ブナの沢旅ブナの沢旅
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2011.01.22
笹森山、乳頭山
カテゴリー:雪山

2011年1月22-23日

 

久しぶりに大人の休日倶楽部12000円乗り放題切符が出たので、普段はなかなか行けない東北に遠征してきた。ただ、厳冬期の今の時期は縦走が難しいので、麓にテント泊の日帰り山行となった。南八幡平の豊かなブナの森をシューハイキングという控えめな計画を立て、不安定な天候でも迷わず行くことに決めた。

乳頭山はアクセスが良くて日帰りでき、冬でも比較的人が入っているけれども、秋田駒ケ岳と違って人の手が入っておらず、ブナの自然林が残っていて静かな山旅が期待できるはずだ・・・

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田沢湖に止まる新幹線は最初が7時なので、山行では珍しい余裕の出発。割引切符の期間中ということもあり、こまち号は満席だった。車窓から観察していると、関東の冬晴れは日光連山までだということが実感できる。

田沢湖駅のホームではハッピを着た半袖姿の若者が太鼓と笛で出迎えてくれた。寒いのにご苦労様です。去年の10月にテントを張ったガラス張りの入り口をなつかしく通ってバス停へ。乳頭温泉行のバスに乗り休暇村前で下車。

田沢湖休暇村の国民宿舎のロビーで身支度を済ませ、玄関先からスノーシューで元乳頭スキー場へと向う。車道を少し戻ると左手にだだっ広いゲレンデ跡の雪原があらわれ、踏み跡をたどって中へ入る。林道へ続くトレースを離れ、右手の小尾根に取り付く。ブナの樹林を少し登ったところで平坦な所をみつけ、まずは今宵のねぐら作り。ふかふか雪を丹念に整地してテントを張り、昼食の腹ごしらえをする。

初日は時間が中途半端なので、地図にブナ原生林~ブナ樹林帯の静かなコースと書かれている笹森山の中腹までシューハイキングすることにした。小雪模様ながら視界はある。ゲレンデの雪原は膝下ラッセルなのでそれほど大変ではない。まずはゲレンデトップの905mをめざす。雪で押しつぶされそうな東屋につくと、その先にはブナの大木が立ち並ぶ森が広がっており、その変化に思わず歓声をあげる。Yさんは今シーズン初めての雪山でうれしそうだ。

一度谷筋へ下り、尾根に乗ると所々テープもあらわれる。ここはスノーシューの散策コースになっているようだ。すぐに尾根は広がって森のような空間となり、ルートが読みずらいが、大まかに方向さえ確認すれば何所を歩いても問題はない。軽いラッセルをしながら気持ちのいい散策が続く。時折青空も出始め、天候は心配するほどでなくホッとした。950mからしばらくはほとんど高度を上げず、まさに散策状態が続く。ブナ林は完全な原生林ではなく、二次林との混合のようだった。

1100mあたりまで緩やかな傾斜の森が続き、しだいに単調な雰囲気になってきた。できれば笹森山を望む所まで登りたかったが、時間も押してきたので戻ることにした。雪道の下りは膝にもやさしく楽チンだ。1時間もかからずにテンバに戻った。まさに散歩してきましたという感じ。

夜は雪の予報なのでタープを張り、テントで荷物整理してからお茶を沸かして一息つく。久しぶりの冬のテント泊。やはり寒い。あっという間にあたりは暗くなるが、遠くに街灯や宿の明かりが見える。こんなところでテントを張っている自分たちがなんだか滑稽に思えてしまう。温泉に入りに行こうかなどと冗談をいいながら、冬の定番鍋で温まる。外は雪が舞っているが、概ね穏やかな夜だった。

厳冬期用のシュラフにダウンを着込んでも、ぎりぎり寒さがしのげるほど冷え込んだ。朝もシュラフから出るのがおっくうで、だらだらする。のんびりと朝食をとり、テルモスのお茶を用意したりと、時間があっという間に過ぎていく。いつものことだが、冬は起床から出発まで2時間半は必要だ。

そんなわけで出発は7時半。ちょうどバスが来る時間になってしまったので、終点の乳頭温泉までバスで移動。停留所で不要な荷物をとりわけ、デポして出発。大釜温泉沿いの道を孫六温泉へ進む。

