ブナの沢旅ブナの沢旅
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2015.07.03
保呂内沢西ノ股沢〜沼沢沼〜保呂内沢本流下降
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2015年7月3-4日

 

保呂内沢は数年前から行きたい沢リストに入れていたのだが、あと一歩の自信がなく後回しになっていた。今回も最初から目指したわけではなかった。当初計画していた足尾の歴史をたどる沢旅を悪天で断念。梅雨前線が及ばない東北に変更したものの、なかなか行き先が決まらない。まだ足を踏み入れたことのない沢にこだわったからだ。そんなとき、棚上げになっていた保呂内沢が急浮上した。

夕方東京駅で待ち合わせ仙台駅へ。古川の方が近いのだが、到着時間が遅いので営業時間が長い仙台で駅レンタを調達し、帰りは古川で返却することにした。仙台駅といえばかならず立ち寄る牛タン定食。まずは腹ごしらえをして東北自動車道を北上する。

道の駅で仮眠をとり、6時前に現地に到着した。鎌内林道奥の標識の立つ分岐に車をとめる。盗人滝方面という看板があり、ちょっとした名所になっているようだ。鎌内沢や盗人滝は名前だけは以前から知っていた。一時ミニマイブームになっていた熊谷達也氏の小説「漂泊の牙」の舞台になっていたからだ。ストーリーは省くが、絶滅したとされるオオカミが盗人滝に生息していたという設定。だから読んだ当時はすごく山奥の神秘的な滝だと思っていた。看板があるような滝を小説の舞台に選んだりはしないだろうから、きっと小説に便乗したのだろう。

小川のような鎌内沢を徒渉して峠を越え、保呂内沢に降り立つ。前日までの降雨で増水が気がかりだったが、ほぼ平水で安心する。川原が広がるゆったりとした流れの川だ。徒渉を繰り返しながら進むと右岸の斜面が大きく崩壊し、大岩が沢をふさぐ。最近はどこへいっても必ずこんな崩壊地にお目にかかる。

ふたたび平和な平瀬となり、両岸の樹林がみずみずしさを増す。右岸の枝沢がスラブのきれいな末広がりの滝を落として出合う。沢にはしだいに変化があらわれ、苔に覆われた岩のゴルジュや、葛根田川を思わせる明るい岩盤の美しいナメとなる。

トイ状をへつって越えると、先は側壁が急斜面で深い釜をもつゴルジュとなる。一見すると出口の所はとてもへつれそうになかったが、なんとか手が届きそうなところにトラロープが垂れ下がっていた。おかげで苦労なく通過するとすぐに二俣となる。

西ノ股沢は一段高い沢床のナメとなって出合う。ここまでは予想以上のペースで順調だ。沢は小振りになるがナメが美しい。両岸の樹林もブナが顕著になり、より豊かな森の雰囲気が感じられる。

平瀬を進むと前方に唐突に2段20mがあらわれる。左岸の枝沢も滝を落として一体となり、見栄えのする景観だ。水量の加減がちょうどよく、幾筋ものスダレが美しい。少し戻って右岸から高巻くと、ちょうど滝上だった。

川原が開け、水際までブナが林立する。心休まる渓相だが、長続きしないことはわかっている。600mを越えると地図は両岸ゲジゲジマーク。両岸の等高線が密になる。しだいにすり鉢の底を歩くようになるが、倒木がおびただしい。予想以上の荒れ方で、思わず「きたない」という言葉を吐いてsugiさんに笑われる。

2段12m滝は右から小さく巻いて通過する。二つの釜をもつゴルジュをへつるとふたたび倒木の多い平瀬となる。足下は芳しくないけれど、側壁スラブと樹林は雑多なものを蹴落としてすっきりとした顔をしている。一面黄色い花が咲いているスラブ壁で立ち止まり、思わず、癒される〜とつぶやく。掃き溜めに鶴といったら言い過ぎかな。

へつったり小滝を登ったりして進むと、いよいよ前方に白い壁。今回の唯一最大の核心8m滝だ。滝下でザックをおろし、じっくりルートを観察する。高巻きは出来そうになく直登するしかない。とにかく空身で登ってみる。左壁のスラブは途中2歩ほどがツルリとして手だてがなく諦めてもどる。

二人であれこれ別ルートを探るがかえって悪い。時間ばかりが過ぎていく。まさかここで撤退なのか。そんなわけにいかないと、再び直登ルートに取り付き、同じ所で詰まる。ロープは引いたが、途中に支点を取るわけでもないのでまったくのフリークライミング。けれど人は追いつめられると火事場のバカ力が出るようだ。頭上の草を束ねて掴み、一か八かの気持ちで左右の足をのっぺりした岩に押し付けて体を引き上げた。三本の矢ならぬ三十本の草の強さを信じたのだ。三歩目で小さなスタンスに足を置き、あとは難なく滝上に抜けることができた。自分でもよく登れたものだと感心する。

滝上からのザックの引き上げはいつもうまくいかず、水没させてしまった。ロープを固定してYさんに二往復してもらい、ザックともどもようやく全員集合となる。一時間以上遊んでしまった。懸案の滝を越えた安堵感で力が抜け長めの休憩をとることに。うまい具合に日が射してきた。台地状の岩盤にあがり、濡れたものを乾かしながらパンをかじる。クライミングの練習などはなにもしていないので、内心少しエヘンという気持ちだった。

