ブナの沢旅ブナの沢旅
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2015.03.27
守門黒姫〜袴腰
カテゴリー:雪山

2015年3月27-28日

 

数年前に稜線を少し進んだ所で撤退した守門黒姫だったが、ガスで霞む途中のブナ林が美しかった。以来、いつかまたと思いながらずいぶん時間がたってしまったが、ようやく実現させた。

前夜発で2日間の時間がとれたので黒姫だけではもったいない。BC方式で初日に黒姫を往復し、翌日は守門岳(袴岳)隣の袴腰または現地判断で守門岳を目指すことにした。

26日の夕方長岡駅で待ち合わせ、大雲沢ヒュッテへ向かう。ブナの沢旅も高齢化が進み、雪山に入る前にテントで仮眠というかつてのパターンが辛くなっている。平日なので宿泊客は私たちだけ。それも雪山登山客は珍しいらしい。

計画を伝えた所、翌日の朝食後ご主人が数年前に登った袴岳の写真を見せてくれた。途中にナイフリッジが続くけれど、見かけほど悪くなかったとのこと。前日まで降雪があったので様子を聞くと、麓で30センチほどなので山はもっと降っただろうという。雪の状況次第で様子が変わるので無理をするつもりはないことを伝えて出発するが、サングラスを忘れてしまい厚かましくも貸していただく。ありがとうございました。

五味沢林道の駐車地点にはすでに車が一台駐車していた。除雪地点から破間川に下る踏み跡をたどり、数メートルほども雪が積もった橋をわたる。ここでシューをはき、しばらくは林道を進む。

先行者のスキートレースがある。これまでにたくさんの人が入っているはずだが、前日までの降雪でトレースはほとんどリセットされサラサラの新雪を進む。なんだかとても得をした気分だ。もうすぐ4月だというのに山は厳冬期のように真っ白でクリーミィーな容相を見せている。先週の谷川では気温が高い日が数日続いたために急激に雪解けが進んでいたが、さすがに豪雪地帯の会越は様子が違う。

振り返ると大きく裾野を広げた浅草岳が近い。それもそのはず。登り始めた林道の反対側が浅草岳の登山口なのだから。なんとも贅沢なロケーションだ。

しばらく谷筋を進んだのち831mの小尾根にあがる。登につれ立派なブナがあらわれる。真っ青な空と真っ白な山並みと大きなブナ。雪山に求める三要素が完璧にそろっている。暑いくらいの日差しを浴び、大汗をかきながらゆっくりと正面の稜線をめざす。

下黒姫沢とエラオトシ沢を分ける枝尾根鞍部はブナ林の広い台地。時間もあるのでもう少し先の台地まで登ってみたが風が強く吹きさらし状態だ。少し戻って最初に目に留まった源頭部をテンバに決めた。

不要な荷物をデポし空身で黒姫の稜線へ。真っすぐに登ると1328mポコの左側にでてしまうので、途中からスキートレースをたどってトラバース気味にポコの右側鞍部へ乗り上げる。小山だと思っていたポコは雪庇が張り出し尖っている。

さて、ここから黒姫へはいくつかのアップダウンを越えて行く。前回はホワイトアウトに近い状態でまったく地形がわからなかったけれど、予想以上に距離がある。降雪でトレースはリセットされている。今の時期にトレースのないきれいな新雪の尾根を歩ける幸運。ワクワクするが多少の緊張感もある。

とはいえほとんどはsugiさんが先行し、私はいつもの撮影係。景色だけ写してもつまらないので先に歩いてもらうことが多い。簡単に歩ける尾根だと思っていたが、それぞれのポコで雪の付き方がことなり変化にとんだ尾根歩きとなる。

一ヶ所短いながらナイフエッジを通過するが、ラッセル状態が幸いして安心感があった。稜線の下を登っているときにみえた大きく張り出した雪庇の登りは雪面がシュカブラ状態だ。風の通り道なのだろうか。

ポコに乗り上げた所で下が見えず、覗き込むとほとんど垂直の壁になっている。ここでアイゼンに履き替え、ピッケルをだす。きっとこれも雪のなせる仕業なのだろう。

そしてようやく山頂が間近に。こんもりと丸みをおびた広い斜面を登る。黒姫というより守門丸山とでも言いたくなる。だだっ広い平頂は文字通り360度の展望で、素晴らしいの一言。北側は破間川源頭をはさんで烏帽子が近い。以前八十里越えを歩いたときに反対側から見た烏帽子はとてもとがって見えたが、南側からみると別の山のよう。その先には川内山塊の粟ケ岳から矢筈岳、御神楽岳がつづく。背後には、いつもの飯豊連峰が高く白く空に浮かんでいる。

