ブナの沢旅ブナの沢旅
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2017.06.29
八幡平澄川
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2017年6月29日

 

松川温泉は八幡平を歩くにはとても便利な立地で、四方八方に登山道が延びている。前日は赤川から三ツ石山に登り、三ツ石山荘から下るコースを歩いた。地図をみると下山路を隔てた東側にもう一本緩やかな水線の澄川がある。こちらは赤川より少しだけ沢登りの気分を味わうことができそうだった。

昨晩お世話になった松川荘を出発する時、宿の女将に行き先を聞かれたので澄川を遡行するというと驚かれる。そして澄川には熊がいるとか、滑っているなどのアドバイスをうける。あまりに心配されたので、下山したら連絡すると伝える。

地熱発電所を左手に見ながらしばらく車道を歩き、分岐を砂利道の右に進むと沢が近づき、早速巨大堰堤があらわれる。そのまま右岸の明瞭な巻き道をへて沢に下りる。荒れたゴーロ沢を進むと再び巨大堰堤となる。川の規模と不釣り合いであり唐突な印象だ。まあ想定内なので淡々と巻いて沢に戻るとようやく普通の沢らしくなる。少し奥に入ると樹林に覆われたしっとりとした雰囲気。といっても苔岩の小滝がつづくゴーロの沢だ。

登山道を歩くよりはいいかな、という程度の気持ちだったので、突然前方に苔むした幅広階段状の滝があらわれた時は素直に喜んでしまう。渓相が一変し、まるで醜いアヒルの子が白鳥に変身したようだ。苔の緑と白い水流、青空のコントラストに思わず頬がゆるむ。

さらに10m大滝がつづく。水量が多く見ごたえがある。直登はできないが右壁が登れる。フレーク状の岩が脆いので途中から尾根に逃げて滝上へ。するとさらに滑滝が続いている。これも直登は恐ろしい。左岸の岩棚をへつるように登るが上部で足場が途切れたので、土壁を這い上がって高巻く。

 

 

沢にもどってほっとするが、ここが最初で最後の見せ場だった。その後は小滝とゴーロの繰り返し。ただ全体に苔むした岩がしっとりとした雰囲気を醸し出している。名前が表すように水は澄んで冷たい。

1150mの二俣は右俣に入り、少し進んだところから沢を離れてヤブをかき分けながら湿原を探す。数分ほどで予想以上に広い空間に躍り出る。沢からは想像できない広い草原が広がっていた。かつては池塘もあったのだろうか。ワタスゲが点在していたが、花はこれからなのかもしれない。レンゲツツジが草原とヤブを分ける目印のように草原を囲んで色彩をそえている。沢をたどって湿原へ、というのは沢歩きの大きな楽しみであり、ブナの沢旅の一つのテーマでもあるのだ。

湿原を横断して反対側の藪に入るとあっという間に沢にでた。枝沢らしかったので少し沢を下ると左俣の本流だった。後半は小さな平瀬の沢となり早々と水も涸れる。淡々と進むと再び水が出始めた。水は登るにつれ多くなったのできっと水場が近いに違いない。少し冗長に感じ始めた頃、沢が行き止まりのようになり、水場だった。

パイプを通して勢いよく水が流れている。立派な柄杓も置かれていた。火照った顔をあらい、冷たい水でのどを潤す。とても美味しい水だった。

元々の期待値が低かったこともあり、予想以上に楽しめた。途中の湿原が点数をあげている。最後はすっきりと水場で終了というのもいい。靴を履き替えひと登りすると水場の標識が立つ登山道だった。

 

緩やかな樹林の中の登山道を進む。樹林帯をこえると展望がひらけ、岩手山が近い。そもそもこれからたどる登山道は岩手山への道なのだ。昨日から随所に見られた大好きなシラネアオイやキバナスミレが沢山咲いていて目を楽しませてくれる。

姥倉山直下の急登をやり過ごすと広い尾根に乗り上げる。岩手山への分岐点だ。荒涼とした雰囲気となり、登山道の真ん中に注意を喚起する看板が立っている。姥倉山へ向かう道には高温で軟弱な熱泥箇所があり、陥没注意と書いてある。実際、煙が吹き出ている所があり、大丈夫だろうかと恐ろしい。

姥倉山山頂は小さな切り開きがあるだけで展望がないが、少し下ると昨日歩いた三ツ石山からの縦走路が手に取るように見渡せる。心休まるたおやかな山並みだ。とりたてて展望の華やかさはないが、人生の終盤に差し掛かろうとしている身にふさわしい山に思えるのだ。

コイワカガミとマイヅルソウに彩られた登山道を下り、最後はブナ林を下って朝右へ進んだ分岐へもどった。

八幡平といえば、葛根田川や大深沢などが全国区の沢として人気があるし、ブナの沢旅でもすでに遡行している。今回日帰り二本だてで松川温泉起点の赤川と澄川を歩いてみた。よく使われるフレーズでいえば、わざわざ遠方から行く沢ではないかもしれない。けれど考えてみれば、はやぶさを使えば、なんと家から奥多摩の沢に行くよりも時間はかからない!今回は4日間新幹線を含めて乗り放題のフリー切符を活用して節約もできた。そんなわけで、私にとっては十分に(わざわざ)出向いていく価値のある2日間の沢旅となった。地味だけれどそれなりに味わいのある、こういう沢をこれからも探していきたいと思う。

 

松川温泉7:45ー澄川入渓点8:10ー湿原11:10ー登山道13:00ー姥倉山13:55ー松川温泉15:45