ブナの沢旅ブナの沢旅
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2014.09.24
北八甲田 小滝沢
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2014年9月24日

 

台風接近に気を揉みながらも、9月のブナの沢旅月例山行に選んだのは北八甲田の黄瀬川。北上するほど天気の崩れは遅くなる。直前の予報で雨は避けられることを確認し、前夜のうちに黄瀬川林道車止の広場まで進んでテントで仮眠、朝を迎えた。

ところが、念のためとYさんが山岳予報をチェックして事態は一変。初日の夜から翌日昼まで雨一色となっていた。今年は天気に翻弄されっぱなしで慣れたのか、諦めも早い。黄瀬川はとても大事な沢なので、ベストコンディションで臨みたいのだ。(なんて言っているといつまでたっても行けないかもしれないが・・・)

そこで相談するまでもなく日帰り沢に切り替える。用意して来た代替プランは二つあったが、コンセンサスでよりゆったりできそうな小滝沢に決まった。さっそく車で田代平に向かうが、内心ちょっと気が楽になった。最近は泊まりの沢はどこに行くにせよ以前より負担を感じるようになっている。やっぱり歳のせいなのだろうか。

田代平の広い駐車場で沢支度をするが、ザックの中身はほとんど全て置いていける。それだけ山に泊まるということは大変なのだ。逆に言えば日帰りでは得られない素晴らしい体験ができるからこそ、重いザックを背負うのだ。

小滝沢は地元では沢の初心者を連れて行くのにいい沢だと言われているほどの沢なので、とくに難しい所はないようだ。
車道から踏み跡をたどり、簡単に沢に降り立つ。しばらくはゴーロの川原歩きだが、両岸は開けてきれいなブナ林が広がる。

二俣を左に入ると大岩ゴーロとなり、小一時間ほどでようやく小滝があらわれる。左岸を簡単に巻きあがると沢の容相が一変し、ナメとナメ小滝がつづく。ここからが小滝沢の本領発揮だ。

登るほどに沢幅が広くなり、前方には早くも端正な姿の高田大岳があらわれ遡行意欲をそそる。同時に両岸の樹木もほんのりと色づき始め、紅葉の楽しみを予感させる。ひたすら快適な遡行がつづく。

ナメはしだいに岩畳となり、はるか前方まで延々とつづいて見える。思わず歓声があがる所だ。振り返れば北八甲田のなだらかな山並みが広がる。なんて開放感あふれる沢なのだろう〜。出合いの貧相なゴーロ川原からは想像もつかない変身振りだ。

人気の沢に例えるのも無粋ではあるけれど、あえて言えば米子沢上流の大ナメ帯を小振りにした様な雰囲気かな。(写真で感じてもらえるだろうか)途中展望のいい岩盤で昼食の大休憩。時間もあるので湯をわかし温かいソーメンをいただく。

小滝沢の素晴らしさにすっかり魅せられ、この頃までには黄瀬川を中止したことをすっかり忘れるほどだった。とはいえ天気は下り坂。今晩は雨予報なのでテント泊なんていやだな。そうだ、この際温泉に泊まろうと提案し、即決と相成った。

麓で不通だった携帯が通じたので猿倉温泉に問い合わせた所、幸運にも最後の一部屋が空いていた。猿倉温泉には忘れられない思い出がある。

5年前の12月初旬、猿倉温泉から黄瀬沼への縦走を計画した。雪は或る程度予想したが、晩秋を引きずっているくらいにしか考えていなかった。ちゃんとした事前調査もしなかったと思う。そのため現地に着いて雪深さに驚いた。雪山装備はあったので猿倉温泉裏から予定通り歩き始めるが、雪で登山道がわからない。所々見られるテープを頼りにやっとの思いで雪に埋もれた猿倉岳山頂標識を見つけた。けれどこれ以上進むことは無理だった。

ガスが晴れたときにうっすらと遠望した黄瀬沼方面は完全に厳冬期の姿。手が届かない存在に見えた。観念してテンバを探し、翌日下山することに決めた。猿倉温泉は冬期休業中だったが、隣接する東屋に降り立ち、温かいお汁粉を食べた時の安堵感を今でもおぼえている。今から思えば「若気の至り」なのだが、あのころは山に対して今以上に熱い思いを抱いていた。なんだか懐かしさがこみ上げる。

さて、この沢の核心は登山道を見つけられるかどうか、だ。簡単に確認した事前情報どおり1100mを過ぎたあたりから右岸の枝沢に注意しながら進む。すると1130m地点に赤テープがあった。事前情報通りだと安心してヤブの斜面に取り付くとしばらくして涸沢となる。

順調にたどっていくが、あるべきはずの登山道がいつまでたっても交差しない。GPSではとっくに通り過ぎている。不安がつのる。さらに進むと左手に赤テープがあり、笹薮がわれていた。ええっ、これが登山道かと、目が点になるけれど、かなりヤブの濃い道らしいのでそんなものかと思う。(後日調べた所GPSの登山道は一部が実際と違っていた)

背丈ほどのヤブだが赤テープがつづいている。尾根の反対側に周り込んだ所で少し見通しのきく場所へ。そこからかすかな窪地を下っていくが、ある所でテープが見られなくなった。ここまでの軌跡はGPSの登山道と並行しているので間違いないだろうと思っていた。

しばらく下っていくと沢に水が出始めたり倒木が覆い被さったりと明らかにおかしい。不安が的中したようだった。いつの間にか登山道を外してしまったのだ。少しもどったり両岸のヤブに分け入ってみたりしたが、どこを見てもヤブだらけ。戻ることも考えたが、ふたたび迷うかもしれず登山道を見つけられる保証はない。そこで一番確実な方法として、小尾根を越えて小滝沢に戻ることにした。

さいわい現地点は小滝沢に一番近づいた所だったので、30分ほどのヤブこぎで「なつかしの」小滝沢、それもハイライトの岩畳絶景地点に戻ることができた。ほっ。当然時間は押してきたが、明るいうちには戻れると安堵する。精一杯カラ元気をだして、こんなステキな沢をもう一度歩けるなんて最高だね〜といいながら、足早に下る。

どんどん下り、滝を巻き下り、ゴーロを淡々と歩く。最後の滝で新しい捨縄を見つけた。きっと私たちと同じ目に遭って沢を下った人のものだ。(じつは8月に単独の人が入渓したものの登山道がわからず沢を下った記録を見ていた。そのときは人ごとと思っていたのだが、まさか同じことを繰り返すとは!)

なんとか5時には駐車場に戻ることができた。予想外の長時間遡行になってしまったが、ともかくエキサイティングな一日となったことは確かだ。さあ、お仕事は終わったと、猿倉温泉へ向かうと女将さんと番頭さんがあたたかく出迎えてくれた。そして案内されたのは、なんと東屋の隣に新設された部屋だった!
気持ちのいい湯につかり、地元の食材満載の夕食をいただいたあと「迷走下山」の反省会となった。結局尾根を越えて下ったある地点で歩きやすい窪に引きずり込まれて道を外したようだった。昭文社の登山地図には実線の登山道になっているがどう見ても完全なヤブで、少し外すと見つけるのが困難だ。事前情報を甘くとらえていたとも言えるが、これが登山道なんて関東の人間にとっては想定外。おそるべし、東北の登山道。甘く見てはいけないと身に積まされたのだった。

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田代平駐車場6:35−小滝沢遡行−1130m枝沢12:05-登山道12:38−小滝沢下降13:45−田代平駐車場17:00