ブナの沢旅ブナの沢旅
▲トップページへ
2014.08.25
秋田駒ヶ岳 小柳沢
カテゴリー:

2014年8月25-26日

 

栗木ヶ原湿原を往復したのち、翌日からの小柳沢にそなえて国見温泉に向かい車を走らせた。地図をみると途中に道の駅とオートキャンプ場がある。出ばなを挫かれた穴埋めではないが、せめて夕食はおいしいものを食べようと道の駅のレストランへ。最初に目星を付けたオートキャンプ場は昨年の大雨以降閉鎖されていた。

国見温泉入口から県道へ進み、荒沢橋手前の分岐を林道にはいるとすぐに車止めとなった。ロープが張られており夜中に車がくることはないだろうとゲート前にテントを張った。ところがシュラフにもぐってしばらくすると近くでバイクの唸り声が聞こえ、いっこうにやむ気配がない。Yさんが様子を見に行った所、2人の釣り師のバイクと車が立ち往生していた。

いそいでテントを動かし通り道を確保。聞けば小柳沢の一本先の安栖川に入るという。この先も林道は通行可能ということで、どうしてもっと奥まで入らないのかと聞く。小柳沢は入渓と下山地点が離れている。国見温泉に下山後はタクシーでここまで戻る予定なのだが、おそらく通行止めの林道には入ってくれないだろうにらんでのこと。小柳沢はそれほど増水していないといわれ安堵した。お互い予想外の事態だったが、とてもフレンドリーな人達で、一件落着して朝を迎えた。

林道は歩き始めが少し荒れていたが、その後は小柳沢沿いに分岐するまで車も問題なく通過できるいい道だった。すぐに「国見ふれあいの森−21世紀の子供達へ」の看板があらわれ、ブナの二次林の森が広がる。広場の真ん中には伐採を免れた大木がマザーツリーとしてまるで子孫を育んでいるように聳えていた。林道歩きとはいえ雰囲気のいい森が広がっており、朝の清々しい空気の中で歩くのは気持ちがいい。

小柳沢の奥へと続く林道に入ると所々山肌がえぐられ崩壊が進んでいた。消えそうな道が沢のようになってきた所で沢靴に履き替える。さらに下っていくと沢が近づき、堰堤の上に降り立った。

多少増水しているものの遡行に差し支えるほどではない。昨日は入渓できなかったので、沢に入れただけでうれしい。しばらくは大岩ゴーロなのだが、増水で気が休まらない遡行をするよりは気が楽なのでちっとも苦にならない。

地元の人達が日帰で遡行する沢を2日かけて歩くため、気持ちに余裕がある。年を経るにつれ、この「気持ちの余裕」がとても大事になっている。ゴーロの大岩をかわして歩くのは結構労力がいり、最初の滝があらわれるまで随分と時間がかかってしまった。

そしてようやく前方に美しい幅広滝があらわれた。水量が多いので写真で見たよりもさらに美しく感じるが、さて登れるだろうか。左側の壁沿いが階段状に見えるが上部は垂直に近く完全に水をかぶりそうだ。う〜ん、そこまでして登ることはないと、あっさり諦め巻き道をさぐる。左岸の手前から斜面を登り、上部のバンドをトラバースするとピッタリ滝上にでた。

最初の滝があらわれてからは次々と美しい幅広のスラブ滝がつづく。しょっぱなから登れず巻いてしまったので先が思いやられると思ったが、二つ目からは左右のどちらかを登ることができた。

それにしても面白い構成の沢だ。どの滝も同じような数メートルの幅広滝で、滝と滝の間はほとんど平瀬。三つ目の滝の上は幅広の開けた平らな岩盤のナメで、ちょうど曇りがちの空に太陽の光が射し始めてとてもきれい。乾いた岩盤の上で休憩する。その後も休憩してばかり。それというのも時間がたっぷりあるからだ。沢旅は、こうでなくてはいけない。

ほんとに悪い所はまったくなく、快適に登れるきれいな滝が等間隔であらわれる。しまいにはどれも同じく見えてしまうなんて言ったらバチがあたるかな。このあたりの渓相は予想以上にすばらしく、葛根田川に行けなくてよかったなどと機嫌のいい冗談がでる。

900mを過ぎた頃から右岸が開け、テンバ適地が続く。真っ平らで快適そうだが、いくらなんでも時間が早すぎる。この先の状況は不明だったが、二人なので何とかなるだろうと通過する。

950mの枝沢をわけるとすぐに今までとは規模の違う15mほどの大滝があらわれる。水量が多く迫力がある。とにかく近づいてみると高度感はあるものの右壁の手足は豊富で登れそうだ。実際に取り付くと滑ることもなく岩も順層で快適だった。滝上に抜ける手前で少しシャワーになるが、かえって充実感アップ。これくらいが私たちにちょうどよく、とても気分がよかった。

その後も深い釜をもつ小滝、ナメ滝が続き飽きることがない。1000mを越えると巨岩の急登となる。この沢は紛らわしい二俣が多く最初は戸惑ったが、ほとんどが様々な形状の中州なのだ。1050mでも顕著な尾根をはさんで二俣もどきとなるが、この頃までには学習効果がでて、中州だろうという予想通りだった。

荒々しい巨岩のゴーロ滝を、時にくぐり抜けたり小さく巻いたりして進んでいくと上部がハングした12m滝があらわれ意表をつかれる。直登は無理なのでしばし高巻きルートを思案する。踏み跡が見つからなかったので少し手前の斜面を登って一旦小尾根に上がり、沢音の方向にトラバースするとうまく滝上に降り立つことができた。そのときは我ながらいいルートファインディングだと思ったが、あとで調べたところ滝の裏側から回り込むと右岸から小さく巻くことができたようだった。そして現場でそのような判断ができなかったことを悔しく思った。

