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2014.11.16
背戸峨廊~二ツ箭山
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2014年11月16日

 

山に雪をもたらした荒れ模様の天気も、日曜日には回復するという。そこで今年最後のチャンスだと、会越の低山で紅葉のスラブ登りを楽しむはずだったが、山の天気はそう甘くなかった。出発前からあきらめ、転戦先として予定していた阿武隈山地の背戸峨廊の地図をもって郡山へ向かった。

以前、福島の県境がいつも天気が悪いので、比較的天気がいい阿武隈方面に目をつけ、背戸峨廊に興味があることをyukiさんに話したことがあった。そのときは私のそんな声が意外だったようで、「えっ、なんであんな所に行きたいの」という反応がかえってきた。

たしかに普通の沢登りの規準からいえば、背戸峨廊は遊歩道があってクサリや梯子が整備された一般ハイキングコースとして紹介されている。わざわざ東京から沢登りにやって来るほどの沢ではないだろう。

けれど何事にもTPOがあるように、今回はちょうどいい機会になった。だからあくまでハイキングコースをのんびり歩いて紅葉を楽しもうという趣旨だ。そうしたら、背戸峨廊に行くなら近くの二ツ箭山にも登ろうとの提案。なんでも一般登山道とは別に山頂近くまで通っている林道に入れば、簡単に山頂へ行けるのだという。

こんな風にして初めての阿武隈山地への山行が実現した。当日の朝、前泊したホテルでピックアップしてもらい常磐道をへて夏井川渓谷沿いを走る。道路は川沿いに磐越東線と並走しており、車窓の光景も目新しく興味深い。小野小町の生誕地を通り、のどかな里山が続く。

同じ福島県でも奥羽山脈と太平洋岸では気候がまったく違い、こちらは冬でも穏やかな冬晴れの日が続いて雪は滅多に降らないらしい。あれこれ観光案内をしてもらいながら登山口の駐車場へ。

紅葉の時期は満車になるらしいが、ひっそりとしている。ハイキングだけれど沢沿いを歩くので沢靴に履き替える。背戸峨廊のセールスポイントは、多くの見栄えのする滝見物で、Fナンバーなんて味気ない名称ではないのだ。地元の詩人、草野心平がそれぞれの滝にいわくありげな名前を付け、見物人を楽しませてくれる。

沢沿いを歩き始めるが陽がささずに薄暗い。最初はこんなものだろうと思っていると川原沿いの遊歩道脇に真新しい花と果物、小さなケルンが置かれていた。奥の滝で滑落事故が多発しているという情報が生々しい。ハイキングだからと油断しないようにと気を引き締める。

意外なことに期待した紅葉には少し早かった。すぐにゴルジュの「屏風谷」があらわれる。沢登りでゴルジュに入って溺れそうになったという記録をみた所だ。遊歩道にあがって巻き、沢に下りるとちょっとしたナメ滝の「廻り淵」へ。ここは沢に入ってナメ小滝を歩く。ちっとも寒くないので楽しい。

前方に大滝「トッカケの滝」が見えてきた。思わずおおっと声が出るほど水量多く立派な滝だ。なるほど、こんな滝がつぎつぎとあらわれるのかなと、わくわくする。川原が開けて誰でも滝下まで行ける。震災以降登山中止になっていたが、昨年この滝までは禁止が解除されたとのこと。また、以前この川原は芋煮会のメッカだったけれど、川を汚すので随分前に禁止になったとガイド本に書かれていた。

右岸の長いアルミの梯子を登る。モミの大木は「鷹の見降りろし」。滝壺にやって来る水鳥を捕まえる為に鷹がとまっていたとの看板。

「釜ヶ淵」の廊下をへつって通過し、遊歩道にあがると三段すだれの「不動滝」がかいま見られる。沢にもどって滝頭の所は「胸突き千丈水返し」とある。なるほど、たしかに滝は上部でヒョングっている。なんだか、楽しいな。

