ブナの沢旅ブナの沢旅
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2013.05.03
窓明山〜丸山岳(往復)
カテゴリー:雪山

2013年5月3-6日

例年ゴールデンウィーク山行は雪山シーズンを締めくくる大事な山行だ。ところが昨年は悪天候のため不本意な結果となった。そんなこともあって今年は気合いを入れ、初めて3泊4日の日程で長年の懸案である会津朝日岳から丸山岳を計画した。

丸山岳は2009年に火奴尾根から比較的容易に登ることができたのだが、少し物足りなさが残った。そのためにいつかクラシックルートの会津朝日岳から会津駒ヶ岳を歩きたいと思っていた。いつも同行者の確保に苦労するのだが、yukiさんに打診したところこころよく受け入れてもらい心強かった。

直前の周辺山域「偵察」山行で山はいまだ冬山状態で積雪も多いことがわかった。エスケープルートのない会津朝日岳からのコースは不安材料が多いため、巽沢山から入って窓明山からのピストンに変更し、会津駒ヶ岳をへて下山することに決めた。

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2日の夜に会津高原駅で待ち合わせ、前回同様「アルザ尾瀬の里」食堂の軒下にテントを張る。軽く入山祝いの乾杯をするが4日間歩き通すことができるか不安がつきまとう。2泊も3泊も変わらないらしいことを心の拠り所にしてシュラフにもぐる。

翌朝は薄日の射す曇り空の中、窓明山の登山口へ向かう。標識はないが巽沢山につづく尾根の取り付きには明瞭な道がある。登り始める所の斜面が幅10mほどにも渡ってごっそり削り取られたように抜け落ちていた。去年4月半ばにこの尾根から登った時には雪がついていたので気付かなかったが、これも一昨年7月の集中豪雨のツメ跡なのだろうか。

しばらくは雪の消えた急斜面の登山道を登っていく。いつの間にか巽沢山山頂を通り過ぎ尾根が北西に向くと雪がたっぷりついてきたのでワカンに履き替える。もっと早く履き替えればよかった。ぐっと歩きやすくなる。家向山につづく尾根はブナ林がとても美しく、初めてこの尾根を歩くyukiさんは、快適なスキーが楽しめそうな尾根だと言っている。

一時は青空さえ見えた空だが、家向山西ノ肩から西に向かう尾根の鞍部に下る頃にはどんよりとした空模様となる。晴れていれば大きくたおやかな三岩山が近くに見えるのだが、展望はない。美しいブナ林の中を淡々と登っていく。景色が何も見えずに残念だが、すでに3回目の尾根なので、アプローチ意識に徹する。

ブナ林を抜ける頃から風とガスが出始め、しだいに強く濃くなっていく。時々霧氷をまとったダケカンバが幻影のようにあらわれる。そしていよいよ何も見えなくなってしまった。まいったなあ、こんなはずじゃあ・・・ホワイトアウト寸前の状態で、慎重に進んで窓明山へ。晴れていれば360度の展望が楽しめる山頂だが、何も見えないし時間も予定をオーバーしているのですぐに坪入山へ向かう。

何も見えず、下る尾根の位置さえも暗中模索状態。地図を見る限りでは緩やかで広い尾根に見えるが、雪庇の張り出した尾根筋は狭くてデコボコなので樹林帯に入って下る。シラビソは厚い樹氷をまとい、その凍てついた姿はまるで厳冬期のようだ。

ようやく広い尾根まで下ると、うっすらと行く先の尾根筋が見え始めてホッとする。さらに進むと突然ガスが流れ、切れ切れと青空がでてきた。今まで何も見えなかったのでその変身ぶりに思わず喜びの歓声。とはいっても相変わらず風は強く、再びガスったりと不安定な天候だ。当初の予定まで進めないことは明らかだった。

坪入山直下で3時となる。この先はしばらく痩せ尾根のアップダウンがつづきテン場適地はない模様。当初はできるだけ高幽山近くまで進むことができれば2日目の行動が楽になると考えていたが、坪入山まで予定以上の時間がかかった。天候も回復傾向にあるとはいえまだ不安定なため、初日の行動を終えることにした。

