ブナの沢旅ブナの沢旅
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2015.11.03
四万川本谷右俣
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2015年11月3-4日

 

今年の夏は山のことを一旦忘れてやるべきことに取り組んだため、例年に比べて沢に行く機会が少なかった。最近は以前と違い、どこでもいいから沢へ行きたいという気持ちはなくなっているが、沢シーズンの最後は沢に泊まって焚火をして締めくくりたいと思った。

日程がスケジュール調整の関係で11月にずれ込んでしまったため、行き先に悩んだ。東北の沢はもう遅いが、かといって近場で沢納めというのも寂しい。そこで、少し遠くてまだ行ったことがなくて無理なく1泊2日でいけて難しくない沢ということで四万川本谷を選んだ。地味だけれど渓相がきれいな沢として頭の片隅にあったからだ。ただ、下流部はゴルジュと釜が続くとある点は気になったが、なんとかなるだろうと思った。

前日は雨で肌寒く、こんなときに沢に行くなんてと思いながら出発する。吾妻線に乗るのは初めてだった。中之丈駅で待ち合わせ四万川ダムへ向かい林道ゲート前で仮眠。早朝ダム奥の林道へと歩き始めた。遥か下に見下ろす四万川は青々として紅葉に彩られ、美しい景観を見せている。橋を渡り、廃道化した林道を進むと途中からトロッコ軌道跡の山道となる。最初の左岸枝沢手前から沢におりる。幸いなことに気温は高めで沢に入っても特に水の冷たさは感じない。

 

 

すぐに沢幅が狭まり深い廊下の先に小滝がみえる。右岸の傾斜のあるスラブにはトラロープが垂れていたが、腰までつかって取り付こうともたついているうちにさすがに水の冷たさが堪えてきた。左岸のトロッコ軌道跡に上がって巻くことに。この安易な高巻き癖があとで大変なことになることを、このときはまだわからなかった。

沢に戻ると穏やかな平瀬となり、晩秋のしっとりとした渓相が沢収めにふさわしい雰囲気をかもしだしていた。しばらくは紅葉に見とれながらのんびり進むとゴルジュとなり、手前の釜が深くてとりつけない。ふたたび軌道跡に這い上がって進むと前方が崩壊して進むのが危険なため適当な所から懸垂して沢にもどった。

下流部はゴルジュと平瀬が交互にあらわれる。ずっと平瀬が続けばいいのだが、それでは一般の遡行価値がなくなってしまうのだろう。つぎのゴルジュは右岸の壁をなんとかへつって突破した。少し進むと苦労しそうな釜がでてきた。右岸を見上げると苔むして自然に同化した石垣がみえる。軌道跡は左岸についているはずなので興味も手伝い這い上がると確かに軌道跡。これはよかったと進んでいくと前方が途切れ、対岸に道がつづいて見える。20mほど眼下には土台の石垣。今はその片鱗さえもないが、ここには木橋がかかっていたようだった。

急斜面のルンゼをクライムダウンして沢にもどる。なんだかトロッコ軌道の廃道めぐりをしているようでなさけない。。平瀬で一息ついて先へ進む。

両岸の側壁がたったゴルジュは進むしかなさそうだったが、腰上まで水に浸かって体が浮きそうになったところで怖じ気づく。やっぱり水に浸かりたくないと少し戻って強引に高巻く。軌道跡はかなり高い所についており、ここでもしばらく進むと今度は先がすぱっと切れ落ちて進退窮まる。Oh my God !

今回持って来たのは20mの補助ロープだけ。ハーネスも省略してスワミベルトだ。なんとかロープが届きそうな場所を探しながら懸垂を繰り返し、結局4回目でやっと沢に下りることができた。半分は空中懸垂となり、スワミベルトではさすがに苦しかった。晩秋の沢収めというのに、どうしてこんなアドベンチャーになってしまったのか。我ながらあきれてしまうが、まあこれが自分たちの実力ということなのだろう。

ここですっかり時間をくってしまったので、その後は水線通しで踏ん張ることに決めた。荷揚げをしたり、ショルダーを多用して頑張ればなんとかなるものだ。というのも、その後は幸い腰以上の深いゴルジュはなかったからだが。。。

900m付近からようやく穏やかな平瀬がつづくようになり、両岸も低く緩やかな紅葉した樹林帯となる。当初予定していた二俣まではまだ遠い。無理せずにテンバを探すことにした。板椿ノ沢出合いの台地は増水に堪えられそうにないが、今夜は雨が降らないという確信をもってザックを下ろす。

無心に整地をして枯木を集め火を熾す。この時間が好きだ。一仕事をして燃え盛る焚火のもとでビールで乾杯すれば、大変だった一日も楽しい記憶に昇華する。自分たちのドジぶりを笑いながらも振り返り、やっぱり水に弱いからだといつもの結論。水に弱い沢やなんて変だけど、沢だっていろいろある。

 

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夜中に目覚め、これからのルートをあれこれ考えた。稲包山経由で車にもどるのは現実的でない。稜線から湯ノ沢へ下って登山道を三国スキー場跡へ下山することに決めた。車の回収がやっかいだが、それが一番安心安全な対応策だ。

翌朝は朝から快晴となる。ルート変更を決めたので気が楽になった。「関東周辺の沢」の遡行図では、先にもゴルジュがあるように書かれていたが、枝沢の位置がずれていて翌日はなにもなかった。大門ノ沢をこえると両岸が河岸段丘となり、いたる所テンバ適地となる。

イモリ沢手前にある幅広5m滝を右岸から巻くと沢はさらに開け、真っ青な空と太陽の光が気持ちいい。枝沢を一つずつ確認しながら進んで行くと沢幅が狭まりゴルジュの奥に2段10mの滝が見える。手前の釜も深く近づけない。少し戻って左岸の斜面から巻く。

顕著な二俣に見えるコシキ沢出合いを右に進み、つぎの二俣で休憩する。これまではほとんど標高を上げていないが、二俣を右俣へ進むと小滝がつづいて斜度が増す。所々倒木帯があり、荒れた雰囲気のガレ沢となる。この辺りまで来ると消化試合の気分で淡々と稜線をめざす。

地図では稜線まで明瞭にみえた沢型が消え、笹薮となる。ネマガリ竹のような手強い薮ではないのが救いだ。1563mの東側鞍部をめざして登り詰め、そのまま笹をこいで反対側の湯ノ沢に下る。

湯ノ沢は大岩ゴーロがつづき、疲れも手伝って長く感じられた。顕著な滝は3条4m滝だけで、簡単に巻き下る。登山道が交差する地点が地図とだいぶずれていたが、沢に小さなケルンと刈り払いされた登山道を見つけたときはホッとした。

沢装備をとき、登山道を下って三国スキー場跡へ。ここでタクシーを手配してさらにてくてく林道を下って行くとタクシーがやって来た。あたりは薄暗くなり始めている。やれやれと車に乗り込み、車が待つ四万川ダムまで長く高額のドライブに身を任せた。

 

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ダム林道入口8:15−オオマノ沢−板椿ノ沢15:40/6:30−二俣9:40−稜線13:40−湯ノ沢−登山道交差地点15:30−登山口−三国スキー場跡16:20