ブナの沢旅ブナの沢旅
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2010.11.21
中津川二十女沢~オオユラノ沢
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2010年11月21日

 

遠出の沢旅はシーズンが終わったけれど雪山には少し早いこの時期は、丹沢がプレイグラウンド。夏に大岩沢を遡行したときと同じメンバーの、ウン十年前の「二十女」三人で二十女沢へ行って来た。

丹沢の沢をしらみつぶしに遡行しているマシラさんのHPで二十女沢に美しいナメ滝帯があることを知って以来、いつか遡行したいと思っていた沢だった。けれどこの付近は丹沢でも悪名高いヒルの巣窟。さすがに晩秋ともなればヒルも引っ込んでいるはずだ。

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伊勢原駅でsumireさんの車にピックアップしてもらい、広沢寺の駐車場でみかんさんと待ち合わせて一台をデポ予定の土山峠へ向う。オオユラノ沢を下降して入渓点に戻る予定なのだが、なにかの事情で登山道を歩いて土山峠へ下山した場合に備えて、みかんさんの車を近くにデポすることにした。

宮ヶ瀬湖畔の大門橋近くの駐車場からしばらく車道を歩いて宮ヶ瀬湖に架かる橋の前に来ると橋の前はしっかりとゲートが閉じられ、両サイドも金網が張って簡単に入れないようになっている。けれど少し先に進んで金網がなくなっているところからガードルをまたいで中に入るとしっかりと踏み跡があってゲートの反対側へ行くことができた。

橋の上ではすでに何人かの釣り人が釣り糸をたらしており、この時期はワカサギが釣れるのだという。最近工事が行われたらしい新しい林道が湖に向って下っており、最後は水の中に入っている。とっても不思議な光景だ。

二十女沢に架かる橋の手前で車が数台列をなしてやってきた。一般車は通行禁止なので工事関係者かと思ったが、どこへ行くのかと聞かれ、最近この付近にクマが出没していると注意をうける。

いろいろと話を聞いていると、どうも私たちにこのあたりを歩いてほしくないようだ。さらに聞けば、彼らはどこかの猟友会のメンバーで今回は鹿狩りに来たのだという。鉄砲を撃つから気をつけてほしいと、ちゃんと注意したからねと言われてしまった。なるほど、と思いながら鄭重に御礼を言って先へ進む。

広い車道だが落石のデブリが両サイドに堆積していたり、一ヶ所大陥没していたりと、作りっぱなしのようだ。二十女沢への下降点を探しながら行くと地図で目星をつけていたあたりにステップが切ってある踏み跡があったので、ここから下降することに。ところがそれは間違いで、途中からざれた急斜面となり、冷や汗をかきながらほうほうの体で沢に降り立った。もう少し先の植林帯まで行くべきだった。

降り立った沢は両岸が広がってとても穏やかな雰囲気だ。ここで沢装備をつけてしばらくはゴーロの川原歩きとなる。なにもないのだが、濡れたくない季節にはちょうどいい按配の渓相だ。しばらく行くと下降予定のオオユラノ沢との分岐となる。右沢はナベアラシ沢と呼ばれているようだ。

右へ入るとさっそく小滝があらわれ、沢幅が狭まる。2m樋状滝の上は3mCS滝だ。両岸は切れ立っていて簡単に巻けそうにないが、滝の右壁もホールドが細かく厳しそう。少し手前左の泥窪から小さく巻けるかもしれないと思い少し上がって見るがグズグズで悪く諦める。つぎにみかんさんもトライしてなんとか這い上がるが、滝上に降りるには懸垂が必要だという。

支点となりそうな立木はないので灌木にロープをセット。少し危うげだったが根の堅さを確かめていたので大丈夫だろうと思った矢先、あっという間に5mほど滑り落ち、小さな釜にドボン。支点の灌木が抜けたか折れたようだった。見ていた二人は一瞬フリーズしたが、本人は平気そうで大丈夫だと言う。

前向きに落ちたのだが、どうすれば怪我をしないで着地できるか冷静に考えながら落ちたというので感心してしまう。いずれにしても膝上ほどの釜があったおかげで被害は最小限にとどまり不幸中の幸いだった。大事をとって戻ろうと提案したが、本人はしばらく休んだら普通に歩けるというので遡行を続けることにした。

