ブナの沢旅ブナの沢旅
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2012.03.03
内水面試験場~船形山~蛇ケ岳~三峰山~水源~大倉山~内水面試験場
カテゴリー:雪山

2012年3月3-4日

 

ようやく船形山にたどりついた。2009年から毎年船形山および周辺の山を訪れてきたが、いつも満足な山行ができず撤退をしいられてきた「因縁」の山だった。

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今度こそはやり遂げたいと前夜のうちに現地入りし、内水面水産試験場手前の車10台分ほどの除雪スペースに一番乗り。前夜の雪でトレースは消えていた。12月末に来たばかりなのですべてが記憶に新しい。登山口の道標はかろうじて雪面から出ていたが、30番から始まる赤いナンバープレートは埋没していてわからなかった。

笹藪や灌木がすっかり雪に埋もれているためすっきりとした森になっている。薄日のさす日よりで、雪は締って歩きやすい。同じ山に何度も行くというのは滅多にないことだが、時期をかえて歩くとそれなりの変化が感じられ、それも悪くないと思う。

三光の宮付近は相変わらずわかりにくく、ナンバープレートやテープを探しながら進む。しだいに積雪量が増えているのか、地上に出ているプレートの位置が目線より低くなり、9番の所では埋没しかけている。

前回はここから藪っぽい斜面をトラバース気味に進み、雪壁を崩して沢を渡ったが、すべてがきれいに埋まっている。なだらかですっきりとした雪原歩きが続き、景観の変りように驚いてしまう。

升沢避難小屋は掘り起こされているが、入口は雪でふさがれていた。天候が崩れだし、吹雪の予感。さあ今度こそはと、目出帽とゴーグルをつけて小屋の裏からいったん沢へ下る。前回は4~5mほどあった急斜面を下れず回り道をしたところだ。

沢もきれいに埋まっていたのでそのまま進むこともできたが、雪が締っている尾根にのることにした。前回と同じルートだ。気持ちのいいブナ林を登るとすぐに無木立ちの斜面となった。低灌木の藪がきれいに埋まり、スキーヤー垂涎の美しい雪面が続く。

登るにつれ風が強まり、ガスで視界も悪くなる。初めての体験だったら心が折れて撤退したかもしれない。悲壮感がただよってきた。最後はYさんが先行して登っていったが、少し離れるとガスで見えなくなり、ホワイトアウトのような状態になる。もう少しだから頑張ろうねと声をかけ、自分の気持ちを鼓舞する。

ガスの中にうっすらと山頂小屋が見えたときは、やった~と思った。ベストコンディションとは行かなかったけれど、悪天を押してたどり着けたことが嬉しかった。さっそく小屋に入ろうと扉の雪かきをするが、隙間から中に雪が入っているようで開けることができない。

何気なく横にあるサッシ窓の取っ手を引っ張ってみたら開いた。ここが非常口だった。窓によじ登って中に入るとピタリと風がなくなり、暖かさが身にしみてありがたかった。よかった、よかったと喜び合い、握手。

長いコースなので、当初は蛇ケ岳を越えた鞍部あたりでテントを張る予定だったけれど、こんな天気ではとんでもなく、小屋に入ったところで初日の行動を終えることにした。まだ2時20分。残業を常とする弱小パーティなので、こんなに早く行動を終えたのははじめてだった。

真ん中には大きなストーブがあり、マキも山積みされていたが、これは遭難などの非常用なので一般登山者は使用してはならない。荷物を取り出して一休みしたあと、近くの山頂標識を見にいく。

風向きのせいで小屋の裏側は一面氷雪に覆われ、まるで氷の館のようだ。もちろん視界はないが、山頂標識にタッチして三度目の正直の登頂を実感する。風に吹き飛ばされた氷のような雪片がどんどん顔に飛んできて痛い。記念写真をとってそそくさと小屋へ戻る。

さあ宴会をしようと、早々と乾杯してつまみはじめるが、しだいに冷えてくる。中の温度計はマイナス6度で、少し前の戸外と変らない。テントを張って中に逃げ込む。外は相変わらず吹雪いており、明け方近くまで続いた。

 

 

翌朝には風は弱まったが、外を見ると相変わらずガスっている。出発を少し遅らせて様子を見ることにする。予定のコースはむずかしそうだが、蛇ヶ岳までは頑張ろうということで8時に出発。

もう一度山頂標識へ行くと昨日よりもエビの尻尾が発達していた。隣の社にお参りをして山頂をあとにする。これでお別れだと思いながら歩き出すとガスが流れはじめ、天候の回復の兆し。空を見上げるとガスの合間からときどき青空が見える。

なんというグッドタイミング。気持ちが急に色めき明るく前向きになる。まだ予断を許さないがまずは蛇ケ岳へ向かう。昨日はなにも見えなかったが、何層ものガスのベールが一枚づつはがれていくように、景色がクリアになっていく。

