ブナの沢旅ブナの沢旅
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2009.08.08
笛吹川東沢釜ノ沢西俣
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2009年8月8-9日

 

またしても悪天候による転戦となった。当初は一度天候不良であきらめた楢俣川の沢を、尾瀬の沢をアプローチに遡下降して鳩待峠に戻るという、我ながら意欲的で面白いプランを予定していたのだが、土壇場で天気予報が急変。もう泣きたくなったが、山岳予報でチェックすると関東周辺で晴れマークがついているのは奥秩父だけ。そこで急遽釜ノ沢西俣に変更したのだった。

前夜発のため、すでに出発の当日のことだった。釜ノ沢の東俣は2年前、以前に所属していた会で湯檜曽川本谷を予定していたところ、現地で暴風雨のため転戦して日帰りで駆け抜けた沢。いつかゆっくり沢泊まりで再訪したいと思っていたのだ。

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前夜11時過ぎに塩山駅着。予約したタクシー会社の3階にある仮眠所に泊まり、翌朝西沢渓谷入り口までタクシーで移動。どんよりとした空からはしだいに青空が広がり始めホッとする。とはいえ最新の予報では奥秩父も夕方から雨らしい。なんでぇー。

意外にも「ブナの沢旅」で奥秩父の沢に来たのは始めてだ。鶏冠谷出合手前の川原で沢装備をつけ朝食をとる。少し増水しているようだ。すぐに2パーティと会う。どちらも男性3人組で、東俣の日帰りコースのよう。あっという間に見えなくなってしまった。

左岸沿いの道を進み、ホラの貝沢を渡るところでいったん沢に下り、休憩がてらホラの貝のゴルジュ入り口をのぞいてからふたたび登山道にもどって山の神へ。ここでお参りをしてから沢に下りてようやく遡行開始。

相変わらす水はきれいで、ところどころコバルトブルーの釜があらわれる。左右に豪快な滝を落として出合う枝沢を見上げながら渡渉を繰り返して進む。そして右手にはちょうど3年前に登った思い出深い東のナメ沢の壮大な景観があらわれる。

沢を始めて2年目の新人を連れてきたTさんも、ついて来た私もどっちもどっちというところだろうか。けれど、ほんの1ピッチだけれどリードも経験させてもらい、えへん。

あの時は欲張って翌日も沢の予定を入れていたのだが、時間オーバーで集合時間に間に合わず翌日をキャンセル。それが我が家の運命を分けるとんでもないエピソードへと展開していったのだった。東のナメ沢に行かなかったら、今ごろ私は一人ぼっちになっていたはず・・・などと、あまりにも思い出が深すぎて、つい脱線。

続いて西のナメ沢と、飽きること無い景観がつづく。左岸のスラブ斜面をへつっていくと沢幅が狭くなるところを渡渉しなければならない。ここが心配していたポイントだ。2年前も増水しており、あの時はベテランのリーダーも最初は流されてしまった。

やはり怖くて渡れず、試行錯誤で時間をつぶしてしまう。とうとう諦め、少し戻って右岸の巻き道を探そうとしたところで偶然Gさんのパーティに出会う。最近登山学校を始められたようで、生徒さんを連れていた。事情を話したところ彼らも巻くことになり、樹林に入ったところしっかりした巻き道ができていて気が抜けてしまった。

なあんだ、最初から巻けばよかった。大岩を乗り越すところでアドバイスをもらい、ただで講習を受けちゃったと軽口。魚止滝があらわれ、ようやくここからが釜ノ沢だ。

右岸のスラブ壁から取り付き、木の枝をつかんで岩壁の上にのってからトラバース気味に巻いて滝の落ち口へ。ここが初日のハイライト、千畳のナメの入り口となる。二度目なので最初の感激ほどは無いが、やはりとても美しい。ほんとうはヒタヒタとリラックスして歩きたいところだが、水量が多く気が抜けない。そういえば前回もザブンザブンと歩いたことを思い出した。

7m、5mとあらわれるナメ滝を越え、適当なところでソーメンタイムをとって休んでいると、ツアーらしき大人数パーティがやってきた。このころ雨が降り出したため、少し進んだ平坦な場所でタープを張ってしばらく様子を見ることに。

テンバらしく焚き火の跡もある。あせってもしょうがないと快適なタープの下でコーヒーを沸かしくつろいでいると雨もやんだので、遡行を再開。7m曲り滝は左岸をまく。人気の沢だけあって、ここだけでなく巻き道はすべてしっかり踏まれてわかりやすい。

すぐに両門の滝へ。ものすごい水勢で怖いくらいだ。ここから西俣に入るのだが、雲行きも怪しいし、目の前に滝見亭とでも呼びたくなる格好のテンバがあったので、少し早いけれど行動を終了することにした。さっそくタープをかけてテントを設営。

