ブナの沢旅ブナの沢旅
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2016.03.29
菱ヶ岳~鍋倉山(信越トレイルーpart3)
カテゴリー:雪山

2016年3月29-31日

 

今期雪山シーズンは例年にない寡雪のため山選びが悩ましい。去年の同じ時期に行った会越の黒姫〜守門袴越は、まだたっぷりの雪に覆われ真っ白でクリーミィーな山並みがとても美しかった。あの時袴腰から見た八十里越に続く気持ちのよさそうな雪原台地が目にとまった。そして来年はあの尾根から中の又山まで行こうなどと妄想をふくらませた。

できれば実現させたかったけれど、標高が低い登山道のない尾根歩きは今年のように雪の少ない年ではもう旬をとっくに過ぎていると諦めた。ではどうしようということで、豪雪地帯の信越トレイルが浮上した。例年なら数メートルの積雪がある山域なので、低山でもまだ雪はたっぷりあるだろうと予想。

昨年はトレイルの北端である天水山から野々海池を周回した。数年前には鍋倉山から牧峠を歩いた。どちらも穏やかなブナの尾根歩きが印象に残った。だから、まだ歩いていない野々海池から牧峠をつなぎたいと思った。

久しぶりに3日間の日程を確保することができた。とにかく尾根歩きを楽しもう。どこまで進めるかわからないので現地判断とした。里山なので麓に下るルートはたくさんあるし携帯も通じる。

当日の朝は越後湯沢駅から初めてほくほく線に乗った。まったく馴染みのない路線だったが、地図でみるとほとんどがトンネルで一直線に日本海側に通じている。昨年の天水山は長野側から入山したが、今回は新潟側のキューピッドバレイスキー場が出発点だ。ほくほく線は山中を一直線に走るので早い。

1時間たらずで虫川大杉駅に到着し、ここからスキー場のシャトルバスに乗る。ゴンドラで一挙に山頂駅まで上がると、菱ヶ岳は目前だ。トレイルからははずれているが、せっかくなので山頂を踏む事にした。小一時間で山頂につくと小屋が出ていた。あとから登って来た地元の人に聞くと,例年だと小屋は完全に埋まっていて今年の雪は1m以上少ないという。

菱ヶ岳は独立峰で麓からも目立つ山のようだ。小屋の案内板には、鈴木牧之の『北越雪譜』にも「さて松之山の庄内に菱山といふあり、山の形三角なるゆえの名なるべし」と紹介されていると書かれてある。実はいま『北越雪譜』を読み始めた所なので、とても興味深かった。いそぐ旅ではないので最初からのんびりしてしまう。

菱ヶ岳から来た道をもどり、トレイルの尾根にとりつく。ここからはトレースのないまっさらな雪尾根となる。須川峠では標識がでていた。地図では緩やかなポコがたくさん連なっていて眠くなりそうな地形にみえるが、新潟側は急斜面のため日本海から吹き付ける風で小規模ながらも雪庇が発達している。そのため小さなポコがちょっとした雪稜になっているのだ。

そんなわけで鼻歌まじりの稜線漫歩とは行かない所も多く、意外と時間がかかる。きっと例年だと雪庇はもっと大きく鋭く通行が困難なのではないかと思う。

だからといってとくに困難なことはなく、気持ちのいい緊張を感じながらゆったりと進む。すると必ずつぎに尾根が平たく広がり、そういうところでは、たぶん麓からだろうがスキーのトレースがあらわれる。

テンバ適地は無数にある。日も長くなっている。伏野峠と宇津ノ俣峠の間の1022m枝尾根が延びている付近は、ブナ林が美しい広い台地になっていた。先を行くYさんを呼び止め、ここに泊まりたいと伝えた。

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早起きする必要もないからと目覚ましをかけずにいたら寝過ごしてしまった。テントから顔を出すともう太陽がでていた。それだけテンバは快適でよく眠れたのでよしとする。

さあどこまで進めるだろうか。あいかわらず緩やかな広尾根とちょっといやらしいポコの繰り返しがつづく。ずっと遠かった鍋倉山が近づき、妙高や火打の白く大きな姿も見えてきた。菱ヶ岳がどんどん遠ざかり、丸っこい山並みが幾重にも麓にブナの緩やかな尾根を伸ばしている。

宇津ノ俣峠からはこれまでよりも標高差のあるアップダウンが続く。数年前に鍋倉山から牧峠を歩いた時、もうちょっと先まで進みたいと思ったその尾根を歩いているわけで、数年越しに実現したことになる。

ようやく牧峠に着いた時には昼近くなっていた。ここは車道が峠を横断しており、少しだけ道路がでていたのには驚いた。やっぱり雪がすくないのだなあ。ここからは一度歩いた尾根なのだが、歩く方向が逆だと見え方も違う。

