ブナの沢旅ブナの沢旅
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2012.03.29
白毛門
カテゴリー:雪山

2012年3月29日

 

行きたい山を計画するとき、同行者がいればそれに越したことはないが、見つからないからと山行を諦めるのも、諦めきれない。ということで、以前から一人でもある程度の雪山を楽しむことができる度胸と技量を身につけたいと思っていた。

気にかけながらなかなか実行できないでいたが、春山になれば雪も締まって歩きやすくなる。天候が安定するタイミングをねらい、まずはアクセスの容易な谷川方面から始めてみることにした。

白毛門は電車で日帰りができ、けっこう登りがいもある。何度か下ったことがあるので知らない山ではない。携帯も通じるし、一ノ倉谷の岩壁見物も楽しめる。今の自分のニーズにぴったりの雪山だ。

春休みで天気もいいせいか、平日にもかかわらず上越線はスノボーやスキー客で賑わっていた。一人では心細いので、白毛門に登る人もいるかなあと期待したが、土合駅で降りたのは自分を含めたった二人・・・はやくも寂しさがただよう。

土合橋の駐車場へ入る道は雪で覆われており、うっかりすると通り過ぎてしまいそうだ。雪壁の踏み跡を蹴り込んで雪面に上がるとだだっ広い雪原が広がり、無雪期との景観の違いに驚く。沢を渡る橋には手すりよりもはるかに高く雪が積もり、傾斜した雪面は堅くなっている。ネットで情報は得ていたが、中途半端に雪解けが進んで状態は険悪になっている。さっそくアイゼンをつけて恐る恐る通過し、思わずこれで核心は終わりかなと安堵する。

雪は締まっているのでアイゼンをつけたままトレースをたどる。片足300gの新しいアイゼンはとても軽く、長時間装着していても気にならない。尾根にのると急斜面が続く。所々凍りついているところがあり、アイゼンをはずさなくてよかったと思う。さっそく谷川岳の稜線が見渡せるようになり、大展望への期待がふくらむ。

今年はほんとうに雪が多い。4年前の3月下旬に赤沢山から丸山乗越、白毛門を周遊したときは、1000mくらいから下は雪が全くなく、白毛門沢は大滝上まで水が流れていた。今年はもうすぐ4月だというのに谷筋は下まで完全に雪に埋もれている。今年の谷川連峰の沢は遅くまで残雪があって大変そうだ。

この上もない快晴とすばらしい展望に目を奪われ、心細さはどこへやら。白毛門の真っ白な山頂が見えて来ると、きっとあの頂まで登るのだと、気持ちが高揚する。マイペースながら順調に進み、予定よりも早く松ノ木沢ノ頭へ。確かにここは、長居をしたくなる最高の展望台だ。

最初は様子がわからなかったので、休憩を取らずに歩き続けたが、ようやく気持ちに余裕が生まれた。360度の展望を楽しみながら、おやつタイム。行く手には山頂が近い。一ノ倉谷の岩尾根のヒダが手に取るように見える。最初は誰か登っていないかなあと思ったが、そういえばすでに入山禁止の時期だった。比較的穏やかに見える西黒尾根は来年の課題にしよう。

歩き始めてしばらくすると若者と中年女性が下ってきた。見るとロープでつながっている。ガイド山行のようで、若いガイドさんからトレースをはずすと踏み抜きが多いので、とにかくトレースに忠実に歩くようにとアドバイスを受ける。(もちろんトレースをはずしたりなんて決してしません)

4年前バックステップで下った雪壁の所が少し心配だったが、適度にもぐる踏み跡をたどって問題なく通過できた。山頂下の岩峰は1箇所だけ鎖が出ていた。岩峰を越えると緩やかな斜面となり、東側は大きな雪庇が張り出している。いよいよ山頂へリーチだ。

山頂標識は埋もれており、雪庇に近づくのも怖いので、山頂らしくない斜面の一角にピッケルを刺し、とりあえずの山頂宣言。とくに難しい箇所はなかったけれど、決して簡単で楽でもなかったので、達成感が得られた。