風を除けるために樹林に囲まれた平地を多少整地してテントを張る。今回は大きめのテントをかついで来たが、冬山同然だったためスペースの余裕が得られて正解だった。風に煽られながらも荷物を収めて中に入ればくつろぎの空間となる。初日から予定がずれてしまったので、2日目以降の行程によっては会津駒まで行かず最短コースの完全ピストンも視野に入れる。

 

夜通し風が強かった。悪い条件ばかり考えてしまいあまり眠れずに夜が明けた。昨日行動を早めに切り上げた時には翌日は3時起床5時出発などと息巻いていたが、荒れ模様の天候に気持ちが萎えてしまう。けれど明るくなって外をのぞくと雲は多いが晴れている。よかったーと気持ちも前向きになり、アイゼンを履いて出発する。坪入山までは以前歩いたこともあり、いわばアプローチ。ここからが丸山岳への本格的な未知のルートとなる。

まずは目の前の坪入山山頂へ。昨日はガスで見えなかったが、稲子山から山毛欅沢山、さらに城郭朝日山へつづく懐かしいブナロードの尾根をなぞってみる。もう一つの丸山、古町丸山もお椀を伏せたような真っ白な山頂をのぞかせている。尾白山から丸山を通って山毛欅沢山へつづくブナ尾根もよかったなあ~などと思いでがつきない。振り返ると窓明山から三岩岳、大戸沢岳へと連なる山並が真っ白な冬山の美しさを保って連なる。その山並に見送られるようにまずは高幽山をめざす。

いったん急斜面を下って鞍部におりると北側に大きく雪庇を張り出した1754mの痩せ尾根がせまる。とても残雪期とは思えない純白の新雪をまとった姿に吸い込まれそうな気持ちになる。南側が切れ落ちた急斜面だが、雪が適度に潜るので問題なく通過する。

つぎの1760mポコはまるで岬の突端にある展望台のようなロケーションで、越後や奥利根、尾瀬の山々が重たい雲から解放されて姿を見せ始めていた。その展望の素晴らしさに息をのむが、それはこれからつづく絶景の大伽藍の始まりに過ぎなかった。

痩せ尾根を過ぎたところでワカンに履き替え1716mからは一気に200m近く下る。下るにつれブナの原生林が広がり雰囲気がなごむ。北側には黒谷川の緩やかで広く優しい源頭部を見下ろす。1538mポコは藪がでており通過に多少手間取る。再び下って1480m鞍部からは広い雪原尾根をひたすら登る。1692mピークをこえるとようやく高幽山が近づく。最後は雪庇の張り出した急斜面をのぼり高幽山山頂へ。1時間ごとに休憩しながら無理のないペースで登ったとはいえ予想以上の5時間もかかってしまった。

この間すばらしい展望を満喫しながら歩いて来たのだが、尾瀬方面では双児峰の燧ヶ岳が別格の風格で聳え、景鶴山から平ヶ岳と奥利根の山並が広がる。さらに真東には黒々とした岩壁の荒沢岳、その背後には中ノ岳がどーんと大きく聳えている。両翼を大きく広げたような未丈ヶ岳は下から上まで真っ白な姿が際立つ。いつか晴れた日に再び未丈の山頂に立ってみたい。毛猛につづく稜線の奥に見える鋭鋒は檜岳か。20万分の1地図がないことが悔やまれる。あれやこれやと見飽きることのない山並だ。

高幽山からは、ずんぐりと東西に長い梵天岳を見ながらゆったりと広がる尾根を快適に下る。丸山岳への道のりの中で一番好きな心休まる尾根だ。万が一丸山岳にたどり着けなくても目の前に広がるこの展望を楽しみながら稜線漫歩ができるだけでも来た甲斐があると思えるほどだった。梵天山から東方向には火奴尾根が長い尾を引いていてその奧に丸山岳と手前のまん丸いポコが二つ並んで見える。随分と近づいてきた。

丘のように盛り上がった1617mをこえ、真っ白にそそり立つ山頂下の急斜面をジグザグに登って梵天岳の東の肩へ。尾根はここから東向きの痩せ尾根となり南には雪庇が張り出している。北側斜面は下が見えないほど急激に落ち込んでおり慎重に通過する。

火奴尾根分岐の1723mジャンクションピークに着いたところでようやく見通しがつく。ピークから北に少し下がった平坦地を今宵のねぐらとすることに決めてザックを下ろす。理想的には適当な所で荷物をデポして空身で山頂を往復できればよかったのだが、コースタイムが読めないため山頂にたどり着けないリスクがあった。そういう事態はぜひとも避けたかったので、ピストンとはいえザックの荷物はすべて担ぎ上げてやってきた。

