ブナの沢旅ブナの沢旅
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2015.08.06
大桧沢~飯森沢
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2015年8月6-7日

 

残雪期が終わり山が初夏の装いを見せ始めると、各地の山で「山開き」なる年中行事が行われる。飯豊連峰と吾妻連峰のちょうど中間に位置する日中飯森山もそうだ。けれど他の山と違って、ここでは「山開き」ではなく「沢開き」が行なわれている。

毎年7月最後の週末に、地元の熱塩加納町が山岳会のサポートを得て大桧沢の「沢開き」イベントを開催。参加募集のページで大滝(黒滝)を登っている写真も掲載されていた。普通に考えれば日中ダムから山道の登山道があるのだから、そちらから登る「山開き」になりそうなものだが、アドベンチャーを楽しんでもらいたいという熱意のあらわれだろうか。

その上、「哺乳ツクシ」の滝や「マヨネーズ沢」など、ネーミングも一風変わっている。飯豊の前衛にはこんな風変わりな沢があるのかと、好奇心も手伝って記憶に残っていた。記憶にはあったけれど、とくに自分から積極的に行こうと思うような沢ではなかった。

その大桧沢の話が舞い込んで来た。ええっ、あの大桧沢へ行けるのと、興味津々ですぐに参加表明。当初は「沢開き」の前に予定していたのだが、不安定な天候に振り回されて一旦中止になった。せっかく珍しい沢の話が出たのだからと、立ち消えになる前に今度は私から再度提案をして実現させた。

あらためて下調べをすると、何十人も参加する「沢開き」の沢とはいえ、あなどれないようだった。若いときにサクッと遡行したことがあるというyukiさんも、アブミとカムを持ってきた。さて、どうなることやら。。。

当日の朝五百川駅でピックアップしてもらい、磐越自動車道を喜多方方面へ進む。大峠道路に入り、日中ダムを眼下に見ながら大峠トンネル入口に到着。沢支度をして歩き始めたのが9時半で、こんなに早く出発できるとは以外だった。

大峠トンネル入口近くには立派なイラスト入りの案内図。大桧沢はまるで沢沿いに道があるような書きぶりで、二俣には色とりどりのテントのイラスト付きキャンプ場の表示がされている。(雑記帳に写真掲載)入渓前から、このイラストの論評で盛り上がる。

登山口の標識から沢沿いの山道をすすむ。少し歩いただけで汗が噴き出し、しまいには過熱気味で具合が悪くなる。沢に降りた所でクールダウンしてすこし生気を取り戻すが、とにかく暑さが今回の核心だったかもしれない。いつもなら考えられないほど頻繁にザックをおろして休む。熱中症になりそうなのだ。

ゴーロはしだいに巨岩帯となり、一つずつ越えるのもザックが重いと楽ではない。身長にハンディがある身には、暑さと重さが重なって、まさに三重苦。行く手には時々消えかけた赤ペンキマークがついている。

ようやく滝があらわれる。主な滝には名前がついているが、この沢の滝はほとんどが登れない。最初のミカワ滝は右岸にトラロープがみえた。取り付きはツルツルのスラブなので腕力勝負で乗り上げる。上には巻き道がついており、つぎのゴルジュ滝を見下ろしながら進む。

沢に降りて進むと左手前方に糸滝がみえた。たしかに糸のように細い水流だ。水量が少ないのかも知れない。滝下で休んでしばらく涼む。つぎの顕著な滝は四条四段滝だか、ここも明瞭な巻道を左へ右へと進む。最初の連瀑帯を過ぎると再び巨岩ゴーロとなり、沢も開ける。

崩れた雪渓があらわれた所で雪渓に顔をあててクールダウン。トンボも暑いのか雪渓に張り付いて、人が近づいても動かない。さらに進むと白いもやが立ちこめる。前方には巨大な雪渓。これが案内図にもでていた大桧沢名物の雪渓だ。雪渓はしっかりしているので不安なく下をくぐる。中で枝沢が出合う。ヒンヤリとして気持ちがいいとはいえ、そそくさと通過する。

大桧沢に沢泊りする場合、大方のパーティは案内図で「キャンプ場」とされている二俣に泊まる。最初は私たちもそのつもりだったが、暑さでバテ気味となる。そこで早い段階で、黒滝の前にあるらしい「テンバ適地」で行動を終えることにした。

右岸にイタドリ台地がみえたが、一見とても「適地」には見えなかったので、さらに進むと黒滝にはばまれる。そこで引き返し、イタドリ台地を開拓することにした。ともあれ、一日の行動を終えてホッとする。せっせと草刈りをしてタープを張ると、なるほどのテンバ適地だ。yukiさんが立派なカヤを持って来たが、意外なことに遡行中もテンバにも虫はほとんどいなかった。

ここならば増水にも堪えるし、川原の焚火場の脇からは冷たい水が湧き出ている。さっそくビールを冷やし、焚き木を集めるとすぐに火が熾きた。セッティングがすべて終わるとなかなか快適なテンバで、大満足となる。暗くなる迄焚火を楽しんで、カヤに入った。

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翌朝ものんびり焚火にあたり、まずは入れてもらったコーヒーをすする。こういう憩いの一時は沢に泊まらなくては味わえない。だからやめられない。けれど、これからさきいつ迄続けられるか・・と思うと、ますます貴重な一時に思えてくる。

イタドリでフカフカになったテンバをあとにして、昨日すでに対面した黒滝へ。20数メートルの大桧沢の大滝だ。左壁が登れるようだが、あっさりと右岸のルンゼから巻き上がる。トラロープがあってもひと苦労だった。黒滝上にもいくつか滝が続くが、ここはすべて巻くように道がついていた。