所々にかかっていた橋はすべて倒壊しているので徒渉する。登山靴だときびしいだろう。「方鞍滝」の前は川原が開けるのでザックをおろして休憩。yukiさんは新しく購入した本格的なデジカメを、三脚をたてて試している。普段は写真を撮らないので今どき珍しく欲がないなあと思っていたけれど、これからの、のんびり撮影山行に備えているのかもしれない。

「龍門滝」はツルツルのスラブをクサリを頼りに登る。ラバーソールなら快適に登れる斜度だ。「曲がり龍」だの「黄金とろかし」だのの滝を見ながら梯子を登って「黒鍋の淵」へ。徒渉して進むと、きれいなスダレ滝は「龍の寝床」。どんな由来か知らないけれど快適に登れそうだ。滝上には急傾斜のナメ滝「心字の滝」で、油断すると滑りそう。「鹿の子滝」手前でふたたび川原が開ける。

途中で単独ハイカーが下ってきた。そして渡渉の途中で岩に乗り上げ危うげな体勢で動けなくなってしまった。下はちょっとした小滝なので足を滑らしたら滑り落ちてしまう。yukiさんがアドバイスするが余裕がないのか反応がない。はらはらしながら見守っていたら、なんとか岩から川原に飛び移って一件落着。

さてと先に進む。つぎつぎと滝があらわれる。「見返り滝」は少し側壁があるので、滝上で振り返らないとよく見えない所から命名。少し進んで右へ湾曲すると沢が広がりとてもいい雰囲気となる。ここでテントでも張ってのんびりしたい所だ。前方にはオオトリの直瀑「三連の滝」も見える絶好のロケーション。

ここで滝見物も終わりで未練が残る。だから「三連の滝」は「さんれん」ではなく「みれん」と読む。なるほど〜
一段目しか見えないが、順路にそって登山道にあがる。

少し登った所で、早回りコースとゆっくりコースに分かれる。もう十分だと早回りコースを歩く。展望はほとんどないが、淡い紅葉に陽の光りがさして雰囲気がいい。フェルト靴なので時々落ち葉で滑りながら登山口へ下った。

3時間半と短いながら予想以上に楽しめる面白いコースだった。滝をすべて直登しようとすればかなり沢登りとしても楽しめるのではないかと思う。

ベンチで軽く昼食をとり、つぎの目的地、二ツ箭山へ向かう。おまけ程度にしか考えていなかったのでちゃんと調べてこなかったが、正規の登山ルートは変化にとんだ岩峰の山だ。今回はおまけの山なので、yukiさんお薦めのお手軽「ちょんぼルート」から入る。

桐ヶ丘林道を登ると標識はない小道が小尾根に続いており、急登10分で山頂へ着いてしまった。二ツ箭山は樹林に囲まれ何の変哲もない山頂で拍子抜け。けれど見所はさらに先にあった。

少し下ると視界が開けて岩峰となる。たしかにガイドのコピーをよく見ると女体山と男体山は妙義の山のようにギザギザの岩峰だ。予想外のことだったので岩をこわごわと乗り越して古い標識のある最初の岩峰へ。展望は素晴らしく太平洋から阿武隈山地が広がる。とても気持ちがいい。標識の字はすり切れていたが、ここは足尾山というらしい。女体山へ行くには直下の長い鎖場の崖をくだる。瀬戸峨廊のクールダウン程度の気持ちでいたので、真下の崖を見下ろしただけで目がくらくらしてしまう。yukiさんは先まで行きたかったようだが、ここまでとする。

風が強いので少し戻った岩陰で休憩し、ドリップコーヒーを入れてもらう。ポカポカ暖かく、まるで春の陽気だ。のんびりコーヒーをすすって来た道をあっという間に車に戻った。

あとで改めてコースを見た所、おまけにするにはもったいない面白そうな山だと知る。たかが標高700mほどだが、沢や岩場など変化にとんだ山歩きが楽しめそう。なかなか第一候補には挙げにくいが、冬でも陽だまりハイキングが楽しめるので、いざという時の貴重な山域として引き出しを増やしておきたいと思った。(yuki、ako)

setoga2 setoga3

登山口8:05−三連の滝10:35−登山口11:35
(二ツ箭山は記録せず)

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