ブナの沢旅ブナの沢旅
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2017.07.19
麝香熊沢
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2017年7月19-20日

 

「ブナの沢旅」を立ち上げて初めて沢泊りをした東北の沢が麝香熊沢だった。あれからちょうど10年になる。振り返れば、まだ経験も浅いころから随分と地味な沢を選んでいた。そして10年経ってもその嗜好は変わっていない。ひたすらメローな、ナメとブナが豊かな沢を求めて沢旅を続けてきた。

とくに10年を意識したわけではない。あの時は稜線に抜けてからガスで何も見えず栗駒山はパスして下山したため、以前からもう一度晴れている時の景色を見たいと思っていたのだ。

地図を見ると、麝香熊沢の遡行といっても、入渓地点の沢は母沢で、赤沢出合から熊ノ沢となり、さらに上流の二俣からようやく麝香熊沢となるようだ。10年前にこの沢を選んだ時も、一つには麝香熊沢という名前に惹かれたからだった。由来はわからないのだが、下山後に立ち寄った湯浜温泉でその歴史を知り、ヒントが得られた。

古川駅から湯浜街道(398号線)を湯浜温泉へ向かう。駐車場から温泉へ続く山道を下るとコンクリートのミニアーチ橋が架かる沢に降りる。ここから沢に入る。しばらくは大岩のゴーロ歩きだ。最近は、重いザックで不安定な石ころの沢を歩くとやたらとふらつき、年々バランスが悪くなっていることを痛感する。沢旅にゴーロ歩きはつきものなのに、先が思いやられるなあ。

赤沢を分け熊ノ川に入ると、少し変化があらわれ、ゴルジュとなる。左岸をへつることができそうなのだが、取り付きの一歩で足が出ず釜に落ちたくないので、今回も左岸から高巻く。ただ10年前よりも藪が薄くなった印象でとくに苦労することはなかった。

ふたたびゴーロとなり、こんなに長く続いたかなと思うころ、沢幅いっぱいのナメがあらわれる。ようやく記憶にある麝香熊沢になったと喜ぶ。その後もゴーロとナメ小滝を繰り返すが、大岩を乗り越すのに手間取ったり、ふらついたりと10年の歳月を感じる。以前のコースタイムもあてにならず、やっとのことで待望の960m二俣に着いた。とても美しいところだ。

ザックを置いてしばらく休み、パンをかじりながらナメ滝が続く左俣に入ってみる。数個のナメ小滝を登ってもテン場になるような平地はないことを確認して二俣にもどる。ここまで2ヶ所小さな平地があったがあまり快適そうではないので先に進む。ここからがほんとうの麝香熊沢だ。

数メートル規模の滝らしい滝があらわれるが、すべて快適に登ることができる。そろそろ時間も押してきたのでテン場を探しながらの遡行となる。するとうまくできているもので、1030m左岸にこれぞ麝香熊のザ・テン場という場所があった。今シーズンはまだ未使用のようだが、そこそこ整地されている。草を刈ったり多少石を除いたりしてさらに快適なテン場に仕上げた。マイスタンダードでは、焚き火ができる沢沿いの場所としては唯一無二だろう。

あえて難点をいえば、焚き火用の枯れ木が少ないことだろうか。それでも周辺のものを大方集め尽くし、予想以上にいい焚き火ができた。今年は沢で虫に刺されることが多かったので用心していたが、遡行中もテン場でも虫はほとんどいなかった。翌日は朝から麝香熊のハイライトがまっていると期待しながら初日を終えた。

 

翌日は早朝から晴れている。昨晩は大岩ゴーロ歩きに疲れたのか、珍しく夜中に目覚めず朝までよく眠れた。今度こそは快適な稜線歩きが出来ると期待しながらテン場をあとにする。

出だしは再びゴーロ歩きなのだが、1100m付近から突然渓相が一変する。同じ沢とは思えないほどの変身だ。沢幅が広がり、目の前は優雅なナメ滝の大舞台となる。いよいよハイライトの始まりだ。美しいナメとナメ滝、登れる数メートル程の滝が続く。

夢のような遡行を2時間ほどじっくりと味わうと、ゆるやかな小川のような平瀬となり、稜線を見渡す。両岸がひらけて草地となり、花が点在する。1250m付近には草地の平坦地があり、10年前にテントを張った場所をなつかしむ。それにしても、前回は出発時間が同じで初日にここまで遡行したのかと自分たちの「健脚ぶり」に驚く。と同時に、最後のハイライトを余裕をもって楽しめたのだろうかとも。

沢は源頭部の様相となり大岩ゴーロ滝をかけながら高度をあげていく。1270mの三俣には左に古い赤テープがあった。左へ進む。このあたりから稜線に出るまでが読図の要注意点だ。できるだけ最後の藪漕ぎを少なくするルートをさぐりたい。前回よりも早く沢をはなれて笹の斜面に上がるとすぐに草地となる。今年は雪解けが遅かったのか、まだ水芭蕉が咲いていた。

地図にはない小さな沢型をいくつかたどりながら北へ向かい、最後は15分ほど藪をこいで登山道にでた。前回よりも藪こぎの時間は短かったのでまあうまくいったのではないかと思う。

登山道にでるとやはり暑さがこたえる。とくに1573m展望岩頭まではかなりの急登で、栗駒山までたどり着けないのではないかと思うほど辛かった。灌木帯をぬけると北側の景色が見渡せるようになり、足を止める。地図の龍泉ヶ原の湿原マークが気になっていたのだ。須川側から沢をたどって行くことができたら面白そうだ。

須川コースとの分岐に来ると急にハイカーで賑やかになる。ザックを降ろし、空身でおやつと飲み物をもって栗駒山頂へ向かう。多くの人がくつろいでいた。登山コースがたくさんあって地図も赤線で賑やかだが、ブナの森と湿原が多いゆったりとした山並みには心和む。

分岐の天狗平にもどり、湯浜コースに入ると再び誰もいない静かな山となる。前回はガスで何も見えなかったが、虚空蔵山を回り込んで小檜沢源頭部を見下ろしながら進む。途中の池塘群にたちよるとワタスゲがたくさん咲いていた。

遮るものがない草原地は風がやむととても暑い。前回ガスの中で雪渓に突き当たったところは小さな沢が流れていた。ここも雪解けから間もない様子で水芭蕉やショウジョウバカマがたくさん咲いていた。沢におりて顔を洗い水を補給する。

下るにつれブナが高く端正になり、見事なブナ林の道となる。けれども長い。最後は500mごとにあらわれる標識で残りの距離を数えながら淡々と下って湯浜温泉三浦旅館の敷地に降り立った。温泉に入り、休憩室に行くと湯浜温泉の由来を記した古文書が掛けてあった。興味深く読むと、三浦旅館の先祖が熊狩りに来て熊を見つけ、追いかけたところ温泉を見つけたので開こうとしたが、山深く悪天候で断念。明治維新後再度官許をえて村人有志と温泉を開き、その後客が来るようになった、と。熊ノ沢の由来でもあるのだろう。

10年ぶりに歩いた麝香熊沢。美しいナメ沢は記憶以上だったが、はたして長すぎるゴーロ歩きを差し引いても余りあるほどかどうか。評価はわかれそうだ。けれど沢旅から帰るといつも思う。どんなに遡行中はぶつぶついっても、よかった記憶しか思いだせないのだと。

 

入渓点10:30ー赤沢出合12:10ー二俣15:40/15:55ー1030mテン場16:45//6:45ー登山道10:15/10:45ー栗駒山12:05/12:20ー湯浜温泉16:10(10分以下の休憩は省略)