ブナの沢旅ブナの沢旅
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2011.02.06
高手新道~剣ケ峰山
カテゴリー:雪山

2011年2月6日

 

近いうちに予定している山行偵察をかねて、積雪期には歩く人もまれな高手新道から剣ケ峰山を歩いてきた。

隣が川場の一大スキーリゾートで、リフトを乗り継げば短時間で行ける山。選択枝としてはリフトで時間短縮をはかって武尊山まで行くか、下から歩いて剣ケ峰までとするか。最初は天気も良さそうだしリフトで一気に上まで行って武尊山に登って見たいとも思ったのだが、どこか釈然としない。武尊山は次回にとっておき、下から歩くことにした。

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つい先日に行った二岐山ではかなりのラッセルだったので、雪の状態では剣ヶ峰にさえ達することができないのではと心配だった。沢登りでは山頂にはこだわらないが、雪山はやはり頂を極めたいと気合い十分。東上線の坂戸駅でピックアップしてもらい、前夜のうちに道の駅川場田園プラザへ移動し、早立ちを心がけた。

翌朝は武尊高原キャンプ場入口前の大きな駐車場に車を止め、スノーシューをはいて登山道へ。当然トレースはないが、シューで雪を踏んでもあまり沈まない。まるで残雪期の雪のようだ。キーンと張り詰めた空気の中で、ザクッザクッと雪を踏む音に心地よさを感じながら広い登山道を進む。

とても広くて整備されたキャンプ場を抜けると高手山へ続く緩やかな尾根となる。ラッセルがないので、ペースも順調だ。残念ながら朝は天気予報に反して曇り空。今回は展望を期待した山行なので、森林限界を抜けるまでには晴れてくれと祈るしかない。控えめな標識の高手山を過ぎても相変わらず緩やかな斜面の樹林帯がつづく。あたり一帯はカラマツの植林帯にダケカンバが混在しているという林層で、ブナがないのが寂しい。

小雪のちらつく中、しばらく登って行くと右手にスキー場のゲレンデが見えはじめ、アナウンスの声が聞こえる。冬はスキー場のおかげで車のアクセスが確保でき、厳冬期でも比較的山に入りやすいというメリットを享受しているので贅沢は言えない。

次第に尾根が痩せてきて尾根伝いでは歩きにくくなってきたので、ゲレンデに逃げることにした。頭上にゴンドラが走り、若者が気持ちよさそうに滑り降りて行く中を逆行して歩いて行くのは、なんだか肩身が狭い思いだ。嬉しいことに、この頃からガスが薄れて太陽が見え始めた。西峰を越えたところで尾根に戻り軌道修正。

さあ、ここからがハイライト。気持ちよく進んでいくとゲレンデトップから急に多くのトレースがあらわれる。よくぞここまで律儀に歩いてきたものだと我ながら感心。少し進むと左手前方に獅子ケ鼻が見え、うれしさのあまりうぉーと歓声。急に華やかな展開となり、一挙に気持ちが高揚する。何しろここまでは視界も悪く、樹林帯を淡々と歩いてきたのだから。

獅子ケ鼻がさらに近づき、ほんとうにあんな切れ込みを越えることができるのだろうかと思うほどの迫力だ。あのギャップは北面に回り込んで懸垂かな、などkukenさんはルートの確認に余念がない。左手が岩壁の急斜面を登るところでアイゼンにはきかえた。

ひと登りすると、いよいよ目の前には真っ白にそびえる剣ヶ峰山。ほれぼれする山容の峰だ。遠望したときには恐ろしくとがって見えたが、近づくと堂々としているけれど、気持ち的にとがった感じはしない。ギャップさえ越えれば、尾根はしだいに緩やかに広がる斜面となって剣ケ峰直下に合流する。天候さえ安定していれば、あの広い斜疎林の台地にテントを張れそうだ。獅子ケ鼻と剣ヶ峰に囲まれた絶景のテンバなり。

前方から2人パーティーが下って来るのが見えた。すれ違うときに話を交わすと9時半にスキー場から歩いて来たとのこと。早いっ。しっかりしたトレースをたどって難なく山頂へ。ここから見える武尊は両翼を優雅に広げたたおやかな姿を見せている。さあ、リーチだが、今日はここまでとする。

ようやく空も晴れ渡り、すばらしい展望だ。眼下に切れ込んでいる川場谷は、沢登りを始めたばかりの年に2時間近くもネマガリダケの藪をこいで抜けた思い出の沢だ。藪こぎとラッセル。どちらも苦労が多いのだけれど、無心に突き進んで得られる世界の感動には格別のものがあることを知った。雪山はいつも沢とつながっている。そんなことを思いながらしみじみする。

さすがに山頂は風が強い。立っていると飛ばされそうなのでしゃがみ込んで記念写真をとってもらい、戻ることにした。ようやく青空も安定して予報通りの晴れとなり、登ってきたゆったりとした尾根を快適にくだる。西峰手前からは、登りではガスで見えなかった鬼岩の怪峰が姿をあらわした。kukenさんは興味津々のようで、獅子ケ鼻のつぎはここだなんて言っている。

ふたたび喧噪のスキー場を抜け、静かな高手新道の尾根にもどる。トレースを離れ、どこでも自由に滑り降りていける。最後のお楽しみといったところだろうか。スキーはできないけれどスノーシューでも十分楽しい。

午後の淡い光に照らされて樹林が長い影を落とす雪庇の張り出した細尾根がとてもきれいだ。少しうら悲しさを感じながらキャンプ場の真っ白な広場に戻り、歩いてきた山並みを振返りながら楽しかった一日を振返った。

朝は他に誰もいなかった駐車場にはたくさんの車が止まっていた。もっと先のスキー場の駐車場からあぶれた車のようで、盛況ぶりに改めて驚く。沼田から渋滞が続いている中、上毛高原駅まで送ってもらい一人申し訳なくも快適に帰路についた。

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高手新道登山口6:45-高手山7:55-剣ケ峰山12:20-高手新道登山口15:30