ブナの沢旅ブナの沢旅
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2015.10.22
飯豊 大白布沢タカツコ沢
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2015年10月22日

 

振り返れば、飯豊初体験は強烈だった。厳冬期あけの2009年3月初旬、長坂尾根から剣ヶ峰をへて三国岳に登った。正確にいえば、剣ヶ峰に取り付いたものの雪の不安定な岩場が通過できず、タカツコ沢を詰めて避難小屋の前に飛び出した。あの時は、連れて行ってくれたさすがのsamさんもかなり緊張したらしいが、雪山の恐さをまだよくわかっていなかった私は、こんなものかと身をまかせ、のびやかなタカツコ沢の沢筋を見下ろしては美しいと思ったり呑気だった。

その時以来タカツコ沢と聞くと沢登りよりもあの雪壁登攀を思い出すのだが、一般には源頭部のスラブ登りが楽しめる初級の沢として記録があげられている。調べれば自分でも行けそうな沢のようだ。いつか無雪期に登ってみたいと思っていたところ、今回ひょんなはずみでyukiさんから提案があった。当初はテント泊をしたかったけれど、タカツコ沢ときいて喜んだ。
前日の午後磐梯熱海で合流し、夕食の材料を調達して川入へ向かう。2011年の水害復旧もかなり進み、川入までは工事も完成していた。早めに到着したので駐車場手前にある民俗資料館をのぞいてみた。飯豊の四季を通じた人々の暮らしぶりがうかがえる民具の展示を興味深く見ていると、隣で、これも、あれも以前家にあったという。

誰もいない駐車場にテントを張り、早々と外で食事の支度をする。昔は夜中に現地に到着して仮眠後、早朝出発というパターンが多かったが、もうそんなあわただしい行動は勘弁してもらいたいお年頃である。

夜は満点の星で翌日の好天を期待したが、朝はどんよりとした空で雨もポツポツ。でもきっと晴れると予報を信じて出発する。川入から先は工事中の所も多く、まだ車は入れない。水害で廃屋化した飯豊鉱泉をはじめ災害の傷跡が随所にみられ、渓相はすっかり変わってしまったらしい。

御沢の杉の巨木を懐かしく思いながら、植林帯に入る。大滝方面の登山道をわけて右に進み、川原に下りて細い鉄の橋を渡る。小滝を越えるとすぐにタカツコ沢出合いとなる。しばらくはだだっ広いゴーロ川原を進む。どんよりとした空のゴーロ歩きなんていかにも冴えないようだが、周囲の紅葉がとても美しく見飽きることがない。

最初の二俣を右に進んでからは小滝が連続して沢登りらしくなる。小滝はどれも容易なのだが、ヌメリがひどい。二人ともアクアステルスなので乾いた花崗岩の岩はフリクションがよく快適なのだが、滑った岩はおそろしく、つい巻きぐせがついてしまう。

ようやくあらわれた滝らしい滝の10mスラブ滝も左岸から登れそうだが、ヌメリを嫌って右岸から小さく巻く。白い岩に色鮮やかな紅葉がはえる。沢はふたたびゴーロと大岩小滝の繰り返しとなり、雰囲気が8月に行った黒檜沢に似ていると思う。

概ね直登か小さく巻くことができたのだが、二箇所で高巻いたところ追い上げられ、側壁が立っていたため懸垂で沢に下りた。最近は楽チンな沢ばかりなので、たまにはロープ使わないと忘れてしまいそう。だからかえって練習になってよかったかもしれない、などと思う。

タカツコ1 タカツコ2

沢はしだいに開け、おっかえし沢出合いへ。とてものびやかな所だ。このあたりまで来ると紅葉は最盛期を少し過ぎた雰囲気となるが、それでも美しい。天気はあまりよくないけれど、この紅葉を眺めるだけでも来て良かったと思える。ここからは傾斜がまして、はるか先まで一直線に突き上げる沢筋が見渡せる。グイグイ登って標高を上げる。黒光りした数m規模の滝をいくつかこえるといよいよ20m空滝のスラブが立ちはだかる。

上部はガスでよく見えないためルートの見極めがむずかしい。ここはyukiさんが空身で中央スラブを左側から取り付き、途中で一ヶ所支点をつくってずり上がる。上部で苦労していたが何とか抜けた。見ていた私もホッとする。続いてトップロープでザックを引き上げながら登るが、上部のスラブは下から見るよりも立っていてホールドも乏しく緊張させられた。終わってみれば面白かったなんて軽口もでるが、この空滝を通過するのに小1時間かかった。

滝上からは傾斜の緩いスラブ登りとなる。ここからがタカツコ沢のハイライトなのだが、残念なことにガスで視界がほとんどない。歩きやすそうなところを選んで進む。ほとんど歩いて行けるほどの傾斜だ。避難小屋の方向を確認しながら登って行くと最後は灌木まじりの壁となる。木登りさながらによじ登り、ほんの少しヤブをかき分けると登山道にでた。視界がなく時間もかかったけれど、予想以上に登りがいがある沢を無事に遡行できてうれしかった。

あとは登山道を下ればいいのだが、剣ヶ峰を通過するまでは油断禁物。岩場の下りは苦手なのでラバーソールの沢靴のまま下る。このころになってようやく太陽が出たり隠れたりしはじめ、うっすらと沢筋が見渡せるようになる。地蔵山への道をわけて水場で喉をうるおし一服する。登山靴に履き替え、快適なブナの登山道を下る。

先をいくyukiさんが眉をしかめて倒れているように見えたのでビックリしたが、登山道脇の斜面のナメコをとっていたとのこと。少しだけれど収穫して下ると、今度は大きなブナの倒木に驚くほど立派なシメジの群生。登山道のど真ん中だ。時間も押していたので最初はキノコの気配を感じては探りをいれるyukiさんをせかしていたが、さすがに見過ごすわけに行かない。こうなったらヘッデン下山でもかまわないなどといいながら興奮気味にシメジやムキタケ、ナメコを収穫する。

上部のブナはすでに落葉していたが、上十五里からは紅葉が鮮やかだ。日没との競争でゆっくりできないのが残念だったが、なんとか暗くなる前に御沢キャンプ場に下った。川入までもどると、意外なことにまだ工事中で、最後の橋を渡る所で工事関係者に足止めされ肩身を狭くしながら通過して車に戻った。久しぶりの12時間行動となってしまったが、晴れてヌメリのない季節に再訪したいと思った。

タカツコ6 タカツコ8

川入駐車場6:00ータカツコ沢出合6:50ーオッカエシ沢出合11:10ー20m空滝12:45ー登山道14:15ー(キノコ狩)ー川入駐車場17:50

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