ブナの沢旅ブナの沢旅
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2015.02.07
日光社山
カテゴリー:雪山

2015年2月7日

 

もう少し一人で行ける山域を広げたいと思い、初めて日光の山に登ってみる事にした。電車で日帰りできる山というと積雪期は限られる。手始めに一番登りやすそうな社山を選んだ。以前足尾側から入山して社山の南尾根を登り、大平山まで縦走して南東尾根を下る周回コースを考えたことがあったが、中禅寺湖畔から登るなんて、正直興味がわかなかった。今回もそれほど積極的に行きたいわけではなかったけれど、行動を起こすことが目的のようなものだった。

浅草から東武線に乗るときはいつも会津田島行きの車両に乗るので知らなかったのだが、後部車両の東武日光行きは北千住でちょっとした通勤ラッシュ帯のような込みようとなる。しかも大多数が雪山ハイカーのようで、日光の人気振りにおどろく。

けれど中禅寺温泉行きのバスに乗った登山者はほとんどおらず、みな湯本温泉行きのバス停に並んでいる。結局社山へむかったのは私ともう一組のご夫婦だけで、その人達は途中で引き返した事をあとで知った。

バス停から歩いて湖岸にでると、はるか対岸方面にきれいな三角錐の山が見える。あれが社山なのかな。湖の景観とあいまっていい雰囲気だ。

最初は遠くに感じた山がどんどん近づく。このペースなら早く山頂につきそうなので、帰りは半月峠経由で帰ろうかなどと楽観気分ですすむ。水平な湖岸道歩きが長いが、男体山や奥日光の山並みを従えた湖の景観がとてもすてき。フランス、イギリス、イタリアの各大使館別荘が居並ぶ一等地だ。

阿世潟まで進むと湖岸が開ける。極上の幕営地だが、気持ちを見透かすかのようなキャンプ禁止の看板が目に入る。国立公園だものね。ここからようやく湖岸道を離れ、中禅寺湖南岸の尾根に向かう。ひと登りで阿世潟峠に乗り上げると足尾側の展望がひらける。風の通り道なのか、雪が吹き飛ばされ所々草地が見える。

ここから痩せ尾根の急登となる。しばらくシューのまま登ったが、岩が出ていたりツルツルの斜面だったりでとても歩きにくい。不安定な体勢でアイゼンに履き替えるが、たいした事はないだろうと軽アイゼンしかもってこなかった。ちょっと軽く考えていた事を悔やむ。

さすがに最初のポコが山頂とは思わなかったが、目の前の頂きを目指して登り上げるたびに次の頂きがあらわれる。おかしいなあ、三角錐の山じゃなかったのかなあ、などと思いながらえっちらおっちら。ただ救いは、眼下の展望がすばらしいこと。中禅寺湖を取り巻く山並みがしだいに深みを増して行く。ワンパターンの展望と言えなくもないけれど。。。

そうこうしているうちに先行する山岳会らしいパーティに追いつく。そして思わずグチをこぼす。登っても登ってもつかなくて、もうヘトヘトだというと、みんな同じように思うと共感の笑いがかえってきた。へたれているときは一人で抱えないで、口に出した方が気が楽になるものだ。

4、5回ポコを越えたころ、ようやく今度こそと思われる一部が針葉樹林でおおわれた頂が見えてきた。もうあそこじゃなかったら諦めようと思いながら登るが山頂標識がない。けれど標高的には最高地点のはず。少し先に進んでみると100mほど先にようやく見つけた、あったーと思わずため息。

もう気分的にヘトヘトになり標識の前にへたり込んでしまう。2万5000の地図を見ればそれくらいは想像できたはずだが、何しろ登山道のある軽い山くらいにしか思っていなかったので登山地図しかもたず、それさえ見る事をしなかった。とにかく「敗退」せずにすんでよかった。湖側は樹林のため展望はないが、足尾の山並みが手に取るように見える。南尾根がなだらかに尾を引いていて魅力的だ。皇海山がひときわ高く、松木渓谷を挟んで庚申山と石塔尾根を見渡す。

もう1時をまわってしまった。半月峠経由なんてとんでもない。来た道をもどることにする。気持ちに余裕ができたせいか、展望の素晴らしさに何度も足をとめる。ワンパターンなんて言ってしまったけれど、見飽きることのない景色。これまでの自分の山とは一味違って新鮮だった。

阿世潟峠で朝話をかわしたご夫婦にばったり。途中で引き返したとのこと。すごいですね、なんて言われてしまった。阿世潟では雪道から外れて水際におりてみた。ズボズボ潜って厄介だったが、山から下って湖の波打ち際に立つなんてなかなか機会があるものではない。たまたま暖かな日で、押し寄せる静かな波が淡い太陽の光りに照らされてとてもきれい。そこに私の影がのびている。思わず湖に入って行きたくなるほどの誘惑を感じる。

あとは湖岸道の雪道を淡々と歩いてバス停にもどった。余韻に浸りながら身の回りの整理をし終える頃バスがやってきて、ゆったり揺られながら日光駅にもどった。

帰宅後、何も知らずに軽くみていた反省の意味もこめて調べてみた。ネットでは中世以来の修験道の道だったとまことしやかに言われているので気になったのだ。そんな時に「日光修験 三峯五禅頂の道」という本を見つけ早速入手。すでに絶版のため中古本を倍近い価格で購入したが、それだけの価値が十分にある本だった。古文書にもとづく綿密な調査だけではなく、実際に何度も歩いて全踏査している。なかでも中禅寺湖をとりまく尾根をぐるりとまわる夏峯ルートが一番きびしいかったとのこと。

残念ながら社山はそのルートからはずれていたが、阿世潟からさらに湖岸道を進み、梵字岩先の大和田沢を登って黒檜岳に登っている。「日光修験」本は、より深く充実した日光の山歩きに関心がある人には興味深い「山ガイド」でもあった。

中禅寺温泉バス停9:30−阿世潟11:00/11:10−社山13:10/13:25−阿世潟14:35/140:50−中禅寺温泉バス停16:10