さて、どこから取り付いたらいいのか。期待していたトレースはなく、孫六温泉のあたりをうろうとしてしまう。少し戻ると小さな鳥居の手前に何となく踏み跡があった。ここから適当に尾根の取り付きへ。かなり急な斜面なので、最初から腰下ほどのラッセルとなる。こういう時はストックを水平に持ち、雪を崩して段差を小さくすると楽になることがわかった。いったん尾根に乗ると傾斜は緩む。次第に尾根が広がり、ブナの森となる。

正月明けの連休に入った記録はあったが、それから誰も登っていないのだろうか。まっさらの雪原にトレースをつけていくのは気持ちが良いのだが、ほとんどが膝上ラッセルで先が思いやられる。すぐに汗ばんでしまうので、小まめに交代しながらまずは940mのポコへ。

少しくだって登り返すと尾根はさらに広がってブナの大木が点在するようになり、とても美しい。昨日の笹森山のブナ林よりもすっきりとしてきれいだというのが二人の共通の感想だ。わかっていたならこのあたりでテントを張ればよかったと恨めしく思う。そしてこの気持ちはあとでさらに増幅したのだった。

この頃から時折日が射しはじめ、青空がでてきた。樹林が雪原に長い影を落とし、森の雰囲気が一変する。見上げると白い樹氷の枝が繊細なガラス細工のように青空に映え、その美しさは目を見張るほどだ。相変わらず歩みは遅く山頂へは諦め気分も出てきたが、白い森の美しさに心が満たされる。

1100mを過ぎたころからブナ林に代わってモンスターと化したアオモリトドマツが行く手をふさぐように立ちはだかる。歩きやすいルートを選びながらさらに進むと展望が開け、アルペン的な雰囲気となってきた。真っ白なモンスターが林立する雪原となり、まったく違う世界に舞込んだようで、気分も高揚してくる。

真っ青な空に映える純白の稜線を目指してひたすらラッセル。ようやくこれ以上高いところのないだだっ広い雪原となる。田代平の湿原地帯だ。なんという開放的な空間だろう。行く手には乳頭山の山頂も見えてきた。とても穏やかでエレガントな姿だ。当初は悪天で視界がないかもしれないと思っていたので、その姿を見ることができ嬉しい。

あとは田代平山荘に向け、進路を東にとればいいのだが、あまりにも茫漠として少しコースを外してしまう。こんな時はGPSが威力を発揮。すぐに軌道修正するが、なかなか山荘が見えてこない。モンスターの壁を迂回して山頂の方向へ進んで行く。

そしてようやく山荘の屋根が見えてきた。この時の嬉しかったこと・・・急に元気になり、最後のひと頑張りとばかり駆けるように山荘へ。遠くから見えたのは2階部分だったが、近づくと山荘前は除雪されており、雪壁を下って入り口へ。まるでここが目標地点かのような達成感に包まれ、Yさんとお疲れ様の握手。

時間はちょうど1時だった。無雪期のコースタイム1時間半のとこを4時間ラッセルしたことになる。2階から中に入るのも厄介だったので軒下に腰を下ろして暖かいお茶とケーキで休憩。時間があれば山頂へ行けただろうが、せっかく乳頭温泉に来たのだからと、山頂よりも温泉を優先。一休みして戻ることにした。

トレースのある下りは楽なことこの上ない。下りながら良くこれだけのトレースをつけたものだと我ながら感心する。まずまずの天気の日曜日なのに、前にも後にも私たち以外誰もいない美しく贅沢な山だった。

アオモリトドマツがブナに代わるころから急に吹雪き始め、冷たい風が顔を刺したが、少し下ると再び青空。ほんとうに目まぐるしい変わりようだ。気持ち良く雪を踏みながら再び大きなブナの森へ。

次第に日溜まりハイキング風情になったところで一休み。なんだかあっという間で名残惜しい。最後の急斜面を尻セードで滑り降り、さあ次は温泉だ。バス停に近い大釜温泉に立ち寄った。短い時間ながら滑らかな湯につかり、みちのくのブナとラッセルと温泉の山旅を締めくくった。

22日 国民休暇村前11:30-スキー場横のテンバ11:50/12:40-ゲレンデトップ13:30-笹森山1100m15:15-テンバ16:15

23日 乳頭温泉8:20-登山道尾根9:00-田代平山荘13:00-乳頭温泉14:55