滝上からは両岸が開けて平瀬となる。テンバを意識しながら進んでいくと1150m附近で高台の中州に平地を見つけた。下流のテンバ適地と比べると見劣りするが、この先の様子がわからないし疲れてきたのでここで行動を終えることにした。草を刈って敷き詰めると狭いながら快適なテンバが完成。先ずは雨に備えてタープを張り、枯れ木集めに精をだす。

焚き火が近いためテントは寝るときに張ることにしたのだが、タープだけの空間がとても開放的で気持ちがよかったため、初めてテントを張らずにシュラフにもぐった。

夜に少し雨が降ったが気になるほどではなく、気持ちのいい朝を迎えた。朝焼けがきれいだったが、ということは天気は下り坂なのだろうか。

テンバを出発して小滝とゴーロを進むと沢幅が広がりナメとなる。これまでの渓相から突然変異したような展開が面白い。ようやくナメらしいナメがあらわれたと喜ぶが、次第にガスが出始め霧雨模様となる。

要注意の1260m二俣はボサのかぶった左へ進む。最後にヤブにつかまるかお花畑に抜けるかの分かれ道らしいのだ。最初は冴えない容相だったが水量が復活し、意外にも大岩ゴーロ滝がつづく。時にアスレチックなムーブが求められて飽きさせない。振り返ると周りの稜線が見渡せるようになり、両岸はお花畑風となる。源頭部が近づいている。

時々軽い藪漕ぎ状態になりながら匍匐前進していくと1330mの三俣となる。調べた通りに笹の覆い被さった右へ進み、笹薮を抜けると目の前が開けてお花畑の草原に飛び出した。この間まるで太陽と雲が綱引きをしているようにめまぐるしく空模様が変化していた。

視界はあまり良くなかったけれど、すっきりと草原に抜けるフィナーレの沢旅となった。それも現地で予定変更した急ごしらえの遡行だ。しばらく感慨に耽ってたたずんでいると稜線から登山者の姿があらわれた。おもわずヤッホーと声をかけるとエールを返してくれた。おかげで登山道が目の前であることも確認できた。

最後の水を汲み、ゆっくりと噛みしめるようにお花畑の斜面を登って登山道へ。途中から幾筋かの踏み跡があったのは登山道からこのカールのようなお花畑に下るハイカーのものなのだろうか。確かに上から見下ろした小柳沢の源頭部は思わず下りたくなるほど魅力的に見えた。

ガスがでて寒いくらいだ。靴を履き替え、登山道を進む。いつもながら遡行後の登山道はなんて樂なんだろうと思う。湯森山から黒い溶岩土の焼森へ。最後の登りがつらい。いつもながら遡行後の登りはなんて辛いんだろうと思う。

焼森で登りから解放されて横岳へ進むと時々ガスが晴れて秋田駒の女岳が姿をあらわす。初めての秋田駒だ。展望が限られてしまったのは残念だったが、今年のこの山域の悲惨な夏の天候を思えば充分ありがたいと思わなければいけない。

横岳からは独特の雰囲気の大焼砂を下っていくと眼下に木道や池が見える。とてもいい雰囲気の緑の谷が広がっている。秋田駒ヶ岳のことは何も知らないし調べてもこなかったが、以前可愛らしいムーミン谷と呼ばれているお花畑の記録をみたことを思い出す。ひょっとしてこれがムーミン谷かな、なんて口にしたのだが、あとで調べたらほんとにそうだった。

横長根のゆったりした尾根をさらに下っていくと今度は田沢湖が見えてきた。あれこれ初めての景色をハイカー気分で楽しむ。ゆったりと広がる緑の谷を見下ろしていたら、若かりし頃ビデオで見た英国映画のタイトルが頭に浮かんだ。我が谷は緑なりき。内容は虐げられた炭坑労働者の話で、ティッシュの箱が空になるほど涙を流した記憶があるが、なぜかこの題名が心に響いて好きなのだ。新緑とお花の季節に歩いてみたい。。

と、脱線してしまったが尾根を離れると一目散の下りとなる。ブナ林が広がり始めたらあっという間に国見温泉の屋根が見えてきた。二軒の宿があったので、ひなびた方の森山荘へ。とても素朴ながら湯の花が浮いた緑色(苔の色だとのこと)の湯はまさに天然湯。とても成分の濃い湯のため3時間人が入らないと湯船は湯ノ花であふれ返ってしまうのだとか。

温泉からでると呼んでいたタクシーがやってきて林道車止めまで行ってもらう。多少の割増料金がかかるとはいえ雫石からわざわざ来てもらえて助かった。その上運転手さんは小柳沢近くの集落の人で沢のことをよく知っており楽しい話がきけた。今では国見温泉客しか利用しなそうな県道だが、以前は秋田に抜ける国道で難路だったとのこと、山賊が出たとか、一体いつの話なのか興味津々。あっというまに車止へ到着し、周遊の沢旅を無事に終えることができた。

koyanagi1 koyanagi2

林道車止め6:00−入渓点7:45/8:00−1150mテンバ15:15/6:30−登山道9:20/9:45−焼山11:10−国見温泉登山口13:20

写真集

===============
東北の沢ではいつも、困ったときの酔いどれさん頼みです。今回も急遽代案として引き出した小柳沢は「酔いどれ師匠」の記録のおかげで滞りなく遡行できたのでした。お礼の連絡をしようと思いタイミングを逸してしまったため、この記録をかりてお礼を申し上げます。