行く手には笠ケ岳から朝日岳の雪稜が穏やかに美しく連なっている。計画を立てるときはいつも欲張った妄想がまじって同行者のヒンシュクをかうのだが、今回もベストシナリオでは笠ケ岳往復なんちゃって。けれど山頂に着いたときはもう気分的にもアップアップの状態。往復2時間弱らしいので、電車の時間から逆算すれば行けないことはなかったが、まったく未練はなかった。

東側には尾瀬の笠ケ岳から至仏山に続く稜線とその先には燧ケ岳を見渡す。湯桧曽川の源頭部の先には武能岳から蓬峠を経て七つ小屋山に続くなだらかな稜線が手招きしている。つぎに機会があったら土樽からあの稜線の山に登りたいなどと、想いはつきない。

と、気を抜くのはまだ早いのだ。痩せた急斜面は登るよりも下りが怖い。とりあえず松ノ木沢ノ頭までもどってから休むことにした。山頂直下の岩峰を下ったところでサングラスを落としたことに気付いたが、少しの距離でも取りに戻る気力はなく、山頂の代償だと諦める。さらに下ると今度はストックのリングが外れていた。なんだかボロボロだな、などと思いながら登りと同じくらい時間をかけて松ノ木沢ノ頭へ。

とにかく暑い日で、午後からは雪が腐ってアイゼンでもズルズル滑って気が抜けない。登りの時と同じ場所でザックを下ろす。疲れと緊張のせいか食欲がわかない。いつもなら下山路の半ばで最後まで取っておいた大好きなシュークリームを食べるのが楽しみなのに食べられず、やたらと喉ばかりが渇く。

ペットボトルに雪を入れてカシャカシャ振っていると単独の男性が下って来るのが見えた。縦走してきたのだろうかと興味津々で声をかけると、笠ケ岳まで往復してきたとのこと。ストックを持っているかと聞かれ、手にリングを持っていた。拾ってくれたのだ。

お礼を言い、ついでに山頂でサングラスを拾いませんでしたか、なんて聞いたところ、懐に手を入れてゴソゴソし始めるではないですか。ひょっとしてと期待すると、出てきました。私のサングラス。おもわず、キャー、うれしい~と叫んでしまった。ひとしきり立ち話をしたあと、若者は、もう拾えませんからねといって下って行った。

ここから先は楽になると思いきや、腐れ雪斜面の緊張は続き、何度かバックステップを強いられる。どうも元気のいい先行者がやたらと尻セードで下ったようで、急斜面の踏み跡がきれいに消され、足がかりがなくなってしまったのだ。自分でも情けないくらいのへっぴり腰でほとほといやになるころ、ようやく谷筋が緩やかに開けたブナ林となり、痩せ尾根から解放される。

とたんに気が楽になって思い切りがよくなり、最後は尻セードで滑り降りる。そして最後の「お楽しみ」となる橋の前へ。朝よりもさらに雪がやせ細っている。雪堤に乗り上げる階段は半ば崩れ、なんとか乗り上げても怖くて立ち上がれない。仕方なく四つん這いになって匍匐前進。ヤレヤレと、エキサイティングなフィナーレを迎え、雪原の駐車場を駆け抜けてバス停へ降り立った。

歩いた時間はそれほど長くないが、終始気が休まらず、下山は腐れ雪にとことんいじめられた。心身ともにこれほど疲れた雪山はほんとうに久しぶり。それだけに、車窓から遠ざかっていく真っ白な山並みを眺めながら、じわじわと静かな喜びがわき上がってきたのだった。

白毛門1 白毛門2

白毛門3 白毛門4

白毛門5 白毛門6

白毛門登山口9:00-松ノ木沢ノ頭11:35/11:45-白毛門山頂12:35/12:45-松ノ木沢ノ頭13:40/13:55-登山口15:50