ブナの沢旅ブナの沢旅
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2017.04.24
高下岳〜和賀岳
カテゴリー:雪山

2017年4月23日〜25日

 

去年の3月初旬、3日間の日程で羽後朝日から和賀岳の縦走を計画した。ところが直前になって初日が悪天予報となり、気持ちがしぼんで羽後朝日岳だけに終わった。天気が悪いとすぐに日和るのがブナの沢旅の軟弱なところなのだが、それぞれ山行スタイルというものがあるので仕方がない。

羽後朝日岳へ行けただけでも嬉しかったのに、青空が広がるととたんに欲がでて、和賀岳に続く稜線を目で追いながら日程をカットした事を後悔した。その後もことあるごとに、あの時日和らなければ和賀岳にいけたのにと未練がましく口にして笑われた。だから今年こそは和賀岳に行くのだと思い続けていたのだが、やはり天候の具合や捻挫などが重なってなかなかチャンスがなかった。

とまあ、いわく因縁のある和賀岳。無雪期ならば登山道があるので日帰りもできる一般コースだが、積雪期となると登山口までの長い林道が雪に閉ざされる。そのため登山道のない和賀川源流右岸尾根を回り込んで南下して和賀岳にいたるのが一般的のようで、日帰りはむずかしい。雪の状態がわからないので固めに計画を立て、大荒沢岳から南下するのではなく高下岳から小さく回り込んでピストンすることにした。

当日、朝一の新幹線で盛岡へ向かい、レンタカーで高下岳登山口へ。大荒沢集落から林道に入り、しばらく進んだところで道が雪でおおわれていた。ここに駐車して出発する。一直線に伸びる林道を40分ほど歩くと立派な標識の立つ登山口についた。登山道は雪で覆われて判然としないが、新しいトレースがあった。尾根に上がるとところどころ夏道がでており歩きやすい。

しだいにブナ林の広い雪尾根となるが、曇り空から霰が降り始める。雨でなくてよかった。しばらく登ると再び天候も回復し、トレースの主である3人パーティが降りてきた。軽く会話を交わしてさらに進む。山頂までずっとゆったりとした登りでとても歩きやすかった。ブナ林からダケカンバ林となり、最後は無木立の雪面が広がる。高下岳には三つの峰がり、北峰に三角点があるようだ。山頂の一角だけが不自然に雪がなく、古く朽ち果てかけた木の標識があるだけだった。登山口の立派な標識とはエライ違いだが、かえって好ましく思えた。

時間があるのでさらに進む。空模様がめまぐるしく変わり、ふたたび吹雪模様となる。地図であたりをつけていた根菅岳手前の広い鞍部まで進んだところで行動をおえる。残雪期になると整地が不要なのでテントの設営も楽だ。中に入って休んでいると突然空が晴れわたり、大荒沢岳から沢尻岳、その奥のモッコ岳が見えてきた。昨年歩いたコースなのでうれしくなる。夕日を眺めながら翌日の好天を確信し、初日を終えた。

 

翌朝、目覚めて明るいので寝過ごしてしまったかと思いあわてるが、目覚ましをかけた4時半前だった。もうこの時間でも明るいことが驚きだ。鳥のさえずりが賑やかに聞こえる。最近はテント泊でもBC方式が定着していて気持ちが楽だ。雪は締まっているので最初からアイゼンをはき、軽いザックで出発する。

まずは目の前の根菅岳。小ぶりながら端正な姿をしている。ここまでは登山道があるらしい。山頂から羽後朝日岳をながめ去年の山行、去年のあの時の気持ちを思う。これからしっかり行ってくるからね、と。奥には秋田駒と岩手山も明瞭だ。とくに秋田駒ヶ岳はその成り立ちがよくわかる山容が遠望できる。スケールは違うけれど箱根の外輪山と神山に似ていると思った。

根菅岳では、これから歩く稜線と和賀岳も眼前に広がる。4月下旬とはいえまだまだ真っ白な雪山の様相で、その美しさに魅せられる。見る限りでは全体がゆったりとして悪いところはなさそうだ。根菅岳から下ったところで尾根が分岐する。まっすぐ北上すると大荒沢岳だ。和賀岳へは左手の西に伸びる尾根に進む。一箇所ミニナイフリッジのようなところを通過して緩やかなポコをこえると真っ白にそそり立つ峰となる。ここはピッケルをさしながら標高差100m以上をゆっくり慎重に登る。少し緊張したので、登り終えてほっとする。

 

 

景色が変わり、広大な鞍部の治作峠を見下ろす。無雪期には藪で覆われこのような景色はのぞみようもない所だ。以前、マンダノ沢の計画を立てた時に、辰巳沢から詰め上げてこの峠から下って戻るなんてことも夢想したことがあったけれど、なんだかんだと機会を逃しているうちに、気持ちも体力もなくなってしまった。

