ブナの沢旅ブナの沢旅
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2012.09.16
実川硫黄沢
カテゴリー:

2012年9月16-17日

 

長い間しまい込んでいた硫黄沢。ようやくチャンスがやってきた。特別に困難でもなく、時間がかかるわけでもないが、なぜかこれまで縁がなかった。けれど新しいエニシは新しい可能性の扉を開いてくれた。

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会津高原尾瀬口駅に降りると、改札にyukiさんがいた。あら、わざわざここまで来てくれたのかしらと思ったら、改札口前に車が入れることを知る。4月に来たときは雪解け水でごうごうと白泡を立てていた伊南川は、今にも干上がりそうなほどの水量だ。硫黄沢は大丈夫かしらと心配になる。

おそろしく広い檜枝岐の七入駐車場は閑散としており、車は奧に一台とまっているだけだった。車の主である静岡からやって来た5人パーティとはその後前後して遡行することになる。沢支度をしている間も灼熱の太陽が痛いほど照りつける。まるで真夏のようだ。

瀟洒なたたずまいの七入山荘を通って林道を進むと巨大堰堤にぶつかる。左から越えて沢に降り、ここから入渓する。すぐに釣師に出合うが、すでに釣を終えていてホッとする。沢登りの3人組が先行しているとのこと。

川原を歩くとすぐに小滝があらわれ、腰までつかって左壁からトラバースして越える。ところがここでアクシデント発生。足下に気を取られ、張り出した木に思いっきり鼻をぶつけてしまったのだ。一瞬鼻の骨からメリメリという音が聞こえた。うっ、と思うと鼻が生暖かい。手で触ると血がべったり。かなり鼻血がでているようだ。

先行するyuki さんは様子がわからず、私が顔から血を流しているように見えたらしく、驚かせてしまった。急いで血を洗い流し、しばらく仰向けになって休む。こんなことはじめてだが、気を抜いてヘルメットをかぶらなかったのが悪かった。出血が収まったところで遡行を再開。もちろん帽子をメットにかえるが、時すでに遅し。

すぐに気持ちを切り替え、穏やかな渓相の中を進む。トヨ状小滝を過ぎるとゴルジュとなるが、陽がさして明るい。沢が左に曲がると奧に8mネジレの滝が見える。青黒い深い釜は人を寄せ付けない雰囲気だ。少し戻って右岸から巻と、滝の上部を含めた全貌が見える。

大きな釜を持つ小滝を越えると地図にでている蛇滝となる。もっと迫力がある大きな滝かと思ったら、2段にくねっている普通の滝だった。その後は美しいナメがつづき、はやくも気分は最高潮。

つぎつぎと変化に富んで、穏やかで美しい。1205m二俣手前のナメ滝の左岸は広く平らな岩盤で、格好の休憩場所だ。右俣には2条の苔滝が美しい。滝の上にはブナ林が広がっている。地図を見るとそこはブナ平。きっとステキなブナの森が広がっているのでしょう。

本流へ進むと苔蒸した右手斜面の至る所から水がわき出て小滝を落としている。豊かなブナの森はきっと、たくさんの水を蓄えているのだろう。檜枝岐一帯は昨年7月の豪雨で至るところが崩壊し、そのツメ跡がいまだ痛々しい。最初は硫黄沢への影響も気がかりだったが、不思議なくらい何の被害も認められない。そう、ブナの力は偉大なのだ。

きれいな枝沢の連続に見とれながらすすむとナメのゴルジュとなる。深い森の中を歩く感じで、太陽の光が作り出す陰陽のコントラストが美しい。水面がきらめき輝いている。とても穏やかで平和な光景に心がなごむ。ちょっとしたナメ滝はどれも大きな釜を持ち、慎ましやかな豊かさを感じる。

前方に幅広の10m階段状の滝が聳えて見える。小滝がつづいたので、意表を突かれた感じだ。水量豊富で迫力があるが、水流の左脇を簡単に登れる。よく見ると左岸の岩壁からも一条の20m滝が落ちている。

