ブナの沢旅ブナの沢旅
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2014.06.15
丹沢主稜
カテゴリー:ハイキング

2014年6月15日

 

以前から一度試してみたかった丹沢主稜の日帰り縦走をようやく実現させた。

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西丹沢行きのバスに乗るときは小田急線の新松田からではなく御殿場線の谷峨駅から乗った方が早朝の貴重な時間を20分以上節約できる。谷峨ではバスの時間まで10分ほどあるのでいつものようにトイレによってから駅をでた。そしてあせる。なぜかバスが今にも出発しそうなのだ。あわてて手を振って乗り込む。なんとか席をみつけ隣の人に聞くと、これは臨時便で10分早く新松田駅を出発したのだという。乗り遅れてもすぐに定期便がくることがわかったが、長丁場のコースなので10分早く出発できると素直に喜ぶ。

西丹沢自然教室につくと管理人さんがバスに近づき、しきりに登山届けを出すように呼びかける。そういわれて素通りはできないので記入するが、行き先に躊躇する。自分でも不安があるため、大倉までなんて書いたらなにか言われないだろうかと警戒し、檜洞丸と記入して提出。すると管理人さんに下山はどのコースかと聞かれたため、あの〜檜洞で決めようと思ってます、できればもっと先まで行きたいんですけど〜と、あくまで控えめな言い方におさえる。自分でも自意識過剰になっていると自覚。大倉までと言いきる覚悟と自信がないからだ。

まあ、コースはどのようにでもなるから様子をみながら決めようと出発する。すぐにゴーラ沢出合への新道の標識があらわれる。今まで歩いたことがないし所要時間も同じらしいので、よりによってこんなときに初めての道へ進んでみる。従来の登山道に合流してわかった。ここは下山に使った方がいい、と。

駐車場は満車状態だしバスの乗客も多かったのに歩き始めると静かで誰にも会わない。大倉尾根とは大違いで西丹沢は静かでいいなあと思う。

今の時期につつじ新道を歩くのはほんとうに久しぶりだが、まだ新緑の雰囲気が残っていて明るく清々しい。長いコースなのでペースを保ちながら急ぎすぎずゆっくり過ぎずに歩きたい。暑いので水分補給をこまめにとるが尾根は渓を渡る風が涼しく救われる。

山頂下の木道にでると、コバイケイソウの中に点在するブナに千鳥格子模様の帯が巻かれていた。1月にはなかったものだ。何だろう、鹿よけかな、などと思いながら木道近くのブナの帯をよく見てぎょっとする。苦手な黒いブツブツだらけ。恐いもの見たさにさわってみるとべっとりする。虫取り紙にたくさんの虫が張り付いていたのだ。まさかハイカーの為に不快な虫を駆除する目的なんかじゃないだろうけど何だろう。(知っている人がいたら教えてほしい)

なんとかほぼ予定通りに山頂についたが、すでに足取りが重く登りがとても辛かった。今からこんなじゃ先が思いやられるが、山頂のベンチで一緒になった人と話をすると、大丈夫、まだ時間が早いから行けますよなんて言ってくれる。知らない人に背中を押してもらった気分で、もう少し進んでみようと腰をあげる。

青ヶ岳山荘の奥には新しいトイレができていた。蛭ヶ岳からはるかかなたの塔ノ岳まで、これからたどる稜線を一望。あそこまで。。。あまり深く考えないことにしてブナ林の中をどんどん下る。金山谷乗越では去年の11月に檜洞を遡行して乗り上げたことを思い出す。また行きたいきれいな沢だった。

なんとも安穏とした雰囲気のユーシン沢源頭を見下ろしながら神ノ川乗越を過ぎると緩やかな登りとなる。とたんに足取りが重く辛くなり、太ももの内側が硬直してつりそうになる。こんなことは初めてだ。このあたりから休む頻度が多くなり、ストックにもたれかかることしばし。

とにかく臼ヶ岳までは行こうと先へ進む。山頂に近づくと尾根が広がりブナの大木が点在する。冬にしか歩いたことがなく、緑のブナ林を見たいと思っていた場所だ。とても美しいところだった。

臼ヶ岳のベンチに倒れ込む。仰向けに寝ていると蛭ヶ岳方面から若者がやってきた。朝一番のバスで大倉を出発したとのことだがやはり単独の若者は早い。何人か日帰り縦走する人に追い抜かれたが、みな単独の若者だった。少し休んで話をしたら元気がでてきた。臼ヶ岳からは蛭ヶ岳の姿がカッコいい。やはりここまで来たのだから歩き通したいと思う。若者と写真を撮り合い先へ進む。

