ブナの沢旅ブナの沢旅
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2015.01.25
南面白山〜大東岳
カテゴリー:雪山

2015年1月25-26日

 

年末から年始にかけて快晴の一人山歩きが続いた。気持ちがいい尾根歩きと美しい富士の展望を存分に楽しんだ。もちろん、それはそれで充実していた。これ以上のぞんだらバチがあたりそう。だけど、心の中にはぽっかりと小さな穴があいていた。ブナの雪山に行きたい。。。

ようやく日程調整と天候回復の兆しが重なり、東北遠征が実現した。厳冬期でも雪山へ行くようになった2009年以降、とくに決めていたわけではないのに昨年以外は毎年1月に東北の山へ向かった。穏やかな山容のブナの山に引き寄せられたのだ。
南面白山へは2009年に日帰りで登っている。あのときはまだ面白山高原スキー場が営業しており、リフトを乗り継いだ。初めてのリフトに緊張してリフトから落ちたり降り損なって緊急停止させたりと、今となっては笑えるエピソード満載で懐かしい。

前夜のうちに面白山高原駅へ移動し待合室で仮眠。スキー場入り口付近でシューを履き、雪壁にあがるとスキーのトレースが一筋あった。

誰もいないスキー場をトレースに沿って登っていく。雪は予想以上に締まっており、トレースがなくてもくるぶし程度しか潜らない。ゲレンデトップからは緩く張り出したブナ林の尾根にのる。前日降った雪とガスで、あたり一面樹氷の森が広がる。青空がほしいなんて贅沢は言わない。ようやく樹氷のブナ林を歩けると思うだけで幸福感に満たされる。それほど太いブナはないけれど、天までとどけ〜という気合いが感じられるほどに真っすぐにそびえ立っている。

尾根の傾斜が急になったところで岩場基部をトラバースする。入り口と出口にはしっかり赤テープが巻かれおり、スキーの先行者はツボ足で通過していた。トラバース後は沢筋の急登が続きガスが濃くなってきたが、先行者のジグザグトレースのおかげでとても歩きやすかった。

樹林帯を抜け、ひと登りで南面白山山頂標識が見えてきた。標識の高さから6年前の1月に来たときよりも積雪量が多いことがわかる。残念ながら大東岳は見えない。それどころか視界はほとんどなく、雪と空の境目がわからないほどだ。単独スキーヤーの姿はなく、尾根のトレースもなくなったので、桶ノ沢に滑り込んだのだろう。こんな視界で沢に降りるなんてよほど慣れている地元の人に違いないと、あれこれ想像をめぐらす。

山頂は通過点。さあ、これからが今回の山旅の目的の一つである大東岳北面のブナ林逍遥だ。2010年の5月下旬に穴堂沢を遡行して権現様峠から桶ノ沢源頭部の登山道を歩いた時、ブナ林の美しさが印象に残った。いつか雪の季節にも歩いてみたいと思った。そして2年前、北面白山から権現様峠をへて南面白山へと周回するコースを歩いたが、前半で思いのほか時間がかかり、途中でコース変更して下山した。

こんな風に振り返ってみると、けっこうこだわり続けていることを改めて感じる。だから、これから歩く尾根は数年越しの懸案ルートなのだ。視界がないので明瞭な尾根筋に乗るまでは何度もコンパスで方向を確認する。それでも一度隣の尾根に引き込まれた。急斜面を横歩きで下ると尾根は広がり、ガスもあいまって茫漠としたブナの森をさまよっている感覚にとらわれる。まさに期待通りの展開だ。この彷徨感に胸がときめく。

 

昼過ぎからはようやく太陽がガスを押しのけて勢力を広げ、しだいに青空が広がりはじめた。雪面に影が伸び、見上げると真っ青な空に樹氷の花が美しい。墨絵の世界もきれいだったけれど、やっぱり青空にはかなわない。有頂天の気分で足取りも軽くなる。

当初地図の1018mあたりでテントを張って翌日空身で大東岳を往復する予定だった。ところがトレースや締まった雪のおかげで1時には1018m地点についてしまった。天候はすっかり回復し無風状態で絶好のコンディションだ。相談の結果、時間もあるので大東岳まで進むことにした。

 

緩やかな傾斜の北面の尾根を登る。いったん樹林帯がとぎれたところで前方の視界が開け、山頂の一角が姿をあらわした。かなりの急斜面だ。灌木につかまりながらジグザグに登ると1200m附近でふたたびスキーのトレースがあらわれた。きっとあの人だ。桶ノ沢源頭部から北西尾根を登ってきたのだろう。

