ブナの沢旅ブナの沢旅
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2011.04.13
小出俣山~川棚ノ頭~俎嵓山稜~オジカ沢ノ頭~天神平
カテゴリー:雪山

2011年4月13-14日

 

快晴無風という絶好のコンディションに助けられ、いつか行きたいと密かに願っていた俎嵓山稜が実現した。当初行先がなかなか決まらず、ようやく決めたのは小出俣山から阿能川岳への縦走だった。3年前は阿能川岳までが精一杯で小出俣山まで足を延ばすことができず、以来何となく気になる山だったからだ。

ところがいざ小出俣山を調べ始めたら、隣にある魅惑の山稜に目が釘付けに。今年予定していたわけではなかったが、先週の仙ノ倉山北尾根ではずみがついたのか、天候さえよければ行けそうな気がした。そこで現地判断ということで、視界が悪かったり強風の場合、気持ち的に不安な場合は阿能川岳に切り替えるという二つのプランを用意して当日に臨んだ。

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水上駅からタクシーで川古温泉へ向う。タクシーの運転手さんによれば、最近は登山者がめっきり減ったとのこと。外人客に人気の宝川温泉もキャンセル続出とか、水上町は多くの旅館が福島から被災者を受け入れているなど、大震災後の水上の状況を聞きながら20分ほどで到着。

千曲平へ向う小出俣沢沿いの林道を歩き始める。雪は消え、明るい日射しのもとで春の気配を感じながら緩やかに登っていく。千曲平に近づくと雪道となり、早くも前方に小出俣山の白い頂がみえてきた。

千曲平は気持ちがいい開けた川原だ。橋を渡ってUカーブの道を進むとオゼノ尾根の先端の植林帯となる。ツボ足では潜るのでここでワカンを装着するが、少し斜面を登ると雪が消えてしまう。しばらくすると尾根筋が明瞭となり、植林帯からブナ林に変わる。

標高1000m付近から再び雪があらわれ、快適な尾根歩きとなる。右手には3年前に歩いた仏岩から阿能川岳へ続く稜線が近い。早くも暑さでバテ気味になり、何度も休憩しながら進むと1400m付近にクロベの岩峰があらわれる。右手の急斜面をトラバースするのだが、トレースがしっかりついていたので心配するほどではなかった。

尾根にもどってしばらく進むと傾斜がゆるんで無木立の斜面が広がり、左手には小出俣山が近づいて来た。と同時に、右手には俎嵓山稜から谷川岳方面の山並みが見渡せるようになる。しだいに開けてくる展望に気持ちも昂揚し、さい先のいいスタートを切ることができたという実感がわく。

ほぼ予定通りに着いた山頂は、さながら谷川連峰の展望台のようだ。その素晴らしさにただ感嘆するばかり。何よりも、先週登ったばかりの仙ノ倉山北尾根がまったく違う姿で見えたことが以外だった。土樽側からみると凛々しい三角錐の頂に見えるシッケイノ頭は、仙ノ倉山からなだらかな尾を引いた台地の端の、小さな出っ張りにしか見えなかった。

正面には万太郎山から大障子ノ頭へ続く真っ白な稜線、右手には翌日進む予定の俎嵓山稜がまだら模様の姿を見せている。さらに遠方には笠ヶ岳から至仏山の山稜、武尊山も明瞭だ。顕著な山容の吾妻耶山や赤城山は春霞の中で浮き上がっている。

なんて贅沢な展望なのだろう。地図を広げて山座同定がつきず、30分ほど長居してしまった。予定しているテンバは少しくだった肩の平地なので、急ぐことはない。展望を楽しみながら気持ちよく下っていく。

いつも残業するはめになる我々にとって、3時過ぎにテンバ到着というのはまれなこと。広い雪原のなかでもとりわけ景色がいいところを念入りに選び、少し整地をして極上のねぐらを完成させた。明日は長い一日となりそうなので、のんびりとした時間を過ごす。夕食をすませたころ、平標山にようやく夕日が沈み始め、その美しい光景を目に焼き付けて一日を終えた。

 

 

風ひとつない、とても静かな夜が明けた。早立ちを心がけ6時過ぎには出発する。目の前の山稜に目を据え、いよいよだと気を引き締める。この上ない好天に恵まれ気力も十分だ。しばらくは雪堤のような緩やかな尾根を下る。

尾根は北にのびるが、途中で東斜面にそれて俎嵓山稜の鞍部に乗るのだが、地図を見てもわかるとおり、ここはとても複雑な地形になっている。視界があれば問題ないが、ガスっているときは要注意のポイントだ。