南側はずっと背後に見えていた浅草岳と早坂尾根がエレガント。その奥には丸山岳から遥か会津駒方面の山並み。燧ヶ岳もちょっと霞んでいたけれど高く聳えている。両翼を広げた未丈ヶ岳と手前には村杉岳かな。その奥には越後三山。うんと遠くには那須や吾妻連峰も見える。地図を見ながらきりがない。こんなふうに眺めていると雪山で登った大多数がこの山域であることがわかる。好きな山々に囲まれたど真ん中に今立っているのだ。

山頂下の尾根を一つずつ追っていると南東尾根にトレースがあった。山頂直下で引き返している。それでピンときた。きっと新ルート開拓をしている地元ガイドさんのものだと。直前にネット検索をして知った。トレースがあるので下ってみたい誘惑がなくはなかったけれど、ベースキャンプに戻らなくてはいけないし、最後は長い林道歩きらしい。

帰路は翌日に登る守門袴腰とその後ろに守門岳、大岳へと延びる大雪庇を仰ぎながらの贅沢な尾根歩き。途中まで戻った所で破間川源頭部から単独スキーヤーが登って来るのが見えた。しばらく見ていたら手を振ってくれたので私も手を振ってヤッホー。体力と技量がある人は自由自在に滑ったり登ったりで楽しいだろうなあと思う。

思ったよりも時間がかかったけれど、きれいだったね、面白かったねと、デポ地にもどる。とくに整地も不要な快適なテンバだ。テントに入って外を見上げると、夕陽のせいかブナがまるで芽吹き始めたようにピンク色に染まって見えた。

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夜中続いた強風は朝もやむ様子がない。黒姫までかかった時間を考えると守門岳は現実的でなく、強風でも袴腰までは頑張ろうと申し合わせて出発する。最初からアイゼンをはき、シューは置いて行く。

進む尾根の方向が昨日とは反対側なので稜線直下の台地からは1328mポコの左鞍部を目指して直登する。かなりの傾斜だが新雪で適度に潜るので登りやすい。尾根にのると前も後ろも真っ白な雪稜の世界。昨日の尾根歩きがウォーミングアップとなり雪稜歩きも慣れてきた。

今日もノートレースの稜線歩きができる。複雑な形状の雪庇をかわしながら先ずは駒ノ神をめざす。山頂を過ぎて駒ノ神から派生する痩せ尾根を見渡し、なるほど馬のタテガミのような尾根だと納得。広い鞍部まで気持ちよく下り、いよいよ最後の長い登りとなる。かなりの急斜面を一歩一歩踏みしめながら山頂へ。私たちには珍しい雪稜登頂のため達成感がある。

遠目では尖って見えたが山頂はわりと広い。袴岳(守門岳)が目の前で登山者が見える。ほんの少しの距離ながら細かいポコが二つほどあり、ナイフエッジで繋がっている。確かに見た目ではとても進もうという気にならない。

こちらからみる袴岳はまん丸い山容だが、袴岳からみる袴腰は尖ってみえる。標高だってほとんど同じ。だからこちらの方が到達点としてふさわしいなどと理由付けをして二人ともここで十分だと満足する。昨日から展望の素晴らしさに感激しどうしだが見飽きることがない。あらためて山並みを確認しながら、あの山あの尾根を繋いで歩いてみたいなどプランがつぎつぎと浮かぶ。

案の定山頂からの下りは緊張の連続となった。足を滑らせると一気に谷底まで転げ落ちそうなのでバックステップでしつこく蹴り込みを入れながら慎重に下った。黒姫とちがい標高が高いために雪面が固くなっているのだ。

駒ノ神まで戻ると新しいスキートレースがあらわれ谷筋に下っている。(夕方ほぼ同時に車に戻った地元ナンバーのスキーヤーさんと話をしたところ、彼らは駒ノ神から滑り降りて硫黄沢右岸尾根を登り袴腰をまわって戻ってきたとのことで、私たちトレースを追うような形になったらしい)。

黒姫から戻るときも感じたが、トレースがあるというのはなんて楽で心強いのだろう。快適な稜線漫歩を楽しみながら自分たちのトレースをたどる。朝から誰にも会わなかったが、稜線から下る鞍部まで戻ると眼下の台地状斜面にはおびただしい数のスキートレース。私たちがアドベンチャーを楽しんでいる間にずいぶん人が入ったようだった。

テンバに戻りまずは一休み。水をつくってコーヒーをわかしランチタイムとする。1時間ほど休んで荷物をまとめ下山する。たった1日の違いなのに下黒姫沢の台地と斜面は一大ゲレンデと化していた。アクセスも悪くないし、たっぷりの雪でおおわれた緩やかな大斜面がつづいているのだから人気がないわけがない。

とてもいい山だったけれど、地味ながら静かな山旅を信条とするブナの沢旅としては、賑やかな気配がちょっと減点かな、などと贅沢な感想を言い合いながら帰路についた。

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五味沢林道駐車地点7:10−1150m鞍部テンバ11:10/11:25−守門黒姫14:00/14:25−テンバ16:05//7:05−袴腰10:00/10:15−テンバ12:15/13:15−駐車地点15:30