しだいに傾斜が緩み南面白山が見渡せる。ようやく視界が得られ、たどってきた白いモコモコのブナ林帯を見下ろす。けれど北面白山はずっと曇の中だった。さすがに山頂に近づくと厳冬期の風格を感じさせる容相となるが、風はなくあくまでも穏やかだ。広い平頂に乗り上げてからは灌木帯の踏み抜きに注意しながらすすむ。そしてついに山頂標識へ。ようやく久恋の山にやってきた気分だ。

南側は広い台地で、その先に仙台神室から山形神室の山並み。その奥にひときわ白く高く蔵王連峰がそびえて見える。ひとしきり展望を楽しんだあとテントの設営に取りかかる。低山とはいえ厳冬期の東北の山の山頂にテントを張るなんて思ってもみなかった。なんだか私たちすごいねと、この千載一遇のチャンスを捉まえたことを無邪気によろこぶ。

最近はテント泊の機会が減ってさびしく思っているところだったので、久しぶりに気合いをいれて食材をたっぷり持ち込んだ。いつもは軽量化を優先している私たちにとっては豪華な鍋で、テント泊を盛り立てたかったのだ。食べきれないままシュラフをひろげ、就寝前に外にでたところで意外な光景を目にする。西面には山形平野の夜景が広がり、灯りがキラキラ輝いていた。

 

昼間は穏やかな山頂も、夜中はさすがに冷えた。翌朝はテント内が霜で白く凍りつき、プラバックの水も凍りかけていた。2日目は往路を戻るだけなので朝は遅めに出発する。山頂下の急斜面が気になったので最初からアイゼンをはいた。山頂からの視界はあるが、四方とも中腹に雲海が広がっている。昨日とは違う趣が感じられ、なかなかいい雰囲気だ。

平頂から下り始めると雲海が非対称的に広がる。そしてここが分水嶺であることに気付く。北面白山へつづく稜線の仙台側は完全に雲でおおわれているのに山形側は谷底まで視界がある。1200m少しの標高なのにどうして雲は谷に流れ込まないのだろうと不思議に思う。しばらくは雲海の山並みと樹氷のモコモコを見下ろしながらくだる。ダイブしたくなるほど魅力的な樹海が広がる。無雪期の登山道からは決してみられない光景だ。

南面白山への急斜面を登ったところでふたたびスキーのトレースがあらわれた。私たちのトレースに乗って登っている。昨日は一度も交わることがなかったので、私たちのことは知らないはず。だから、これで同じコースを歩いていたことを知ってもらえるとよろこぶ。なにもよろこぶようなことではないのだけれど、私たちだけで勝手に親近感を抱いていた。

ブナ帯をぬけて振り返ると大東岳が雲海の上に浮かび上がっている。その山容が要塞のようで、なんだか「天空の城ラピュタ」だと思う。太陽が必死に姿をあらわそうとしているのがわかる。昨日は視界がほとんどなかったので山頂からの展望が新鮮だ。小東岳への稜線も魅力的で、いつか歩いてみたい。

青空が広がるのは時間の問題のように思えたので、しばらく山頂でおやつを食べたりしてのんびり過ごす。山頂の北端からはうっすらと月山が大きく裾を広げ、手前には神室連峰が小粒ながら真っ白な山並みを連ねている。神室連峰も積雪期にもう一度歩きたい。あれこれ思いがふくらむ。

 

 

名残惜しい気持ちで山頂をあとにする。このころまでにふたたび太陽が頭上に輝き、気持ちのいいフィナーレを演出してくれた。下るにつれ汗ばむほどの陽気となり、昨日の凍てつくブナ林はすっかり樹氷をおとして春山の装いだ。静まり返ったスキー場を一気に下って駅に降り立った。

短い行程の往復だったけれど、自然の采配のおかげで同じコースでも様々な表情を見せてもらう幸運に恵まれた。樹氷のブナ林を逍遥し、二口の雄たる大東岳の山頂で夜を過ごし、麓の夜景や雲海たなびく山並みに目を奪われた。悪天が続く厳冬期としては、これ以上のぞみ得ない会心の山旅となった。

 

面白山高原駅7:00−−南面白山11:00−1018m登山道13:10−大東岳15:05//7:55−南面白山11:10/11:30−面白山高原駅13:00