ブナの沢旅ブナの沢旅
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2013.09.21
実川赤倉沢右俣~花沼湿原~硫黄沢左俣下降
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2013年9月21-22日

 

いつもの話なので今さら書いても仕方がないのだが、ふたたび予定を変更しての山行となった、ピリオド。というわけで、今回はぐだぐだと前置きはやめて本題へ。

浅草から東武線の始発に乗るが、好天の三連休初日とあって電車はいつになく混み合っていた。いつもなら新藤原から二両編成になって会津野岩鉄道に入るとがたっと客足が減るのだが、みなさん会津方面の遠出をされるようで、なかなかの賑わい。会津高原尾瀬口駅でも3,40人が下車。あまりにも珍しい光景なので思わず写真まで撮ってしまった。Yukiさんも人の多さに驚いていた。

先週と同じく檜枝岐を通過して七入から実川の林道へ入る。沿道のキャンプ場も大賑わいの様子。矢櫃沢橋を渡って更に奧へ進むと駐車広場となる。行ける所まで行こうと車を走らせるが、いきなり土砂崩れで通行不可になる。駐車できそうなところまで引き返して沢支度をしていると釣師の車がやってきた。この先進めないことを伝えると、頻繁に来ているらしく、先週は大丈夫だったという。最近は各地で異常気象が続き、異常ともいえなくなっている。沢もどんどん荒れていくのだろうか。

久し振りの沢泊だ。ザックの重荷が気がかりだったが、極力軽量化をはかり、共同食料はすべてyukiさんが担いでくれた。けれど今度は汗ばむほどの暑さでバテ気味となり、たまりかねて赤安沢出合い1380m あたりから作業道を下って沢におりた。

沢に入れば先ほどの暑さがウソのよう。しばらくはゴーロの平瀬だがさすが実川本流だけあって先週の矢櫃沢とは風格がちがう。時々あらわれる小滝を難なく越えていくと次第にナメとなり、水の色がコバルトブルーになって俄然美しくなる。大きな釜を持つ小滝を左岸の岩から越えると奧は廊下の中に滝が連続している。

廊下出口近いところは両岸が急傾斜の岩壁となり、yukiさんが慎重に左岸壁をへつっていく。外傾した壁のヘツリはホントに苦手。アクアソールならフリクションがきいて滑らないと何度言われても信じられず、最後は手取り足取りでヒヤヒヤと通過。いつまで経っても克服できない課題だ。

けれど廊下を通過するとご褒美のように青白く美しいナメが広がっていた。赤倉沢はあまり具体的な記録がなく写真もなかったため、文字通り未知の沢を遡行するワクワク感にあふれていた。二人ともそれほど大きな期待感を持っていなかったので、これほど美しい沢がどうして遡行されていないのか不思議だと言いあう。しばらくは夢見心地の沢歩きがつづく。青白い岩畳とコバルトブルーの沢水、白い波しぶき、以前遡行した只見の大白沢の雰囲気と似ていると思う。

ふたたび廊下状のナメとなる。沢が左に緩くカーブしたところで岩壁に乗り上げ、前方に見える光景に思わず大歓声。前衛のナメ滝の奧に両門の滝が合わさり、木漏れ日と相まって素晴らしい景観を作り上げていたのだ。二人でしばらくその光景に見とれ、その先の世界に思いをはせる。

最初は2泊3日の沢旅が実川の1泊2日にスケールダウンして少し残念に思ったりもしたが、赤倉沢の予想もしなかった美しさにすっかり魅せられ、直前の転戦を幸運に感じるほどだった。

滝上もナメは更に続き快適感はクライマックス・・と感じていると左手に枝沢がナメ滝を落とし、その先に2条幅広滝があらわれる。前方が広河原になっていてちょっとしたテン場適地のようだ。この滝は登れないので右岸から巻くが降り口がよくわからず、この先も滝が続くのかどうか見当がつかない。巻こうとするとかなりの高巻きになるので、降り口を偵察してみる。なんとか窪のような斜面を下って滝上を探ると穏やかそうだ。ここはまだゴルジュの三段滝入口ではないことがわかったので、少し強引に沢に下る。

美しく穏やかなナメはまだまだ続く。ナメ床の岩盤の種類が変わったのか、水の色がブルーから淡いグリーンに。陽が燦々とかがやき、水面が燦めいている。そしていよいよ核心部のゴルジュ入口へ。沢は左に曲がっているので先がみえない。水深はヒザ上程度なので恐る恐る先へ進んでいくと、うわっーという声が聞こえる。

一瞬悪いものを見たのかと勘ぐったが、顔を見ると嬉しそうに喜んでいる。どれどれと一段高い岩の上に乗り上げて合流。そしてうわっーを合唱する。すばらしいの一言。これが「帝釈山脈の沢」に出ていた5mザル滝のようだ。左岸の岩を浸食してスダレ状に豪快に水を落としている。

さてどう攻めたらいいものか。直登はできず、右岸のスラブは登れそうで登れない。途中までなんとか這い上がってみるが上部はきびしい。少し手前のガレルンゼから登ることにしてトラバースしたものの、一歩嫌らしいところで断念。そこでyuki さんが空身でバイルを使ってクリアし、上からロープを出してもらうことにした。ガイド本ではすべて巻いていたが、2段目は傾斜が緩く見えたのでそのまま高巻かずに沢に下った。

