ブナの沢旅ブナの沢旅
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2013.03.24
大戸沢岳
カテゴリー:雪山

2013年3月24日

 

一時は仕事の都合で無理かと思われた日程だったが、土壇場で妙案をひねり出し、なんとか実現させた。必要は発明の母というけれど、欲望は行動の原動力なのだ!

前夜、会津高原駅で待ち合わせる。会津野岩鉄道は湯西川温泉駅でわずかの乗客がみな降りてしまい、一人ぼっちの登山客を運んでゴトゴト走ってくれた。仮眠場所の高畑スキー場へ向かうと先客がいた。休憩所は夜間も開放されている。聞けば翌24日の日曜日がスキー場の最終営業日とのこと。ここは今時珍しくスノーボード禁止のスキー場なのでスキーヤーに人気があるのだという。

駐車場の隅にテントを張ってから休憩所でくつろぐ。Yukiさんはこれも楽しみの一つらしく、いくつかのお気に入りのお酒とこだわりの氷まで持参して店開きとなる。新鮮なライムの香りにつられ、ジンライムオンザロックのご相伴にあずかると、わあっ、とても美味しい。珍しくおかわりをして気持ちがよくなったところでシュラフにもぐる。

翌日は朝から好天の兆し。いつもは簡単にすませる朝食だが、どこからともなくホットサンド調理器があらわれる。ハムとチーズ、バターとマヨネーズなどをたっぷり挟んでこんがり焼き上げると、サクサク、ホクホク、トロトロでとても美味しいクロムムッシュのできあがり。都会ではホットサンドなんていわないのだ。

下大戸沢出合付近の駐車スペースに移動するとすでに車が3台とまっていた。やっぱりねー。大戸沢岳は登山道がないので積雪期にしか登れないのだが、スキーヤーに人気がある山なのだ。みると車はみな首都圏ナンバー。ちょうど出発しようとしていた男性に挨拶すると、スキー板なくシューを履いた私の足回りを見て、えっ、歩くんですかと怪訝そうな顔をする。けれどその時は、どうしてそんな言い方をするのかわからず、内心山はスキーヤーだけのものじゃないのにと思う。

何度も当地に足を運んでいるyukiさんはショートスキーを背負いワカンで歩くが、さすがに今の時期は雪が締まっているので潜ることはないようだ。沢沿いから尾根に取り付くと、しばらくは急斜面が続く。

行く手の右側には沢を挟んで三岩岳の真っ白な稜線がせまってくる。三岩岳の南東面で最近大規模な雪崩が発生したらしく、沢筋の木々は下流までがすさまじい勢いでなぎ倒されており、デブリの押し出しが出合い近くまで認められる。

1350mからは傾斜がゆるみ、山はすべてブナの純林となる。とても気持ちのいい尾根歩きがつづき、気持ちが安らぐ。大戸沢岳っていい山だなあ、と好感度満点。会津駒よりいい山ですねと、相づちを求めてしまう。といっても、12月初旬に会津駒に登った時はまだ藪が完全に雪で覆われていない上に悪天候で視界もなかった。そんな時と比べてはフェアじゃないので、好天を狙って会津駒にも行かなくちゃと思う。

展望と癒しのシューハイキングがつづく。これだけのブナ林の厳冬期も見てみたい。来年はテントかついで、(あくまで)軽いラッセルとブナの霧氷を楽しみに来ようかな、なんて思いながら歩くのがまた楽しい。

1650mを越えると林層はダケカンバやシラビソに変わる。白く明るい幹のカンバと濃緑のシラビソのコンビネーションが青空に映える。尾根は再び傾斜をまし、ぐいぐい標高を上げていく。振り返ると南会津の山並が幾重にも重なりあっている。

しだいに傾斜のある無木立の真っ白な雪面となり、頂上らしきトップにシラビソが群生している。初めて登る人はあそこが山頂だと思って頑張ると、ほんとうの山頂はまだ先でガッカリするのだとの解説。

とはいえ山頂までは緩やかな斜面をあとひと登り。大きな山だなあと思う。広い稜線にあがると今まで吹いていた風もやんだようで、とても穏やかだ。矮小化したシラビソの脇にザックをデポして空身で小山のような山頂へ向かう。

