ブナの沢旅ブナの沢旅
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2016.07.11
舟岐川火打石沢〜引馬峠〜深沢下降
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2016年7月11-12日

 

少し前から、あるボランティア活動にかかわっているのだが、まだ技量的にも気持ち的にも軌道に乗っていないため、山に向ける情熱がそがれていることを自覚している。たぶん今年いっぱいはそんな状態が続くのだろう。けれどそれはあくまで一時的なことだと思っている。(だといいのだけれど・・)

そんな忸怩たる気持ちを払拭しようと、梅雨時の晴れ間に尾瀬の沢、正確にいうと帝釈山地の沢へ向かった。沢の選び方は人それぞれだが、私は第一にまだ遡行していない自分にとって未知の沢に憧れる。それほど期待できそうになくても、実際にこの目でみて感じたいという気持ちが強い。だから、今回もパートナーの同意を得て、ちょっと地味な沢旅を計画した。

それほど長い行程でもないので朝発とした。会津高原尾瀬駅でyukiさんにピックアップしてもらい檜枝岐の舟岐川林道に向かう。木賊温泉経由の山越の近道を進む。日程が梅雨の合間の好天に巡り会う。

舟岐川橋手前の駐車広場に着くと、品川ナンバーの車が一台。こんなマイナーな沢にわざわざ東京からということは、沢の先行者がいるのだろうか。などと思いながら沢支度をして沢に下ると、さっそく先行者の姿。釣り師だった。二人でまずいなあと顏を見合わせつつ、挨拶をする。

入渓したところは岩盤が発達した明るく開けた雰囲気のいい所だった。本来ならここで予想外のきれいな渓相に大喜びしてはしゃぐところだけれど、遠慮して静かに小さく巻いて水に入らないよう気をつかう。そして姿が見えなくなった所でふうっと一息入れて沢に入る。

すてきなナメは長く続かず、すぐに大岩ゴーロ歩きとなるのだが、青空と明るい森と開けた清流の渓の三拍子そろえば、もうこれだけで満たされた気持ちになる。真白な大岩が点在する平瀬は丹沢の檜洞を連想させる。

ちょっとした変化を与えてくれる5m滝を越えてしばらくすると次々と堰堤があらわれるが、どれも簡単に越えられる。そして一つ越えるたびに渓の容相も変わるので面白い。沢巾が広がりちょっとしたせき止め湖に木立が影を落とした風景はなかなか絵画的。なんていうと笑われるかもしれないけれど、とにかく美しいと思ったのだった。

さらに越えて行くと下流からは想像できない広い川のような平瀬となり、今度は大幽東ノ沢の下流部の雰囲気にそっくりだと思う。そうyukiさんに伝えると相づちを打ってくれた。こんな風に思えるのも、きっと青空のおかげなのだろう。一般には、こういう沢を「平凡」とか「何もない沢」というのだろうけれど、最近はそういう「何もない平凡さ」に心の安寧を感じる。

曲沢出合を過ぎると、多少普通の沢らしくなってきて変化があらわれる。岩質も変わって大岩が岩畳風のナメも多くなる。後から歩いているので気付かなかったが、魚影もではじめたとのこと。

出発が11時過ぎと遅かったので、最初からテンバ予定地を越ノ沢出合あたりにきめていた。あまり早く着くようだったら先に進むことも考えたが、のんびりしたおかげでちょうどいい案配の時間となった。出合右岸の台地にあがると、これぞテンバ!といわんばかりの広場があり、焚火場も用意されていた。予想以上の好物件に二人ともホクホク顏でザックをおろす。

寝どころを準備して焚火を熾してもまだ4時前。待ちきれずにビールをあけ、その後はだらだらと小宴会になだれ込む。沢で泊まって焚火を楽しむことに、いつも無常の安らぎと喜びを感じるのは、きっとみな同じだと思う。お腹いっぱいになってメインのカレーにまで行き着かずに、お休みなさいと一日を終えた。

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翌日は初日以上の好天だ。起きたらすでに焚火がついていた。朝はちょっと涼しいのでちょうどいい暖かさだ。7時前に不要な荷物をデポして出発する。2日目は周遊ルートで戻ってくるのだ。沢にはさらに変化があらわれ、ナメや小滝がつづく。時々あらわれる釜にはどこもイワナが驚くほどたくさん泳いでいる。

快適に進んで行くが、小さなV字谷とその奥の6m2条滝で足がとまる。まずはV字のへつりが越えられない。靴のせいにするわけじゃないけれど、ビブラムソールになってからはフリクションが信じられず、今回に限らずヒヤヒヤする場面がふえている。

少し戻って巻こうと左岸から斜面にとりつくと、滝の巻き道ができていてホッとする。滝上からはすぐに深沢と火打石沢出合となる。ゴーロ時々ナメを進むと頭上にコンクリート製の立派な橋があらわれる。今では廃道と化している林道がどのようにつけられているのか興味深いところだ。

標高をあげても魚影は濃く、yukiさんは手づかみしようと淵の岩穴に手を突っ込んだりしている。一瞬つかんで逃げられたとのこと。こんな風に遊びながら楽しい遡行がつづいた。水も涸れることなく、しだいにナメ一色の渓相となる。陽の光にてらされて苔むしたナメがとても美しい。足下にはイワナが走る。癒しの沢旅を絵に描いたような光景となる。

1800mを越えると殆ど平瀬となり、最後の二俣を左に進む。沢型がなくなる前にシラビソ林の斜面にあがると何とはなしに踏み跡があり、導かれるように引馬峠に着いた。

目印も何もない平たい場所だが、かつては檜枝岐と栗山村を結ぶ重要な峠道だったらしい。そんな歴史ある峠だと読みかじってきていたので、火打石沢を遡行して歴史の峠に詰めることが、ある意味今回の沢旅の目的だったともいえるのだ。

一服後、深沢の下降点をめざして国境稜線を進むが、だだっ広くてルート取りが難しい。所々踏み跡はでてくるけれど、すぐに見失う。こういう地形のルーファイは得意だというyukiさんにまかせて後を追い、時々あんちょこのGPSで確認する。1981m峰を巻くように進み、鞍部手前から沢へと下降。すぐに水があらわれ、ドンドン下る。

2時間ほど下った火打石沢出合手前で石積みの橋があらわれる。ここから橋に這い上がると一面笹薮となるが、ちょっとの藪漕ぎで踏み跡が明瞭となる。予想以上に歩きやすいのはいいが暑くてたまらない。越ノ沢の橋から沢へ降りて顏をあらったりと火照りをしずめ、沢を下ってテンバへ。

ずしりと重くなったザックで橋まで戻る間が短いながらつらかった。越ノ沢は滑った石がゴロゴロしていて足下がふらつき、バランスを崩すことしばし。橋に上がったときはヤレヤレだった。林道は時々崩潰地があるものの、幅広のとても歩きやすい快適な山道で、途中からは車が走れるよう整備されているようにもみえた。最後はちょと林道歩きに飽きてきたが、4時前には車にもどった。

時間の余裕がとれたので、燧の湯に立ち寄ってさっぱりすることができた。会津高原尾瀬口駅まで送ってもらう。晩秋にまた帝釈山地の沢めぐりをしてみたいと思いながら長い帰路についた。(yuki、ako)

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舟岐橋11:15ー曲沢出合13:15ー越ノ沢出合14:45/6:45ー火打石沢出合ー引馬峠10:55/11:10ー深沢下降点11:45ー深沢出合の橋13:20ー腰ノ沢出合14:15/14:30ー舟岐橋15:55