 

 

日没まで4時間ほどある。ザックをデポしてさっそく山頂へ向かう。まるで羽が生えたように身軽に感じられる。尾根筋がわかりにくい所で少しもたついたが、樹林帯を抜け無木立の広い尾根にのってからはひたすら登り続ける。そして尾根が西から北へ向く所で立ち止まる。見覚えのある光景だった。

つい写真を撮りたくなるスポットで、2009年の春と秋に来たときも偶然同じ所から写真をとっていた。ここは池塘が点在しているところ。いよいよ丸山岳にやってきた実感がわいてくる。先を行くyukiさんはハイペースでドンドン進んで行く。そしてついに山頂へ。名前のごとく丸い山なのでその山頂はとても広い。

一足先に着いたyukiさんの様子がおかしいと思ったら涙ぐんでいた。私はたんに希望がかなってうれしい気持ちだけだったが、彼の場合はもっと複雑でいろいろな想いがこみ上げてきたのだと言う。追悼山行ができてよかったね、と思う。最初は悪天につかまりどうなることかと思ったが、なんとか目的を達成できた。お疲れ様の固い握手をかわす。

さて、道中すでにお腹が一杯になるほどの展望を満喫してきたが、丸山岳の広い山頂から見る360度の展望はまた格別だ。自分の気持ちの反映なのかオーラを感じ。。今まで見えなかった会越の山並があらわれ、浅草岳や守門、御神楽を遠望。今回断念した会津朝日への稜線をたどると行程の半分以上が黒々としたヤブの痩せ尾根だ。どれほど時間がかかるのか見当がつかず、雪尾根のピストンにしてよかったと思うものの、一度は歩いて見たいという気持ちが複雑に交差する。

しばらく展望にひたった後、それぞれの想いを大きな声ではき出して山頂をあとにする。名前が山にこだまする・・・またきっと来るからねーと自分の声がつづく。すぐに下るのはもったいなかったけれど、あまりゆっくりもしていられず5時過ぎにザックのデポ地に戻った。

昨日以上の強風となり、やっとの思いでテントを設営。中に入ってまずは寝そべって背筋を伸ばすと、充実感と安堵感が手足の末端神経にまで染み渡る。11時間行動の長くも充実した一日だった。けれどやはり疲れたのか胃がストライキを起こして食事ができなくなる。パートナーに申し訳ないと思いながら早めに就寝。昨晩はあまり眠れなかったので、さすがにすぐに寝入る。

 

 

翌朝には風は収まったがガスであたりは真っ白だ。5日の予報は確率の高い晴れなので、天候の回復を期待して出発を少し遅らせ、朝から二度目のティータイム。昨日のうちに丸山岳に登っておいてよかったと思う。二人とも晴れやかな気持ちで軽口がでる。今日はトレースがあるから気楽に歩けるよね。他の人のトレースじゃなくて自分たちがつけたトレースだもんね・・・などと、私は誇らしい気持ちだった。

出発してすぐに薄いベールをぬぐようにガスが引き始め、その光景は幻想的で美しかった。昨日以上の青空が広がる。足下の谷筋にガスがたなびく様子に目も足も釘付けになる。山歩きの醍醐味を感じるひとときだ。昨日緊張した痩せ尾根はガスのおかげで足下しか見えず暢気に通過できた。何度見ても見飽きない景色を楽しみながら順調に進んで高幽山へ。

雲一つない晴天の太陽は瞬く間に雪面を緩ませる。昨日はわからなかった亀裂の兆候が至る所に見られるようになる。先頭を歩いていたときに、ザザッ-ザザッーと、雪が流れ落ちる音が何度も聞こえたが、あたりを見渡してもそのような痕跡は見当たらない。きっと隠れた亀裂の中で雪が流れ動いた音かもしれないと不気味だった。

このころから総重量が私の2倍近いyukiさんばかりが何度も亀裂にはまり込み、時には自力で脱出できなくなる。本人曰く、下りの方が雪面への加重が大きくなるからではないかと。あまりにも頻繁にはまるので、とうとう本人も笑うしかないなどと、半ば諦め気分になったようだ。