つづいて深い釜を持つ5m滝。これは左壁のバンドをトラバースして越える。沢が右に曲がるところの幅広7m滝は左岸の岩壁から越える。つぎつぎと楽しい滝が連続する。あたりはサワグルミとブナのコラボレーション。陽に照らされて、まるで新緑のように明るい。

今度はちょっとした巨岩帯となる。いろいろ出てくるねえ。苔蒸した巨岩の間をナメが縫うようにつづき、4m2条の石滝を越える。沢が左へ曲がる手前でyukiさんがザックを下ろした。この先に登れない15m大滝があり、目の前の斜面から高巻くのだという。どれどれと先へ進むと、ものすごい水しぶきをあげた3条の大滝があらわれる。近づくのも恐ろしいほどの迫力だ。

ひとしきり眺めて右岸の高巻き点へ戻ると、先行パーティが取り付いている。足下が緩く、落石の恐れがあるため、しばらく下で待っていると、突然ラクッの大声と共にゆうに50㎝四方はある大岩が落ちてきた。悲鳴を上げて遠ざかると、大岩はyukiさんのザックをかすめて落ちた。本人に大事はなかったが、危ないところだった。5人パーティに不慣れな人がいたらしく、あとでリーダーらしい若者が謝ってくれた。

グズグズの泥斜面を慎重に登って滝上に降り立つ。するとすぐに見栄えのする12mインゼル状の幅広滝があらわれ、思わず感嘆の声をあげる。二つの大きな瘤岩が流れに変化をつけて美しい。左側からシャワーを感じながら気持ちよく越える。

つづく2段5m滝は側壁が垂直で登れそうにない。回り込むと右岸には手がかりが見えるが、以前トライしたyukiさんによると、岩がもろくてはがれやすいのだとか。ここは左岸を巻くのが定石らしい。岩壁を登ると難関らしい12m滝が見えてきた。当然登れないので左岸を巻く。草付の泥壁は傾斜があり、途中頼りない草だけの箇所を通過するところがとても緊張したが、なんとかロープなしで抜けることができた。ヤレヤレと一服する。

最後の難関のトロ場をのぞくと、光が差し込んで沢床がキラキラ揺らめいている。きれいだなあ。でも、そんなことを言っている場合ではない。水中にスタンスを求めてバンドに這い上がるところで苦労し、手を貸してもらう。頼れると思うとつい頼ってしまう。もっと踏ん張らなくちゃ。バンドに乗ってトラバースすれば、あとは問題なく越えられた。

一枚岩のようなナメを越えると両岸が低くなり、一気に開けた森となる。エキサイティングな滝をたくさん越えたあとだけに、なにもない穏やかさがうれしい。会津の黒谷川の雰囲気を彷彿させる渓歩きだ。黒谷という言葉の響きだけであの森の情景が目にうかぶが、昨年9月に遡行したyuki さんによれば、大幽沢は豪雨によってみる影もないほど壊滅的な状態になってしまったという。とても残念だが、3年前の遡行は貴重な思い出になるのかもしれない。

こんなことを思いながら歩けるのも余裕のおかげか。まだ2時過ぎだが、行動を終えることにした。短いながらもいろいろな要素が凝縮された前半部だったので、歩き足りないなんてことはない。

目当てのテンバに到着すると、以前と様子が変わってしまったらしい。草の平地の真ん中が出水の跡のような窪地になって分断されていた。この先にも適地があるらしいが、先行パーティがいるので、ここで手を打つことに。それでも多少の整地をして砂をならすとテント一張り分の快適な平地が確保できた。炊事場も焚火場も広々として二人には贅沢な間取りだ。枯れ木も豊富であっという間に火が熾きた。

yuki さんの大きなザックからは続々と食材が出てくる。いったい何を持ってきたのだろう。まずはビールで乾杯し、しばらくまったりした時間をすごす。こんなに早く行動を終えたことはなかったので、とても贅沢な気分だ。鍋の材料を用意してくれるとは聞いていたが、それぞれの分量が半端でなく多い。呆れるやら、感心するやら・・・ザックの半分くらいは食料とお酒類でした。