しばらくはアップダウンの少ない樹林帯の小道をすすむ。ミカゲ沢ノ頭から蛭ヶ岳はまだ一度も歩いたことがないが、アップダウンの登りになる度に足がつりそうになる。樹林帯を抜ける手前で石積みの慰霊碑に目がとまり、思わずしゃがみ込む。木の根元には、味わいのある手書きの文字で「丹沢の風になる」という木片が立てかけられていた。ここに来て風に吹かれて感じられれば、きっと心が安らぐはず。手を合わせ、しばらくしみじみした気持ちになって遠くの空を見つめたりした。

いよいよ急斜面の登りにさしかかる。鎖場が続くが、岩場は手足を使うので歩くより楽だ。どんどん登る。振り返るとこれまで歩いて来た尾根が緩やかにくねって見える。人工物も植林帯もなにもなく、ひたすらブナ林を中心とする自然林が広がり美しい。すばらしいコースだなと思うが、今の自分の余裕のなさが恨めしい。

最後はハアハアいいながら蛭ヶ岳の山頂へ。なんとかここまでたどり着いたという安堵感と疲労困憊で心身ともにほうけてしまう。山頂標識のある山頂ベンチは赤土広場で殺風景。小屋の裏の草原ベンチで休む。先月歩いた丹沢三峰から丹沢山方向はとても穏やかな景色が広がっている。

隣のベンチには先客が休んでいたので話しかけると、やはり西丹沢からやって来た人だった。同じバスかと思ったら、少しでも時間を稼ぐ為に一本前の電車で谷峨駅からタクシーを利用したという。料金は5000円ほどなので、何人かいればそれほどの負担なく30分は節約できる。でも一人じゃ、どうだろうか。

先のメドもたったので靴を脱いで長めに休憩。ついでにズボンも脱いでスカートにはきかえる。山スカは2年振り。暑くなりそうなので直前にザックに放り込んだのだ。もっと早くにはきかえればよかったと思うほど風通しがよくなって気持ちがいい。おかげで足のつりそうな状態もなくなり調子がでてきた。

ようやく身も心も稜線漫歩を楽しめるようになる。丹沢山への道は主稜の中で最も気持ちのいいすてきな所で、いつ歩いてもいいなあと思う。時間も遅いので丹沢山はひっそりとしていた。いつものブナの木の下に腰を下ろして一服後、塔ノ岳へ向かう。

意外にも何組かのハイカーとすれ違うが、きっとみやま山荘に宿泊する人たちなのだろう。ほんとうならそれくらいの余裕をもって縦走した方がもっと楽しめるはず。どうして自分は日帰りなんかにこだわるんだろう、なんて思いながら最後の山頂へ。

まだ下山が残っているのにやったーという気になる。檜洞丸からやってきたのよと、だれかに言いたくなる気分だ。縦走をしている間、塔ノ岳についたら山小屋でコーヒーを飲もうと決めていた。別になんということもないのだが、なぜか山に入ると慎ましやかになり、山小屋でコーヒーを飲むことがちょっとした贅沢に感じられるのだ。

小屋番の人は今頃やって来たハイカーを少し気にかけたようで、今から下るなんて真っ暗になってしまうよ、などと言う。2時間で下れるし今は7時過ぎでも明るいから大丈夫と安心してもらい、ゆったりとした気分でコーヒーをすする。歩き通せた満足感と相まってとても幸せなひとときを過ごす。

次々に関係者らしいおじさま達が厨房からでてきて、今から下るのかと皆同じことを聞く。そして聞かれるままに西丹沢からやって来たというと一様に感心されるが、心からというよりおだてられているという雰囲気を感じてしまう。どうせおばさんハイカーだもんって、ひがみ過ぎでは?

もうすぐ夏至の今の時期は5時でも陽が高い。最大の見方を得て大倉尾根を下り余裕をもって下山することができた。理由があって体調は万全とはいかなかったけれど、いつも調子がいいときに山に行けるわけではない。そこそこの体調でもこれくらいは歩けることがわかって有意義だった。夏はもう少し足を伸ばした縦走もしてみたいし、来年はもう少し早い新緑と花の時期に同じコースをまた歩きたいと思った。

西丹沢自然教室8:30−檜洞丸11:05/11:20−臼ヶ岳12:45−蛭ヶ岳14:10/14:30−丹沢山15:45−塔ノ岳16:40/16:55−大倉18:50