往路以上に時間をかけて坪入山鞍部手前のポコに乗る。さああと一息だと前方を見渡すとつぼ足トレースが見える。途中で引き返しているので足取りの意図がわからなかったが近づくとやはり亀裂に何度かはまっているので、きっと展望のポコまで行こうとして断念したのだろう。それほどに、1日でいやらしい雪の状態が進行していた。

 

 

 

坪入山まで戻ると山頂にはスキーやワカンのトレースが見られ、突然現実の世界に引き戻される。この3日間でトレースのない無垢の雪尾根が当たり前のような感覚になっていたからだろう。なんか汚いね、などと贅沢なことを言いながら窓明山につづく尾根を下る。初日は展望がなかったので、今までとはひと味違うシラビソ林におおわれたアルペンチックな三岩岳から大戸沢岳の山並が新鮮だ。

時間的には窓明山を越えることもできたが、昨日のように疲れて食事ができなくなっては困るので、早めに行動を終えることにした。最初の鞍部手前に見晴らしのいい平坦地があったのでここで行動を終える。最終日にしてようやく風もなく穏やかなテン場となり、テントの外で景色を眺めながらノンビリ過ごすことができた。

最終日の朝も無風快晴だ。テントから日の出を眺めながらコーヒーをすするという、憧れのシチュエーションも体験できた。早朝の締まった雪にアイゼンがきき快適に雪面を登る。人気の窓明山もまだこの時間は誰もいない。三岩岳方面に目をやるとトレースの跡はなく、みなさん巽沢山から窓明山コースで坪入を往復しているようだった。

当初の予定通り会津駒ヶ岳まで進むことも時間的には可能だったが、ここまでのあまりの充実度に気持ちのたがが緩んでしまった。無理に消化試合をすることもないし、付け足し気分で会津駒に登るのも失礼だから日をあらためて縦走したいと、我ながらもっともな理由をつけて往路を戻ることにした。3日前は視界がまったくなかったので展望を楽しもう。スキーヤーのトレースが気持ちよさそうにシュプールを描いている。適度に緩んだ斜面を脱力状態で下る心地よさを感じながらあっという間に家向山鞍部へ。

初日と違って登山道は雪が消えていたが、沿道のイワウチワはまだつぼみの状態だ。やはり今年は春の訪れが遅いようだ。家向山方向もなだらかなブナの尾根がつづいている。地図を見ると長い尾根は緩やかに尾を引いて小立岩につづいている。以前から気になっているのだが、なぜか誰も歩いていない。

家向山から南尾根を少し下った所に大きなブナの倒木が見えたので待望のミルク氷タイムとする。例年なら連休の春山は日射しが強く熱さでバテるほど。そんな時雪にイチゴミルクをかけるととっておきのジェラードとなる。今回も楽しみにしてきたのだが、これまでは寒くてかき氷どころではなかった。まだ10時前だ。かき氷で弾みがついたのか、yukiさんがコーヒー飲もうかと、一言。直ちにサンセーと手をたたく。

ザックの中味をひっくり返してガスを出し、美味しいドリップコーヒーでくつろぐ。あらためて大きな仕事をやり遂げたあとの充実感に満たされる。今の自分のおかれた境遇からみれば、丸山岳とはいえたかが山だ。だけれども、されど山なのだ。山からもらった元気と希望と勇気に支えられ、愛する人をささえている。あっ、ちょっとセンチメンタルな気分に・・・

春うらら~の軽やかな気分でブナの尾根を滑るように一気に下る。巽沢山からは雪の消えた登山道を急降下して車道に降り立ち、窓明ノ湯に直行。麓は桜が満開で淡い新緑に包まれていた。こうして4日間の、小鳥以外人にも動物にも会わない、心に響く静かな山旅を終えた。

 

5月3日 巽沢山登山口6:20-巽沢山7:45-家向山9:40-窓明山12:12-坪入山(幕営)14:55

5月4日 幕営地6:30-高幽山11:25-梵天山-火奴尾根分岐14:20-丸山岳15:50-火奴尾根分岐(幕営)17:15

5月5日 幕営地6:40-梵天山8:00-高幽山9:40-坪入山15:10-1640m鞍部(幕営地)15:40

5月6日 幕営地6:15-窓明山7:25-家向山9:35/10:30-巽沢山11:10-登山口11:55