ブナの沢旅ブナの沢旅
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2014.11.07
布沢川大滝沢~鎌倉山
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2014年11月7日

 

あっという間に沢シーズンが終わろうとしている。沢納めは南会津のブナの森を流れる沢で焚き火ができたらいいなあという漠然とした希望があったものの、いざ具体的に計画するとなるとどれも一長一短。それで最後は苦し紛れに一度遡行している布沢の大滝沢に落ち着いた。前回は2008年6月初旬なので、もう6年半も前のこと。あのときは時間の制約があって途中で引き返した。だから今度は最後まで詰めて鎌倉山を目指すことにした。

とはいえせっかくのチャンスなのだから日帰りの短い沢だけで2日を費やすのはもったいない。こういう貧乏根性からはいつまでたっても抜け出せず、ベースキャンプ方式でもう一本組み入れることにした。大滝沢の斜め対岸にある道行沢から白沢山に登り、白沢の枝沢を遡下降して道行沢にもどろうというプランだ。

道行沢への取り付きに不安があった。野尻川へ移動して白沢側から入渓したほうが確実だったのだけれど、最近は道行沢から入った記録がないのは何か理由があるのかどうか調べてみたいと思った。大滝沢があまりにもポピュラーな沢になっているので、少しはマイナーな要素を入れるのも悪くない、と。そして道行沢に入れない場合は大滝沢を歩いて翌日白沢へまわることに決めた。

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前夜に東京を発ち、途中で仮眠をとって早朝に布沢川大滝沢手前の広場に駐車。曇り空は予報通りだが、どんよりとした雰囲気が晩秋のうら寂しさをさそう。沢支度をして少し手前の道行沢出合の様子をさぐるが、出合は一面がダム湖になっている上にバックウォーター附近の両岸は岸壁で取り付けそうにない。水面に樹木がたくさん生えている。一昨年の大出水の水が溜まってしまったのだろうか。

やっぱりねと、状況は想定内。さてどうしよう。もう少し様子を探ってみることにした。ふたたび大滝沢方向にもどって橋の脇から布沢川に降り立つ。少し沢を下って道行沢出合い手前の緩く張り出した尾根に取り付く。小尾根に乗ると道行沢の様子が見えてきたが、下降点が見つからない。もう少し尾根を登って沢を見下ろすと無木立の急斜面で懸垂するしかなく、持参した20mではとても足りそうにない。

のんびりしたくて来たのだからそこまで気張るつもりはない。あっさり、もどって大滝沢いこー、と一言。様子がわかったから、これはこれでよかったといいながら駐車地点へもどる。

見覚えのある遊歩道を下り、橋の手前で沢へおりる。少し下ると大滝沢出合だ。ちょっとしたナメ状滝(これが大滝らしい)をへつるが、しっかりとトラロープが掛けられていた。少し進むと右岸の小さな二俣出合いの岩壁にステップが切ってあり、ここから登山口にもどれるというテープが垂れ下がっていた。6年前は何もなかったのに、今では至れり尽くせりの様子。

ふたたび遊歩道にあがり、何度か徒渉しながら下ノ滝へ。前回はブナの新緑がみずみずしかった。今回は紅葉の名残を期待したがほとんど落葉していた。下ノ滝の徒渉点からは沢を歩く。下ノ滝といってもちょっとした段差があるだけだが、沢幅一杯に広がるナメはやはり美しく、まだ赤みを残す新しい落ち葉がアクセントになっている。

ようやくゆったりした気持ちが広がり、待望のヒタヒタ遡行が始まった。私たちにはこれくらいでないと、癒し系の沢にはならないのだ。これまで、経験者がいう「癒し系の沢」に行っては、ちっとも癒されないとこぼすことが多かったからだ。

