ブナの沢旅ブナの沢旅
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2014.04.11
高森山~袖の窪山~かたいた倉山~吉三坂山~狢ヶ森山~雲河曽根山~高幽山~高盛東山~現燈山
カテゴリー:雪山

2014年4月11-13日

 

毎年春が近づくと羽田寿志さんの「新潟の低山藪山」を引っ張り出す。豪雪地帯にあるため積雪期には美しい雪稜をなし、稜線にはブナの原生林が残されている低山藪山。その中に名前からして魅力的な雲河曽根山が紹介されている。麓からたどる尾根の途中にはブナの巨木に覆われた高幽山。地図でなぞると尾根は狢ヶ森山から日尊の倉山へと続いている。心引かれる要素満載だ。この尾根をいつか歩いてみたいと思っていた。

今年に入ってようやく実現の機運が高まった。3月の博士山は悪天候で中止になったが、会津山岳会のKさん宅での交流会で、滝沢川源頭を巡る雲河曽根山と吉三坂山をそれぞれピストンされていることを話題にした。狢ヶ森とつなげれば周遊コースとなる。聞けば2泊3日で行けるという。

今年はまだ東北にも行っていないので4月の山行で二つのプランを出したところYさんも会越国境の山に惹かれるという。時期的にも今が最後のチャンスかもしれないと決めた。調べるうちにコースタイムの読めない周遊コースに一抹の不安。大石田林道から日尊の倉に登ってしまうルートにしようか迷ったりもしたが、それでは足跡が美しくない。滝沢川を巡る「馬蹄形」周遊コースにこだわりたいと思った。

と、期待が大きい山行だったために前置きが長くなってしまった。前日の夕方に東京駅に集合し郡山駅からレンタカーで現地に向かった。予報では当初、初日は曇りと雨マークだったので、展望がいい雲河曽根山は天気の良さそうな3日目の下山路とした。初日は滝沢川左岸尾根の吉三坂山を目標にした。車の回収があるので取り付きは下山地点の塩沢から少しは近い土倉から高森山経由とした。それでも数㎞離れてはいるが。

土倉から林道を緩やかに上ってすぐ左手に駐車スペースがあったのでここに車を泊めて歩き始める。林道といっても立派な舗装道路だ。10分ほど歩くと正面に場違いなほど立派な石造りの標識があらわれ田代山(高森山)登山道と矢印が記されていた。ここが林道の分岐で、登山道方向の道は除雪されておらず1mほどの雪壁となっていた。ここでワカンをはき、除雪された林道と別れて雪道をすすむ。

ブナの二次林が広がり明るく開けている。次第に登山道が不明瞭になるころ標識があらわれ大きな石の案内図がおかれていて驚く。小さな里山に不釣り合いな感じがするが、地元振興のあらわれなのだろうか。ここからは適当に雪の斜面にとりついて尾根に乗る。

すぐに高森山が近づき、最後は雪のない明瞭な登山道を登る。所々岩場もあり、トラロープがかけられている。登るにつれなぜかトラロープがズタズタにちぎれており、どうしたらこのようになるのか不思議に思いながら山頂へ。さすがに山頂の標識は石造りではなく木製だった。

標高は800mほどの山だが展望はよく浅草岳と鬼ヶ面が近い。その先には村杉半島の山並もよく見えた。さらに目を向けると丸山岳が遠くに霞んで見える。なるほど手軽にこの展望が楽しめる里山なのだと納得。今回のブナの山旅は高森山が出発点のようなもの。ここから袖の窪山へ向かう。登山道はない。

これから進む尾根を見渡すと稜線は黒々としている。さっそくヤブの歓迎を受けるが、それほどひどいヤブではない。とはいえ続くとイヤになる。そしてイヤになる頃きれいなブナの雪尾根が広がるというくり返し。まるでアメとムチのようだ。袖の窪山まではいくつかのピークを越え意外と時間がかかる。ヤブもシャクナゲが加わって次第にやっかいになる。おまけに横着をしてストックを手にしたままだったので引っかかってしょうがない。

袖の窪山は小さなポコのような山だが積雪期に湯倉から登られているようだ。予想以上に時間がかかりヤブも多くて疲れたので山頂下で休憩。そのまま眼下の尾根に引きずられ途中で間違いに気付く。ひどいヤブ尾根だったので、登り返すと思うだけで心が折れそうになる。およそ40分のヤブ漕ぎロスタイムとなった。