巻かずに正解だった。上部の滝はそれほど困難なこともなく、真っ青で深い釜が連続。写真で見ただけだが、釜川の有名な三ッ釜のミニ版のようだと思った。これで核心部を越えたと安堵するが、ここが赤倉沢のもっとも美しいところなので、巻いてしまったらもったいない。その後はようやくノンビリした気持ちで沢歩きを満喫。次第に両岸が低くなって平瀬となり、沢の雰囲気が一変する。硫黄沢出合いが近づいて来たようだ。左岸の奧は草でフカフカの段丘が広がり、まさに別天地。さあテン場についた。ザックを下ろしてあたりを偵察すると、硫黄沢の少し上流にテントが見えた。

好奇心も手伝って挨拶にいくと、2人パーティの一人がくつろいでおり、林道を奧まで歩いて下ってきたとのこと。彼らは沢登りというより、このあたりで釣りをしながらのんびりキャンプを楽しむのが目的らしかった。去年も来ているそうで、こんな奥深いところまでわざわざと思ったが、近くまで林道がのびているらしい。

さっそくテントとタープを張り、枯れ木を集めて焚き火を熾す。なんと今年初めての焚き火だ。あっという間に火がついた。予想をはるかに超えた美しい沢に出合えたことを喜び、まずはビールで乾杯。焚き火を囲みながら食べきれないご馳走でリラックス。テント越しに煌々とあたりを照らす月を感じながらシュラフにもぐった。

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核心を越えた安堵感から目覚ましをかけなかった。30分ほど寝過ごす。それでも焚き火を熾してのんびりと朝食をとり、7時半に出発する。少し戻って赤倉沢に入るとすぐに5mナメ滝。沢は小さく平凡な渓相となる。豪快に水流を落とす2段8mトヨナメ滝を越えると小滝や石段状のナメとなり、前方に15m大滝の白い筋が見えてきた。左岸壁を快適に登って越える。その後も小滝が続き、3mハング滝を左から巻くと長いナメとなる。水量は少なく茶ナメなので、きのうの美しさにはおよばないが、それほど荒れた様子もない。

1680m二俣手前を二俣と勘違いして右の枝沢に入ってしまったが、登りやすそうな所で小尾根を乗り越し軌道修正。しばらく行くと7mの階段状滝が二つ続き4m滝を最後に、森の中の平瀬となる。標高があがるにつれあたりはシラビソの純林となり、まるで八ヶ岳のよう。1900m附近で沢を離れ、適当に森を分け入って緩やかに登っていくと花沼湿原の一角にでた。

東側の一角には大小の地塘が点在している。1週間前よりも湿原の紅葉が進み草は黄色に色づいている。真ん中の乾いた草地に腰をおろしyukiさんがむいてくれたナシを頬張る。ここから見る黒岩山はたしかに黒々している。2週続けて尾瀬の沢から湿原へ。きっと今頃尾瀬沼あたりの湿原は、木道にハイカーの行列ができているのではないかな。そう思うと、地味ながら沢が唯一の径路となる実川奧の静かな湿原がいとおしく思えてくる。

さあ、まだ油断は禁物。下山路も読図をきちんとしないといけない。もう沢は十分堪能したのでトマの集中記録を参考に、沢下降をやめて硫黄沢左俣右岸尾根を下ることにした。所々藪っぽくなるが、膝にやさしいフカフカの斜面を快適に下る。尾根が細くなったところで藪にはばまれたので沢に下ってみたところ5m滝上となり、懸垂下降で遊んでしまった。やはり尾根の方が早いとふたたび尾根にあがり、二俣出合い手前で沢に降り立つ。少し下れば朝のテン場に戻ることができる。

逆コの字型の沢をショートカットしようと尾根の取り付きを探すと、目の前に踏み跡があった。たぶん釣り師に歩かれているのだろう。意外としっかりした踏み跡で尾根を越え、適当に枝沢めがけて藪をこぐ。すぐに沢型があらわれ、あっという間に実川本流が見えてきた。出合いは急傾斜のナメ滝なので左岸の草つき斜面をロープを出してクライムダウン。ふうっ-。帰って来ました、という気分。たった一日前のことなのに、もっと長い沢旅から戻った気分だ。それだけ充実していたからだろう。

本流のきれいなナメ滝を眺めながらおやつタイム。このあたりから林道にあがれるようだと対岸の斜面に目をこらすと、案の定うっすらと踏み跡が見つかった。かなりの急斜面を登り、すこし藪をこぎながら上をめざすと、ひょっこり林道にでた。花沼湿原からの下山路はほとんど調べていなかったので、迷うことなく順調に林道に上がれたことを喜び合う。もうこれで安心だ。あとは所々崩れた林道をてくてく下って車に戻った。

今シーズン、yukiさんとは悪天の沢遡行ばかりだったが、ようやく好天に恵まれ、よき沢に巡り会えて、ささやかながら充実した沢旅ができた。(yuki、ako)

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林道駐車地点11:20-実川入渓点12:35-硫黄沢出合16:00/7:20-赤倉沢右俣遡行-花沼湿原10:40/11:10-硫黄沢左俣右岸尾根-硫黄沢枝沢下降-赤倉沢出合13:30-駐車地点15:10