時間はたっぷりあるのでなんとかなるだろうと、おしゃべりをしながら食べ続けると、ようやくあたりが暗くなって焚火の雰囲気も盛り上がる。夜空は満点の星空。お腹も気持ちも満たされてシュラフにもぐると、珍しくあっという間に眠ってしまった。

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翌朝も焚火まる。煙が朝の森にたなびく光景が大好きだ。まずはチャイで目覚めのティータイム。昨晩の鍋を温め、うどんを入れると味がしみて美味しい。それでも食べきれず、朝から頑張る。あまり早く出発しても車道でバスを待つ時間が長くなるだけだと、今度はコーヒーをわかしてのんびり。たまにはこんな風にのんびりできる沢もいいなあと思う。

最初はせっかくの3連休なのに日帰り沢に泊るというのはもったいないと思ったけれど、自分の体調を考えるとちょうどよかった。夏ばてやら何やらで原因不明の蕁麻疹。南沢に行く前が最悪だった。沢ではおさまってくれてホッとしたが、翌日病院へいくと、疲労やストレスが引き金になるといわれた。

自分ではそれほど疲れを感じていなかったが、自覚がなくても体が疲れたと言っているのだと、休養を勧められる。だから、自宅ではなく硫黄沢に休養にやってきた。なんて、まったくあきれる屁理屈だが、不思議と帰宅後は何事もなかったかのようだ。もちろん過信してはいけないと、戒めてはいるが・・・

またまた脱線。コーヒーで一服後に出発する。時々小滝があらわれる程度で、ほとんどがおだやかな平瀬をのんびりすすむ。しだいに岩がヌメリだし、時々滑っておっとっと。yukiさんもズルっとこけていた。最後の滝となる3mハング滝を左から巻く。沢床が赤茶けた岩盤となり、1500mの二俣へ。

右へ進むと車道への近道となるが、左へ進んで長池湿原をめざす。尾瀬の沢ならフィナーレは湿原でなくちゃ。くねくね蛇行をくり返し、しだいに両岸も平らになって湿原の気配を感じる。沢は続くが、途中から沢を離れて湿原の南端らしき草藪に入る。目立たないけれどテープがあり、明瞭な踏み跡があった。

突然視界がひらけ、長池湿原へ。花のシーズンは終わり草紅葉の気配が感じられる。燧ヶ岳が近い。バスの時間に合わせるかのように、別の2パーティもほぼ同時に集合。銘々それぞれの場所でくつろいでいる。地図を見ると車道に隣接しているのだが、まったくその気配はなく、きっと車道からも斜面の藪の奧にこんな広い湿原があるなんて想像できないのだろう。湿原を北に向い、途中から藪の斜面を登るとあっという間に車道に飛び出た。木陰で30分ほど休み、路線バスで七入の駐車場へ戻った。

今年はまだ沢で誰にも会ったことがなかったが、硫黄沢では2パーティと遭遇。みな関東以西の遠方からだ。このちっぽけな硫黄沢は今や全国区の沢になっているらしいことに地元のyukiさんはおどろいていた。それだけ多くの人々を引きつける魅力があるというのは、今回遡行してよくわかる。だって私も一目惚れだもの。駒ノ湯と道の駅「番屋」に立ち寄った後に会津高原駅で下ろしてもらい、きっとまたやって来る予感を抱きながら帰途についた。(yuki、ako)

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16日 七入駐車場10:45-堰堤上(入渓)11:00-1200m 二俣11:52/12:00-1370m 付近のテンバ14:25

17日 テンバ7:30-長池湿原9:40/10:05