山形側のガスが晴れたときは展望の素晴らしさに目を見張った。視界の真ん中にある仙台カゴのトンガリ峰が小粒ながら凛々しい。直下の谷筋は2009年に遡行した笹木沢の源頭部だ。むさぼるように山座同定がつきない。奧には黒々とした絶壁の黒伏山もみえる。

蔵王連峰の彼方には、さらに高嶺の山並みが見える。左から飯豊、朝日連峰、そして月山。みんな見えると興奮する。さらに進むと二口山塊が姿を見せ、仙台神室が美しい雪稜を魅せている。これまで遡行したブナの沢から詰めあがった真っ白な山並みを見渡し、静かな喜びと郷愁をかみしめる。

振返ると、最後までガスでかくれていた船形山山頂も青空に包まれている。とても1500mの低山とは思えない雪山の風格だ。あくまでも開放的でたおやかな尾根が続き、山腹は霧氷のブナで覆われている。まばゆいばかりの美しさに目も心もクラクラする。

もっこりとした蛇ケ岳山頂で進路を相談。予定よりも遅れてはいるが、これだけの好天で下山するのはもったいない。と、半ば強引に気持ちを優先させて予定のロングコースを歩くことにきめた。

まさに春山JOYの稜線漫歩を楽しみながら三峰山へ。最初の峰は北面をトラバースして鞍部に抜け、標識のある主峰へ立った。下りの急斜面をみて一瞬ひるんだが、スノーシューをはずし、ピッケル片手にバックステップでくだった。三峰山を過ぎると船形山は姿を消し、前方に北泉ケ岳と泉ケ岳方面の展望が開ける長倉尾根へ。

  

 

 

 

広く緩やかな尾根を下ると樹林帯となり、ブナの森が広がる。以前から一度歩いてみたかった森だ。はじめて升沢コースを歩いたときは尾根のブナの美しさに感激したが、長倉尾根のブナはスケールも品格も升沢登山道のブナに勝ると感じた。テープや印も少なく、より自然の姿をとどめているが、視界のないときはあまりにも地形が茫漠として迷いやすそうだ。

熊の平から鞍部の水源をへて北泉ケ岳の北面1100mあたりで沢の源頭部をトラバースして大倉山へつづく北尾根に乗る。ゆったりとした雪原台地のようなブナ林の尾根を下って行くと右手下に白く氷った桑沼を見下ろす展望地となる。地図ではここから道があるようだが、恐ろしい急斜面で、積雪期にはとても下れそうにない。

大倉山は下って行くとどこが山頂だかわからない尾根の一点だが、東屋が目印となる。地図ではここから尾根が痩せる。これから先、出発点に戻るまでのルートは一応尾根が続いており、大倉山直下も等高線はそれほど密ではないためそれほど心配はなかったが、ネットでは記録が見当たらなかった。

進むべき尾根が突然消えたように見えたので一瞬迷ったが、方角を確認すると盛り上がった雪壁からでている灌木に赤テープ。近づいてのぞき込むと切れ落ちた壁の下に尾根が続いていた。ええっ、ここを下るのーと、焦ったが、もう行くしかない。

ふたたびシューをはずしてピッケルを取り出す。西側は岩壁なので灌木のある東側斜面に回り込み、慎重に下って岩壁基部へ。ヤレヤレと一息つくまもなく、今度はナイフエッジの痩せ尾根が続いている。ツボ足で雪にもぐり、適度に木も生えていたので見た目ほど悪くはなかったが、下り終えたときは喉がカラカラ。Yさんはだんだん慣れて調子が出てきたようで、やりがいを感じたようだった。

これで安心してはいけない。通過に予想外の時間がかかってしまい、ようやく明るいうちに下山できるかどうか時間が気になり始めた。さらに悪いことに、尾根の末端で地形が不明瞭になるころ、なんと二人ともGPSの電池が切れてしまう。

しだいに薄暗くなって地図が見にくくなったので、ヘッデンをつけて気を落ち着かせることにした。このまま尾根筋を進むと内水面試験場に下れるはずだが、藪はあるし地形は複雑で迷いそうだ。

尾根から西へトラバースして旗坂キャンプ場跡の駐車場へ抜けることにした。最後は時間と競争するかのようにひたすら西へ突進。地図で想像したよりも距離があって心配になるころ予定通り沢にぶつかった。滲んだ月がボッと薄明かりを発している。

橋を探す余裕もないので適当なところを渡渉し斜面をよじ登ると、明瞭な踏跡がある林道に飛びだした。全身の力が抜けるような安堵感につつまれる。少し先に標識が見えたので位置を確認するために近寄ってみると、キャンプ場の看板だった。朝自分たちがトレースをつけた道であることが確認できた。ほっ。

あとは惰性で駐車スペースにもどると、雪をかぶった車が一台ぽつんと、私たちの帰りを待っていた。

 

 

升沢コース登山口7:10-三光の宮10:45-升沢避難小屋12:25-山頂14:20

山頂小屋8:10-蛇ケ岳9:50-三峰山11:05-北泉ケ岳北尾根1100m14:55-高倉山16:05-升沢コース登山口18:40