くと踏み跡があり、迷うことなく滝下に下ることができた。緩やかなナメ沢には似つかわしくない滝で、ここから下流は溪相が平凡になるようだ。右岸壁に大きな洞窟のような穴があいているのが目にとまるが、これも自然の造形なのだろうか。

 

 

さて、ここからは小さな枝沢に入って東ノ又沢へとみちびく天狗湿原をめざす。湿原に近づいた二俣にはテープが巻かれていた。どうも知る人ぞ知る湿原になっているようだ。ヘリのところは乾燥化が進んで低潅木帯になっていたが、前方には黄金色の湿原が太陽の光を浴びて輝いている。開放感につつまれ思わずヤッホーと叫ぶとコダマが帰ってくる。面白くて何度もヤッホー。

なんとなく縦横に踏まれた跡を感じるのは、ここが熊の遊び場だからだろうか。けれど密かに敬愛する山釣り紀行さんによれば、大深沢のヌシは里のチンピラ熊とは違って人が存在を知らせれば離れてくれるのだという。クマだけでなく、人もかなり歩いているようで、真新しい地図を拾った。つい最近も楢俣川ヘイズル沢で新しい地図を拾ったばかりだったので、「地図を拾う女」と命名されてしまった。

湿原を横断して藪に入るとすぐに小沢となる。下るにつれ泥の赤土のトイ状窪が続くが、あっというまに東ノ又沢へ降り立つ。7年前の記憶がよみがえる。ちょうど一番きれいなナメが途切れるところなので、これからハイライトのナメを下降して三俣へ。前回はどんよりとした空模様だったので青空遡行がうれしい。

三俣でザックをおろし、最近では「ナイアガラの滝」という名称がすっかり定着した幅広15m滝へ散歩にでかける。平水よりも水量が若干多いので迫力がある。右へ行ったり左へいったりと滝上からの展望と多段ナメを楽しむ。勢いよく流れるナメを遡るときいつも感じるのだが、船酔いしたような感覚に襲われてしまう。

そしてようやくメインの北ノ又沢へ入る。こちらは関東沢左俣を一回り大きくしたような溪相だ。あらわれる滝はどれも幅広滝というのもこのあたりの沢の特徴のようだ。1250mまではゴーロとナメを繰り返しほとんど高度を上げない。そのあとようやく傾斜のあるゴーロ滝となって一気に100m ほどの標高差をかせぐ。

源頭の雰囲気となったところで登山道に最短で抜けるための小沢をさがす。本流を詰めると湿原にでるのだが、登山道と並行した藪こぎとなるようだ。地図にはあらわれないちょっとした流れにはいり、沢型が消えたところから藪となる。おおむね笹薮なので、ツタやシャクナゲのような厄介なことはなかったが、弱小パーティでは歩みが遅い。大深沢山荘下1410m付近で登山道に抜けた。

最近はきれいで楽な沢ばかり歩いていたので、ほとんど初めての沢を歩きテンバを造成し、藪をこぐという沢登り本来の要素が新鮮に感じられたみちのくの沢旅となった。

 

 

赤川駐車地点11:00ー大深山荘12:20/12:40ー関東沢左俣下降15:30ーテンバ16:00//6:00ー10m大滝下7:40ー天狗湿原ー東ノ又沢8:40ー三俣8:55/9:30ー北ノ又沢遡行ー登山道14:20ー駐車地点15:45