和賀岳はずっと見えていて意外に近いと思わせながら、なかなか近づけない。山頂のように見える1412mを越えるとようやくほんものの和賀岳が目の前にゆったりと広がる。去年あんなに遠くにみえて後ろ髪を引かれる思いをした山にやってきた。広い山頂は雪がまだら模様。雪で凍りついていた小さな石の祠の雪をはらい、軽くお参りをする。前回は2012年の夏に大鷲倉沢を遡行して登った。沢から登った山に雪山で登るという、ブナの沢旅のサブテーマがまた一つ完結。などというとカッコよさげだけれど、まあいい山はいつ来てもいい山だということなのだろう。

穏やかな陽気にさそわれ山頂でまったりとした時間を過ごす。対岸にみえる高下岳はずんぐりとした三つの峰が並んでいるので、即座にダンゴ三兄弟と命名。南側には登山道のある二つの尾根が伸びている。当然ながらこちらもトレースは皆無だ。今度はまだ歩いていないコケ平の登山道をたどってみたいとか高下川を遡行したいとか、あれこれ欲望の渦が湧く。

 

条件がよかったせいか珍しく予定を上回るペースだ。10時前に山頂をあとにする。来た道を戻るが、一度歩くだけではもったいないくらい素敵な尾根歩きなので、ピストンがちょうどいいなんて思う。くだんの急斜面は雪が緩み始めていたため思ったほど怖くなかった。根菅岳までもどると眼下にちょこんと緑色の我が家が見えた。一目散に駆け降りるようにくだってテントにもどる。

テントを撤収したり食事をしたりして小一時間ほど過ごす。その気になれば下山も可能であったけれど、せっかくの機会だしこんなにいい景色と天候なので山を降りるのがもったいない。最後は高下岳で夕日の和賀岳と朝日を楽しむことにした。

 

高下岳を少し先にすすむと展望のいいポコがあり、ここを今宵のねぐらとする。文字どおり和賀岳の展望台。ザックをおき、まずは南峰に足を伸ばしてみることにした。こちらは雪が消えハイマツがでていた。二か所にケルンが積んであったが、ここにも標識などはなかった。

暗くなっても気温はそれほど下がらず、暖かい夜だった。前日はなぜかよく眠れなかったため、早々と寝てしまう。翌朝、テントの喚起穴から外をのぞいて息を呑む。見渡す限りの雲海で、まるで私たちは雲上人のよう。さっそく外に出て四方を見渡す。雲海は東から南側で厚い。空は晴れている。こういう景色が見られるのが山で寝ることの醍醐味だと思う。

いよいよ山を下る。雲海を眼下にモノクロームの世界が広がる。とても幻想的で美しい。どのあたりで雲海に突入するのか興味深かったが、なかなかたどり着かない。1000m付近のブナ林まで下ると次第にガスがただよう。いろいろな情景を体験できて面白い。

 

さらに下ると再び晴れ渡り、雪の消えた登山道を下って林道に降り立った。と、いつもはここで記録が終わるのだが、今回は珍しく午前中の下山となった。レンタカーの返却を新花巻駅に変更してもらい、ミニ観光を楽しむことにした。まずは以前から一度降りてみたかった、ほっとゆだ駅へ。ここの観光案内所で情報を仕入れ湯川温泉でいちおしという高繁旅館の湯につかる。女性風呂には地元産のメノウをふんだんに使ったメノウ風呂がめずらしかった。さっぱりした後は峠山の水芭蕉群生地へ。思わぬ山奥にある水芭蕉の群生地は予想以上に規模が大きく、ちょうど花盛りだった。群生地をさらに奥へ進むとトロッコの軌道跡や古い石垣、貯水槽などの遺構があり、興味を惹かれる。カタクリやキクザキイチゲなども咲き始め、雪山から一気に春爛漫の気配となる。

大規模なダム湖の錦秋湖沿いに車を進め、道の駅でお腹をみたして新花巻へ。以前にも何度か山行で通ったことはあったけれどいつも通り過ぎるだけ。少しは観光しようと、初めて宮沢賢治記念館へ立ち寄った。宮沢賢治の作品や人となりとはうらはらの豪華な立派な施設で、その偉大さを改めて知らされるが、宮沢賢治は草葉の陰でどう思っているだろうね、などと言い合う。

そんなこんなで充実の東北遠征を終え帰路に着いた。

 

23日 林道駐車地点10:00ー高下岳高畑登山口10:40ー高下岳北峰14:30ー根管岳鞍部幕営地15:30

24日 幕営地6:00ー根菅岳6:25ー和賀岳9:15/9:50ー幕営地12:40/13:30ー高下岳幕営地14:50ー南峰往復

25日 幕営地6:20ー高下岳高畑登山口8:50