さすがに焚き火は無理だけれど、とても快適なテンバでエアマットが不要なくらい整地されていた。すぐに雨が降り出し本降りに。ここで行動を終えてよかった。7時過ぎからは雷鳴が轟き始め、そのご音はしないけれどサーチライトで照らされているような閃光が続いた。少々不安を抱きながら就寝。

 

 

 

翌朝雨はやんでおり、出かけるころには薄曇となる。さあ、朝一番の仕事は目の前の30m滝の高巻きだ。右岸の樹林から取り付き落ち口に突き出ている小尾根を越えて沢床に降りると、沢幅が狭まった廊下の中に小滝が続いている。

淵をもつ2.5m滝は右壁の細かいバンド伝いに登れたが、最初にとりついたYさんは手前の急斜面を強引に登って落ち口奥に抜けてしまった。悪いところを登れるのは頼もしいのだが、バンドを見落とさないようにしましょう。

続く2mも両壁ともツルツル状態。朽ち果てそうな倒木を頼りに左壁を登ったのはいいものの、落ち口の上が滑った傾斜の沢床で下りることがままならない。増水のせいか、ちょっとしたところで苦労することが多い。

いろいろ粘ってみたが時間がたつばかりでギブアップ。こんどは右手のスラブ斜面にこわごわ取り付いて木の枝をつかみ、小さく巻いてなんとか通過することができた。ヤレヤレ、であった。

この先からは黄色味を帯びた岩盤のナメが続き、とてもいい雰囲気となる。長いナメ床を慎重に歩き、6mナメ滝を左から越えると渓相が開け、意外と悪かった小滝帯から解放される。しばらくはゴーロ歩きとなるが、しょっぱなから緊張させられたので、ホッと一息つくことができた。

前方には稜線が見渡せるようになり、ゴーロ歩きに飽き始めるころ前方に多段7m滝が見えてきた。このあたりからは奥多摩の沢の風情で威圧感もなく、簡単な滝登りが楽しめるようになっていく。きれいな5m斜滝が見えてきたところが1880mの二俣だ。

左沢の奥には30m大滝が見える。左沢が本流らしいがミズシに抜ける右沢へ入る。5m斜滝を登るとさらにつぎつぎと容易なナメ滝が連瀑となってあらわれ、気分が一気に高揚。

去年遡行した安達太良湯川の天の川のようなナメ滝群を小ぶりにして引き伸ばしたような光景で、このきれいなナメがずっとずっと続くのだ。まさに西俣のハイライト。ここを歩くだけでも西俣に来た甲斐があったねと満面の笑顔となる。ここは水量が多いことが幸いしたのかもしれない。

延々と続いたナメとナメ小滝群が一段落すると、しばらく平凡な様相となる。左岸に枝沢を分けるとふたたび小滝となり、両岸が開けた前方上に滝が二つ並んでみえた。左の2段5mを快適に越えると、さらに多段10m曲り滝がフィナーレを飾るかのような迫力でどーんと構えている。

近づくとどこからでも登れそうだ。左壁から取り付き、あえて水鉛を登る。滝はこれが最後。好感触の西俣も、2050m付近に立ちはだかる大倒木帯でサドンデス。倒木帯を巻いて進むと奥の二俣となる。

どちらの沢も依然水量豊富だ。右沢を詰めてミズシの支尾根へ出ることにした。あたりはシラビソの原生林で地面や岩はすべて分厚い苔に覆われていて緑の絨毯のよう。しばらく登ると水が涸れたので靴を履き替え、コンパスで方向を確認しながら歩きやすそうな斜面を拾っていくとしっかりした踏み跡があらわれ、支尾根に導かれた。

地図にはない小道をたどって着いたミズシの山頂は樹林の中で、2m四方の切り開きの平地に三角点と朽ち果てそうな木の標識があった。立派な登山道をたどって甲武信岳へ登るが、霧が出始めて山頂の展望はなかった。

誰もいない静かな山頂で、思いのほか大変だったけれど充実した遡行にしみじみする。さすが百名山。立派な標識の前で証拠写真をとって出発する。甲武信小屋にはウッドデッキ風のサンテラスが新設されテーブルが並べられていた。戸渡尾根から長い長い徳ちゃん新道をくだって林道に降り立ったのはすでに6時半。

携帯でタクシーを呼んで西沢渓谷入り口に戻ると、すでにタクシーが待っていた。出発当日に急遽変更した沢だったし、増水に苦労したし、最後は疲れ果ててしまったけれど、それだけ充実した沢旅となった。

 

 

 

8月8日 西沢渓谷入口5:40-鶏冠谷出合6:15/7:00-山の神8:30-釜ノ沢出合11:40-7m曲り滝前12:40(休憩と停滞)/14:15-両門ノ滝前テンバ14:40

8月9日 テンバ6:30-二俣10:30-奥の二俣12:15/35-ミズシ13:55-甲武信岳14:30/55-戸渡尾根分岐15:25/35-西沢渓谷入口18:50