ブナの沢旅ブナの沢旅
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2013.11.08
玄倉川檜洞~臼ヶ岳南尾根
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2013年11月8-9日

 

かつて山岳会で同期だったikukoさんが先月我が家を訪問してくれたことをきっかけに、久し振りに沢へ行く機会をえた。行き先はかねてから行きたかった玄倉川奧の檜洞を提案。彼女は何度か行っているようだったが、快く同意してくれた。どっぷり水に浸かる時期でもないので、のんびり紅葉と焚き火を楽しみたいと思った。

当日は谷峨駅で待ち合わせ、玄倉林道ゲート前の駐車場へ。玄倉林道を歩くのは2006年に同角沢へ連れて行ってもらったとき以来だ。真っ暗なトンネルを一人で歩くのが苦手(苦痛)なので、一人で歩くことが多い丹沢では足が向かなかった。

檜洞の遡行は日帰りが一般的のようだが今回は沢泊まりなので、下山路は少し長いルートとなる臼ヶ岳の南尾根経由とした。山の会に入会した翌年の2004年春に金山谷ノ頭の尾根を登って臼ヶ岳南尾根を下り、途中の新緑のブナ林に感激した。そんな記憶があったので、また歩きたかった。

眩しいほどに太陽が色づいた山を照らし、真っ青な空がikukoさんとの久し振りの山行を祝福してくれているようだ。玄倉ダムに近づいたところで突然キャーという歓声が聞こえたので何ごとかと思ったら、対岸に「まぼろしの滝」が現れているという。聞けば普段は滅多に見ることができず、上部で放流したときだけ見られるのだという。事情をしらないので、ふう~んとしか思わなかったが、よく見ると4段の連瀑になっている。天気がよくて滅多に見られない滝があらわれてと、幸先のよいスタートを喜ぶ。

ユーシンロッジは長らく閉鎖中だが、避難小屋として二部屋が開放されており、周囲もきれいに管理されている気配を感じた。迷ったり複雑なルート取りをしている記録がいくつかあって入渓点に少し不安があったので先行してもらう。管理小屋を回り込んで鉄梯子を登り、堰堤を越えてすんなりと沢に降り立った。

沢支度をしてゴーロ沢を少し進む。さっそく期待通りに美しいエメラルドグリーンの沢水となり、陽に照らされて燦めいている。深い釜を持つ最初の小滝は右壁をへつり、トラロープをつかんでツルツルの岩を這い上がって越えた。つづくCS滝が難関らしい。左壁上に残置シュリンゲがあったが、いったん沢床に降りてから這い上がることにした

Ikukoさんに足を押さえてもらって這い上がりロープを出そうとしたら、ない。最後にザックに詰めようと脇に置いて忘れてしまった・・。う~ん、最近はこういうミスが多い。下からロープを投げてもらい肩がらみ確保。一丁前のふりをしているだけなのだが、6月の内唐府沢で小柄とは言え男性を肩がらみ確保でゴボウに耐えた「実績」があるのだ。

最初から予想以上にエキサイティングな遡行だが、明るくさわやかな渓相が気分を前向きにしてくれる。「魚止滝」も釜が美しいが直登はできない。左壁から小さく巻けそうだと思い登ってみたが、最後のトラバースの岩が少しかぶり気味。確保なしでは怖いので諦める。ロープを出すので登ってみないかと言われたが、偵察して様子がわかっただけで十分だった。仕切り直して上部にトラロープが張られた高巻きルートから越えた。ヤレヤレ、これで核心部は終了らしいと、ホッとする。

予想通りその後は悪場もなく、美しい沢を穏やかな気持ちで進んで行く。沢幅が狭まり前方に「吹き割の滝」があらわれる。左岸の緩傾斜の岩壁をたどるが、滑りそうで少し緊張した。滝上は両岸が広がり、雰囲気が一変する。ユーシン沢と檜洞の二俣だ。確かにこの辺りは丹沢とは思えないほどの、うっとりする風景が広がっている。長い休憩をとってゆっくりと幸せをかみしめる。

檜洞に進んでからも絵になる光景が続く。白い沢水と青い釜、緑の苔と朱茶色の落ち葉のコントラストが美しい。しだいに大岩ゴーロとなるが、大岩が驚くほど真っ白だ。これは何という岩質なのだろう。すぐに写真でおなじみのテーブル岩があらわれる。岩にのりあげれば誰だって寝っ転がりたくなるだろう。ハイ、ポーズの写真をとって先へ進む。

