ブナの沢旅ブナの沢旅
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2015.03.21
西黒尾根~谷川岳
カテゴリー:雪山

2015年3月21日

 

3月に入り、時間の余裕と天候の安定で山に行く弾みがついている。17日に無理なく土樽から二居への日帰り縦走ができたことに気をよくして、快晴が期待できる土曜日も山を歩きたくなった。今シーズン2度登ってまだ山頂に至っていない白毛門が心に浮かんだが、いまさら感がなくもない。

そこで以前から気になっていた西黒尾根に目が向いた。といっても朝発の電車登山なので遅い出発だし、数日前の疲労感や余韻がまだ体から完全に抜けきれていない。はなから山頂などは考えず、様子を見に行くことにした。

好天予報の連休初日。電車もバスも、滑ったり登ったりで雪山を楽しもうという人達で大入り満員状態だ。バスは終点のロープーウェイ駅で満員の乗客を吐き出すが、登山指導センター方向に行く登山者はいない。初めてなので誰かいれば心強いなあと期待したが、そういう依存癖もなくさなければと、坂道を歩き始める。

除雪は指導センター前まで。2mほどの雪壁を登ってワカンをつける。真新しいトレースがあり、先行者がいることがわかった。当然ではあるけれど、山頂を目指すならばもっと早い時間に登り始めるはずだもの。

アイゼンのトレースだが、雪はザラメ状態でけっこう沈んでいたり踏み抜いていたり。ワカンでたどると歩きにくいのでトレースを道しるべに人が歩いていない所を登って行く。とくに沈むこともなく快調だ。体重が人より軽いせいか、他の人が沈む所でも沈まないのが私のアドバンテージ。

明瞭な尾根にのると白毛門方面が近くに見える。ブナも立派になりとてもいい感じ。所々尾根が広がり気持ちがいい。白毛門を登ったときも西黒尾根の下部は樹林帯のゆったりとした尾根には見えたけれど、歩いてみて実感する。早々と展望も抜群で、前を見ても振り返っても疲れを忘れさせてくれる。一人で登っていることも忘れてしまう。

途中で単独の男性が追いつき、あっという間に先へ進んで行った。とても慣れている人のようで、昼過ぎに下って来たので驚いて話を交わす。その人が、大丈夫ですよ、余裕で行けますよと言ってくれたのが心強かった。

2時間ほどして前方にこぶが見えてきたので休憩がてらアイゼンに履きかえる。先行パーティがいた。こぶを登る所で5人パーティが渋滞しており、しばらく待つ。こぶを越えると尾根は少し痩せてしばらく小さなアップダウンとなる。

雪壁を下る所でロープを出していたので先行させてもらう。明瞭なステップが切ってあるので前を向いて下れる。このパーティは茂倉岳まで縦走するテント泊の装備で、あまり慣れていない人を経験者が前後でサポートしながら進んでいた。当然時間はかかるが、その様子をみて、これが山岳会のよさなのだろうなと思う。

振り返ると登ってきた尾根が、パノラマビューの真ん中でものすごい角度で落ちているように見える。天気がいいので壮快だけれど、これがガスったり吹雪いていたら心細いだろうな、そんなときに登れる人ってすごい、でも私はイヤだな。。。なんて思いながらひたすら前進。

適度に緊張しているせいかあまり食欲もわかず、時々水分補給する程度。一ノ倉沢の岸壁は2月に白毛門から見た時から比べるとかなり雪を落としている。登っている最中も近くではないがドーンという轟音を聞いた。ここ数日の気温上昇で山はすっかり様変わりの様子。雪稜登攀で人気の東尾根も途中は黒々としており、賞味期限終わりの感じがした。

痩せ尾根をやり過ごすと谷川岳の双耳峰が近づき、気持ち良さそうな雪の斜面が遥か上まで続く。ここでようやく安心感を得、ずっと張りつめていた気持ちに一段落。たどってきた尾根を見下ろしながら一休みする。ここで初めてテルモスをだして熱いコーヒーを飲む。いつにも増して美味しく感じた。これから登る尾根に悪場はなく、長いけれど傾斜もそれほどきつくない。

途中に大きなクラックがあるから気をつけるようにと言われていた所を通過する。またいでクリアした途端、下の穴から男性が顔を出したのでビックリ。思わず落ちちゃったんですねーと言ってしまう。下ってきた女性がこの辺りで人を待っている様子でずっと立ち止まっていたのだが、穴に落ちた男性が這い上がるのを待っていたのだろうか。それにしては助ける様子もなかった。きっと夫婦で、奥さんがダンナのことをしょうがないわね〜と突き放して自力脱出を待っていたのかも、なんて勝手にストーリーをでっち上げるのも一人登山の人間模様観察の楽しみ。(的外れだとしたらご愛嬌ということでお許しを)

見上げると天にも届くような雪面がそびえて見えるが、ピッケルを刺しながら一歩一歩ゆっくりと足を上げていく。最後は見かけよりも長く、さすがに足取りが重くなってきた。傾斜はさらに緩くなったのでダブルストックに替えると足への負担がかなり軽くなった。

左手には天神尾根が近づき、ハイカーの姿が見える。大げさだけれど、なんだか自分で自分に感動する。だって登りきるつもりなどなく、登れるなんて思っていなかったから。雪山は条件次第で難易度が激変するが、この日のコンディションは雪山としては最も登りやすい状態だったのかもしれない。

天神尾根との分岐にある石積の標識を目指して最後の登りとなる。1時をまわっていたので少しは人出がへっているかと思いきや、たくさんの人がまだ登っている。山頂はどうでもよかったけれど、多少の余力はあったのでせめてトマの耳まで登って山頂標識にタッチすることにした。

山頂も賑わっており、近くにいた登山者に写真を撮ってもらう。セルフタイマーで笑顔はさすがに気後れするが、このときはヤッターマンの気分で思わずニコニコ。万太郎谷側に目をやると正面に先日歩いたタカマタギから日白山の稜線がこちらに微笑んでいるよう。なんだかうれしい。

少し風がでてきたので肩の小屋へ下り、風よけができるところで初めて食事をとる。オジカ沢の頭方面には誰も見あたらないが、4年前の4月にマナイタグラ山稜を歩いたときは赤谷川源頭にシュプールの跡がたくさんあったことを思い出す。オジカ沢の頭から肩の小屋の途中の岩尾根トラバースで腐れ雪のため足下グズグズ、下は谷底と、とてもこわい思いをしたっけ。あれこれ思い出しながら満たされた時間を過ごし、天神尾根を下った。

積雪期の西黒尾根は予想以上にいい尾根だった。終始抜群の展望に抱かれながら最初はブナ林のゆったりした尾根でなごみ、中間部の岩こぶのアップダウンで気を引き締め、最後は雪稜の尾根を快適に登り詰める。ほとんど夏道のコースタイムで歩くことができたが、雪がある方が歩きやすいのかもしれない。新緑とお花の時期にまた登ってみようと思った。

登山指導センター9:00−ラクダのこぶ11:20−トマの耳13:15−ロープーウェイ駅15:10