ブナの沢旅ブナの沢旅
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2013.06.23
前川大滝沢
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2013年6月23日

 

6月初めに杉田川でおそい沢始めをしていらい、いろいろと家庭の事情があったり天候不順だったりで、しばらく山へ行かなかった。時間が空いてしまうと、行きたい気持ちを通り越して億劫になってしまう。山へ行く以外はトレーニングらしきことはいっさいしていないので、なんだか体も重い。よくないなあと、いじいじ、いじ・・・

ということでyukiさんと相談し、朝発でも行ける沢のなかから大滝沢が決まった。いったん決まれば気分はルンルン。なんたって大滝沢というくらいなので大滝が半端でなく素晴らしい。きれいな幅広ナメとナメ滝の連続はまさに私好み。だから遠出の沢の中では珍しくすでに2回遡行している。

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当日の朝福島駅で待ち合わせ、昭和の万世大路、国道13号線を通って峠駅方面へ向かう。4年前に烏川滑谷沢へ向かったときは13号線に沿って新しい道路の建設工事が始まったばかりだったが、福島側の工事はかなり進んでおり、高い橋桁の高速道路ができあがっていた。そして驚いたのは、東栗子トンネル手前のあのレトロなトンネルにつづく初代万世大路の取り付き附近の景観が、片鱗もなく激変していたことだった。樹林は皆伐され赤茶けた土とコンクリートの法面だけが目に写り、車はトンネルに入った。すごくショックだったけれど、あの奧の別世界はそのままであってほしいと心から願うのみの心境だ。

そして更に、今風にいうと二度目のじぇじぇ、じぇ。峠駅手前の林道分岐点でまさかの通行止め。係員の話では昨年の豪雨で林道が一部崩壊してその修復工事をしており、工事は今年の盆休みまでつづくとのこと。途中の沿道にも案内板があるといわれたが、気がつかなかった。(帰り道に確認したら、たしかに注意書きがあったが、目立つような印も文字もないので一般には気付きにくい)奧にある姥湯温泉と滑川温泉の宿泊客用に峠駅からマイクロバスでの送迎をしているので通行可能ではあるが一般車は通れず、臨時駐車場ができていた。

さあて、どうしよう。もともと入渓時間が遅いので往復2時間の歩きはちょっと辛い。と、いったんは安達太良の沢へ転進しようと車をバックさせたのだが、よく考えてみれば転戦先の沢へ移動するにも小一時間はかかる。ということで再びUターンして車止めへもどる。

すると気の良さそうな係員さんが同情したのか、滑川温泉の車が峠駅からもうじき戻ってくるので乗せてもらえるように頼んでみると言ってくれた。急遽にわか仕立ての日帰り入浴客となりバスに乗り込めばこっちのもの。沢を遡行してから必ず温泉に立ち寄ることを約束して滑川橋のところで下ろしてもらい、一件落着と相成った。ヤレヤレだが、おかげでロスタイムは30分ほどですんだ。

沢装備をつけ通行止めのテープが張られた大滝沢右岸林道を少し下ったところから入渓する。水量は平常よりやや多めで問題なし。さっそく赤茶けた明るい沢床のナメをヒタヒタと歩く。フリクションがいいのはわかっているが、どうしても最初は怖々とする。すぐに大釜をもつ3段19mナメ滝となる。左壁のバンドから下段4mの落ち口へトラバースするが、途中の一手がかぶり気味で躊躇。いやだけど、手を貸してもらう。中段は水流の左斜面をノーロープで登り、上段は右壁に移って越えた。途中、枝沢のカモシカ沢が3段20mの美しいナメ滝を落としている。とてもそそられる渓相だが、上部は急峻なナメ滝の連続らしい。

幅広の2段ナメ滝を越えると沢幅一杯の美しいナメがつづく。何度来ても歓声がでるほどの素晴らしいナメにしばしウットリしながら進む。大きな釜をもつ小滝や多段ナメを快適に越えるといったんゴーロとなり、沢は右へ曲がる。ふたたびナメとゴーロをくり返し、右岸に小尾根がおりてくる。ここが上部の登山道から下る踏み跡だ。いよいよ大滝が近づいた。

樹林越しに白い筋が見え始め、進むに連れ大滝100mが全容をあらわす。これほどスケールが大きく水量豊かで美しいナメ滝、しかも下からすべてが見えるナメ滝は他に見たことがない。ここで長めの休憩を取り、じっくり堪能。その間この大滝登攀を試みて完登した人、途中で滑落リタイアした人たちの話題で盛り上がる。Yukiさんも以前単独で下段のバンドを途中までシャワークライムしてみたと聞いてビックリ。それほどに人の登攀意欲をそそる滝でもあるのだなあ。

さてと、大滝の高巻きだ。右岸に張り出した小尾根との間の窪にとりつく。最初は足下がグズグズだが、小尾根にのるとしっかりとした踏み跡となり、低灌木帯をひたすら登る。うれしいことに予想もしていなかったヒメサユリがかわいらしいピンクの花をあちこちに咲かせている。

