ブナの沢旅ブナの沢旅
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2013.09.05
高原川沢上谷
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2013年9月5日

 

数日前に沢を再開しようと丹沢へ向かったが、電車に乗りながら気持ちが落ち着かなかった。一人で何度も足を運んでいる沢なので不安はないはずなのに、もう一人の自分がまだ気持ちの準備ができていないと袖を引っぱるのだ。渋沢駅に近づくころやっぱり今日は尾根歩きをしようと気持ちを切り替えると、なんだか気が楽になった。たった2ヶ月のブランクなのに、2年ほどにも感じられる時間だった。涙が出るほどに山がなつかしく感じられた。そして次回こそは沢へ行こうと気持ちが前向きになった。

さいわいすぐに次回の日程調整がついた。再開の沢は去年から懸案となっていた白山の沢を選んだ。山頂を踏む場合は泊まりとなるが、沢登りだけ楽しむなら日帰り可能だ。それほど難しくない美しいその沢は、再開の沢にふさわしいと思った。

もともと予報では曇りだったが、直前になって終日雨マークとなってしまった。前日の朝連絡が入り、どうするかという話になった。ようやく気持ちが前向きになった時だったので、残念を通り越して悲しくなった。身の回りの少し賑わしい状況から息抜きをしたかったので楽しみにしていた。半べそ状態をこらえながら、とにかく遠くへ行きたいのだと訴え、予定通り現地へ向かうことになった。

前夜、安房トンネルを越え白山街道から平瀬温泉をめざした。長旅だがYさんとは内唐府沢以来の久し振りの山行なので積もる話がつきない。途中から雨が激しくなり時間も遅かったので御母衣湖手前の道の駅、荘川で仮眠することにした。さすがに疲れてすぐに就寝。

翌朝は雨もやみ、胸をなで下ろしながら平瀬温泉から白山登山口の林道入口へ。そして想定外の事態にガーン。林道が閉鎖されていた。雨のための閉鎖だという。念のためゲートを確認するとしっかり鍵がかかっている。歩けば数時間もかかる距離だ。ガッカリを通り越して笑ってしまう。すぐに気持ちを切り替え、沢上谷へ行こう、となった。増水などの万が一にそなえ代案を用意していた。沢上谷なら多少の増水でも大丈夫だろうし、7年前に遡行しているので準備なしでも安心感がある。

ふたたび来た道をもどり高山方面へ向かう。2年前に荒城川へ来たときの道だ。なつかしい木地屋渓谷の標識にしたがって進むと大きなダムを迂回する。2年前はまだ冠水前で道が複雑だった。峠越えの県道を進むと見覚えのある民家があらわれる。沢上谷の遡行終了点からつづく山道が合流するところだ。だんだん記憶がよみがえってきた。県道をさらに進んで下って行くと沢を横切る橋を渡る。うっかり先まで進んでしまったが、すぐに気付いて戻る。それよりも沢の増水ぶりに驚き、不安がよぎる。ちょっと見通しが甘かったかな。

橋の脇から沢にそった山道を少し登った駐車スペースに車をとめる。前回と同じ場所だ。沢装備をつけて沢におりる踏み跡を下ると大きな石をならべたキャンプ広場となる。うーん、なつかしい。7年前は沢上谷を遡行後、ここにテントを張って焚き火をした。また来るとは思わなかったけれど、水量がまるで違うので別の沢のよう。

多少の不安を抱きながら沢へおりて歩き始める。しばらくはゴーロだが、水量が多く濁り気味のため深さがわからない。再開の沢は癒しの沢のはずなのに、私たちの思惑はいつも外れると笑いあう。緊張気味に足下を確かめながら進む。おかげで邪念の隙がない。

すぐに右岸から滝を落とした枝沢が出合う。この枝沢の奧には五郎七郎滝があるが、前回往復するのに意外と時間がかかったのでパスすることに。赤い岩盤がひろがるナメとなるが泡立つ白波ばかりが目に写る。しだいになれてきたせいか、豊富な水量のナメが美しく感じられるようになる。

ふたたび右岸に枝沢が出合う。この奧には25mの直瀑、岩洞滝がある。この枝沢は途中何もなかったのでそれほど時間がかからないはず。前回はわずかに水の筋を落としているだけだったので、水量が多い姿を見に行くことにした。枝沢に入るといきなり躍動感のあるナメとなるが、本流と違い真ん中を楽しく歩くことができる。すぐに前方の樹間から真っ白なカーテンが見えて息を飲む。ものすごい水量の大滝が目の前にあらわれた。代わる代わる滝下に近づいてみるが、すさまじい飛沫で写真など撮れるような状況でなく、びしょ濡れになって退散。距離を置いて眺めても迫力十分で、来た甲斐があったと喜ぶ。

本流に戻り、逆くノ字のナメ滝を巻くとハイライトの30m箕谷大滝があらわれる。前回は左側に少し水が流れている程度だったが、今回は怒濤の水量だ。これほど水量が多いと、滝の優雅な風情も吹き飛んでしまいそうだ。なかば唖然としながら大滝を見上げるが、恐ろしくてあまり近づけない。

少し離れた所で休憩し、大高巻きにそなえる。少し戻って左岸の斜面にとりつく。登りやすそうな所には何となく踏み跡があり、次第に明瞭になって岩壁に突き当たる。壁に沿ったそま道を進むと樹林の尾根となり、左手の急斜面に残置ロープがかかっていた。前回は残置などなく懸垂で下ったところだ。

ロープを頼りにクライムダウンするが、久し振りなので緊張する。100mほど下ると滝上のナメに降り立つ。水量が多いため対岸に横切るのは容易ではなさそうだ。万一足をすくわれようものなら、ただではすまない。ロープを出してまずはYさんが渡る。途中で水圧に押されて苦労しながら渡りきったときはホッとした。

この頃から青空が広がり、ナメの白水が陽の光で燦めいている。さあ、いよいよハイライトのナメワールドへ。水量が多くてナメをヒタヒタと歩くというわけにはいかないが、沢水が踊るような躍動感がすばらしく、興奮せずにはいられなかった。

青空の下でしばらく至福の時をすごしながら進むと左手に枝沢が滝を落とし、沢は右に曲がる。すぐに15mナメ滝が目の前に。青い空と樹林の緑、真っ白な滝水のコントラストが鮮やかで美しい。左岸の残置ロープをたよりに水流際を登る。フリクションがきくので不安はない。滝を登る楽しさがよみがえり、久し振りの爽快感を味わう。

滝上からは沢幅は狭まるが、きれいなナメが延々とつづく。水量も多少は落ち着き、ただひたすらナメだけの沢をひたすら歩いて行く。二俣は右に進むとすぐに橋が見えたので、適当な所から林道にあがって遡行を終えた。

林道をしばらく歩くと朝に車で通過した県道に合流する。三つの大滝を一望できる展望地点で足をとめる。遡行しているときは気付かなかったが、沢上谷は小降りながらとても深い谷であることが印象づけられた。

転戦の結果とはいえ、7年ぶりの沢上谷はまったく別の沢の様相で私たちを迎えてくれた。最初は緊張したが、迫力のある大滝に度肝を抜かれ、躍動感のあるナメに感動した。この小さな沢の増水ぶりから察するに、白山の沢へ行けたとしても相当苦労しただろう。思い切って出かけてほんとうによかった。とてもいい青空のリスタートとなった。

sore1 sore2

入渓点9:00-岩洞滝10:10-蓑谷大滝11:05-二俣12:25-林道13:00-入渓点14:05