その後も数メートル程度の滝がつづくが、直登したり小さく巻いて進む。8m滝の後はどの滝も印象が薄くなってしまった。連瀑帯のトリは2条10m滝で美しい。滝に近づき飛沫を浴びながら楽しむ。左から小さく巻くときれいなナメとなる。しばし心休まる思いだ。ナメの先は傾斜がでて多段滝へとつづく。

奥の二俣はどちらも急傾斜のナメで出合う。右沢に進むと稜線近くまで標高差200mの間延々とナメが続く。けれど少しヌメリがあるため、傾斜がある所では笹に掴まりながらこわごわと進む。なにしろ滑ったら下まであっという間なのだ。

途中の分岐はすべて右に進み、沢形がなくなった所で軽くヤブをかき分け山猫森から東に派生する尾根にのった。ここから慎重にコンパスを振りながら尾根の反対側を北北東に下る。しばらく下ると沢音が聞こえ、無事に本流に降り立った。途中で5m滝があらわれたのは意外だったが、なんとかクライムダウンして小さく巻き降りた。

時間も押してきたのでテンバを見つけなければならない。750m附近から傾斜が緩んで等高線も広くなる。ここに期待をかけていた所、案の定770mで中州台地が広がる。もうここしかないと勇んで下る。石を取り草を刈ると期待以上の快適なテンバが完成。粘った甲斐なく焚火ができなかったのが心残りだったが、予定通りに進んで翌日の沼沢沼が確実になったことを喜んで初日を終えた。

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翌日は朝からどんよりとした空模様のもと出発する。ほとんど伏流帯らしき所もないまま650m二俣まで下る。ここで不要な荷をデポして身軽になる。分水尾根鞍部に突き上げる沢を探すのに少し手間取る。よくあることだが、地図のイメージと実際がかなり違っていて惑わされたのだ。ひたすら一直線に登る。

この山域の沢はきっとどこも山頂直下は傾斜の急なナメになっているのだろう。この小さな沢のナメもしだいに傾斜を増して登れなくなる。こういう時は笹薮が心強い。笹に掴まりながら急斜面をひと登りで鞍部へ。背丈ほどの笹の間にブナの大木が林立している。

尾根を越え沼沢右俣を下る。薄い薮の急斜面をやり過ごすと水涸れした沢がまるで登山道のようだ。林層も大きく変わり、細い落葉樹林からなんと、杉の植林帯となる。人の手が入っているとは意外だった。伐採を免れた樹齢何百年かと思われる桂の巨木がこの森の主のようだ。

行く手が開けて沼が見えてきた。沢筋をたどると氾濫原からインレットとなり沼がひろがる。訪れる人も稀な沼ゆえ写真で見る機会もなく、初めて目にする姿に素直に感激する。より展望が広がる場所に移動して沼に入ってみた。正面には臼ヶ岳の西峰が端正な姿を見せている。沼は縁まで水草が生い茂り、道らしきものは見あたらない。今にも雨粒が落ちてきそうな空模様が静寂なたたずまいを浮き立たせ、別世界を感じさせる。

保呂内沢を計画したときは素直に一般的な西ノ股から本流下降の周回コースのつもりだった。けれど提案を受けたsugiさんの、けっこう人が入っているんだねという言葉がきいた。その通りなのだ。けれど沼沢沼と繋げれば、私たちの独自性がちょっとは出せるはず。そんな隠れた気概を抱いてのぞんだ沢旅だった。初日は11時間行動の長丁場となったが、沼沢沼を手にした喜びは大きかった。

さあ、あとはのんびり下って帰るだけと気持ちだけはゆったりしていたが、実際にはまだ長い道のりだ。稜線のブナに目印として巻き付けておいたハンカチを回収し、まずはデポ地へ。本流に降り立った地点は地図の二俣よりもかなり手前の小さな窪だった。見逃したわけだ。

西ノ股沢とは違い、本流はあくまでもゆったりとした、人によっては退屈しそうな平瀬の沢が続く。けれど両岸は手つかずの深いブナの森が広がる。チャレンジングな西ノ股沢とこだわりの沼沢沼という大きな仕事をした後の下降路にふさわしく感じられた。

西ノ股沢出合い手前で初めての滝2段15mに行く手をふさがれる。少し戻った窪から高巻くと、明瞭な踏み跡があらわれ傾斜が緩んだ斜面から難なく沢に降り立った。周回のスタート地点の二俣とはまる1日ぶりのご対面。ぐるっとまわって大冒険をしてきたのだなあと思う。

行きにトラロープを利用したきわどいへつりではロープを出す手間を惜しんで少しもたつく。結局一段上がった所から懸垂してことなきを得た。本流のナメやゴルジュが昨日よりもきれいに思えるなどといいながら下っていくと左手に登山道が見えてきた。(sugi、ako)

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林道鎌内沢分岐6:15−保呂内沢入渓6:35−二俣8:05−(西ノ股沢)−8m滝11:00−8m滝上12:00/12:30−奥の二俣14:05−尾根15:50−本流760m幕営地17:10//6:15−650m二俣6:55−740m稜線7:50−沼沢沼8:50/9:15−保呂内沢本流650m10:40/10:55−二俣12:55−入渓点15:05/15:20−駐車地点15:40

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