ブナの沢旅ブナの沢旅
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2017.09.04
泙川三俣沢〜ス沢
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2017年9月4-5日

 

泊まりの沢旅は7月中旬の麝香熊沢以来、ほぼ2ヶ月ぶりとなった。7月下旬に白内障の手術をして8月は山行を控えたからだった。年々ブランク後の体力低下が気がかりで、気のせいだけではなく実際に行動時間にあらわれつつある。今回も、幕営地まで予定以上に時間がかかったため、早々と当初のコースを諦め、のんびりと焚き火を楽しむことにした。

久しぶりに足尾の泙川源流の沢旅を計画した。泙川には特別な思い入れと思い出がある。最初に訪れたのは2010年の7月。小田倉沢から皇海をへて湯之沢に下る計画だったが、増水で小田倉沢の大ゼンが登れずに引き返し、コースを修正して平滝から三俣沢をへて湯之沢に入った。源流は穏やかなナメ沢で、詰め上げた国境平はとても気持ちのいいとっておきの場所に感じられた。

翌々年の2012年7月にあらためて小田倉沢を計画した。ところがあろうことか、泙川の渡渉ができず、小田倉沢にさえたどりつけなかった。急遽行き先を尾瀬に変更し、小淵沢〜大江湿原〜センの沢下降に切り替えた。こちらは増水が功を奏して、どちらもとても美しい沢となっていた。ほんとに水流によわいブナの沢旅メンバーなのであった。

同年の11月、歴史探索の沢旅と銘打って、小田倉沢から津室沢の原動所跡をたどった。このとき再びハプニング。津室沢を下降中の巻道で落石にあたって滑落し、肋骨を骨折するという初めての事故にあってしまった。

事故のせいというわけでは決してないけれど、あれ以来なぜか足尾から足が遠のいた。その後は栗原川の源流を計画したことがあったが、林道の通行止めで中止した。そうこうしているうちに、栗原川はあたらしいデスティネーションとして人気の沢になったようだ。

いつものように前置きが長くなってしまったが、自分にとってなによりも泙川源流は近代日本史の悲哀がただよう山域でありつづけている。センチメンタルにいえば、近代化の犠牲となって散々痛めつけられた山域であり、それが今はひっそりとけなげに自然の美しさを取り戻しつつある。。。

だから渓相に華やかさとか滝登りの醍醐味などは少ないけれど、こういう沢、好きなのです。(釣り師の沢なんていってしまったら、元も子もないけれど。。)

久しぶりの前夜発だ。上毛高原からレンタカーで泙川林道にはいり、ゲート前の駐車広場でテント仮眠。翌朝は工事中の林道を歩く。工事は進んでいるようだが、先に進むにつれ崩壊箇所が目立つ。三重泉沢を越えてしばらく行くと平滝の綺麗なナメがあらわれる。今回は帰りに寄ることにして林道を先に進む。尾根が緩やかに張り出したところから斜面をくだり沢に降り立った。ここからようやく沢旅の始まりとなる。

心配した増水もなく穏やかな流れだ。両岸が切り立ってはいるが、平瀬に時々小滝がかかる程度で、まさに沢歩き。壊れた堰堤の手前には小尾根を乗り越す明瞭な巻道がある。特に悪いところはない。ところどころ自然の岩と人工物を合体させた小さな堰堤があらわれる。

左岸から湯之沢がはいる。なんだか懐かしい。ここからは三俣沢となり、岩盤が発達してとてもいい雰囲気の沢となる。時々ミニ葛根田みたいだなどと思うくらいだ。最近は、こういう穏やかな沢歩きに心の安らぎを感じる。

しだいに広河原のゴーロとなり、ス沢の出合へ。ここでザックを降ろし、相談する。当初はさらに進んで大岩沢に入る予定だったが、これまでにかなりの時間がかかってしまった。翌日の長い帰路を考えると時間的に厳しそうだ。最近は、無理をせずに安全安心を重視するのが常となっている。

ス沢出合の平坦地を多少整地をしたらいいテン場となった。早速テントをはる。腰砕けの予定変更したのだからもうス沢遡行についても稜線までとか、源流までとかのこだわりはない。時間を決めて遊びに行ってくることにした。

最初は殺伐としたゴーロだが、次第に沢らしくなってきた。登れる小滝がつづき、階段状の長いナメなんかも出てきて楽しくなる。1400m付近の二俣で引き返すことにした。少し遊んで4時過ぎには戻り、焚き火の支度にとりかかる。

焚き火をおこして、夕食のしたくをして、ささやかに乾杯して、夜の帳に身を任せる。この時間がとても贅沢に感じられる。遡行は中途半端かもしれないけれど、歳を重ねるにつれ沢に求める価値観も変わってきている。十分満足して1日を終えた。

 

翌日は来た道を戻るだけなので、朝からふたたび焚き火をしてゆったりとすごす。その時あっと思う。単独の男性が沢を歩いてくるのが見えたのだ。それで合点がいった。昨日枯れ木を集めに沢を少し下っていったらかすかに焚き火の匂いがしたのだが、まさか人がいるとは思わなかったので気のせいかと。

おはようございまーすと声をかけ、すこし話をかわした。私たちの当初のコースと同じらしい。単独の若い男性だから身軽なのだろう。話の流れで、「akoさんですか」といわれビックリする。このような奥深く地味な沢でブナの沢旅を見てくれている人に出会えるとは思いもしなかったので、とてもうれしかった。きっと予定のコースを無理なくたどることができたことでしょう。

帰路は平滝集落に立ち寄ってみた。平滝小屋が比較的良好な状態で以前と変わっていなかった。足尾銅山の燃料を捻出するためにこの一帯は大規模伐採がおこなわれ、この平滝にも一時は数多くの人々が移り住んで作業に従事した歴史がある。小学校もあったというから相当の規模だが、昭和13年に40年間の伐採事業が終了した。

集落跡の横に流れる沢は広い沢幅いっぱい綺麗なナメとなっており、夏場には子供達が平滝で水遊びを楽しんだのではないかと、目に浮かぶようだ。少しの間タイムトリップの雰囲気を味わい、林道に上がった。

 

 

(平滝の停車場、小野崎一徳「足尾銅山」より)

林道駐車地点6:00ー平滝ー湯之沢出合9:45ース沢出合11:45//7:00ー平滝10:00/11:00ー駐車地点13:10