ブナの沢旅ブナの沢旅
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2018.04.10
山毛欅沢山〜恵羅窪山
カテゴリー:雪山

2018年4月9~10日

このところ展望の山歩きが続いたので、南会津のブナが恋しくなった。そこで1年ぶりに山毛欅沢山から山毛欅ロードをたどることにした。スキー場の閉鎖にともない、4月からは会津高原尾瀬口駅からのバスが午前中は減便となり11時台までない。2日間の日程といっても帰りのバスも早いのでコースは限られるが、ブナの尾根を歩いて泊まることができれば、それでいいと思った。

相変わらず貸切状態のバスで鳥井戸橋で降ろしてもらう。今年は雪融けが早く、あたりは例年のゴールデンウィークの時のよう。深瀬沢にかかる鉄板の橋を渡り、杉林の中の薄い藪尾根を這い上がる。傾斜が緩んだ尾根を進むと古い小さな石の祠があらわれ、久しぶりの対面を喜ぶ。最近は雪が付いている時に歩いていたので見ることはなかったからだ。しゃがんで祠をよく観察すると、天保四年という文字が見えた。そしてこの出会いにちょっとした因縁を感じた。

3月末に雨ヶ立から巻機山への上越国境稜線を歩いた後、塩沢の鈴木牧之記念館を訪問した。今とある理由でマイブームになっている「北越雪譜」の出版に至る経緯を調べているのだが、それが天保6−8年頃、江戸時代後期の1830年代半ばのこと。ちょうど同じ時期に、どういう経緯かわからないけれど石の祠がこの小さな尾根の上に設けられたという、かなり思い込みの強い繋がりを感じたのだった。

尾根には次第に雪が付きはじめ、900m付近からの急斜面を登ると尾根が広がって雰囲気がブナの山となる。初日の天候が芳しくないのは織り込み済みだ。標高を上げるにつれ雪が舞い始める。この雪が翌朝霧氷になってくれないかなと淡い期待をいだいて進む。1300mを越えると尾根はさらに雪原台地となり、悪天候なりにとてもいい雰囲気だ。舞い散る雪で少し汚れていた表面がみるみるきれいになっていくのが感じられた。そして風もでてきた。

山毛欅沢山の稜線はさらに風が強そうだ。予定を変更して稜線まで進まずに1380m付近の平坦地にテントを張ることにした。2012年の4月下旬に初めて一人で来た時に泊まった場所だ。遠くで吹き荒れる風の音が絶えず聞こえていたが、夜はそれほど風に煽られることもなかった。夜中には星がみえ、翌日の好天が約束された。

 

山に来るたびに日の出の時間が早くなっていることを実感する。テントはそのままにして恵羅窪山かその先のポコあたりまで、のんびり歩こうと6時前に出発する。城郭朝日山への道中1446mポコまでは、さらに風格のあるブナ林の穏やかな尾根歩きが続くからだ。

前日の降雪で尾根は新雪の薄化粧がほどこされとても美しい。これで霧氷がみられたらなあと、未練がなくはないけれど欲張ってはいけない。もう何度も歩いているところなのだが、やっぱりいいなあ、こういう雰囲気好きだなあと言いあう。左手の西側の展望もよく、三岩岳から窓明山から高幽山から丸山岳の未だ真っ白な山稜を、憧れの気持ちで眺めながら進む。そして次はあの山へと想う。そういえば去年もそうだったのに、時間が取れずに行きそびれてしまった。

幾つかのポコを越え1451mで西に折れる尾根に乗ると白い三角形が特徴的な城郭朝日山が、重なり合う山並みの上から頭をのぞかせる。今年は行かないけれどまた来るからね、と思う。恵羅窪山は小さなずんぐりとしたポコなのだけれど、三角点があって山名がついている。手前の1451mポコの方が標高が高いのにきっと理由があるのだろう。以前麓の大原集落のお年寄りと話をしたとき、城郭朝日山はしらなかったけれど恵羅窪山のことは知っていたことを思い出した。

 

 

恵羅窪山の山頂でザックを降ろし、ゆったりとした時間を過ごす。まだ9時前なのでもう少し先に進むこともできたが、中途半端に進んでも未練が残るだけなのでここで引き返すことにした。南会津の山にどっぷりと浸かっているという感触が脳をとろけさせ心身を癒してくれる。

さあ、戻りましょうと腰をあげる。そこで山頂脇の細いブナに白いテープが巻いてあることに気づいた。見ると2015年4月19日とある。なんとわたしが一人で城郭朝日山に行った時ではないか。たぶん1日違いでニアミスをした「激藪さん」のものだろう。控えめな証だったので、そっとしておく。

 

早朝はマイナスになるほど気温も低く快適に歩けたのだが復路は気温がぐんぐん上がってきた。二つ目のポコを下ったあたりで、先行していた仲間が誰かと話を交わしている。最初は、この時期に天気もいいので他にやって来る人がいても驚くほどではないと思ったのだが、近づいて挨拶をして驚いた。「アコさんですか」と聞いてきたその人は、なんと昨年9月に泙川三俣沢のス沢出合であったNさんだったのだ。あまりに奇遇な、うれしい再会だった。

なんと早朝に鳥井戸橋を出発し、これから城郭朝日山を往復するという!トレースがあって、橋の広場に車がとめてなかったことから、ひょっとして(車を持たない)私たちではないかと思ったそうだ。しばし立ち話に花を咲かせる。ブナの沢旅を知ったのは、2009年の4月の同じ日に丸山岳に立ったからだという。Nさんは山頂に泊まり、私たちは火奴尾根から昼前に山頂に立った。ふだん地味な山域が多いので泊まりの山行で人に会うことは本当に稀なこと。つづけて同じ人に会うというのは何かのご縁があるのだろう。やはり山の嗜好が似ていると、きっといつかどこかで巡り逢うものかもしれない。

時間がたっぷりあるので、いつもは素通りしてしまう小手沢山に立ち寄る。実はほんの少しルートから外れているだけなのだが。なぜか山頂だけが5本のダケカンバに囲まれていて、その明るい樹肌は遠くから目印となる。東端から見渡すと塩ノ岐沢の源頭部に緩やかに何本かの枝尾根が伸びている。昨年城郭朝日山から古町丸山をたどった時、地図を見て、塩ノ岐沢の源頭部に下って対岸の尾根を登り返せばかなりショートカットできると思ったところだ。

テン場にもどり、帰り仕度をする。なんだかあっけない気持ちになり、もう1泊しようかなどと冗談をいいあう。次回は長い縦走を予定しているので、まあ今回はおとなしく帰ろうと気持ちをおさめ鳥井戸橋にもどった。沢で泥だらけの靴やアイゼンを洗ったりフキノトウを摘み、再び誰もいないバスに乗った。

 

 

鳥井戸橋12:30ー1380m幕営地16:30//5:40ー恵羅窪山8:25/9:00ー小手沢山10:50/11:10ー幕営地11:50/12:30ー鳥井戸橋14:50

2015年4月17~19日の記録

2017年2月27日〜3月1日の記録