少し進むとポコの向こうに燧ヶ岳と会津駒が左右の位置で見えてきた。思わず、おおっと感激の声。とてもアルペンチックで雄大かつエレガントな光景だ。やはり人気のある山は違うなあと感心する。同じ南会津でも先週の地味なワンデリングと大違いだ。それが好きなんだけど、ね。

そして漠然とした大戸岳山頂へ。駒ヶ岳から中門岳への真っ白な尾根の東面は雪庇の張り出しがすごいが、駒へ行く機会があれば、是非とも中門岳まで往復してみたいと思っている。北西面はシラビソの樹林帯なので越後側の展望がさえぎられる。そこで樹林が途切れる雪原まで斜面を下り、しばし山座同定を楽しむ。

まず目に飛び込んでくるのは両翼を広げた屏風のような荒沢岳。右に目を移すと越後駒が聳え、目線はさらに未丈ヶ岳をとらえる。その手前は村杉半島の山々で、猿倉山東面の岩壁は雪がはがれている。こんもりとした山が村杉かな。

さらに目をこらし、村杉岳から丸山岳につづく尾根筋を追う。尾根の一部は黒々として見えるが、もう藪がでているのだろうか・・・いつか歩いて見たいのだ、この尾根を。ここから見るとチビっ子に見える展望の山、窓明山からつづく尾根をたどると丸山岳が近そうに感じられる。いろいろ思い入れがある山並はいくら見ても見飽きない。

ザックをデポしたところに戻り、昼食の休憩とする。お花摘みがてら再び越後側の山並に見入り、山頂をあとにする。さあここからが、スキーヤーならば待望の大滑降だ。下山路は桑場小沢を挟んで往路よりも一本北の北東尾根を下る。眼下には真っ白な大斜面が広がる。好天なので下る尾根は明瞭だ。

さっそくyukiさんは気持ちよさそうに滑りおりていく。気持ちよさそうだなあ。こんな斜面をシューで下ったことはないので少し怖々となるが、それほど急斜面ではないので最初は快適に下る。

きれいに描かれたシュプールに混じった一直線のシューのトレース。爽快というよりは、なんだかスキーの聖域を汚しているようにも感じられ、ちょっと場違いなのかなあという気がしないでもない。それにしてもすばらしい斜面で、スキーができればほんとうに気持ちよく滑れるのだろうなあと思う。

などと余裕を持って下れたのは1500mあたりまでで、急に下る尾根が見えなくなるほどの急斜面となる。かなりおよび腰モードになり、yukiさんにブレーキをかけてしまう。滑らないから大丈夫といわれて頭でわかっていても、まっすぐに降りることができない。もっと雪で埋まる方が安心なのだが、堅くなった雪面にザラメ雪が乗っている状態はとても苦手。

そこでトラバース気味にジグザグ下るが、すでに気持ちが怯んでいつものように歩けない。先週の神籠ヶ岳の下りもそうだった。この弱点を克服しないと雪山の未来はないかもしれないなどと思いながらへっぴり越しの自分が情けなくなる。そして、朝言葉を交わした男性が、歩くことに驚いた様子を見せたのがわかったような気がした。

這々の体で中ノ沢の広い沢筋に降り立ち、ようやく緊張から解放される。これまでの試練がウソのように開放的で穏やかで、とても美しい光景が広がっていた。三岩から大戸沢岳の稜線と谷筋はいまだクリ-ミィーな雪の美しさを保ちつつ春山のオーラを放っている。

予想していなかった景色だったので嬉しさもひとしお。それにしても、スキーならあっという間に滑り降りるところを随分と時間をかけてしまった。そんなことを口にしながら足早に下るが、登りに5時間かかったのだから下りに3時間くらいかかってもおかしくないなどと慰められる・・・

とまあ、最後は思わぬ冷や汗をかいてしまったが、何事も場数を踏んで慣れることが一番なので、またトライしてみたい。そう思いたくなるほどいい山、いいコースだった。下山に時間がかかったので、予定していた接続のいい電車に乗れるか微妙な時間となったが、yukiさんの巧みな運転で余裕を持って間に合い、最後は予定通りのハッピーエンドの一日となった。

 

 

 

下大戸沢出合6:35-東尾根-大戸沢岳11:45/12:30-東北尾根-下大戸沢出合15:25