東側は雪庇が張り出しているので赤谷川側の樹林をトラバース気味に進んで本谷乗越へ。このあたりにもテントが張れそうな場所があった。ここからしばらくはずんぐりと広がる尾根となり、ウォーミングアップの散策気分で進む。枝尾根が緩やかに赤谷川へ裾を引いていおり、のどかな雰囲気を感じる。

本谷ノ頭を越えると恐ろしく急斜面の川棚ノ頭が見えてくる。遠くから見るととても登れそうに思えないが、近づくにつれルートが見えてきた。尾根通しに登れば適度に灌木もあり、雪が落ちているので普通の山登りとあまり変わらない。

思ったよりも容易に詰め上がり、少し広がった台地の頂で休憩する。本谷側の斜面は完全に雪が落ちているのに、赤谷川側は真っ白で、このコントラストが面白い。爽快この上ない展望を楽しんだあと慎重に急斜面を下り、いよいよ核心の俎嵓へ。

俎嵓は大きな屏風岩のように立ちはだかって威圧的だが、ここまで来ると慣れて来るものだ。目の前の一歩一歩に集中しながら小さなアップダウンが続く痩せ尾根を進む。緊張はするが無風状態なので不安はなかった。最高点で初めてピッケルを取り出し、バックステップで下った。ふうっ、これで核心を通過した。行く手にはオジカ沢ノ頭へ向うたおやかな尾根が広がっている。

もう一つの小さな突起を越えると一挙に雰囲気が変わり、アルペン的な開放感が広がる。鞍部からは赤谷川源頭部へ滑降したシュプールのあとが見えた。山スキーヤーにとっては垂涎のルートのように思われる。気持ちがいいだろうなあと想像しながら、3年前の秋に赤谷川を遡行して詰め上げた尾根を目で追ってみた。あの時見上げた黄金色に輝く尾根。いまは真っ白なその尾根から谷底を見下ろしている、と思うと感慨深い。

太陽が照りつける雪原のような尾根をゆっくりと登っていくと、かまぼこ形の避難小屋がみえてきた。もう少しで山頂だと思っても足取りが重くなかなかたどり着かない。一足先にYさんが山頂へ。早く着いたから15分休めると喜んでいる。12時に出発するので到着時間によって休憩時間が長くも短くもなると宣言していたからだ。

ようやくたどり着いたオジカ沢ノ頭。標識に手を触れてけじめをつける。これで俎嵓山稜を歩き通すことができたのだ。たどって来た山並みを振返り、エキサイティングで素晴らしいコースだったと、あらためて思う。谷川岳から一ノ倉岳、茂倉岳の稜線が、今となってはとても穏やかに見える。

オジカ沢ノ頭からは明瞭なトレースがついている。これでもう大丈夫だと安心し、歩きにくい夏道よりも快適に下って行く。ところがそうは問屋が卸さなかった。小ピークのアップダウンを通過するところで一ヶ所冷や汗をかく。

垂直に近い雪壁を下るところは雪が腐ってピッケルがうまく刺さらず、不安定なバランスでのバックステップとなる。滑ったらそのまま谷底まで滑落しそうで怖かった。通過してホッとしたはずみで、ここが今回の核心だと半分冗談。

行く手に肩ノ小屋が見えてきたが、ここからが長かった。暑さと疲れで二人ともへとへとになりながら小屋のベンチにへたり込んだ。今朝からたどって来た尾根がすべて見渡せる。しみじみよく歩いて来たと思う。しばらく放心状態で座り込み、最後までとっておいたフルーツを食べて精気を取り戻す。もう登らなくていいのだと思うと、嬉しい。

山頂はパスして下山を始める。真っ白な雪面に石積のケルンがぽつんと立っている。年末に来たときにホワイトアウト状態になり、あせりまくったところだ。年末にはなかった赤旗がコースを示している。雪面はおびただしい数のトレースに覆われているが、このように素晴らしい天候ながら他に誰もいなかった。俎嵓山稜を右手に見ながら天神尾根を淡々と下るとすぐに熊穴沢避難小屋へ。

小屋は雪に埋もれていたが、場所を示す赤い標識が建てられていた。ここからは尾根通しの冬道となり、初めて歩くコースだ。一ヶ所急斜面を下るところは巻き道のトレースをたどり、最後はロープーウェイ駅へと急降下。こうして長い充実した一日が終わった。 

 

 

 

 

 

3日 川古温泉9:00-千曲平尾根取り付き10:10-小出俣山14:30/15:00-幕営地15:10

4日 幕営地6:10-川棚ノ頭8:50/9:10-俎嵓10:40-オジカ沢ノ頭11:50/12:10-肩ノ小屋14:00/14:15-天神平16:00