小尾根を離れて草つき斜面を二度トラバースするところでは念のためロープを出した。何しろ万一スリップすれば命にかかわる大惨事となる所。とくに二度目のトラバースは手がかりが乏しい。実際ここで滑落死亡事故も起きている。慎重に通過すればむずかしくはないのだが、こうしたリスクのあるところではロープを出すのが筋だろうと思う。前回もロープを出したが、最初に来たときはまだ沢2年生で、リーダー以外は沢の初級者だったにもかかわらずロープなしでトラバースしたことを思い出した。あのころはまだ沢の怖さがよくわかっていなかった気がする。

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沢に戻ったところは2段15m滝の途中で、yukiさんは少し下って大滝の落ち口を見下ろしている。うっ~、こわっ。緊張感から解放されホッと一休み。5m堰堤状の滝は右岸のバンドからとりついて巻く。このあたりからヒメサユリだけでなくコバイケイソウの白い花もあちこちに群生。ふたたび美しいナメがつづいて心なごむ。

右岸からネコノ沢が出合う。少し登れば登山道が横断するので格好のエスケープルートだ。つづいて左岸から赤茶けたホラ貝沢が出合う。この沢の水は酸性度が強くて飲めない。この先の乾いた岩盤で昼食休憩を取り、今回も用意してもらったお握りを頬張る。

右岸がスラブ壁の大釜を持つ5m滝へ。私は右壁の細かいホールドを拾って越えるがyukiさんは左壁沿いの水流をぎりぎりに近いフリクションで登っていった。その姿が格好良く、思わず息を飲んで写真におさめる。昼ころからは曇りがちの空に陽が射しはじめ、とたんに沢が輝きを増す。そうでなくても十分にきれいなのだけれど、欲を言えばきりがなく、もっと晴れてくれたらどんなにかきれいだろうにと思う。

8m幅広滝は左岸を小さく巻くが、一部足下が切れ落ちていて木登り状態となる。つづく6mナメ滝は左壁の水鉛バンドを斜上。釜をもつナメ小滝を二つ越えると左壁が窪状の10m滝へ。真ん中のスラブか奧の左壁がルートだが、無理することもないと右岸の巻き道をたどる。右岸が草付きスラブの5m滝を右壁から登ると行く手に12m滝が見えて来た。

前回は釜の水量が多くて滝下にトラバースするのをためらい、あっさりと登山道に抜けてしまった「敗北」の滝だ。今回は近づいてみると気が抜けるほど釜の水量が少ない。前回は何をびびったのか不思議なくらいあっさりと滝下へトラバース。(帰宅後前回の写真と比べてみると明らかに釜の水量が違い、滝の水量も今回登ったルートはかんぜんにシャワーになっていた。下流部では水量の違いを感じなかったのだが・・・)

とにかく前回の気がかりが解消できてよかった。初回は問題なく通過した記憶があったので気になっていたのだ。12m滝上は渓相が少し変わって連瀑帯となり、最後の釜を持つ5mY字滝が難関だった。ここは泳いでとりつくか左壁の細かいホールドを拾って斜上するか草付きを高巻くかの三択。高巻きは悪いらしくyukiさんのあとについて左壁を斜上するがかなり緊張する。ええっ、ノーロープ?と思ったが確保点もないし、落ちてもドボンで流される心配はないことを何となく確認して、いざ、フリークライミング。無事通過できたときは心底ホットするとともに、我ながらよく登ったなと感心する。初回はヒヤヒヤ高巻いた記憶あり。

核心は終わった。しばらくは明るい渓相のナメ、ナメ小滝を進む。途中古い堰堤が自然に回帰してナメ滝のようになっていた。頭上には例の古い吊り橋が架かる。かつての鉱山跡だ。沢は次第に渓相が荒々しくなり、大岩ゴーロ滝がつづく。左岸の岩肌は硫黄分を含んでいるような緑黄色のスラブに苔が生え、ちょっと異様な雰囲気。けっこうハイペースで進んで来たせいか、ゴーロ帯で足がもたつき疲労感がではじめる。

右岸から枝沢が出合う。よかった、もう少しだわ・・と心の声。枝沢に入るとまるで別の沢のような渓相となり、苔蒸した滝にタニウツギが彩りを添えてとてもきれいだ。苔のナメ滝を次々と越えていくと突然平瀬の小川風情となり、登山道が横断するところで遡行を終えた。休憩を入れても4時間半と、かなりのペースながら、ものすごく内容の濃い遡行だった。2006年の時はもう一本先の枝沢から抜けた。なにもないゴーロの沢で簡単なのだが、最初の枝沢をたどった方が確実に面白い。

最後の長い休憩を取って登山道を滑川温泉へ下る。空はすっかり晴れ渡りハルゼミが夏を思わせる。途中大滝の展望台で足をとめて最後のご対面。一気に下って温泉へ直行し、レトロな雰囲気の湯につかる。狭い湯場だが誰もいないのでゆっくりできた。帰りも送迎バスで送ってもらい、通行止め前の駐車場で下ろしてもらうと朝の係員さんがいた。思わず満足げに、ただいま~。

久し振りの大滝沢だったが、また来たいと思うくらい、あらためてその素晴らしさを感じた。ただし、今年のお盆休み明けまでは一般車通行止めなので、歩きたくなければ滑川温泉の送迎バス時間を事前に確認した方がいいでしょう。

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滑川橋入渓点9:15-大滝下9:55/10:15-大滝上10:57-ネコノ沢出合11:20-ホラ貝沢出合11:44-1330m枝沢13:30-登山道横断点13:42/14:00-滑川温泉15:10