気を取り直してかたいた倉山へ進む。少しずつ標高をあげるにつれ雪の付き方もふえてきた。山頂直下には厚い雪壁が立ちはだかる。一瞬怯むが右手から灌木をつかんで越える。ようやくかたいた倉山に到着。これで初日の最低限のノルマは達成した。疲れもでてきたのでテン場を探しながら進む。このころから雪がちらつきはじめる。雨でなくてよかった。しばらく快適な雪尾根を下っていくとc882の鞍部から一段下がったところが窪地の広場のようになっていた。ブナに囲まれたステキな空間をテン場に決めて行動を終えた。

風の強い一日だったが尾根から下ったテン場は風もなく穏やか。テントに入って一服すると疲れがどっと出て気分が悪くなる。疲れるといつもこうなるのだ。少し横になって休み、食事ができるほどに回復したのでホッとする。初日は予想以上にヤブ漕ぎが多くて大変だったけれど、翌日はハイライトの稜線漫歩を期待して8時には就寝。

 

 

最近は日が長くなり5時には歩けるほどに明るい。鳥のさえずりが聞こえ、のどかな雰囲気を感じながら出発する。尾根を進むと吉三坂山が見える。南側の尾根はどれもブナで覆われ長く緩やかに尾を引いている。とてもエレガントなたたずまいだ。雪がたっぷりついた広くてなだらかな尾根が続く。昨日の苦労が報われた思いだ。幸せな気分にひたりながら吉三坂山へ。三角点もない知られざる低山だが、予想以上に素晴らしいブナの山だった。

空はますます澄みわたり、ブナはさらに太く高くなっていく。まるで新雪のように真っ白な雪面のあちこちにブナのシルエットがのびている。ブナの山旅を画に描いたような光景が続き夢見心地の気分となる。あまりの素晴らしさに時々足をとめては互いに笑みがこぼれる。言葉はいらない。

尾根が西に向きを変えるc1128にあがると展望が更に開ける。正面には御神楽岳が白くどっしりとした山容を見せ、前衛の前ヶ岳南壁スラブが黒々としている。進む方向には両翼を広げた狢ヶ森山が美しい姿を見せている。今まで東に延びる尾根からみた狢ヶ森の写真はみたことがなかったからだろう。その姿が意外でありとても美しく思えた。

まるで森のように広い尾根を歩いて行く。尾根が細くなっているところは少しだけ藪がでていたが、ふたたびきれいなブナ林の雪尾根がつづく。日尊の倉山が近づき、中腹に林道の白い筋が見える。新潟側の斜面は背後の山並を含め一面がブナの原生林となっている。最初は余裕があったら日尊の倉山も往復したいなどと欲張っていたが、時間もないし狢ヶ森山をみたあとは眺めるだけで十分だと思えた。

南側の滝沢川源頭部はどうか。右岸尾根から派生する枝尾根はいずれも緩やかで雪がたっぷりついたブナ林なのに比べ、左岸尾根側はきつい傾斜のやせ尾根が派生し、雪が落ちて針葉樹の藪尾根になっている。滝沢川はゴルジュマークが続く深い渓のようだが、源頭部はきれいなブナ林が広がっていることが見て取れる。

1200mを越えたあたりから無木立の雪稜となる。最後は気持ちよく登っていくとひょっこりと広く平らな山頂に乗り上げる。ようやく念願の狢ヶ森山の山頂に立つことができた。しかもピストンでなく周遊コース。うれしいというより感慨無量の気分となる。今まで見えなかった新潟側の展望が開け、まずは呆然とする。そして川内の山並に目がとまる。

さっそく20万分の1の地図をだし山座同定。距離的にも近い矢筈岳が別格の風貌で聳え、奧に青里岳から五剣谷岳がつづく。青里岳の奧にはうっすらと粟ヶ岳。矢筈岳に登ったのは3年前のことだった。あれからいろいろあったけど、またこうして大好きな山域の山並を見下ろしている…などとしみじみする。雲河曽根山の奧には浅草岳が早坂尾根をゆったりと延ばし、守門岳から烏帽子山もはっきり見える。低山ながら山また山の大海原が四方に波打つ様は圧巻で、これが会越の山の魅力なのだと実感する。

見飽きることのない展望に時を忘れるが、風があるのでさすがに冷えてきた。ここからは滝沢川右岸尾根をたどる。吉三坂山から狢ヶ森山の森のような尾根とは違って雪庇が発達した展望の尾根となる。開放的な雰囲気を感じながら緩やかに下っていく。雲河曽根山手前から西に長くのびる尾根も魅力的に見えるが標高を下げるとヤブ尾根になりそうな気配。このあたり一帯はみな状況は同じなのだろう。この素晴らしいブナの雪尾根はどこからとりついてもヤブを乗り越えないと出会えないのだ。

