ブナの沢旅ブナの沢旅
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2011.10.13
割引沢~ヌクビ沢~巻機山~井戸尾根
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2011年10月13日

 

どうしてもシーズンを終える前に谷川連峰の沢で沢登りらしい沢登りがしたくて、万太郎本谷の井戸小屋沢右俣を計画した。予定通り前夜のうちに吾作新道入口の駐車場に移動してテントで仮眠。そして翌朝、車は巻機山へ向っていた。どうしてこんな展開に・・・

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朝5時に目覚ましがなった。まだ外は真っ暗で薄ら寒い。シュラフを出るのがおっくうで、「これから水につかるなんて寒くていやっ。巻機に行こうよ-」と、いつも山行当日の寝覚めに感じるおっくう感を冗談交じりに口にした。

普通なら聞き流されるか、たしなめられる程度で何事もなく予定通りに進むのだが、なんと「サンセ-、そうしよう」という返答。内心マジ?と思いながら、さらに会話は進み「この前ちょっと調べたヌクビ沢なら濡れずにすむし、巻機なら谷川より紅葉がきれいなはずよ」「よし、行こう!」となった。(あとで、半ば冗談でいったのだと伝えると、こちらも冗談で返したとのこと・・・)

というわけで、林道崩落ならぬ気力の崩落により、巻機山のヌクビ沢へと転進したのだった。地図はなかったがGPSはあるし、ヌクビ沢コースはれっきとした登山道なので、なんの不安もない。あっという間に気持ちは切り替わり、「私たちどうして吾作新道に泊ったんだろう」と冗談を言い合う。

「来年の偵察できたね」

「やっぱりオキドウキョウを巻いたんじゃ面白みが半減するって書いてあったし・・」

「10月の記録がないのはちゃんと理由があるわけよね。泳ぐには寒すぎー」

など、自分たちの心変わりを正当化する理由をいろいろと並べ立てながら、登山口の桜坂駐車場へ向う。奥の広い駐車場手前の広場に車を止め-ここなら駐車料は取られないと思ったが、帰りにしっかり徴収された-沢靴に履き替えて出発。

平日なのにかなりの車がとまっていた。念のため案内板の地図を写真に撮り、ヌクビ沢コースの標識にしたがって坂を下っていく。すぐに塩沢山岳会の山小屋があらわれるが、ここから沢に下る道はなかったので引き返し、通り過ぎた分岐を右へいくと登山道だった。

しばらく沢沿いの樹林の道を行くと巻道分岐となり、割引沢へ降り立つ。白い大岩のゴーロを登って行くと沢床はナメとなり、ナメ小滝がつづく。ツルツルで登るのがやっかいそうなナメ滝は登山道に逃げて巻き上がる。随所に赤ペンキマークがあって登山靴でも歩けるようにルートが示されているが、濡れた岩や渡渉もあるので、沢靴の方が安心安全だと思う。

ふたたび沢に戻ってからは快適に白い岩盤を登っていくと前方が開け、正面に吹上ノ滝が見えて来た。予想以上のスケールと開放感で、米子沢に引けを取らない美しい渓相がつづく。アクアステルスの沢靴がピタリと岩盤に吸い付き気持ちがいい。紅葉と笹の緑、白いスラブの大伽藍。気分爽快という言葉以外見つからない。

さらに進むと沢は右にカーブしてアイガメノ滝を落としている。ナメ状2段滝の左水流脇が階段状で登れるが、かなりヌメっている。Yさんは水流の隣についた登山道のロープをつかんで登っていったが、私はヌメリに弱い靴を履いているのであっさりと登山道へ逃げた。滝上からはときどき小滝のゴーロとなり、ヌクビ沢出合へ。二俣中央の大岩に消えかけた赤ペンキでルートが示されていた。

右のヌクビ沢へ入ると右手の涸沢が崩落しており、出合い付近に大石が堆積していた。比較的新しい崩落のようだったので、米子沢の中流域をガレで埋めてしまった7月の台風によるものかもしれない。ただヌクビ沢自体にはそれほど影響はない。このあたりから布干岩と呼ばれる白い一枚岩となり、美しく見事な景観を作り出している。

