ブナの沢旅ブナの沢旅
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2015.02.21
東谷山~日白山
カテゴリー:雪山

2015年2月21日

 

前日に1週間の出張から帰ったばかりなのに翌週もまた出張と、このところ慌ただしい。ここは休養するのが仕事優先のバリバリ現役人の常識かもしれないが、そんな時期はとっくに通り越している。好天に誘われ無性に山に行きたかった。そんなわけで気心の知れている日白山へ。最近はこういうパターンの山行が多い・・・

なにしろ全国的に快晴予報。いままでわりと閑散としていた電車は東京駅から満席以上の込みようで、越後湯沢からのバスも長蛇の列となる。二居田代スキー場で降りたのは自分だけかと思ったらスキーを手にした男性が続いた。きっと東谷山だろうと思い嬉々として声をかけると怪訝そうな顔をして先に行ってしまった。

行き先は同じなのであとに続いて行くと突然、そのおじさんがスッテンコロリン。そしてあっと言う間もなく今度は私がそこら中に響くような悲鳴をあげてスッテンコロリン。緩い傾斜の舗装道路が凍り付いていたのだ。起き上がるのも一苦労で、きっとこれが今回の核心だと確信する。

植林帯につづく坂道は楚々と水が流れていてまるでナメ沢を登るような気分だ。確かにこの坂道が凍り付いたら恐ろしいことになりそう。除雪終了点でシューを履き、しっかりとしたトレースにそって歩き始める。すでにかなりの人が入っている気配だ。おかげで順調なペースで二居峠へ。東屋はほとんど雪で埋没しており、やはり今年の積雪は相当のようだ。

ここから雪壁を越えて尾根に取り付く。ただひたすらトレースをたどるだけなので気が楽だ。樹林帯側をトラバースして進み、尾根が広がった所で稜線にでると大勢のスキーヤーが休んでいた。ここから展望がひらけ、振り向くと苗場山方面、前方には平標山が白い。雪庇の張り出しが顕著な痩せ尾根の急斜面で先行者に追いつく。スキーでは大変そうだ。なんだか最近はいつも樂をさせてもらい、いいような悪いような。

急登をやり過ごすと傾斜が緩んでダケカンバ林からブナ林となる。尾根が広がり、あちこちにブナの影がのびている。とても穏やかで心休まる所だ。気温はジリジリと上がり、汗だくとなって二枚目の上衣を脱ぐ。休憩していたスキーパーティにお礼をいうと、先頭は単独の男性がシューでラッセルしているのだという。ラッセルを代わってあげたいけれど、トレースがあってスキーで進んでも追いつかないほどすごいパワーなのだと言う。

この1週間は体をほとんど動かさずにいたので疲れるかと思いきや、やっと歩けるとばかり体が喜んでいる。あまり疲れを感じないのでほとんど休みを取らずに歩いているうち、先行者は単独ラッセル君だけになってしまった。

標高を上げるにつれ、あたりのブナ林に霧氷があらわれ始めた。もっと早い時間から歩き始めていればきっとブナ林全体が霧氷におおわれていたはずだ。気温が高いので諦めていたが、すこしでも見ることができてよかった。

尾根が東に向くと無木立の雪面となる。真っ青な空のまっさらな雪面に一筋のトレースがのびている。最初はちょっとでも距離を縮められないかと少しペースをあげてみたが、最初のように踏み固められたトレースではないのですぐに疲れてしまう。マイペースにもどって東谷山山頂へ。先行者はきゃしゃな体つきのボーダラー君。軽く挨拶をして写真を撮ってもらう。ここからいろんな斜面を滑って遊ぶようで、目印のためかゾンデ棒をセットしていた。

山頂からは平標山から仙ノ倉の尾根が近づき、日白山につづく稜線が美しく波打っている。北面はブナの疎林が広がるメローな斜面が幾重にも尾を引いている。スキーヤーに人気があるのも納得だ。実際シューハイカーは私だけらしい。

さて東谷山は通過点。ここからいよいよノートレースだ。休憩していざ出発なのだがいきなりの急降下。降り口を探しているうちに後続のスキーヤーがあっという間に滑り降りて行った。下るとなればスキーは早い。おかげでトレースができた。もちろんガッカリなんかせず、内心ホッ。それでもシューでは潜るので、もし自分が先行していたら苦労しただろう。

日白山への稜線も南側は雪庇が大きく張り出している。しばらくは北側の樹林際をトラバースして進む。二つ小山を越えるのだが、先行したスキーパーティは日白山手前のポコから滑り降りるという。それを聞いて、またまた思う。最後のひと登りはいよいよラッセルかな。なんだか最後だけ一人で有終の美をかざって山頂にたどり着くなんて、ちょっと虫が良すぎるかな。

などと皮算用をしながら勇んで進むと、上からひゅっとスキーヤーが滑り降りてきた。あれっ、誰もいないはずなのに〜。まあ世の中そんなに甘くないってことで、地王堂川ルートから日白山に登ったスキーヤーが一足先に山頂から下ってきたのだった。

そんなこんなでスキーヤーの皆さんにおぶさりながらこれ以上高い所がない平地に乗り上げると、一挙に前方の視界がひらけ、極上のパノラマ劇場が幕をあける。前回も体験しているけれど、やはり思わずワォーの声。山頂4回目にしてようやく最高の展望を目にすることができた。すぐに後続のスキーパーティがやってきて皆が歓声を上げている。一挙に賑わう。

谷川連峰から越後の山並みがすべてと言っていいくらい見て取れる。山々を眺めながらゆっくりくつろぐ。脳のしこりがじわじわ融けていくのがわかる。ちょっと無理をしたスケジューリングだったが、来てよかったと心から思う。どの山に登ってもそう思うけれど、今回はひとしおだ。

となりで平標山に続く尾根の話が持ち上がった。関心を持って調べたりもしたので思わず会話に割り込み、ああだこうだとちょっと厚かましかったかも。昔だったら黙って聞いていただけだと思うが、最近一人のせいか、やたらと他の人に話しかけている。元々人見知りする性格なので、山に限らず少し「社交的」になった自分がいいなって思う。

さて帰路はどうしよう。どうも今の時期はスキーヤーが中心でシューハイカーは3月以降に増えるのだろうか。タカマタギ方面にはトレースがない。ショートルートの地王堂川添いもまだ歩いたことがないので少し迷ったが、時間もあるのでもっと展望を楽しもうと来た道をもどることにした。

スキーヤーはそれぞれお気に入りの谷筋を滑り降りるので、帰路は「そして誰もいなくなった」の雰囲気となる。東谷山にもどると、おびただしい数のスキートレースや何やらででぐちゃぐちゃ。まさに宴の跡になっていた。日白山に行っている間にもたくさんの人達が登ってきたのだろう。

山々に最後の別れをつげて下る。下りは早いが、バスは1時間に1本なのであまり早く下っても時間を持て余す。ブナ林の木陰で休むことにした。登りで一挙に歩いたせいか、今頃になって疲れを感じる。けれどその疲労感が充実感に変わって心地よい。明後日からまた南の島へ。このところ冬と夏を繰り返しながら雪山に通っている。我ながらせつないほどに元気だなあと思いながらバス停に下った。(展望のよさは写真集で実感してください)

除雪終了点8:30−二居峠9:05−東谷山10:50/11:00−日白山12:00/12:45−東谷山−二居峠15:05−バス停15:35