雲河曽根山手前の鞍部で相談し、行動を終えることにした。この先しばらく平坦地がなさそうなのだ。風の通り道になっているので初めてブロックを積んでみた。なるほどブロックの内側は穏やかで温かい。

まだ安心するのは早いが、ブナの沢旅のこだわりのコースをたどって狢ヶ森山を越えることができたこと、予想以上に素晴らしいブナの尾根を歩くことができたことを喜びあって二日目を終えた。

 

 

 

油断をしたせいか目覚ましに気付かず寝過ごしてしまった。テント前の山並から朝日が昇り美しい。昨晩からは風もやみ無風状態となる。最終日は最高の天気に恵まれる。なんとか7時に出発する。雪が締まって歩きやすい。2日目からはずっとアイゼンだけで歩いている。雲河曽根山は二つの1290mピークの総称のようだ。ここは山に登ると言うより小高い丘をいつの間にか越えた感じで通過。

高幽山に近づくと尾根が広がってブナ林の中を歩くようになる。「新潟の低山藪山」の記述通りブナの大木が顕著となるが苔に覆われている。風の影響なのか両岸の尾根では樹肌の色が違っている。美しさという点では吉三坂山から狢ヶ森山に続く尾根のブナに軍配があるが、高幽山から滝沢川に落ちる枝尾根がすべてブナ林に覆われている様はほんとうに美しい。

標高を下げるにつれヤセ尾根となりヤブが出始める。けれど何とはなしに踏み跡が認められ、シャクナゲもないので歩きやすい。踏み跡はこの後も間断的に続く。所々鹿の糞がみられるのでたぶん踏み跡は鹿道なのだろう。一箇所あらわれる岩場は難なく越える。ヤブと雪尾根のアップダウンが続き高盛東山までが予想以上に時間がかかった。気がつけばとっくに昼を回っている。明るいうちに下山できるはずと、山頂で長めの休憩。焚き火をしたり水を作ったりしてのんびりする。振り返るとたどって来た山々が遙か彼方に遠ざかって見える。

小一時間ほど休んで最後の現燈山へ向かう。いよいよ本格的なヤブ歩きを覚悟する。雪が消えた尾根には早くもイワウチワが咲き乱れ気持ちがなごむ。すると両岸が切れ落ちた岩場となる。手前がざれたナイフエッジになっていて取り付くのも大変そうだ。Yさんが先行するが足下がガラガラでとても進める状況でないという。私たちの力量では無理そうだと、しばらく途方にくれる。最悪の場合は予備日を使うことを確認して気持ちを落ち着かせ、少し戻って30mほど下の雪の斜面から巻くことにした。ピッケルを刺しながらバックステップで下り、尾根に戻るところは木登り状態になったがなんとか回避できてホッとする。

その後はとくに悪場もなく現燈山に至る。なんとか明るいうちに下山できそうだ。麓の家並みや道路が見渡せるようになり、旅の終わりが近づいたことを感じる。ブナの大木が点在するヤセ尾根はヤブもたいしたことがなく、順調に高度を下げる。古いケーブルの支柱やら電柱がある。植林帯が見えたところで尾根を離れ、雪がたっぷりついた植林帯を滑るように下る。沢が出たところでふたたび尾根に戻って下ると、ひょっこりと雪に覆われた線路の上に降り立った。

しだいに暗闇との競争になってしまったが、なんとか薄明るいうちに無事「生還」できた。アイゼンをはずして一息入れているうちに宵闇がせまり、見上げると月が煌々と輝いていた。ここから更に駐車地点まで1時間半近く車道を歩き、車を回収して3日間の山行を終えた。

 

 

 

最後は予想以上の苦戦を強いられたが、撤退せず予備日も使わずに歩き通すことができたことが嬉しかった。無雪期には簡単にたどれる狢ヶ森山だが、積雪期にはもとの遠い秘峰の姿を取り戻す。そんな狢ヶ森への道は美しいブナの尾根に囲まれていた。私たちには過分の行程だったが、手垢のついていない自分たちの山行を、熱い思いと粘り強さでやり遂げた充実感で胸がいっぱいだ。

11日 土倉7:00-高森山登山口7:15-高森山9:45-袖ノ窪山13:20-かたいた倉山15:40-c882幕営地16:30

12日 幕営地6:30-吉三坂山8:10-狢ヶ森山13:20/14:00-c1239幕営地15:00

13日 幕営地7:00-雲河曽根山-高幽山8:15-高盛東山12:45/13:35-現燈山16:15-只見線線路18:30-土倉19:50