ブナの沢旅ブナの沢旅
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2012.08.30
和賀川本流~大鷲倉沢~和賀岳
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2012年8月30日-9月1日

 

普段は沢泊まりといってもせいぜい1泊だが、毎年夏には長めの沢旅(といっても3日間だが)を計画している。ところが今年はパートナーが体調不良で間際まで予定が立てられず、直前になって本来ならば2日間のコースである大鷲倉沢に決めて余裕を持たせることにした。こんなきっかけで、沢から和賀岳へという、長年の懸案をかなえる機会を得た。

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初日は和賀川本流に下降できればいいので、当日朝発のこまち号で角館駅へ。30日から「大人の休日倶楽部」割引切符キャンペーンが始まったせいか、こまち号は満席で、ほとんどが、我々を含めて割引切符利用者と思われる中高年だ。角館駅からはタクシーで登山口となる真木林道終点の休憩所へ向う。

公衆トイレ兼休憩所をのぞいてみると、中は広々としてとてもきれいな山小屋だ。二階には布団が干してあり、積雪期にも使えるように外から二階に入る梯子もついていた。

まずは軽く食事をしながらあれこれ相談。というのは、当初は3日目に余裕があれば袖川沢を下降して林道に戻る可能性も考えていたのだが、稜線以外は携帯が通じないことが判明。沢下降は時間が読めないので稜線でタクシーの手配をすることは難しい。

もともと自分が気まぐれで言い出したオプションなので、あっさりと撤回し、登山道を下って戻ることにした。そうと決まれば着替えやらの不要な荷物やゴミはまとめてデポしておける。ほんの少し身軽になって出発。

10分ほど歩いた甘露水口で薬師岳コースをわけ、所々ヤブで覆われた作業道を進む。沢を二つ渡ると道は明瞭となるが、樹林帯の道はおそろしく蒸し暑い。途中で何度も休んでは水分補給をしながらゆっくり進んですずみ長根口の指導標へ。ここからはブナ林の尾根を登る。

1時間ほどで背稜に乗るととたんに道はチシマザサや低木で覆われ、藪をかき分けて進む。甲山分岐の標識が藪の中に埋もれていたが、ここから甲山への道があるとは思えないほどの藪だ。笹がうるさいが踏跡は明瞭。

所々で展望が開け、振返ると甲山の特徴ある山容が目に写る。曲甲という別名があることが頷ける。前方には大甲、その後方には薬師岳から遠く和賀岳が見え気分が高揚する。明日は大鷲倉沢を遡行してあの頂に立つのだ・・・ヤブ道とはいえ、なかなかすばらしい展望の稜線で、滝倉沢側の斜面はお花畑になっている。

最初の鞍部である950m地点で沢支度。気のせいか、この地点だけ道幅が広がってカヤトが寝ている。今シーズンにここから沢下降したパーティがいるのかもしれない。大鷲倉沢を遡行するにはまず和賀川に降り立たなければならないのだが、これが少々厄介なのだ。

岩手側の高下から入る方が一般的のようだが、電車利用の場合はとても不便だ。どうしようかあれこれ考えているときに、秋田側から山越えのアプローチがあることを知った。

あたりをつけてヤブに突入するが、あっけなく窪がでてきた。これは予想外で、話がうますぎると思いながら下っていくが、結局それほどの悪場はなく下降に適した窪だった。1箇所懸垂をしようとしたら古い残置があった。

かなり下ったところでようやく湧水があらわれ、冷たい水を山ほどがぶ飲みして一息つく。最後に10m黒滝を巻くと広い川原が見えて来た。思わず、やった-。1時間半ほどの下降でとてもスムーズに本流に立つことができた。

ザックを下ろし、さて、どうしよう。このあたりでテンバを探そうとあたりを見渡すまでもなく、下流にケルンが見えた。ヒョッとして、と思い、偵察にいくと、これまさに、ザ・テンバ。川原近くの焚火場とその奧の一段高い所には小石を丁寧に取り払った砂地の寝床が用意されていた。これまで多くの人が泊って完成度が高まったという印象だ。