そしていよいよハイライトの4段滝へ。ここも絵になる光景だ。4段目は岩がつるっとしていて登れそうにみえない。Ikukoさんは前回登ったというが、これまでの遡行で十分に満足していたのでもう頑張る気もなく、あっさり巻きルートを探る。右手前の斜面を這い上がるとトラロープがあった。つかまってトラバースしようとしたところ滑ったので直上ルートに変更して抜けた。

ゲタ小屋沢出合い辺りからはさすがの美渓にも陰りが出始め、しだいに荒れた姿に変貌していく。そのギャップにちょっと唖然としながら淡々と進み、経角沢出合いへ。ここをテン場に想定していたが川原はゴロゴロ石だらけ。沢幅は広いが両岸は出水でえぐられた痕が生々しい。少し経角沢に入ると左岸に平らな段丘が見えた。多少の整地をすれば大丈夫そうだと、ここでザックを下ろす。

テントを張り、今宵のメインイベントである焚き火の準備に取りかかる。幸い近くに乾いた倒木の山があり、薪に事欠くことはなかった。焚き火が好きといいながら一向に火熾しの腕前が上達しない。火がおこせないと面目ないし楽しみが半減するので、いざというときのために着火剤や燃料炭をたくさんザックにしのばせてきたが、十分に乾燥していて問題なかった。ホッ。ゆるゆると食事をしながら盛大に燃える焚き火を見飽きることなく夜が更けていった。

 

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沢歩きは終わったも同然なので、翌朝は目覚ましをかけず目覚めた時間が起床時間。あいにく曇り空だったが、前日がとびきりにいい天気だったことがなおさらうれしく思えた。

乗越沢へ入るとすぐに倒木がひどくなる。淡々と倒木を乗り越え、最後の二俣を右へ進むとすっきりとした源頭部の様相となり、頭上に金山谷乗越の登山道の階段が見えてきた。これほどにすっきりときれいに詰める沢もめずらしい。途中荒れたところがあったけれど、最初と最後がいい感じなので、まあ忘れることにしましょう。

靴を履き替えて臼ヶ岳へ向かう。朝早いのでハイカーはいないと思ったら、単独の女性が追いついてきた。神ノ川から入り、これから蛭ヶ岳から姫次を回る周回ルートをたどるという。健脚ぶりに驚くと同時に一人で自由にいろいろなルートを歩けることが羨ましいと思う。

いつものことながら遡行したあとの登りはほんとうに足が動かずにつらい。やっとの思いで臼ヶ岳のベンチについて一休み。南尾根の方向へ向かうと明瞭な踏み跡と赤テープがあり、たくさん歩かれているようだった。下りはじめると2パーティが登ってきた。すぐにヤセ尾根の急斜面となり、しばらくは我慢の下りとなる。水晶平で尾根が広がり待望のブナ林となる。ほとんど落葉しているが、所々モミジなどの紅葉が彩りを添えている。華やかさはないが、味わい深い渋い美しさを感じる。

すぐに通り過ぎるのがもったいなく、銘々写真をとったりおやつを食べたりしてまったりとした時間を過ごす。その後もブナの大木が点在する尾根を楽しく下り、最後はよく整備された植林帯を下ってユーシンロッジに降り立った。

さすがに疲れてぐったりだったが、ロッジ前の円形広場には多くの人たちがお弁当を食べたりしてくつろいでいた。彼らはハイカーというわけでもなさそうで、渓谷沿いの林道を散策してロッジでお弁当を食べて帰るという楽しみ方をしているらしい。山登りの拠点という頭しかない私たちにとってそれは新鮮な光景に感じられ、充実した山行を終えた満足感も手伝って、二人でにこにこと顔を見合わせたのだった。

すてきな沢旅をありがとう。 (ikuko、ako)

 

8日 玄倉林道ゲート前8:15-ユーシンロッジ10:10-堰堤上入渓点10:30/10:50-ユーシン沢出合12:10-経角沢出合(テン場)15:10

9日 テン場7:40-金山谷乗越沢―登山道8:35/8:55-臼ヶ岳10:00/10:15-水晶平11:00/11:20-ユーシンロッジ13:00/13:30-林道ゲート前15:15