悪場はなく、いざとなれば登山道もある気楽さから、あたりの紅葉を楽しみながらのんびりした沢歩きだ。このあたりは川原が登山道になっていて、ときどきペンキ印が渡渉点を示している。

ふたたび前方に滝が見えて来た。行者ノ滝だ。右壁から先行パーティが登っている。しばらく下で眺めていたが4人で時間がかかりそうだったので、右側の下が崩れている登山道ルートを強引に登って上に抜けた。つぎにあらわれた2段滝は上部が見えなかったので下段を登って様子をみる。左の草付き壁が微妙に登れそうでトライしたが上部で垂壁になり断念。もどって登山道を登ると、道はどんどん斜面を登って沢から離れていく。早くも稜線が見渡せるようになり、紅葉がますます美しい。

道はふたたび沢に下る。いつの間にか天狗岩の下を通り過ぎたようで、振返ると後ろに見えた。しだいに沢幅は狭まり、急傾斜の大岩ゴーロをぐいぐい登っていく。最後の二俣をペンキの矢印にしたがって左へ進むと、沢床の大岩に×印がついていて、踏み跡が右の斜面を登っている。

沢筋を行けば稜線のコルに出られると思い印を無視してしばらく進んだところ、このまま行くと岩壁に突き当たることがわかり軌道修正。右手の斜面に上がり、少し東にトラバースして登山道へ戻った。ここからひと登りで稜線へ。自分たちの気まぐれにあきれながらも、割引沢ヌクビ沢は予想以上にきれいで面白かった。

 

 

 

振返ると割引岳が近いが、このまま巻機山方向へ進む。地図とはことなり、登山道は尾根の北側斜面についている。左手に下ノ滝沢の源頭部を見下ろしながら、いつか下ノ滝沢上流のすばらしいナメの連瀑帯におりたってみたいと思う。前方には笹で覆われた緑の牛ケ岳が大きい。この山の反対側にも行きたい沢がある。まだまだ全然行けてないなあと思いながら木道を登ると、そこに巻機山の山頂標識がたっていた。地図と違うので一瞬戸惑うが、思ったよりも早く着くことができた。

ほんとうの山頂はもう少し先らしいが、ベンチで靴をかえ、コーヒーをわかして休憩する。晴天とはいかなかったが、紅葉の美しい時期に人気の巻機山で静かな山歩きができたことに感謝。時間の余裕があるので下山ものんびりできるのがうれしい。

今の時期の井戸尾根は紅葉の展望がすばらしく、急いで下るのがもったいないからだ。樹林帯に入ってからはブナ混合林の紅葉のグラデーションが美しい。途中に天狗岩とヌクビ沢が見渡せる展望地があり、たどって来たルートが一望できる。今までこの光景を見る度にあんな所を歩けるのかしらと思っていたコースだ。

さらに下ると右手にブナの二次林が広がる。何度歩いても美しさに足をとめるところだ。なにかいわくのありそうな異質の空間の森で興味がそそられる。五合目の展望地からは米子沢の1200m付近の崩壊地が認められた。1200mから1350mまでが崩れたと報告されているが、遠くから見る限りでは、崩壊地はそれほど長くつづいているようには見えなかった。あとは淡々と下り、飽き始めたころ登山口に戻った。

ヌクビ沢はいわば、友だち以上恋人以下、的な存在だ。となりの米子沢に比べ、沢登りにはもの足りないがハイキングの対象としてはちょっと荷が重いだろう。そんな位置づけのため、あまりポピュラーなコースではない。けれどそのために、超人気の百名山への静かな登路を提供してくれる。谷川の沢登りでは来年に宿題を残してしまったが、紅葉の割引沢ヌクビ沢はなかなかのルートであった。

 

 

桜坂駐車場7:00-割引沢7:35-ヌクビ沢出合8:50-稜線登山道11:45-巻機山12:00/12:30-桜坂駐車場15:35