しだいにかすかながら日が射し始め、青空が一生懸命に雲の隙間から身を乗り出そうとしている。するととたんにナメが輝きをますから面白い。少し前に道行沢に振られたことなどすっかり忘れ、両岸の白い樹肌のブナ林を見上げながら落ち葉に彩られたナメを歩く。沢納めはこうでなくちゃ、鼻歌まじりってこのことだねなどと、二人で上機嫌となる。

 

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中ノ滝の標識がある二俣へ。今回は鎌倉山へピークハントするのだ。「会津の峠」によると鎌倉山にはかつて平家の落人が住んだという言い伝えがあり、代々この地に住む人の家には、それを物語る藤原姓の刻印がある手鏡が残されているのだという。ともかく、そんな伝説の残る山へブナとナメを歩いてたどり着くなんて、なかなかステキな話ではないですか。

二俣から左俣へ進む。出合いの滝で唯一「沢登り」らしい滝を登る。落ち葉を払いながら慎重にクラックを登ると沢は小振りになるもののきれいなナメが続いていた。しだいに沢は平凡になるが、両岸のブナ林はより端正に感じられる。つぎの二俣は左へ進むはずなのだが、ちょっとした気の迷いで右へ入ってしまう。すぐに尾根を乗り越して軌道修正するが、この間ちょっとしたハプニングで小一時間のロスタイムとなる。

このあたりは地図にはあらわれない小さな尾根と谷が幾筋にも並行している。そして見渡す限りのブナ林がどこまでも続く。尾根はヤブがほとんどなくて歩きやすい。ナメが終わると小さなゴーロ沢となり、ほとんど水もなくなる。沢が倒木でふさがれている所で尾根に這い上がる。しばらくは急登だが900mあたりから傾斜がゆるみ、これ以上高い所がない平地となる。

鎌倉山についたようだった。途中で時間をロスしたので時間が気になったが、なんとか予定時間内についてホッとする。山頂と言ってもブナ林が広がる平頂で、地図で見ても東西にそれぞれちょっとしたポコがある程度のだだっぴろい地形となっている。たたずんでいると、むかし人が住んでいたという言い伝えが、さもありなんと思えてしまう。

もう一つのポコへ進もうとしたところ足下に三角点を見つける。おもわず、あったーと叫ぶ。先へ進んでいたYさんも、よく見つけたねと戻ってきた。正式な山頂標識はないので三角点を見つけただけでけじめがついた気持ちになる。もう一つのポコに手書きの標識があるようだが、三角点こそ正式な山頂だからと、ここから来たコースを戻ることにした。

 

 

帰りはできるだけ歩きやすい尾根を下る。点在するモミジの紅葉がアクセントになり、白い幹のブナに映える。とてもいい雰囲気の尾根なので、雪の季節にシューで逍遥するのも楽しそうだ。地図を広げると大滝沢の右岸尾根と左岸尾根は鎌倉山でつながっている。そんな風に想像すると、もうすぐ始まる雪山シーズンが楽しみになる。

あっという間に二俣に戻り、沢登りチックな滝はロープを出してクライムダウン。意外と早く戻れたので、少し右俣も歩いてみることにした。右俣はさすがに大滝沢本流の風格で、幅広のナメが続く。けれど油断をすると落ち葉で隠れた甌穴があったりと、単なる平ナメでなく変化がある。小さなイワナが時々目の前をさっと通り過ぎて行く。しばらく歩いてナメが途切れ始めた所で引き返す。

遊歩道にあがる頃にはさすがにお腹が一杯になるほどナメを歩き尽くした気持ちになる。登山口へもどる途中、行きには気付かなかった二股のブナに再会する。こういうブナを見るとよじ登らずにはいられない性分で、さっそくYさんに肩をかしてもらって這い上がる。そして写真をとってもらう。6年前とまったく同じだ。きっとおばあちゃんになっても同じことをするかもしれない。あ〜あ楽しかったと恵みの森の入口にもどった。

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恵みの森入口9:30−二俣10:45−鎌倉山13:30−恵みの森入口16:20