ブナの沢旅ブナの沢旅
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2015.09.22
東黒沢~ウツボギ沢~ナルミズ沢
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2015年9月22-23日

 

シルバーウィークは好天が続いたので予想はしていたが、上毛高原駅では谷川岳ロープウェイ駅行きのバス停に登山者が殺到。臨時バスが2台もでる盛況ぶりだった。とはいえ土合橋で下車したのは私一人だけで、谷川岳の人出の多さを想像しながら出発する。

いつもなら堰堤のあたりから入渓しているが、この辺りは荒れ気味であることや、出発の出遅れもあるのでさらに山道をすすむ。沢の様子を見下ろしながらナメがきれいになったあたりで沢に降りるとハナゲの滝はすぐそこだ。

久しぶりのご対面だが、いつみてもこの景観は格別だと思う。歩き始めた時間が遅いせいか誰もいなくて淋しい。単独の時は他に入渓者がいると安心なので連休を選んだのに先行者の気配もない。水量はほぼ平水だったが、思ったよりも滑るので上部は巻き道に逃げた。久しぶりの単独遡行なので勝手知ったるナルミズ沢に決めたのだが、以前よりは明らかに臆病になっている。

白毛門沢をわけると穏やかなナメ沢となり、木漏れ日を浴びて美しく輝いている。しだいに気分もリラックスして、少しこわばっていた心と体がほぐれて来るのがわかる。

最初に来たときは足が着かずにキャアキャアいいながら泳いだ廊下は当然巻くつもりでいた。ところが様子が変わっていて膝下程度ですんなり通過できて拍子抜けする。

滝はすべて直登できるしむずかしい所はなにもない。長いナメも荒れることなく以前通り。ブナ林はいまだ青々としている。楽しい時間はあっという間に過ぎる。最後の詰めも以前より踏み跡が明瞭になっている。稜線に乗ってからすこしヤブをこいで窪へ下るとすぐに水が出て来た。あとはダラダラ下ればいい。

ウツボギ沢本流を少し下るとソロテントが二つ張ってあったが、洗ノ沢の増水を体験した後なので、自分ならパスするような場所だった。ナルミズ沢に合流する手前の広場にもテント。午後のこの時間にテントがあって留守ということは、朝日岳から下って戻り、宝川に抜けるのかな、などと思いながら先へ進む。

ナルミズ沢はしばらくゴーロが続く。沢幅が広くて開放的なのだが、思った以上にゴーロが長い。人の記憶は当てにならないもので、いい所しか覚えていないと内心ブツブツ。こんな風に感じたのは疲れが出て来たからなのだろう。

最初は、3年前と同様奥の二俣を右俣に入ったキャンプ広場のようなテンバまで進む予定だった。けれど足取りが重くなり、魚止の滝を越えたあたりからテンバを探し始める。そして二俣手前の左岸の草地に目がとまる。沢から少し高い所にあるが、隣に枝沢の小滝が落ちているなかなかの場所だ。

ナルミズ沢は人気の沢なので枯木の確保がむずかしく、焚火はあまり期待してこなかったが、焚火の跡もあり、背後にある樹林の枯枝を集めて火を熾すことができた。夜になるとさすがに冷えて来たのでなおさら焚火が嬉しかった。独りでビールとつまみで食事なんてわびしいようだが、焚火はそんな気持ちを暖めてくれるに十分だった。

narumizu1 narumizu2

翌朝歩き始めるとすぐに二俣となり、右俣へ入る。この辺りからは気持ちのいいナメが続き、ナルミズ沢の心象風景となる。ただ黒い苔は滑りやすく、できるだけ乾いた岩を選んで歩いた。

いくつか滝がでてくるが、小さく巻いたり水際を直登して越えて行く。とくに悪い所はないが、やはり前回よりも臆病なことを自覚する。雲で覆われていた空もしだいに晴れ渡り、大烏帽子山が見えて来た。沢は源流の趣となり今にも草むらに消え入りそうだ。水が涸れる手前で水を汲み、長い下山路にそなえる。

さあいよいよフィナーレの「天国へ続く小径」だ、と思うと同時になにか違う。記憶ではずっと続くはずの径が以外と短いのだ。一瞬途中でルートをそれてしまったかと草原を見渡すが、それらしいトレースはない。気を取り直して緩やかに鞍部に乗り上げ、大烏帽子山を見上げる。

4月の末に白毛門から巻機山を縦走したとき、この鞍部で腰を下ろし、ナルミズ沢のメローな源頭部に魅せられたことを思い出す。あのとき夏の姿をもう一度見に来たいと思った。そこに今自分がいる。

国境稜線はうっすらと紅葉が始まっていた。ジャンクションピークまでは笹がかぶった踏み跡のアップダウンだ。この踏み跡も最初にたどった数年前よりもわかりやすいと感じたのは馴れて来たからだけだろうか。登につれ大烏帽子山の向こうにずんぐりとした檜倉山、どっしりと大きい柄沢山、さらに先には巻機山の山並みがあらわれる。そしてこの稜線を雪を踏んで一人で歩いた自分にあらためて驚く。

沢遡行のあとの登りほど辛いものはないといつも思う。最初からペースが上がらずジャンクションへの最後の登りでへとへとになる。縦走路にでてからも静かさは相変わらずで、単独の男性と2回すれ違っただけだった。

朝日岳までは短いながら至福の時だった。緩やかに広がる尾根から右手に湯檜曽川、左手にナルミズ沢の穏やかで牧歌的な源頭部を見下ろしながらの稜線漫歩。とくに湯檜曽川側は紅葉がとてもきれいで、まだ青々としているナルミズ沢側と対照的だった。

朝日岳からが長かった。すでに不調なのは明らかで、歩き通せるか不安がつのる。携帯電話が繋がることがわかり心強い。白毛門までたどり着いた時は、これでもう登りはないと安堵するが、今度は急斜面の下りで膝がおかしくなる。「膝が笑う」という言い方をきいたことはあったが経験したことがないので実感がなかった。膝に力がはいらなくなり、これが「膝が笑う」ということなのかと思った。

5時少し前の最終バスに間に合わず、土合駅の長い階段を下って越後湯沢経由で帰路についた。

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山行を終えた直後は、このコースはもう無理だと思ったが、記録を書いている今、今回の極端な疲労が一時的なものか自然な衰えなのか、もう一度体調を整えて試してみたい気がする。まったく懲りないんだから。。。

白毛門登山口9:00−東黒沢入渓9:25−白毛門沢出合9:55−丸山乗越12:45−ウツボギ沢本流13:25−ナルミズ沢−大石沢出合−テンバ15:50/6:30−奥の二俣7:00−大烏帽子山鞍部8:40−ジャンクションピーク11:05−朝日岳11:40−白毛門14:25−登山口17:20