さっそく枯れ木を集めて焚火を起こす。すぐに火が熾きたところで入山祝いの乾杯。心配していたアプローチがことのほか順調で、幸先のよいスタートで初日を終えた。

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二日目は大鷲倉沢から和賀岳山頂をめざす。4時過ぎには起きて残りの枯木で焚火を起こし、朝食をとる。しばらくは和賀川本流を遡行する。明るく開けた大岩ゴーロの豪快な雰囲気で、水がとてもきれいだ。途中左岸の段丘の中に草地の快適なテンバがあったが、沢への出入りの足下にやや難ありで、自分たちのテンバの方が良かったなどと思いながら通過する。

二俣で右に本流をわけて進むとすぐに小鷲倉沢が出合う。小鷲倉沢は和賀山塊で一番難しい沢だと紹介されていた。名称だけみると大鷲倉の方が兄貴分のように見えるが、こちらは困難な所は少ない(ということは多少ある)、後半は癒し系の沢との前情報。

大鷲倉沢に入ると小振りになるが、ちょっとしたゴルジュの中に小滝と釜が連続する。困難なところはなく、どれも快適に登るか小さく巻くことができて楽しい。大きく深い釜を持つ4mハング滝を右から巻くと、その後はしばらく大岩ゴーロとなるが、遡行者に嫌われない程度に時々滝をかけている。

そしてあらわれた15m大滝は、見栄えのする美しい滝だ。あまりの暑さにここで休憩。左岸を直登した記録があったので、ルートを目で探ってみた。空身なら登れそうだが、落ち口付近が不明。釜の手前左側の岩壁の途中から湧水のように水が流れ落ち、糸状滝のよう。シャワーを浴びながら口に含んだ水は甘露水で冷たく美味しかった。

さてと、巻き道をさがす。少し戻った左岸の斜面に取り付くと明瞭な踏み跡があり、簡単に落ち口に抜けられた。滝上からはナメとなり、はるか前方に稜線が見えてきた。右から8m滝を落とす枝沢をすぎると再び大岩ゴーロと小滝をくり返し、高い岩壁を背景にした2段4m滝となる。2段滝は上段がハングして登れない。

休憩しながらルートを検討する。右壁の下段を登って偵察してみると、なんとか岩壁を超えられそうだった。少し緊張したが、うまく岩壁を超えて小尾根にのると、懸垂せずに反対側の沢床に降りることができた。ヤレヤレと、第一の核心を越えてホッとする。

滝上からは、まるでご褒美のような美しいナメ滝がつづく。大高巻きをするとこの景色をみることができないのだと、ちょっと自慢気味。すぐにもう一つのポイントだと予想していたCS10m滝があらわれる。端から登る気はないので、さっそく巻きルートを探る。

左の草付斜面を試みるが足下がグズグズの急斜面で途中で行き詰まる。仕切り直してもっと手前の石畳のような窪に取り付いたのはいいが、最後は懸垂下降の大高巻きとなってしまった。

 

 

 

時間がかかったが、とにかくこれで問題となるところはクリアしたはずと、穏やかなナメの川原で昼食の大休憩。大高巻きで大汗をかいたので釜につかり、一段落したところで温かいカレーうどんを作る。

沢はとても穏やかな表情となり、前方に稜線を見渡しながらの快適な遡行となる。6m滝は頑張れば登れそうだが、もう十分だと、あっさり右岸を巻く。美しいナメが続き、その間に小滝と釜が点在する。ようやく待ちに待った、和賀岳へとつづく穏やかな源流遡行のはじまりだ。

遡行のハイライトを演出するかのように、空は真っ青になり、ナメを流れる水が太陽の光で燦めいている。両岸には最盛期を過ぎたとはいえ、いろいろな花が咲いている。とても幸せな気持ちでヒタヒタと稜線をめざす。

1080m二俣は5m滝を落とす右俣を分けて本流の左へ進む。穏やかな谷筋と稜線が広がって気持ち良さそうな源頭部に見える。しばらくは快調に小滝を越え、両岸に広がるお花畑を楽しみながら順調に進んだ。水涸れする前にたっぷりと水を汲み、涸れた沢筋を忠実に登っていった。

ところが1200m付近で登れないギャップがあらわれ行き詰まる。ざれた斜面をトラバースして越えたのだが、どうもこのあたりから微妙にルートをはずしてしまったようだった。GPSで軌道修正しながら急斜面の藪こぎを続ける羽目になり、時間ばかりが過ぎていく。

