ブナの沢旅ブナの沢旅
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2014.08.16
滝川古礼沢
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2014年8月16日

 

不安定な天候に振り回された夏休み山行。紆余曲折の末日帰りの沢に落ち着いた。そこでせめてもと、最近知った古礼沢日帰ルートをたどってみることにした。古礼沢と水晶沢出合上から遡行するので悪場はなく、ひたすらナメを歩くウォーターウォーキングだ。

滝川本流から遡行する正規ルートから見れば、かなり軟弱なお気軽コース。正統派沢やはこのような「ちょんぼ」コースは潔しとしないかもしれないけれど、今の私はとにかく楽に楽しく歩きたい気分なのです。
前夜飯能駅でkukenさんと待ち合わせ、夕食を取りながらルートの確認を怠らない。青梅街道を進んで一ノ瀬高原作場平の駐車場に到着後テントを張る。コースタイムが読めないため5時には出発するつもりだったが寝過ごしてしまう。いそいで支度をして6時前には出発するが、なんだか霧雨模様。

雁峠までは傾斜の緩い立派な登山道をたどる。ガスでうら寂しい雁峠から登山道を離れて尾根を乗り越す。さて、今回はここが出発点だ。入念に調べてきたつもりだが、なにしろほとんど記録もない未知のルートをたどるので、ワクワク半分、不安半分という所。うまくたどれなければ古礼沢遡行を諦めなければならなくなる。

尾根を乗り越すとすぐに明瞭な道があらわれる。小雨模様で足下が濡れるので沢靴にはきかえる。古い水平道は何度か沢を渡る所がほぼ崩壊しているが概ね明瞭だ。一旦燕山から伸びる尾根を乗り越すあたりで踏み跡を見失うが、適当にヤブをぬって尾根に乗ると白いテープがあった。

鞍部あたりから北にのびる枝尾根にルートをとり、古礼沢出合から2本目の枝沢をめざして下る。途中から笹薮となるが大方獣道をたどることができた。古礼沢へは崖マークが途切れる所をめざして慎重にルートを確認しなが下った。降り立った所は2段10m滝を越えたゴルジュ出口上のようだ。

ルートを間違ったり迷ったわけではないが、なんだかんだと5時間もかかってしまった。まあ明るいうちに帰れるだろうと暢気な気分で遡行を開始。

しばらくはゴーロ川原の冴えない渓相だが、小滝を右から小さく巻いて越えると沢は一変し別世界となる。待望のナメが広がっていた。思わずkukenさんに、コレコレ、コレがコレサワよ〜と、急に浮き足立ち頬が緩みっぱなしになる。

ここからはほんとに長いナメが続く。大まかにいうと長いナメ帯は4箇所あるが、幸いなことに今年の大雪による影響はそれほどではなかった。荒れた所もあるが、あってもナメとナメの間の場合が多かった。

ナメは適度の水量でどの場面を切り取っても美しく、二人とも人物を入れた写真を撮りたくて先行を譲りあう。しまいには、まるでジャンケンで負けた方が先に歩くという雰囲気さえ感じてしまうほど、互いに先を歩こうとしなくなる。撮影大会に忙しく、なかなか先へすすまない。

ナメ以外であえて見せ場をあげるとすれば、6段12m滝だろうか。何だか場違いの滝があらわれるが、いいアクセントだ。左岸壁を5段目下まで登った所で行き詰まる。5段目の立ち上がりが手がかりなく、kukenさんがトライしたがあえなく撃沈。右手の側壁をよじ登って小さく巻いた。

1700mの二俣は右俣へ進んで古礼山と水晶山の中間に抜けるのが一般的のようだが、日帰りコースの私たちは左俣へ進む。じつはこれは「心の師匠」から教えてもらったとっておきのルートなのだ。

右俣へ進むとすぐに長いガレ帯となるのだが、左俣は明るい緑の美しい苔滝が次々とあらわれ高度を上げていく。これほど苔むして水量がある滝がつづく沢を他に知らない。2年前に和名倉沢を遡行したときも源頭部は苔がとても美しかったが水は次第に枯れていった。

古礼沢の苔滝は最後まで水量豊富だった。フカフカの苔に手のひらをのせて立ち込むと、ジュワッと水分をたっぷり含んだ苔がクッションのようで、この時の感触が何とも言えず気持ちがいい。適度のシャワーを心地よく浴びながら夢中で登っていく。

高度を上げるにつれてガスが広がり、おどろおどろしい幻想的な森に吸い込まれていく気分になる。1880mの二俣からは登山道の鞍部をめざして尾根にあがると何となく踏みあとがあった。笹原にツガの大木が林立する斜面を登っていくとガスでかすんだ稜線がぼーっと亡霊のように見えた。

登山道はひっそりと淋しさがただよっていた。ガスでなにも見えないが、日帰りとはいえ変化にとんだルートを歩き通せた達成感に満たされる。久しぶりの長丁場にkukenさんもクタクタの様子。倒れ掛かるようにお疲れさまのハグをして沢装備をとく。それにしても天気がこんなに悪くなるなんて。。。

歩き始めると雨が降り出し、次第に本降りとなる。おまけに雷鳴轟き心穏やかでない。あとは登山道をたどるだけなので大丈夫と言い聞かせ、足早に下って車にもどった。

 

古礼沢は私がナメのきれいな沢として知った最初の沢。山行形態に沢登りというジャンルがあることを知った10年ほど前、『岳人』の沢の特集号に古礼沢がたくさんの写真入りで紹介されていた。丹沢の小さな沢しか知らなかったので、奥秩父の渓谷美を感じさせるナメの美しさがとても印象的で、いつかいってみたいなあと思い続けていた。

隣の豆焼沢には三度も足を運んだのに、古礼沢にはなぜか縁がなく月日がながれた。近年は多重遭難事故が発生した沢として近寄りがたかった。それが今回、日帰りハイキング気分で古礼沢を歩いたなんて、少し前までは想像もつかないことだった。

奥多摩や奥秩父の山は昔からさまざまな形で利用されており、その為の作業経路が縦横に走っている。それらは地図にはあらわれないけれど、いまでもしっかり残っている道も多い。そして、そうした廃道古道を探索しながら歩いて山を楽しんでいる人達がいる。今回はそんな記録をたよりに古礼沢へのルートをたどった。山の楽しみ方は千差万別、いくつになっても自分にできる山の楽しみ方があるのだと感じることができた一日だった。(kuken、ako)

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作場平口駐車場5:45−雁峠7:40−古礼沢入渓点10:40/11:10−1700m二俣13:50−登山道15:05/15:30−雁峠16:10−作場平17:25