沢に降りるとすぐにトイ状滝があらわれる。左手の傾斜した岩を登るのだが、ここはyukiさんがカムを使いながら空身で登ってスリングをかけてくれた。続くCS滝をまくと、いよいよ難関といわれている熊滝があらわれる。その姿をみて、なるほど熊のようだと納得し、吉村昭氏の「熊嵐」の表紙の絵を思い出した。あとで見ると全然似ていないのだけれど、ワイルドな雰囲気から連想したのだろう。

どの記録をみても熊滝には苦労している。一段上のテラスにあがる所が核心のようだ。いよいよだと思ったところ、トラロープがかかっていた。その上、yukiさんがアブミを持って取り付いてみると、テラスにハーケンの残置発見。新しいようだ。そんなわけで、アブミとトラロープを使ってすんなりと乗り越えることができた。

そして最後の滝場を締めるのは、ネーミングが興味津々の哺乳ツクシ。由来が知りたい!両岸が絶壁の隘路の奥に見える滝で、一見絶体絶命の容相だが、鎖場の巻きルートがあることがわかっているので大丈夫。

滝に近づいて左岸の岩場を鎖を頼りに登る。あやうい足場の草付きを鎖にしがみついてトラバース後、急斜面をバックステップで下って沢に戻った。ヤレヤレとザックをおろしてへたり込む。こんな難所を通らないと「キャンプ場」へはたどり着けないのに、あの案内板にはそんな但し書きはない。経験者同伴ならいいというレベルではないと思うが、「沢開き」では万全のサポート体制で、普段沢登りをやらない人も受け入れているらしい。ひ弱な都会人には、おどろくことが多い。

滝上からは渓の様子も穏やかになり、真っ青な空に稜線が見えてきた。斜面にはキスゲがポツンポツンと咲き、心を和ませる。小滝やナメを進むと小さな二俣となる。ここが「キャンプ場」の入口だ。中間尾根に明瞭な踏み跡がついている。せっかくだからと、ザックをおろして上がってみる。踏み跡は仮払いされた立派な道となり、予想以上に広い平らな空間が広がる。なるほどここに至るプロセスを考慮しなければ、ここは立派なキャンプ場だ。すぐそこに林道があって車が入れそうな錯覚を覚えるほどの異空間。ブルーシートがおかれ、焚火あとには鍋も置いてある。

妙な感心はしたものの、二人の感想はといえば、ここに泊まらなくて良かった。せっかく沢に泊まるのに、これじゃあ台無しだとか、いいたい放題。まあ多人数で泊まる場所なので、こうなったのだろう。とても大挙してやって来る沢とは思えないのですけど、ね。

栂峰に突き上げる思案沢を分け、左俣に進む。連続する小滝にはすべて深い釜がある。そんな所から、風呂屋横丁とのネーミングがご愛嬌。ここまでくると、もうなんでもどうぞ、という気分になる。そんなわけでもないが、右岸の枝沢はマヨネーズ沢。きっと「迷わないように」をもじったのではないかと想像できる。

小振りだけれど、すっきりとした渓相がつづき、深い釜が陽に照らされてキラキラときれいだ。苔の鮮やかなナメもあらわれ、やっぱり沢はこうでなくっちゃと思う。源頭部まで水が流れ、ヤブもなくすっきりと尾根に乗ると、見事に迄きれいに刈り払いされていた。きっと「沢開き」にあわせたのだろう。少し登ると飯森山神社と書かれていた小さな石と木の祠が並んでたっていた。古くからここが山頂と見なされていたのだろう。

古文書によると、今は飯豊本山に祭られている飯豊権現は、古の時代、この場所に置かれていたという。古い雰囲気のある社なのだが、喜多方市のカラフルな看板が雰囲気を損ねていると感じるのは私だけだろうか。

少し進んだ所にある一等三角点を確認後、日蔭を求めて山頂をあとにする。とにかく暑くてたまらない。渓からの風を感じられる鞍部で大休憩。暑さで空気がよどんでいるのか天気なのに景色が霞んで山があまり見えない。日中ダム登山口から登る途中にある鉢伏山がきれいな三角錐の山容をみせている。積雪期に登ると山腹にすばらしい雪原台地が広がる山で、飯森沢右岸尾根から取り付くコースはけっこう登られている。

地図をみて下りやすそうな枝沢の源頭まで登山道を下り、適当に斜面を下る。すぐに窪となるが、下っても下っても水があらわれず、ふたたび暑さでのぼせてしまう。いくつか枝沢を併せてようやく水が流れ始めるが、こんどは大崩壊地に突入。自然の凄まじい破壊力を目にして呆然とする。

さすがに傾斜が緩む下流部からは元の姿にもどった。しだいに水量が増え、ブナやミズナラ、沢ぐるみの原生林が広がる。とてもいい雰囲気だ。けれど長い行程と暑さで心身ともに疲れている。駐車地点の赤い橋が見えてきたときには、ようやく終わったと思った。

巨岩帯と登れない滝の大桧沢ではあったけれど、いつもとは違う面白さが感じられた。開拓したテンバでの一夜もよかった。焚火と、手を伸ばせば得られる涌き水で割った香り高いアイリッシュウイスキー。そしてなによりも、森の素晴らしさが印象に残った。

(yuki、ako)

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大峠トンネル登山口9:35−糸滝12:20−黒滝手前テンバ15:00//6:35−二俣8:30−飯森山10:30/11:00−飯森沢下降点11:20−大峠トンネル登山口15:45

写真集