ようやく傾斜もゆるんで気持ちのいい草原となり、最後は再び草原の急斜面を登って登山道にでた。予定していた地点よりも少し西側にでたようだ。時間も遅いせいか誰もいない。静かなたたずまいの和賀岳が大きな山容で横たわっていた。う~ん、最後はちょっと予想外の道草を食ってしまったけれど、ようやくやってきました。ザックをおいて山頂へ向う。

広々とした山頂でまずは記念写真をとり、山頂から北側に少し下って山並みを追った。北につづく背稜をたどると小さな頂をとがらせた羽後朝日岳が目にとまる。あと1日日程がとれたなら、ここから治作峠まで廃道化した藪尾根を下り、枝沢をくだってマンダノ沢に降り立ち、上天狗沢出合いあたりで泊って最終日に羽後朝日岳に立つなんてことも机上の計画としてたてたのだけれど、今回は諸般の事情でかなわなかった。いつか和賀岳の向こう側にも足を踏み入れてみたいと思う。

霞がかかっていたが、北西には田沢湖が大きく見える。一帯はお花畑で、最盛期はさぞすばらしいことだろう。山座同定に時間を忘れていると、いつの間にかあたりはガスで覆われ、あっという間に展望がなくなった。山頂にもどると風も強くなり、天候の激変に驚く。

急いで山頂をあとにしてザックを拾い、少し登山道をたどると稜線の脇に平坦な草地があった。ここに泊ろう。風が強くテント設営に苦労するが、なんとか無事に遡行を終えて和賀岳に立てたことに乾杯。一晩中風に悩まされて朝を迎えた。

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朝テントから外をのぞくと一面ガスで覆われ、相変わらず風が強い。つくづく昨日のうちに山頂に行って良かったと思う。こんな状態なので長居は無用と、早めに下山することにした。

幸いなことに歩き始めるとすぐにガスが流れ、うっすらと太陽が見え隠れし始めた。まるで霧のベールを少しずつ巻き上げるように、ガスで見えなかった大鷲倉沢の谷筋が姿をあらわす。思わず立ち止まり、劇場の幕開けを見守った。

標識のある小鷲倉からは突然刈り払いの拾い道となる。この頃には青空が広がって、まさに快適な稜線漫歩。はるか彼方には鳥海山も見える。刈り払いは小杉山で終わっていた。西側には下降も検討した袖川沢の谷筋が深い切れ込みをみせている。一帯は仙北マタギの狩り場だったとのこと。ロマンをかき立てられ、下降してみたいと思ったのだった。

朝食は強風で落ち着かず、簡単に済ませたので薬師平で二回目の朝食タイム。小高い丘に囲まれた平地は風もなく、広々として気持ちがいいところだ。塩ラーメンを食べながらのんびりする。終わってホッとしたような、さびしいような気分になる。

薬師岳への稜線は風衝湿原と呼ばれるお花畑ルートをたどる。山頂についてはじめて人と出会う。名古屋から来たという単独の男性は、すでに50日間ほども北海道から東北各地の山を巡ってきたとのこと。いろんな人がいろんな風に山を楽しんでいるのだと感心する。

携帯でタクシーを手配し、いよいよ下山だ。大甲へつづく背稜を分け、急斜面の痩せ尾根を下る。アプローチシューズが滑りやすく、沢よりも緊張する。1000mあたりから樹林帯に入ると歩きやすくなる。しだいにブナ林となり、ブナ台の美しいブナに見とれながら甘露水口の林道に降り立った。

実質2日間と短かったが、念願の源流遡行でたどる和賀岳に立ち、たくさんの思い出を詰め込んだ周遊の沢旅が終わった。

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30日 薬師岳登山口(真木林道終点11:30)-甲山分岐14:00-950m鞍部枝沢下降点14:30/14:50-和賀川本流幕営地16:35

31日 幕営地6:25-大鷲倉沢出7:35合-15m大滝上-940m-1080m二俣13:45/13:55-1370m 稜線16:20-和賀岳16:35/16:50-テンバ17:05

1日 幕営地6:20-小杉山7:20-薬師平8:00/8:25-薬師岳8:45/9:00-薬師岳登山口11:00