だだっ広い運動場のような尾根がしばらく続く。茫漠としていて視界がないと迷うそうだ。梨平峠を過ぎたところでは地形が入り組み、ルートがわかりづらくなる。進むべき尾根に乗るために少し北側の斜面を戻るように下った所、手つかずのブナ原生林が広がっていた。峠道が近いところの斜面は伐採二次林が多いのだけれど、ここだけはなぜか伐採を免れたようだ。

関田峠までは緩やかで大きなポコを二つ越えるのだが、ずっと、いい雰囲気のまとまった広がりをもつブナ林だ。そういえば前回も気に入って写真をとってもらい、その写真をHPの表紙に使っていたことがあった。

二日目の宿は茶屋池あたりの雪原を考えていたが、関田峠手前のポコの展望があまりにもよかったので予定変更。夕方からは雨予報でもあり、早めにテントを張って中でくつろぐ事にした。

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予報通り一時はかなりの雨が降ったが、翌日は早朝から快晴。霞もないためテントからの眺めは前日よりもさえ渡り,気持ちのいい出発となった。テンバのポコを下ると関田峠の広い車道となり、おびただしい数のスノーモービルの跡があらわれる。昨日も所々広尾根でその痕跡が見えたのはよしとして、雪から上部がでている若いブナの木をなぎ倒している所が何ヶ所かあり、とても腹立たしかった。写真をそえて、「信越トレイルクラブ事務局」に報告するつもりだ。

茶屋池を左手に見下ろす樹林帯を抜けると明瞭な尾根となり、黒岩山にまっすぐ続いている。快適な尾根歩きで進行もはかどる。これまでは意外と時間がかかっていたのだが、はじめてほぼコースタイム通りに黒岩山へ。

ここから鍋倉山はあっという間の距離だが、前回はガスって何も見えなかったため鍋倉山から黒岩山への鞍部手前で知らずのうちに枝尾根に引き込まれてしまった。そのことが頭にあったので注意をしながら歩いたが、視界があればどう見ても間違いそうにない枝尾根だった。そういえば当時はまだGPSも持っていなかった。

鍋倉山頂へ。トレイル縦走としては今回ここを終了点とする事に前日きめていた。はっきりしたものではなかったが、当初は仏ヶ峰を越えて戸刈温泉スキー場から下山するのかなあ、などと思っていた。けれど2日目に鍋倉山まで全く届かなかった。それにゆったりとした里山の尾根歩きも十分に堪能した。別の言い方をすれば、いいかげん飽きてきた。だからコース縮小を持ちかけた所、待ってましたとばかりの賛同を得たのだった。

賑やかなトレースの山頂だが、まだ朝早いせいか誰もいない。2度目の朝食をとりながら、北信五山といわれる山々の同定に余念がない。妙高、火打の白さは別格で、日本海に向けて山脈が標高を落として行くのが手に取るように見渡せる。

しばらくすると単独のスキーヤーがやって来た。3日間で初めて人に会ったのだが、私たちが腰をあげると話をしたくないとばかり、あさっての方向に行ってしまった。まあいろいろな人がいるものだといいながら山頂をあとにする。

最後のお楽しみは下山途中の「巨木の森」に立ち寄りブナの巨木「森太郎」に再会することだ。言い尽くされていることだが、鍋倉山東斜面のブナ林はほんとうに立派で美しい。トレイルでたくさんのブナ林を通ってきたが、予定変更のおかげで、今回の山旅のすてきなフィナーレとなった。

「森太郎」の場所がうろ覚えだったため少し下り過ぎてしまった。ザックをおいて目星をつけたところトレースがあらわれ、小さな谷の向こう側にあった。あれ以来、各地でブナの巨木が倒壊したニュースを耳にしていたが、「森太郎」はまだ健在だった。ただ、少し下った所の「森姫」は前回も危うげだったが、朽ちてしまったらしい。

あれこれ1時間ほど巨木の森で遊び、いよいよ下山となる。最後は急斜面の腐れ雪の痩せ尾根を冷や汗をかきながら下り、雪に覆われた林道をてくてく歩いて温井集落に下り立った。

タクシーをよんで戸狩温泉へ向かう。運転手さんによれば、今年は例年の3分の1か4分の1の積雪しかなく、地元の90歳代のお年寄りでさえ、こんなに雪が少ない年は初めてとのこと。おかげで雪下ろしが楽だったとも。さらに、駅近くではサクラが咲き始めており、こんなことも初めてだと驚いていた。今はまだ3月なのである。

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キューピッドバレイスキー場山頂駅10:10ー菱ヶ岳11:00/11:15ー須川峠12:00ー伏野峠ー1040m幕営地16:00/7:30ー宇津ノ俣峠9:10ー牧峠11:25ー1150m幕営地15:15/6:45ー関田峠6:55ー鍋倉山9:00/9:30ー巨木の森10:00/10:50ー温井集落12:40

写真集

信越トレイルーpart1

信越トレイルーpart2