けっきょく少し戻った右の涸沢を登って小尾根に乗り、ここから反対側に懸垂して滝上先の沢床に戻った。行く手には綺麗なナメ滝があらわれ、ここからが二十女沢のハイライトを予感させた。3-4mほどのナメ滝をいくつか越えると美しい8m滝があらわれる。けれど登れない滝で、両岸とも泥付きの急斜面となっている。右斜面に取り付き、トラバースして滝上にでたが、途中足下が切れ落ちているところがあって緊張した。

滝上は再び穏やかな渓相となり、落ち葉の積もったナメをヒタヒタ歩いて行くと再び前方に2段8m滝が見えてきた。下段6mはツルツルのスラブ滝だ。ここも滝左のグズグズの急斜面を登って巻く。滝はきれいだが、どれも巻きは悪く、けっこう性格のきつい「二十女」のようだ。

600mあたりからは早くも稜線がかいま見られるようになり、色づき始めた樹林の淡い紅葉がきれいだ。しばらく苔むしたゴーロがつづいたあと、小さな二俣の台地に古い炭焼窯跡の石積があらわれた。

昔の人はこんな山奥で作業をしていたのかと感慨深い。沢登りを始めてからは、ときどきこうした昔の遺跡を沢の中で見かけるので、最近は山の暮らしに関心が沸いている。

右へ進んで落ち葉で覆われた3mトイ状滝を越えると次第に水が涸れ、源頭部の様相へ。傾斜もまし、深いV字谷となる。このとき先頭を歩いていたsumireさんが、男の人がいるという。追いつくと単独の若者で、東大ワンゲル部の4年生だという。ゲートで会った若者だった。私たちはアクシデントで時間を食ってしまったのに追いついたのでいぶかしく思ったが、彼も三俣手前のニセ三俣を勘違いして急なルンゼを登り、懸垂2ピッチで降りてきたのだという。

最後の三俣は手前にある三角錐のような大岩が目印となる。左の急斜面をひたすら登っていくと最後は落ち葉の堆積した泥のグズグズ斜面となる。四つん這い状態で這い上がり、鍋嵐山頂直下の鞍部にでた。予定よりも時間がかかってしまったので鍋嵐へは行かず、そのまま尾根を東に進んで下降点へ向かった。

二十女1 二十女2

二十女3 二十女4

 

小ピークを越えると踏み跡は719mピークの南側をを巻いていく。再び尾根に戻ったところがちょうど下降点の鞍部で、斜面の比較的緩いところを滑るように下るとオオユラノ沢源頭部、V字谷の底となった。

とくに悪いところもない谷底をどんどん下って行くと前方が切れ落ちた所となり、いよいよだなと思う。オオユラノ沢には丹沢随一と言われている柱状節理の大岩壁があるのだ。

しっかりとした立木に懸垂支点をとり、まずはsumireさんが下降。30と20mをつないだロープでは完全に下までは届かなかったが、メインの上段と下段の間がテラス状になっていたので問題はなかった。下降して見上げた壁はさすがに迫力があったが威圧感はなく、苔に覆われて美しかった。

オオユラノ沢は岩盤が発達した谷で、水涸れしていたために沢下降というよりは岩場の下降となった。涸小滝はどれも苔に覆われ、尻をついてズリズリ滑り降りるようにして、すべてクライムダウンできた。途中、鳥屋待沢のマク岩のような大きな摂理の岩壁があったりして、水がなくても興味深い下降ができた。

500m付近からは山腹につけられた作業道跡をたどっていくと右俣との二俣となって沢を横切り、その奥には20mはありそうな糸状のナメ滝が楚々と流れていた。そのまま山道を進んでいくと沢に下り、今朝目にした壊れた木枠の道となって一同なるほどと合点。

ここからはあっという間に入渓点に戻り、右手の植林帯に入ると上に林道のガードレールが見えた。作業道をジグザグに登って鹿柵を抜けて林道へ。沢装備をといているとsumireさんがヒルーと叫んだ。スパッツに一匹付いていてみんなでビックリする。これも温暖化の影響なのだろうか。

今の時期は釣瓶落しのように日が短くなっているが、暗くなる直前に車に戻ることができた。最初は短い沢だし、難しいところはなさそうだしと、みんなで軽く考えていたが、終わってみれば予想以上のアドベンチャー。

懸垂支点が抜けてひやりとさせられた場面もあり教訓としなければならない。とはいえ、晩秋の日の短いこの時期にぴったりの、おすすめの沢であることは間違いないだろう。

二十女5 二十女6

大門沢橋手前駐車場8:10ー二十女沢入渓点9:20/9:45ー稜線13:20ーオオユラノ沢下降13:45ー林道15:55/16:20ー駐車場16:57