ブナの沢旅ブナの沢旅
▲トップページへ
2014.03.09
タル沢尾根~将門馬場~鷹ノ巣山
カテゴリー:ハイキング

2014年3月9日

 

2月の記録的な大雪でしばらく通行止めになっていた日原林道が3月上旬に鍾乳洞まで全面開通した。まだあまり人が入っていない尾根を歩くのも悪くないと、東日原起点に奥多摩の雪尾根を歩くことにした。

山をはじめたばかりの頃、1月に雲取山荘に泊まって翌日石尾根を奥多摩駅まで歩いたことがあった。雪はそれほどなかったが、ゆったりとした石尾根の雰囲気が良かった思い出がある。そういえば鷹ノ巣谷を遡行して下った稲村岩尾根のブナ林もよかった。北面だし霧氷が見られないだろうか。そうすると一般登山道だけのコースになってしまうけれど、同行のkukenさんは奥多摩はバリルートしか興味がなさそう。

と、あれこれ思いを巡らせ、登山道のないタル沢尾根〜石尾根〜鷹ノ巣山の周回コースに決めた。(ほんとうはその前段で二転三転とプランが出ては消えていったのだが、長くなるので省略)どちらを登りにするか迷ったが、ノートレースが期待できるタル沢尾根から登ることにした。

前夜鳩ノ巣駅で待ち合わせ、近くのトイレ付駐車場で仮眠。夜中に鹿の鳴き声が賑やかだったのは、来客へのメッセージだったのだろうか。いつものように欲張った長いコースなので、翌朝は早めに出発する。

東日原の駐車場に一番乗りして歩き始める。土壇場で決めたコースのため今ひとつ取り付きがわからず雪で経路も消えていた。少し迷うが、ちょうど家から出て来た地元のおじさんが親切に教えてくれた。雪の状態を尋ねるとすでに釣り師が入っているから踏み跡があるという。

確かに3月早々に入ったらしい深いツボ足の踏み跡がつづいていた。山やは釣り師に負けている、彼らの欲を見習わなければいけないなどと言いながら吊り橋を渡ってタル沢尾根の取り付へ。しばらくは植林の作業道をジグザグ進むとカラ沢尾根との分岐になる。カラ沢尾根は途中に岩稜の乗り越しがあってちょっとしたスリルを味わえるらしい。kukenさんも以前、すごい所を登っているハイカーがいるのを対岸から見たことがあるという。

タル沢尾根は一部傾斜が急な所はあるが特に悪い所もない歩きやすい尾根だった。林層がとくにきれいなわけでもない平凡な尾根だが、まっさらな雪面を歩くのは気持ちがいい。雪は締まってアイゼンでもほとんど潜らない。

途中からは真新しいモノレールがあらわれ、作業小屋があった。中をのぞくと現在使用中の気配。コーヒーやら軽食の用意がされていて、おもわずコーヒー飲んで行こうか、なんて。

将門馬場は名前の通り広く平坦な台地で、陶器のしゃれた山名盤がかけられていたが、残念なことに真っ二つに割れていた。この辺りの尾根は歩かれていないようで、トレースはなかった。しばらく尾根を進むと単独の男性とすれ違う。水根方面から登って鷹ノ巣山をめざしたが途中で引き返して来たという。ノートレースでなくなったと、kukenさんは内心ガッカリのよう。

 

それでも気持ちのいい雪尾根をワカンで進む。しだいにブナが目立つようになり、ようやくイメージしていた石尾根の雰囲気となる。最初の小ピークを越えると尾根が広がり、緩やかな傾斜の防火帯が真っ白なスロープとなって続いている。ここで2人目の単独男性とすれ違う。これから奥多摩駅まで下るという。やっと人に会えたと素直に喜ぶ好青年だった。

いい雰囲気の尾根だしラッセルがあるわけではないが、やはり無雪期よりは時間がかかる。こんなあたりまえのことに水根山に着いてようやく気がつく。ちょっと休憩して草餅を食べ、元気をだす。ここで3人目の単独男性がやはり奥多摩駅へ。みな南面から登って同じルートで歩いている。

水根山からは展望がひらけ、低灌木帯なのかすべてが雪で埋まって真っ白だ。そのうえ雪質も突然のようにさらさらパウダー状になって気持ちがいい。二人でこれが奥多摩かなどと感心することしきり。思わずいいコースどりでしょと、やや自慢気味。これでもっと青空が出てくれたらよかったのにな。稜線にでてからは、青空とうす黒い雲が同居している空模様なのだ。

広々とした鞍部で4人目の若者とすれ違う。雲取山の避難小屋泊まりの単独者でやはり奥多摩駅までという。今回すれ違ったハイカーはみな単独の若者で、話をするとみなとても感じがいい。若者たちが静かに、思いのままに山を楽しんでいる。私たち中高年組には、それがなんだかとても嬉しく感じられたのだった。

ようやく鷹ノ巣山へ。とても展望のいい広い山頂だ。ずいぶん時間がかかったが、達成感がある。あまりゆっくりもしていられないので写真をとってすぐに稲村岩尾根を下る。すれ違った若者からトレースがあるらしい情報を得ていた通りだった。さらさらの深雪で登りは大変だったろうと思う。

 

北面なので今まで見られなかった樹林に雪が張り付いた状態となる。トレースは新しいので、朝稲村岩尾根を登っても初トレースだったと、kukenさんはしきりと初トレースにこだわりを見せている。フカフカのパウダーを蹴散らすように滑り降りる。滑りすぎて恐くなり、ワカンをはずすと適度にもぐって快適に下降。1550m付近からはブナの大木があらわれ、稜線よりも樹高のある端正なブナ林となる。

問題は稲村岩基部からの下りだった。岩壁を真っすぐ下るのは危険なので冬はトラバース道に誘導する標識があるが、見るからに嫌らしい。このとき初めて軽アイゼンにしたことを後悔する。朝出発前に互いの装備を確認したとき、ピッケルと12本爪のkukenさんに、ストックと軽アイゼンしか持ってこなかったことを軽くいなされていたのだ。そのときはだって奥多摩だもん、などとはぐらかしたのだが。。先行して悪い所は足場をつくってもらい冷や汗をかきながら沢に降り立った。そしてはっきりと、雪山のバリエーションをやる人は6本爪を履いてはいけないとアドバイス。

沢筋は雪がびっしりついていて登山道もトレースも判然としない。途中に2箇所雪崩によるデブリの押し出しを越える。登山道があるからと侮れない尾根だった。見覚えのある橋を渡ってようやく一心地つく。と、思いきや、林道にあがる山道の途中一ヶ所が凍り付いた雪の斜面になっていた。すでにアイゼンをはずしていたので慎重に踏み跡に踏み込み最後の冷や汗をかく。

車道に乗り上げ、ようやくお疲れさまの安堵の声がでる。予想以上に時間がかかったけれど、たくさん歩いて雪山気分を満喫できた。途中の水場で靴の泥を落としていたら隣の店からおばさんが出て来てしばし立ち話をする。大雪の時は8日間も孤立し、自衛隊がヘリで食料を投下したとのこと。70歳前後のおばさんはこれだけの大雪は生まれて初めての経験だと語っていた。

貴重な体験談を聞くことができたが、そんな地元の方々の苦労をよそに、暢気に山で楽んだことを少し後ろめたいと思いつつもありがたいことだと、親切な地元の人たちと山と仲間に感謝しつつ駐車場にもどった。

東日原駐車場6:40−タル沢尾根7:40−将門馬場11:30−鷹ノ巣山14:00−東日原駐車場17:00